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大島輝之(弧回、sim)が、自分で歌い始めたわけ

大島輝之(弧回、sim)が、自分で歌い始めたわけ

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:柏井万作
2012/12/07

ギター、ドラム、エレクトロニクスというミニマムな編成で、音と音の隙間やズレ、揺らぎにフォーカスした楽曲を生み出すエクスペリメンタルバンドsimのリーダー・大島輝之。即興のシーンで確固たる地位を築いたギタリストでもある彼が、自身がボーカルを務める歌もののアコースティックバンド、弧回(コエ)を結成し、初のアルバム『纒ム(マトム)』を完成させた。これまでのイメージを覆す活動の真意とは一体何なのか? 20年以上に及ぶ音楽人生を紐解きながら、音楽家・大島輝之の表現の根幹を探っていく。

誰にも聴かせられなかった20年前の自作曲

大島:実は俺、ギターじゃなくてベースで専門学校まで行ってるんですよ。山下達郎さんのバックをやってる伊藤広規さんに習ったりしてて、正直ギターよりベースの方が上手いです(笑)。

いきなりの発言に面食らってしまったが、音楽家としての大島のルーツは、意外にもベースだったという。ファンク好きの兄の影響もあり、高校の頃に買ってもらったベースが、彼の音楽人生の入り口となったのだ。

大島:当時は1985年ぐらいで、ベースがかっこいい時代だったんです。逆にギターは速弾きとかヘビメタみたいなイメージが強くて、あまり好きになれなくて。ベーシストだとミック・カーン、あとはファンクですね。ジェームス・ブラウンとかSly & The Family Stoneとかラリー・グラハムとかその辺りが好きだったんですけど、周りにそういうのをできる人がいなくて、一人でコピーとかしてました。すごく寂しいんですよ、ベースだけって(笑)。

大島輝之
大島輝之

寂しい一人でのコピーは長く続かず、高校の終わりぐらいから曲作りを始めると、自然に興味はギターへと傾いて行った。simの特徴とも言えるギターのカッティングは、ファンク好きだった当時の名残だと言えるのかもしれない。そして大島はこの頃作っていた自作曲の中で、弧回以前では唯一、自身で歌を歌っていたのだそうだ。

大島:ブリティッシュロックとファンクが組み合わさりつつある時期だったので、そういうのを自分で作って、一人で聴いてにやけてる感じでした。ただ、今もまだまだなんですけど、ホントに歌が下手くそだったんですよ(笑)。録音するときも、周りに聴かれないよう布団にくるまって歌ってたから、すごい音がこもってるし、歌詞も全く書けなかったから、適当英語で、人に聴かせられるものではなかったですね。

歌ものへの興味はありつつも、自分の歌にどうしても自信が持てなかった大島。それから約20年の月日を経て、今やっと、彼は歌い始めたのだ。

大島:ギターでバンドを組むようになって、ボーカリストがいるバンドもやりましたけど、コーラスすらできなかったんで、「まさか自分が歌うとは」って感じなんですよね。今でもライブ前とか、「あ、これから俺が歌うんだ」って、ビックリしますもん(笑)。

即興への情熱と、その限界

弧回の話へと行く前に、もう少し大島のこれまでのキャリアを辿ってみよう。専門学校時代に60〜70年代のブリティッシュロックにはまると、そこからプログレに興味を持ち、さらには大島の代名詞とも言うべき、「即興」へとたどり着いた。

大島:きっかけはKING CRIMSON。彼らの曲の中の即興部分に惹かれて、やっぱりまずは一人で(笑)、ギターをループさせて、即興をやってみたりしてました。それから大友良英さんとかアルタードステイツとかを知って、その辺りを聴き始めたんです。それが楽しくてしょうがなくなって、20代後半は即興しかやってなかったですね。

自作曲を作ることにも興味のあった大島が、なぜこれほどまでに即興に情熱を燃やしたのか。ここから、音楽家・大島輝之の表現の核が透けて見える。

大島:昔から僕は「新しい音楽」を目指してるところがあったんです。中学ぐらいから、その時期に新しいとされている音楽が好きで、だからヘビメタとかはあんまり好きじゃなかったんですよね。即興はその頃の僕にとってすごく新鮮で、大友さんとか今まで聴いたことがないようなことをやってたし、外国だとフレッド・フリスとかを聴いて、「こんなことができるんだ」って、すごくびっくりしたんです。

この「新しさ」をさらに追及していった結果、2001年に誕生したのが、大島にとって初のリーダーバンドであるfeepだった。トランペット、サックス、ベース、ギター、ドラムという編成で、即興演奏の一歩先を示そうとしたのだ。

大島:即興は当時の僕にとって新しかったんですけど、即興自体は昔からあったものだし、それだけで新しいことをやるのは限界があると思ったんです。それで「ちょっと決め事を作ってやったらどうなるんだろう?」と思って作ったのがfeepでした。一応僕がメンバーを集めたんですけど、自分がリーダーっていうのが初めてだったんで、曲を作ったはいいけど、メンバーに伝える手段を全く知らなくて(笑)。口で説明はするんですけど、思ったのと全く違う感じになったりして、結局60%ぐらいは即興で、メロディーとベースラインだけ僕が考えるみたいな感じでしたね。

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リリース情報

弧回『纒ム』(CD)
弧回
『纒ム』(CD)

2012年11月28日発売
価格:2,625円(税込)
Bright Yellow Bright Orange

1. Flying
2. Sunshine Down On Me
3. ユメであえたら
4. What's Going On?
5. It's Over
6. 如月の夜
7. Too Much Rain
8. メタルマサカー
9. 逆回転時計
10. 影
11. I Saw The Light
12. 月光
13. いたずら

プロフィール

弧回

大島輝之の呼びかけにより2011年1月結成。メンバーは大島(Vo,Gt)、千葉広樹(Cb,Tp)、波多野敦子(Vi,Cho,Pf)。大島のこれまでの活動(simやソロ活動、即興演奏)とは180°違う、アコースティックを主体にした歌ものユニット。歌詞、コード進行、アンサンブル、ハーモニー等の拡張、及び解体を目標にしている。ライブでは波多野、千葉という核となるメンバーにゲストドラマーを呼んでいる。

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