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「東京」というシステムを溶かすための『東京事典』

「東京」というシステムを溶かすための『東京事典』

インタビュー・テキスト
藤原ちから
撮影:田中一人

ぐるっと遠回りしてやっと辿り着いたそれぞれの「東京」。

―お二人は「東京」に対してどんな記憶や思いがありましたか?

高山:僕は埼玉の浦和に生まれ育ったんですけど、高校を卒業する頃までは東京にはほとんど来てなかったんですよ。でも海外に行ってからですね。日本の外に出たときに、どこを意識するかというと、やっぱり東京だったりする。

小澤:ドイツに留学されたんですよね?

高山:ええ。5年くらい。ヨーロッパに骨を埋める覚悟で演劇の勉強をしていました。でもその頃、ドイツのルネ・ポレシュという演出家が東京に滞在して、『皆に伝えよ! ソイレント・グリーンは人肉だと』という作品を作ったんです。それを観て、なんでこれを自分がやらなかったんだろうと、とても悔しい思いをさせられたんです。自分は東京に住んでいたにもかかわらず、東京に向き合ってこなかったんじゃないか、と。それで、東京の高島平を題材に『Museum: Zero Hour』という舞台作品を作ったんですけど、その頃から東京と向き合う意識が出てきました。ぐるっと回って「東京」に辿り着きましたね。ずいぶん遠回りしました。

小澤:ぐるっと回って「東京」、という感覚は僕もありました。僕はイギリスに留学して、20世紀の西洋美術史を学びながら、哲学思想や社会学もかじるという横断的なことをやってきたんですけど、そういう他の学問領域を通してアートを読み直すという試みが、東京ではあまりやられてなかったし、キュレーティングを教えるという土壌もなかった。アートに関してロンドンは何でもあるけど、東京は未整備で、できることがたくさんありそうだな、という感じで帰ってきました。それから、2001年に仲間たちとAITを立ち上げ、現代アートの学校『MAD(Making Art Different)』を作ったりしたんです。

高山:ヨーロッパは古い市街地や、商業地区、工業地帯とかの単位でゾーニングされているけど、東京はごっちゃなのが魅力的ですよね。欧米に対して、東アジアの辺境から何が発信できるのかと考えたときに、ハイカルチャーでは幼少期から舞台観て、オペラ聴いてるヨーロッパの人には到底かなわない。だから東京は、混沌としているこの感じとか、未分類で同時生成しているようなところを武器にしていくしかないと思います。東京じゃなくても、日本というか、やっぱ、アジアかな。

―東京もアジアの一都市ですしね。

高山:もう1つ言えるのは、東京って、萱野稔人さんの「高齢衰退都市」をテーマにしたプレゼンテーションにもあったように、明らかにこれから滅びていくと思うんですよ。それを隠蔽しようとしても無理ですよね。おそらく世界的に見てもこれだけ急激に「でっちあげた」街はそうはない。1964年の東京オリンピックのときに、あちこちの川の上に高速道路を建てちゃうという荒業をとにかくやった。そりゃ壊れていくときも凄い勢いで壊れていくだろうと思いますよね。何百年も前の石造りの建物が残っている、地震の少ないヨーロッパではありえないこと。だから東京での創作は、ヨーロッパとはまったく違うものにならざるをえない。僕は滅びていくものとか、小さいものとか、弱いものを掬い上げるような仕事をやっていきたいと思いますし、そこに希望を持っています。

「高齢衰退都市」萱野稔人(津田塾大学学芸学部国際関係学科 准教授/哲学者) from Tokyo Jiten on Vimeo.

小澤:神里達博さん(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教員・科学史)のプレゼンテーションも新鮮でしたよね。日本の体制や文化は、元禄と宝永の大地震という自然災害によって更新されてきたという話で。戦後の高度経済成長はたまたまそうした大災害がなく発展してきて、だから今、東京にこれだけ首都機能や人口が集中しているけど、それで次の大きな地震が来たときに大丈夫なのかというリスク論に神里さんは展開していくんですね。

「文化的/自然的」神里達博(科学史) from Tokyo Jiten on Vimeo.

