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僕は日本に絶望している『めめめのくらげ』村上隆インタビュー

僕は日本に絶望している『めめめのくらげ』村上隆インタビュー

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:西田香織

今の日本に蔓延している「あなたたちの未来は祝福されている。あなたたちは自由に何かを選ぶことが出来る」という大嘘から子どもたちを覚醒させたいんです。

―『めめめのくらげ』では、子どもたちの世界が中心に描かれています。しかし、彼 / 彼女らの世界にもエグい部分があり、誰もが成す術を見付けられない中で、それでも現実に立ち向かっていくという物語です。今回、子どもを描こうと思ったのはどういう理由だったんでしょうか?

村上:今の自分を形成しているものが、ほぼ10歳くらいまでに影響を受けたものだということに、30代中盤になって気が付いたんです。それで、メッセージを伝えるとしたら、子どもしかいないという決断をして、そこから先の僕の作品は、実はほとんど子ども向けに作っているんです。

―3.11以前の村上さんは、コンテクストの重要性や西洋のアートの作法を理解せよ、ということをしきりに訴えてらっしゃいました。それは、けっして子どもに向けられたものではなかったと思うのですが?

村上:それでも、子どもが理解出来ないものを作ろうとは思いませんでした。嘘でも方便として訴えるという意味においては、『五百羅漢図』あたりからアダルトな方向にも向かいましたけど、他の短編アニメーションを見ていただければわかりますが、すべて子どもを意識しています。子どもから共感を得られなければ、僕の存在意義はないと思っています。

『めめめのくらげ』 ©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

―『めめめのくらげ』をシリーズ化して、最終的にテレビシリーズとして放映したいとおっしゃっていましたが、それもやっぱり子どもに届けたいから?

村上:今の日本に蔓延している教育、「あなたたちの未来は祝福されている。あなたたちは自由に何かを選ぶことが出来る」という大嘘から子どもたちを覚醒させたいんです。平和ボケに乗じて税金をジャブジャブ投入し、一大土建国家に仕上げた現代日本の成り立ちを正当化するための信心、嘘八百であったと。「自由を謳歌せよ。自分の頭で考えて自分のために行動せよ。その先にはドリームカムトゥルーが待っている」とか、そういう洗脳がこれまでの教育で行われてきたのであるならば、その真逆のメッセージを送り続けたいということですね。

『GEISAI』は10数億円かけて、無駄だということがよくわかりました。

―村上さんは、ご自身のスタジオ運営や、『GEISAI』などを通じて美大生や芸大生に対する徒弟制度的な教育システムを構築しています。だとすると、そこに参加している20代前半の若者たちは、もはや手遅れということでしょうか?

村上:そうです、手遅れです。『GEISAI』は10数億円かけて、無駄だということがよくわかりました。じゃあ、僕が今もなぜ『GEISAI』をやっているかと言うと、もしかしたら一粒の可能性が残されているかもしれないという葛藤があるからです。可能性を捨てきれない以上、やり続けます。でも、『GEISAI』で、自分のエゴや自尊心を満たすために受賞して、目に見えない未来の旨みを吸い取りたいっていう人間に可能性はありません。

―では、新しい可能性を映画やテレビの中に見出しているのでしょうか?

村上:うーん……。僕自身、自分の作品とか活動形式に全然自信もないですから、難しいですね。僕にとって人生の訓戒は、ゴヤの存在なんです。スペイン人であるゴヤは、軍隊が市民を虐殺する『1808年5月3日、プリンシペ・ピオの丘での銃殺』を描いてますが、そのとき彼は無力だったはずです。彼自身は虐殺の非道を告発する意味を作品に込めたのでしょうが、そのときのスペイン政府もしくは国家に対しての影響力はゼロだったと思うんですよ。しかし、世界はなるようにしかなっていかず、この絵が描かれた1814年から見て未来である現在においては、スペインは虐殺が悪行であったと認めるところまで来てるわけですよね。歴史を振り返るための句読点として芸術があるとするならば、そこにしか自分の存在価値はないというか。非常に消極的で、退いていきながらの1つの戦い方という感じでしょうか。

村上隆

―アーティストとは歴史に対する告発者ということでしょうか?

