柴咲コウインタビュー「まず、自分をさらけ出していかねば」

2012年、音楽活動10周年を迎えた柴咲コウ。「女優のやっている音楽」という先入観と戦いながら、強い信念と学びの姿勢を持ち続け、自らの活動領域を広げていったことは、『Strength』リリース時のインタビューでも語っていただいた通り。そして、そんな10周年を締めくくるのが、シングルとしてはひさびさのバラード曲となる“My Perfect Blue”である。“月のしずく”や“かたちあるもの”といった大ヒット曲の存在によって、いつしか柴咲の代名詞となっていった「バラード」。しかし、もともとダンスミュージックなども愛聴し、最初から歌手志望だったわけでもない彼女にとって、ここには先入観との戦いがあったと言えるだろう。そこで今回の取材では、この「バラード」というイメージについての話を軸に据えながら、音楽家としての、表現者としての柴咲にさらに迫ってみた。そこから浮かび上がってきたのは、自らの内側をしっかりと見つめることで、また次の一歩を踏み出そうとする、穏やかな現在地であった。

ちゃんと自分を見つめ直して、今の自分がしたいことをやるっていう、主体性が出てきたので。

―“My Perfect Blue”はシングルとしてはひさびさのバラードですよね。近年はダンスミュージック主体のgalaxias!の活動があったりもしますが、「柴咲さんといえばバラード」というイメージってやっぱり根強いと思うんです。そのイメージについて、柴咲さんご自身がどう感じられているかお伺いしたいのですが。

柴咲:“月のしずく”がたくさんの人に聴いてもらえた楽曲なので、その印象が強いのかなって思うんですね。ただ、女優業をやっててもそうですけど、人が自分に抱く印象とか先入観に捉われてきたので、音楽でもそうだとつまらないなっていうのはあって。それで去年の秋ぐらいは特に、自分の好きな音楽をもっともっと提示していこうとしていたんです。

―galaxias!のリリースがあった時期ですね。

柴咲:そうですね。そしてそれを経て今回のバラードシングル。10周年を意識したわけではなかったけど、考えてみると一巡してるなって気はしますね。ちょっと前だったら、「元のイメージに戻っちゃう」とか思ったかもしれないけど、今は「私はやっぱりバラードも好きだ」って自覚しながら歌えているので、イメージも肯定的に捉えることができてます。

柴咲コウ
柴咲コウ

―一巡して、意識が大きく変わったと。

柴咲:前は「ホントはもっとこういうことをしたい」と思ってても、なかなか実現できなかったんです。でも、最近は仕事自体の流れも緩やかになって、自分がキチッと選択して取り組めるようになったし、スタッフが変わって風通しも良くなって、「こういうのは私に向いてるし、好きだな」って、ちゃんと思えるようになってきました。

―バラードを歌うことの自信がついたとも言えますか?

柴咲:自信があるからやるってわけでもないんですけど、単純に、今年は私の心も穏やかな年だったかなって思うんです。バイオリズム的に、激しいものを好むというよりは、「ここいらで落ち着いた音楽をゆっくり聴きたいな」っていう。実際に長いお休みを取ったわけじゃないけど、心がお休みしてる感じだから、それにすごくマッチした曲になってると思うんですよね。「相手にどう聴かせたいか」ばっかり先行していたのが、ちゃんと自分を見つめ直して、今の自分がしたいことをやるっていう、主体性が出てきたので。

―カップリングの“ゆくゆくは”も含め、そういう穏やかなバイオリズムが反映されてるわけですね。

柴咲:私が一番いいなと思うアーティストさんって、聴き流せる音楽が作れる人なんですね。例えば、家でループ再生にしておいたら、いつのまにかまた1曲目に戻ってるようなのって、無意識にスッと心に入り込んできてる気がするんです。その中で、突然ワンフレーズがハッと心に響いたりする。今回のシングル2曲もそういう風に人の心に浸透してくれたらいいなって思います。

ハタと気づいたんです。「自分が変えたいと思うなら、変えたらいいじゃないか」って。

―さきほどおっしゃっていた通り、バラードのイメージが付いたきっかけは“月のしずく”だと思うんですけど、最初に曲を聴いたときは「難しいなあ」とかって思いました?

