特集 PR

僕は日本に絶望している『めめめのくらげ』村上隆インタビュー

僕は日本に絶望している『めめめのくらげ』村上隆インタビュー

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:西田香織

3.11以降、美術館を作りたいとか、欧米中心のアートコンテクストの中でどう位置付けられるとか、どうでもよくなってしまったんです。

―以前あるインタビューで、村上さんはいつか自分の美術館を作りたいという話をされていました。美術館は、作家の活動を美術史の中に位置付けていく役割を担っており、そのために自画像を描いたりしている、というお話だったと記憶しているのですが、今回の映画『めめめのくらげ』はどのような位置付けになるのでしょうか?

村上:実は、3.11以降、そういう思考が僕の中から一気になくなっちゃったんです。美術館を作りたいとか、西洋のアートコンテクストの中でどう位置付けられるとか、どうでもよくなってしまったんですね。

―えっ!?

村上:大震災が起きて、東北地方一帯を津波が襲って、原発が爆発して……。人々にとって「方便」というか、嘘八百がこれほど必要とされる瞬間はなかったっていうのが、3.11の後ですよね。だからそれ以降、僕の中で「方便とはいったい何だろう?」という疑問がすごく大きなテーマになったんです。それが映画のストーリーともリンクしていくんですよね。宗教が立ち上がってくる瞬間の方便であるとか。布教なんて、ある種の嘘八百ですよね。

『めめめのくらげ』 ©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

―僕も実際に3.11を体験した日本人の1人として、政府や財界を見ていると、すごくネガティブな意味での方便を感じて怒りを覚えます。ですが今、村上さんがおっしゃった「方便」というのは、ちょっと違った意味合いが込められていませんか?

村上:チェルノブイリ原発事故が起きたとき、僕は24、5歳でしたけど、広瀬隆さんの『危険な話 チェルノブイリと日本の運命』を読んで、2年間なんちゃってアクティビストをやってたんです。やむにやまれぬ気持ちにかられて、集会に出たり署名を集めたり、勉強会に出たり。でも、正直何にも変わらなかった。変わらない理由も初めからわかってたんです。つまり、問題に対抗するだけの処方箋をこちら側は最初から持ち合わせていなかった。何をどうすればいいかわからないのに、病気に立ち向かえるわけがない。そして失敗してしまった。そんな自分の人生に落とし前をつけるために、僕はアーティストとして生きることを決めたんです。

―はい。

村上:3.11に対してアクティブに活動している人たちの行動は、具体的な実行力を持った表現ですし、けっして無駄ではない。でも、僕は『めめめのくらげ』で描いたような物語を世界中に流布させることで、社会に対する影響力や圧力を生み出す方法を選んだということです。作品にすることで、絵画であっても映画であっても、不特定多数の人と問題意識を共有することが出来る。その方法が僕にとってアクティブなんです。「方便」とか「嘘八百」と言ってしまうとネガティブに聞こえるかもしれませんが、そこに込めた真意は賢い人には伝わると思う。これからは、その方便作りに集中していきたいと思っています。

『めめめのくらげ』 ©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

日本のオーディエンスに、僕のアートに対する疑念を抜きにして、良いか悪いか判断してもらえる初めての機会だと思います。

―例えば村上さんの『五百羅漢図』を見ようと思ったら、カタールまで行かなければならなかったですが、映画であれば、より多くの人が見ることが出来ます。その意味でも『めめめのくらげ』は大きい意味を持っています。

村上:そうです。美術館やギャラリーではなく映画館というフィールドで、日本のオーディエンスに、僕のアートに対する疑念を抜きにして、良いか悪いか判断してもらえる初めての機会だと思います。不安なのは、「あの村上隆の映画だろ? 見に行かなくてもわかるよ」という行動に出られること。見てもらったうえで、「つまらなかった」と判断されるのは全然いい。だから、とにかくいろんな層の人たちに見てもらいたいし、彼らに届く作品を作らなければいけないとずっと考えていました。日本では、マンガ、映画、アニメーションなど、日本人の心性にフィットするメディアを選ばないと、遠くまで届かない。いくら僕がああだこうだ言っても、日本人に現代美術を学習する気がまったくない以上どうしようもない。チェスでチャンピオンになった人間が将棋のルールを学び直して、改めて勝負するということを映画でしようと思ってます。

