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誰もがちょっとムキになる男 前野健太インタビュー

誰もがちょっとムキになる男 前野健太インタビュー

インタビュー・テキスト
九龍ジョー
撮影:野村由芽
2013/02/13

歌は世につれ、世は歌につれ。でも、歌も世もつれだってどこへ向かうのだろう? 前野健太の新作『オレらは肉の歩く朝』は、そんなどこへ向かったらいいかわからない、それでも積み重ねていくしかない毎日に無理なく寄り添う不思議な魅力の詰まったロックアルバムとなった。プロデューサーはジム・オルーク。現代を代表する世界的ミュージシャンであり、USの男泣きシンガーソングライターたちの名盤も数多く手がけてきたジムの導きにより、前野の歌のポテンシャルはかつてなく引き出されている。

これまで発表したアルバムを「初期三部作」と括った上での4枚目でもある。前野自身も新たなステージを意識しているであろういま、前野の考える歌のあり方、ジムとの出会いで得たもの、ミュージシャンとしての未来について聞いた。

震災や原発事故が起こったような状況下で、アーティストがそこにある感情をキャッチーな言葉で括ろうとする傾向に違和感があった。

―まず『オレらは肉の歩く朝』という、ちょっと奇妙なアルバムタイトルについて伺えればと。

前野:偶然なんですけど、これまで発表したアルバムのタイトルってすべて6文字(『ロマンスカー』『さみしいだけ』『ファックミー』)で統一されていたんですよね。キャッチーだったり、ポップだったりすることを大事にしていた。でも、今回はそういうわかりやすい言葉では括れない感情をなんとか言葉にしたいっていう気持ちが強くて。というのも、震災や原発事故が起こったような状況下で、アーティストがそこにある感情をキャッチーな言葉で括ろうとする傾向に違和感があったんです。それに、キャッチーな言葉に感情を当てはめてしまうのはもったいないことだなとも思って。だったら、みんなが知っている単語を組み替えることで新しい意味を生み出すことができないかなって。そうすることで、いま芽生えつつある新しい感情を掬いとることができないかなって思ったんです。

―前野さんはよく「街で歌を作る」って言い方をしていて、実際、喫茶店など街中で歌詞を書くことも多いわけですけど、これまでと街の空気に変化はありますか。

前野:すごくありますね。この間、尾崎豊の映画(『復活 尾崎豊 YOKOHAMA ARENA 1991.5.20』)を映画館で観たらすごく熱いものがこみ上げてきたんですね。いままでだったら外に出てすぐに歌詞を書きたくなるところなんですけど、映画館から出てちょっと歩いたら、通行人がほとんどいないことに気付いてビックリしちゃったんです。街が不気味なくらい静かなんですよ。それでテンションもガタ落ちになってしまって、歌詞を書くどころじゃなかった。街の中で歌を作るっていうやり方自体、最近ちょっとグラッときちゃってますね。

前野健太
前野健太

―その変化は今回の歌詞にも反映していますか?

前野:新しい曲では反映していると思います。やたら情景をスケッチしている感じなんですよ。

―先ほど言っていた「単純な感情で括れない状況」ということとも関係してそうですね。

前野:ええ、キャッチーさが失われているから、曲も長くなってるんですよ。今年の正月に「108曲ライブ」といって昔の曲から新曲まであらゆる曲を演奏したんですけど、曲が新しくなるに従って尺も長くなっているのがあきらかでした。

―プロデューサーのジム・オルークさんは歌詞について何か言っていましたか?

前野:レコーディング中には一切ないですね。終わった後には話してくれましたけど、レコーディング中はあえて触れないようにしていましたね。でも相当、読み込んできてくれたみたいです。“ジョギングしたり、タバコやめたり”の途中で急にストリングスが入ってくるんですけど、それは歌詞に理解がないとできないアレンジなので。

―「ホーシャモー」っていう造語が入っていたりする曲ですね。

前野:僕があの歌詞で狙った、ちょっと不気味な感じを察知してくれたんですよね。

―確かに、曲ごとにそれぞれ考え抜かれたアレンジになっていると思いました。

前野:僕としては“東京の空”とかはもっと楽器を入れて、なんならジムさんにもギターを弾いてほしかったんです。そう提案もしたんですけど、「歌詞がしっかりしているから、これ以上入れないほうがいいネ」って。いまになるとその判断が正しかったことがよくわかるんですけど。

―ポイントは歌詞だったんですね。

前野:「シンガーソングライターで一番大事なのは歌詞」って言い切ってましたね。「曲はだいたい同じ。違いが出るのは歌詞だから」って。一見、凝ったアレンジに聴こえるかもしれないけど、ボーカルが立つように作られてる。スピーカーで聴くとよくわかりますよ。これまでも歌詞を大事にしてアルバムを作ってきたつもりでしたけど、意外に自分の歌声にフォーカスしてこなかったんだなってことに気付かされました。歌声も1つの楽器だし、それこそが前野健太の持ち味なんだっていうことを、ジムさんに教えられましたね。

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リリース情報

前野健太『オレらは肉の歩く朝』(CD)
前野健太
『オレらは肉の歩く朝』(CD)

2013年1月23日発売
価格:2,625円(税込)
felicity / PECF-1062 / cap-164

1. 国歌コーラン節
2. 伊豆の踊り子
3. 興味があるの
4. 看護婦たちは
5. オレらは肉の歩く朝
6. 海が見た夢
7. 東京の空
8. ジョギングしたり、タバコやめたり
9. 街の灯り
10. 東京2011
11. あんな夏
12. 女を買いに行こう

前野健太『東京2011』(CD)
前野健太
『東京2011』(CD)

2012年12月12日タワーレコード限定発売
価格:500円(税込)
felicity / PECF-1057 / cap-160

1. 東京2011(single mix)
2. 池袋で
3. 私の怒りとは

イベント情報

『前野健太「オレらは肉の歩く朝」リリースツアー』

2013年3月23日(土)
会場:北海道 札幌 Sound Crue

2013年3月31日(日)
会場:山梨県 甲府 桜座

2013年4月4日(木)
会場:福岡県 天神 VooDooLounge

2013年4月5日(金)
会場:広島県 横川シネマ

2013年4月6日(土)
会場:大阪府 梅田 Shangri-La

2013年4月7日(日)
会場:愛知県 名古屋 APOLLO THEATER

2013年4月21日(日)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM

CINRA.STOREで取扱中の商品

松江哲明『ライブテープ コレクターズ・エディション』[DVD](特典付)
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プロフィール

前野健太

1979年入間市出身。シンガーソングライター。2007年に自ら立ち上げたレーベル“romance records”より『ロマンスカー』をリリースし、デビュー。2009年にライブドキュメント『ライブテープ』、2011年に『トーキョードリフター』(松江哲明監督)に主演として出演。2011年末には第14回みうらじゅん賞を受賞。2012年auの新CM「あたらしい自由」篇に出演。その活動は、音楽シーンだけにとどまらず、強烈なグラサン姿を含め、生き様自体が前代未聞。完全セルフプロデュースの「初期三部作」を経て、2013年1月23日に『オレらは肉の歩く朝』をリリース。

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