柴咲:あのシングルに入ってた3曲をまとめて録ったので、ボリュームもあったし、1曲1曲それぞれの味もあったので、難しかったですね。叙情的な感じを意識し過ぎて、「歌謡曲です!」みたいになっちゃうのも嫌だったし……。なるべく何も考えずに歌ってた気がします。

―無理して上手く歌おうとすると、逆に不自然になっちゃったりしますもんね。

柴咲:私の声には、高い音と低い音の切り替わりのところでファルセットになりそうでならないみたいな特徴があるんですけど、あの曲はそれが気持ちよく出せたので、無理はあんまりしてなかったと思います。ただ、やっぱり難しかったし、レコーディングスタジオにスーツの人がいっぱいいて、すごいプレッシャーがあったのは事実ですね(笑)。

―“月のしずく”の翌年に出た“かたちあるもの”が大ヒットしたことも、「バラード」というイメージを強くしたと思うんですね。“月のしずく”の頃と、“かたちあるもの”の頃では、音楽に向かう意識の違いってありましたか?

柴咲:自分の想いをもっと曲に込めたいと思っていましたね。用意されたものではなく、作っていく場に自分もいたいという意識が高まっていて、“かたちあるもの”は共作ですけど作詞もしてますし(“月のしずく”の作詞はSatomiによるもの)。

―歌唱力とか表現力に関してはいかがでしたか?

柴咲:経験を積むっていうことが一番のポイントだったかな。“月のしずく”のときはテレビで歌うのも初めてだったから、すごい緊張して、ガチガチだったんです。10回ぐらい失敗して、「死にたい……」って思ったもん(笑)。そういう反省材料が日々増えていって、それを何とかしようとボイトレとかしてましたね。

柴咲コウ

―「バラードは難しいからあんまり歌いたくない」とか思わなかったですか?

柴咲:難しいから嫌だっていうのはなかったですね。ただ、みんなそうだと思うんですけど、同じような曲をずっと歌ってたら飽きるじゃないですか? 自分の心持ちやテンションは変わるのに、ずっと同じような曲ばっかりは歌えない。飽き性なところもあるから、変化は欲しかったですね。

―そういう思いがありながら、少しずつ音楽活動の幅を広げていったと。

柴咲:ホントに少しずつでしたね。しかも、潜伏期間って言うと大げさですけど(笑)、言い淀んでた期間が長かったから、ホントここ2〜3年で変わった感じです。

―やっぱりスタッフが変わったのが一番大きな変化だったわけですよね?

柴咲:自分の中でもいっぱいいっぱいになっちゃって、「これはもう変えないと無理だ」って気づいたんです。合わない人だってもちろんいるのに、用意されたもので何とかしようと思っちゃって。その狭い空間の中でもがいてたときに、ハタと気づいたんです。「自分が変えたいと思うなら、変えたらいいじゃないか」って。そこでやっと「私今まで自主性なかったんだ」って気づいたっていうか。

―その「気づき」が大きかったんですね。

柴咲:前のスタッフさんに、あるとき「詞を直して」って言われたことがあるんですね。それは何か不都合があるとかじゃなくて、単純にその人の感覚的に違うフレーズの方がいいみたいな話で、それがすごく納得いかなくて。文章が間違ってるのを直すんだったら「その通りです」って思えるけど、感覚の問題で言われちゃうと、自分のやってきたことがなくなっちゃう気がして。詞の世界の中では自分は自由だと思ってるから、そこを侵食されると、せっかくの自由が失われてしまう気がして、すごく心に残ってるんです。そういうこともあったから、体制もいろいろ変わってきたんですよね。

ちょっと前までは俯瞰的になり過ぎてて、実態が見えなかった。

―前回の取材でも感じたことですが、柴咲さんは「学ぶ」っていう姿勢をすごく持っていらっしゃいますよね。主体性を持って変化することも、ある意味「学び」からきているんじゃないかって思うんです。

柴咲:自分はホントに学ぶことばっかりで、自分が失敗して反省して学ぶこともあるし、人から教わって学ぶこともあります。その中で音楽っていうのはわりと自分と向き合わなきゃいけないから、自分の弱さを知って、反省して学ぶことが多いですね。他のアーティストさんの活動を見ても、自分と向き合って発信してると感じるので、じゃあ自分はどうやってもっといろんなことを吸収して、どうやって大きくなろうかって考えるし、いろんなことを抱えて悩みますね。

