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罪悪感だらけの温室から飛び出して 黒沼英之インタビュー

罪悪感だらけの温室から飛び出して 黒沼英之インタビュー

テキスト
高橋美穂
撮影:三野新
2013/06/24

自分にコンプレックスがあって、人とどう接していいかわからないっていう、はみ出た部分が表現になっている気がするんです。

―そこから、自分で歌ったり、作詞作曲をするところには、どのようにして繋がっていくんでしょうか?

黒沼:宇多田さんが注目されたのって、若さもあったけど、全部自分で作っている部分も大きかったじゃないですか。それで、音楽をやるということは、自分で言葉や曲を作ることなんだって刷り込まれて。すぐに曲を作ってみようとは思わなかったんですけど、中学のとき地元の駅から家に帰るまでに自転車に乗りながら、当時のヒット曲を大声で歌って帰っていたんです。

―それはすごいですね!(笑)

黒沼:そのうちに、自分の言葉とメロディーが生まれるようになったので、日記的に形にするようになって。楽器ができなかったので、鍵盤ができる友達に聴かせて、コードをつけてもらって、デモテープを作ったんです。でも、がむしゃらにライブをやってデモテープを送るんじゃなくて、1社にだけ送って、反応があったらもっとやってみよう、なかったらそれまでだろうなって思ったんです。

―それで反応があったのでしょうか?

黒沼:今所属しているところではないんですけど、反応があって。そのときに、「外の世界と繋がれた!」と思って、すごく嬉しかったんですよね。その曲が(『instant fantasy』にも収録されている)“夜、月。”なんですけど。歌詞は15歳に書いたときから大分変わっているんですけど、サビの<夜の風を身に纏って / 裸足で走って月に行けたら>っていうところは変わっていなくて。多分、どっかに行きたい気持ちがあったと思うんですよね。家庭環境に閉塞感があって、音楽をやることでその温室からするするーって糸を垂らしたみたいな。親にも友達にも言わずに、こっそりやっていたんですけど、そこで外に繋がれて心地よかったんですよね。

―黒沼さんが音楽を選んだ理由って、音楽が好きっていう前提はもちろんだけれど、自分にしか生み出せないもので認められたいっていう思いが強かったからなんでしょうね。

黒沼:そうですね。自分で畑を耕して、種を植えて、作物を育てて、それを出荷して食べてもらいたかったっていうか。親のひいたレールっていうと古臭いですけど、そのときの自分にはそこから離れることが重要で。音楽は、作者がどういう環境にいようと関係ないじゃないですか? 出てきた曲を聴いてどう思われるかでしかないので。いろんなものを取り払ったところで自分から生まれた曲が評価されたことが、嬉しかったんですよね。そういうところから始まっている気がします。

―それでは、単純な言い方ですけど、音楽をやるようになってから、生きている実感が沸いて、日々を楽しく生きられるようにはなりましたか?

黒沼:そうですね。絵も好きで美大に行きたいと思っていた時期もあって、高校のときに予備校に行っていたんですけど、先生にデッサンが違うとか注意されると、素直に凹んで。もうやりたくないって思ったりもして……。

―何かこうしてお話をうかがっていると、人に言われることが気になるようですね。

黒沼:常に、あらゆる目を気にしてます……。自意識がすごいんだと思います。

―となると、たくさんの視線に晒されるライブとかは、どうなんですか?

黒沼英之

黒沼:親にも「あんたいっつも悶々としているのに、よくステージで歌ったりできるよね」って言われます。不思議なんですけど、やっぱり楽しいんですよね。自分から自分が離れていく瞬間かなあ……。もちろん後で、今日のライブの感じはダメだったとか、あのMCはみんな気持ち悪いって思ってるだろうなとか、ピアノに向かうまでの歩き方は絶対に気持ち悪かったよなとか思うんですけど。


―そこまで……(笑)。

黒沼:はい。でも、音楽は自分が覚悟できる場所っていうか。いろいろ言われたとしても、受け入れていけるし、辛いことも悲しいことも、もうちょっとやってみようって思えるんです。もしかしたら、自分をすり減らしていく感じが、僕にとって生きているなっていう実感になっているのかもしれないです。

―曲のテーマについて訊かせていただければと思うのですが、テーマに恋愛を扱っているものが多いのには理由があるのでしょうか?

黒沼:気持ちを落とし込むときにはラブソングが一番しっくりくるし、恋愛ってポップに受け取れるので。でも、自分の中では、全部が男女の恋の話っていうわけではなくて、人と人との摩擦とかに興味があるんです。人と人にはわかり合えない瞬間もあって、そこで人の感情が動くことが多いと思うんです。僕が歌詞や曲を思い付くのも、ケンカをした帰り道に一人で反省会をするんですけど(笑)、そういうときに生まれたり。

―人と人との関係性に興味があるんですね。

黒沼:ものを作る人って、変わった視点でものを見ることが出来ると思うんですけど。そんなに喋るのが得意じゃなくて、踊らざるを得なかったとか、写真を撮らざるを得なかったとか……。自分にコンプレックスがあって、人とどう接していいかわからないっていう、はみ出た部分が表現になっている気がするんですよね。宇多田ヒカルさんも、テレビとかで見るとオタクっぽい一面を感じるし、そういうところに愛おしさを感じるっていうか。上手くやれていない人に共感するし、好きなんです。みんな自信がなくて、表現はそっとドアの隙間から入れる手紙のような伝達手段になっている気がするんですよね。

―つまり、黒沼さん自身もそういう人間なんでしょうね。

黒沼:とにかく人の目が気になって、空回りしていることが多いです。でも上手くやれていたら、音楽をやっていない気がするんですよね。

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イベント情報

『黒沼英之 ONEMAN LIVE「instant fantasy」』

2013年9月19日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
出演:黒沼英之
料金:3,500円(ドリンク別)

リリース情報

黒沼英之<br>
『instant fantasy』(CD)
黒沼英之
『instant fantasy』(CD)

2013年6月26日発売
価格:1,800円(税込)
VICL-64035

1. ふたり
2. 夜、月。
3. ラヴソング
4. ordinary days
5. サマーレイン
6. どうしようもない
7. 耳をすませて

プロフィール

黒沼英之(くろぬま ひでゆき)

1989年1月18日生まれ。立教大学映像身体学科卒業。15歳の頃から曲を作り始める。大学進学後、本格的に音楽活動をスタート。ピアノの弾き語り、バンドスタイルなどで、都内でライブ活動を行う。2012年11月13日には渋谷WWWにて初のワンマンライブを開催し、チケットはSOLD OUT。また、フィンランド・ヘルシンキで年2回発行のファッション&アート誌「SSAW MAGAZINE」にて唯一の日本人モデルとして誌面に登場。2013年6月26日にMajor Debut Mini Album「instant fantasy」をリリース。

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