東京という支配的なシステムにおける、「自分の時間」の見つけ方。

―そんな課題が山積みの東京ですが、「未来」についてはどんなふうに考えていますか?

高山:僕は「生活者としての未来」と「表現者としての未来」は区別しなくちゃいけないと考えています。たとえば、東京に住めばいいのか、逃げたほうがいいのか、という生活者として未来を見据えた選択肢はありうる。ただ表現者としては真逆で、僕は「未来からの視点」は、あえて排除してしまったほうがいいと思うんですね。人間には常に「現在」をすっ飛ばして「未来」を考えてしまう傾向があると思います。政治や経済では確かにそれが必要なんだけど、僕らみたいにアートや演劇に関わっている人間は、むしろ「過去」や「現在」に見落とされがちなものに気付き、それを拾い上げながら、一見「未来」に役立たないように見えるものを作りあげていくほうに、荷担すべきなんじゃないかなと強く感じます。

小澤:「過去 / 現在 / 未来」という発想自体が極めてユダヤ・キリスト教的な考え方で、そういうフレームに縛られていると、オルタナティブなことを考えられなくなるかもしれない。既存の時間の枠組を疑って外していくことで、自分の主体性を回復できると思うんです。例えば高山さんのプレゼンテーションでは、山手線がきっかり時間通りに運行するという東京の時間感覚に乗れない人が、そこに飛び込むことによってその時間を遮断するという話をされていましたけど、それは「現在」という時間の政治性をよく表していると思います。支配的な時間の流れに対して、小さいながらも介入して止めるという……。でもそうじゃない「自分の時間」の見つけ方があると思うんですよね。

左から:高山明、小澤慶介

―『東京事典』で繰り広げられる皆さんのプレゼンテーションを見ていて、もし共通言語があるとしたら、それは東京に対する一種の危機意識かもしれないと思いました。

小澤:19世紀末のフランスの動きを追うと、ランボーやボードレールといった世紀末の思想はいろんなジャンルで共有されていたんです。実際それは今の東京にもあると思います。『東京事典』を続けていくうちに、これからの30年をどうやって生きていくのかなど、もう少し多くの人と意見を交わしてみたいなと思うようになりました。これからも東京に対して、どんなプレゼンテーションが見られるのか楽しみにしています。

『東京事典 TOKYO JITEN』
東京文化発信プロジェクト『東京アートポイント計画』
5コマから学べる現代アートの学校「MAD」 2013年度4月開講のご案内
オンラインで学べる無料レクチャー「FREE MAD」

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リリース情報

『はじまりの対話―PortB「国民投票プロジェクト」 現代詩手帖特集版』
『はじまりの対話―PortB「国民投票プロジェクト」 現代詩手帖特集版』

2012年11月10日発売
著者:
高山明(著・監修)
赤坂憲雄
辻井喬
濱野智史
原武史
吉増剛造
吉見俊哉
和合亮一
ハンス=ティース・レーマン
斉藤斎藤
山田亮太
磯崎新
今井一
鴻英良
桂英史
川俣正
黒瀬陽平
今野勉
谷川俊太郎
価格:2,520円(税込)
発行:思潮社

プロフィール

高山明(port B)

1969年生まれ。演出家。2002年ユニットPort B(ポルト・ビー)を結成。既存の演劇の枠組を超えた活動を展開している。『Referendum―国民投票プロジェクト』『サンシャイン62』『東京/オリンピック』(はとバスツアー)『個室都市東京(京都、ウィーン)』『完全避難マニュアル 東京版』『光のないII―エピローグ?』など現実の都市や社会に存在する記憶や風景、既存のメディアを引用しながら作品化する手法は、演劇の可能性を拡張する試みとして、国内外で注目を集めている。

プロフィール

小澤慶介

1971年生まれ。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジにて現代美術理論修士課程修了。 これまでに、ビデオアートのグループ展『paradise views 楽園の果て』(2004)や実験的な美術館プロジェクト『おきなわ時間美術』(2007)、アートの実践をとおして環境を考える『環境・術』(2008)などの企画・制作指揮を行う。女子美術大学非常勤講師。

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