村上:非常にちんちくりんで、現世ではなんの影響力も持たない無意味な存在です。タイムマシンを作っているマッドサイエンティストみたいな、ある種の変人だと思っています。

―でも、変わっているがゆえの蛮勇もあるのではないでしょうか。時代の渦中に向かって、1つの小石を投げて波紋が出来る。そんな影響力をアーティストは持っていると思います。そういう希望みたいなものも抱いてらっしゃいますか?

村上:どうでしょう? 死ぬ気でちゃんと芸術をやっているんだとしたら……。でも、中途半端にやっている人は無意味でしょうね。

100年、200年後の世界で「社会を変えよう、自分を変えよう」としている人たちに対して、小さな勇気みたいなものを与えられる存在になりたい。そういう作品を残したいと思っています。

―映画は総合芸術と言われますが、『めめめのくらげ』は村上さんの世界観の集大成と言えるでしょうか? 今までのお話をふまえると、なかなかストレートには言えないことかもしれないですが……。

村上:ほんとに僕は日本に絶望しているのです。日本人として生まれ、日本語を操って、日本に多額の税金を納めていますけれども、すごく絶望している。そんな中で、芸術家という生き方を選んだのは、世の中を変える役目というものに自分が加わりたいという気持ちがあったからなんです。ただ、僕が生きているうちにそれは無理だとわかりましたから、100年、200年後の世界で「社会を変えよう、自分を変えよう」としている人たちに対して、小さな勇気みたいなものを与えられる存在になりたい。そういう作品を残したいと思っています。

『めめめのくらげ』 ©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

―なるほど。

村上:「この一作で集大成か?」と言われると、今回は僕の技術が追いついていないので、まだまだです。僕は宮崎駿さんの『もののけ姫』が大好きなんですが、あれもとんちんかんなストーリーで、大破壊があったけど、最後は木の芽が生えて希望が生まれて良かった良かった、なんてくるくるパーみたいなお話じゃないですか。あの映画で重要なのは、支配階級である武士がいて、武士から虐げられる農民や浮浪民がいて、そんな彼らからも差別されているハンセン病患者がいる、というヒエラルキー社会の存在。そして、最も下層の人たちは、ゲットーに隔離されつつも鉄砲を作りながら自分たちの存在理由を見付けて、ある種の理想社会を建設しかけるんだけど、すべて無駄に終わってしまう。でも、それがこの世の中なんですよ、というメッセージです。そこに僕は共感しています。身も蓋もない現実から目を背けない物語を紡げる能力を身に付けて、これからも映画を作っていきたいと思います。

―『めめめのくらげ』は3部作になるそうですね。本作のスタッフロールの後には、かなり衝撃的なフッテージが登場して驚きました。

村上:僕の活動は、ずっと続いているんです。目玉の絵だって、15年くらい前から描いてますし、Mr.DOBもデビュー以来、いまだに描いています。僕の作品は終わることがないんです。生きている間に生まれてしまったタイトルはずっと続いていきますし、例えば『めめめのくらげ』は、僕が監督しなくても続いていくタイトルとして、ずっと生き続けると思います。

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イベント情報

『めめめのくらげ』

2013年4月26日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国順次公開
監督・エグゼクティブプロデューサー・原案・キャラクターデザイン:村上隆
主題歌:livetune feat. 初音ミク“Last Night, Good Night”
出演:
末岡拓人
浅見姫香
窪田正孝
染谷将太
黒沢あすか
津田寛治
鶴田真由
斎藤工
配給:ギャガ

『村上隆 めめめのくらげの世界展』

2013年4月20日(土)〜5月19日(日)
時間:12:00〜20:00 ※会期中無休
会場:東京都 六本木ヒルズ A/Dギャラリー
料金:無料

プロフィール

村上隆

1962年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。1991年に青井画廊でアーティストデビュー。2008年、米『TIME』誌「世界で最も影響力のある100人」に選出。英国のアート誌『Art Review』の特集では、10年連続で「世界のアート業界をリードする100人」に選ばれ続けている。日本では、六本木ヒルズやヴィトン、カニエ・ウェストやゆずとのコラボレーション、また、『芸術起業論』、『創造力なき日本』などの著書でも広く知られる。最近の代表的な個展は、ヴェルサイユ宮殿『MURAKAMI VERSAILLES』(10)、カタールAl-Riwaq エキシビジョンホール『Murakami-Ego』(12)。有限会社カイカイキキ代表として、若手アーティストの育成やマネジメント、ギャラリーやショップの運営も手掛けている。アニメ作品『6HP』を監督、2013年にリリースされる。

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