Page 2
前へ 次へ

イベント情報

『めめめのくらげ』

2013年4月26日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国順次公開
監督・エグゼクティブプロデューサー・原案・キャラクターデザイン:村上隆
主題歌:livetune feat. 初音ミク“Last Night, Good Night”
出演:
末岡拓人
浅見姫香
窪田正孝
染谷将太
黒沢あすか
津田寛治
鶴田真由
斎藤工
配給:ギャガ

『村上隆 めめめのくらげの世界展』

2013年4月20日(土)〜5月19日(日)
時間:12:00〜20:00 ※会期中無休
会場:東京都 六本木ヒルズ A/Dギャラリー
料金:無料

プロフィール

村上隆

1962年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。1991年に青井画廊でアーティストデビュー。2008年、米『TIME』誌「世界で最も影響力のある100人」に選出。英国のアート誌『Art Review』の特集では、10年連続で「世界のアート業界をリードする100人」に選ばれ続けている。日本では、六本木ヒルズやヴィトン、カニエ・ウェストやゆずとのコラボレーション、また、『芸術起業論』、『創造力なき日本』などの著書でも広く知られる。最近の代表的な個展は、ヴェルサイユ宮殿『MURAKAMI VERSAILLES』(10)、カタールAl-Riwaq エキシビジョンホール『Murakami-Ego』(12)。有限会社カイカイキキ代表として、若手アーティストの育成やマネジメント、ギャラリーやショップの運営も手掛けている。アニメ作品『6HP』を監督、2013年にリリースされる。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. 2003年生まれのLAUSBUBが語る 人生を変えたテクノとの出会い 1

    2003年生まれのLAUSBUBが語る 人生を変えたテクノとの出会い

  2. アニメと共振するテン年代のUSラッパーたち。響き合う作品世界 2

    アニメと共振するテン年代のUSラッパーたち。響き合う作品世界

  3. B'zが松本隆トリビュートアルバムで“セクシャルバイオレットNo.1”カバー 3

    B'zが松本隆トリビュートアルバムで“セクシャルバイオレットNo.1”カバー

  4. 窪塚洋介×太田信吾 肛門へ射し込む希望の光。健康と生活を考える 4

    窪塚洋介×太田信吾 肛門へ射し込む希望の光。健康と生活を考える

  5. Adoが歌唱出演 タマホーム新CM「ハッピーソング Ado篇」放送開始 5

    Adoが歌唱出演 タマホーム新CM「ハッピーソング Ado篇」放送開始

  6. 中川政七商店と隈研吾がコラボ 『Kuma to Shika』全10アイテム限定販売 6

    中川政七商店と隈研吾がコラボ 『Kuma to Shika』全10アイテム限定販売

  7. レイ・ハラカミ没後10年 プラネタリウム作品『暗やみの色』を再上映 7

    レイ・ハラカミ没後10年 プラネタリウム作品『暗やみの色』を再上映

  8. YOASOBI×ユニクロ「UT」のコラボTシャツが7月販売 無料配信ライブも 8

    YOASOBI×ユニクロ「UT」のコラボTシャツが7月販売 無料配信ライブも

  9. ヒップホップ・南米音楽との融合『NOMAD メガロボクス2』 9

    ヒップホップ・南米音楽との融合『NOMAD メガロボクス2』

  10. 黒人ゲイ男性として生きる人々描く記録映画『タンズ アンタイド』無料配信 10

    黒人ゲイ男性として生きる人々描く記録映画『タンズ アンタイド』無料配信