―自分が発信すること、それ自体も「学び」だと。

柴咲:まだ私は「発信だけ」っていうのはできないですね。自信をすごく持ってる人なら、受け手に届けよう、投げかけようって、先生みたいにできると思うけど……。私はまだ生徒の立場だから、やったことに対する反応を見て、返ってきたものでまた何かを作るっていう風に、全部のサイクルがつながってる気がします。もうちょっと自信を持ちたいとは思うんですけどね。

―でも、そうやって常に自分を客観視できるっていうことは、強みでもありますよね。

柴咲:ちょっと前までは俯瞰的になり過ぎてて、実態が見えなかった部分があったと思うんですけど、最近は「もっと見せてもいいのかな?」って、自分を見つめる距離が近づいてる気がするんです。詞も前はもうちょっとぼんやりした、漠然とした感じだったのが、今はもうちょっと「あれ? この人自分のことを歌ってるのかな?」って思えるような内容になってきてるかなって。

―シングルの2曲を聴くと、歌に関しては良くも悪くも柴咲さんだなって思うんですけど、歌詞に関してはそれぞれの曲調に見事に書き分けられてるなって思いました。

柴咲:メロディーとか曲の持ってる味に影響されやすくて、詞を別物として考えられないんです。今回は特に曲からエネルギーをもらって、それをちゃんと曲に合わせられたかなって思います。

―まさに、そうなってると思います。

柴咲:さっき「良くも悪くも」って言いましたけど、悪いところってどこですか?

―テクニカルに歌い分けるというよりは、どちらの曲も柴咲さんそのままというか、素直に歌っていらっしゃるなって思ったんです。一方で、詞はすごくテクニカルに書き分けられてると思って。

柴咲:テクニックがあるかどうかは別として、(歌詞を書くのが)好きなんでしょうね。歌はまだ経験もライブの回数も浅いから、もちろん練習で磨いていける部分はやっていきたいですけど、でも「上手く歌いこなそう」と思って、人間臭い部分が消えちゃったら嫌だなっていうのもあります。

―一般的に「バラードシンガー」っていうと、表現力豊かに歌い上げるっていうイメージですけど、柴咲さんは声質はもちろん、その人間臭さも魅力になってるのかなって。

柴咲:でも、そこはジレンマがありますけどね。他の人の超美しいバラードを聴くと、すごく感情的になって、自分もカラオケでその曲を歌いたくなるんです(笑)。そういう曲を自分も歌いたいし、だからといって自分が同じ歌い方をしてフィットするかっていうとまた別なので、難しいんですけど……。

―そこもやはり学び続ける部分でしょうか?

柴咲:そりゃあ透き通った超美声で、ピッチも超完璧な方がいいに決まってるし、声量もあった方がいいですけど、理想と現実は違いますもんね。自分を否定したいわけでは決してないですけど、まずは自分ができることをやるしかないし、自分が持ってる能力の中でやるだけだと思います。

―では、バラードについてもうひとつだけ、柴咲さんが「バラードと言えばこの曲」と思う曲を挙げていただけますか?

柴咲:そうですね……。小田和正さんの“言葉にできない”かな。でも、私やっぱりバラードはカラオケで結構歌ってますね。MISIAさんとか、あと笹川美和さんがすごく好きで、独り言を言ってるみたいな、あのテンションがすごくマッチするんです。

―いろいろお聞きしてしまいましたけど、やっぱりバラードはお好きなんですよね?

柴咲:はい、好きですよ。言葉が入ってきやすいっていうのもありますからね。

これからはより内向的になる気はします。

―言葉がお好きだっていう話は前回の取材のときもされていたと思うんですけど、その言葉好きのルーツってあったりしますか?

柴咲:小学校から感想文を書くのが好きだったし、絵本も好きで、『はらぺこあおむし』とか小さい頃から読んでたし、紙芝居を自分より小さい子に読み聞かせたりもしてたし、だから、「どこからか」って言われると難しいんですけど……。

―僕も読書感想文とか好きでした。周りが「めんどくせ〜」って言ってる中で、一人でこっそり「よし!」って思ってるみたいな(笑)。

柴咲:うんうん、私もそうだった。でもきっと感想文が好きだった理由って、自分のことを書くんじゃなくて、他人事を自分の好きに書けるからだったんです。日記はすごく苦手だったんですよ。

―ああ、それわかる気がします。

柴咲:「きっとこのとき、主人公はこうであったに違いない」っていうように、何かのテーマに対して持論を述べたり、そこに自分の感情を乗せることはできるけど、主役はあくまで本の中の主人公で、自分じゃないっていうのが気楽だったんでしょうね。

―それは途中の話にも出た、「今までの歌詞は俯瞰になり過ぎてた」という話につながって来ますね。

柴咲:そうなんです。自分も俯瞰して見れば、周りにばれずに自分を振り返れるから(笑)、そこも作詞の魅力で、初めて書いた詞もすごく俯瞰で見たものでした。ただ、ずっとそうやってきたので、そういうのにも飽きてきちゃって、「もういいや、さらけ出しちゃえ」って、自分の思い出とか心境を投影するようになってきましたね。世間を見ても、自分のことを棚に上げて人のことを批判してる人を見て腹立たしく思ったり、嫌だなって感じるのに、自分も同じようなアプローチじゃよくないなって。「まず、自分をさらけ出していかねば」って、今は思います。

柴咲コウ

―では最後に音楽活動11年目に向けて、今考えていることを改めて話していただけますか?

柴咲:自分が音楽をやってることを知ってもらうだけじゃなくて、その音楽を気に入ってもらって、聴いてくれる人が増えればいいなって……。シンプルな願いなんですけど(笑)。この10年は先入観との戦いがあったし、それに抗うことを自分が楽しんでた部分もあったんですけど、もうそこは越えたところで、どんな音楽をやってるかっていうことにもうちょっと興味を持ってもらえたら嬉しいですね。

―さっき言ってらっしゃった「もっとさらけ出す」っていうことが、そのための鍵になるのかもしれませんね。

柴咲:そうですね。だから、これからはより内向的になる気はします。やっぱり内側をもっと見ないとダメな気がするので、内向的になって、それを歌詞とか歌に反映させていければなって。

リリース情報
柴咲コウ
『My Perfect Blue/ゆくゆくは』通常盤(CD)

2012年10月31日発売
価格:1,260円(税込)
UPCH-80287

1. My Perfect Blue
2. ゆくゆくは
3. My Perfect Blue -Instrumental-
4. ゆくゆくは -Instrumental-

柴咲コウ
『リリカル*ワンダー』初回限定盤(CD+DVD)

2012年12月12日発売
価格:3,500円(税込)
UPCH-29092

1. 恋守歌
2. また、うまれるころには
3. Strength
4. My Perfect Blue
5. もう、いないよ
6. 笑おうかな -5 p.m.-
7. traffic jam
8. 血の色
9. you & me
10. ANOTHER:WORLD
11. cosmic rainbow
12. ゆくゆくは
13. 笑おうかな -7 a.m.-
[DVD収録内容]
・“また、うまれるころには”PV
・“Strength”PV
・“My Perfect Blue”PV
・“ANOTHER:WORLD”PV

柴咲コウ
『リリカル*ワンダー』通常盤(CD)

2012年12月12日発売
価格:3,000円(税込)
UPCH-20301

1. 恋守歌
2. また、うまれるころには
3. Strength
4. My Perfect Blue
5. もう、いないよ
6. 笑おうかな -5 p.m.-
7. traffic jam
8. 血の色
9. you & me
10. ANOTHER:WORLD
11. cosmic rainbow
12. ゆくゆくは
13. 笑おうかな -7 a.m.-

プロフィール
柴咲コウ

日本屈指の女優として数多くの作品に出演し、2013年末公開の映画『47Ronin』でハリウッド進出を果たす中、アーティストとしてもミリオンヒットを出すなど、精力的に活動を行っている。2011年9〜11月にかけて行われた全国ツアーでは初の日本武道館公演を敢行、同年11月にはDECO*27、TeddyLoidとの新ユニットgalaxias!として作品をリリースするなど、近年音楽活動が更に活発化。2012年でデビュー10周年を迎え、12/12に6thアルバム『リリカルワンダー』をリリース。



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