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今、見ることに油断していないか? 村松亮太郎×鈴木康広対談

今、見ることに油断していないか? 村松亮太郎×鈴木康広対談

インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:野村由芽

美術館や映画館に行かない人たちにもちょっかいを出したい。そこが自分にとってはスリリングなんです。(鈴木)

―鈴木さんは空港や海など、パブリックな空間で作品を展開することも多いですよね。そうした場で不特定多数の人に体験してもらうことを、どう考えて表現しているのでしょう?

鈴木:まず「アートだと思わせてはいけない」って思っています。

村松:それはどういう意味?

鈴木:パブリックな場所では、「あぁ、芸術なんですね」で終わってしまうと見てもらえない。興味の入口をどう作るかが重要なんです。あるキュレーターに「鈴木さんの作品は、見た目が面白すぎる」と言われたこともありますが……。

村松:それは賞賛半分、苦言半分?(笑)

鈴木:美術の世界では、積極的に見に来る人にだけ届けばいいという考え方もあるんですよね。でも僕は、よくわからなくても、なんだか見ていたくなるものに惹かれるし、とにかくまず見てもらうことが大事だと感じていて。

村松:美術展や映画館なら、初めから見る気満々な人ばかりですけどね。

鈴木:もちろんそういう場に独特の豊かな解釈や対話も生まれるでしょう。でも既に出来上がったフレームで作品を眺めても、どこか物足りない。そこに来るはずのなかった人たちにちょっかいを出して、見るきっかけを作りたい。そこにはおのずと新しい「言語」が必要とされて、人が動き始める。そこが自分にとってはスリリングなんです。アートのためにアートを作るわけじゃない。誰かに見せたいシンプルな気持ちって結構大事かなって……なんか、だいぶ抽象的で真面目な話になっちゃいましたね?

鈴木康広
鈴木康広

村松:うん、すごく真面目な方だと思いました(笑)。ソフィア・コッポラの『somewhere』って映画があって、今それを思い出したんです。オープニングでフェラーリがエンジン音を響かせてコースを8周くらい延々と走るんですね。あれは彼女のパーソナルな記憶の映画だと思うのですが、出だしからしてその宣言みたいでグッとくる。でも「長いな」と早送りする人のほうが多数派かもしれない。それに、日本全国で一番観られてる映画が『海猿』だっていうときに、作る側として多くの人に伝えるにはどういうアプローチがいいか、難しい面はありますね。

鈴木:どんな表現でも、まずは見始めてもらうための工夫と、その上で「ここは特に見てほしい」というメッセージや機能がちゃんとあればいいと思います。僕はそこをできるだけ無意識的にやりたいのですが。手法として、人々が思わず参加してしまう要素も大事かなと思います。『まばたきの葉』は葉を舞い散らせるので、装置に何枚も葉っぱを入れ直さなきゃいけないんです。最初はそれを会場の係にやってもらうつもりでした。でも最終的にお客さんたち自身が喜んでやってくれるものになった。ある意味で不完全な作品だけど、結果的に参加型になり楽しんでもらえたんですね。

自分が何者かを定義したくないという気持ちがある。(村松)

村松:いいエピソードですね。ちなみに鈴木さんの肩書きは「アーティスト」でいいんですか?

鈴木:実はその言葉にはしっくりはきてなくて、でも他にない。でもアーティストとしての自覚はあります。生きてきたことすべてが作るものや活動にリンクし、意味を帯びてきた実感があるし、「キャリア=自分の今の年齢」と言えるのがいいなと思っていて。

村松:生きることがアートワークだと。素敵ですね。

鈴木:公での作家活動が10年過ぎた頃から、やっぱり変な生活だと思いました。例えば「ファスナーの形をした船が海を進むと、その航跡がまるで海原を開いているように見える」、そんな作品を作ろうとすると、ファスナーについてず〜っと考え続けるわけです。世界中の誰よりも……YKKの人より考えたかもしれない(笑)。それってかなり特殊な状況ですが、その先に見えた世界を伝えていくのが仕事かなと。その中で僕自身も変わっていくから、作品を作った後にそれを別の形で伝えるのも大切だと考えてます。

ファスナーの船 Ship of the Zipper 2004
ファスナーの船 Ship of the Zipper 2004

―常に見ることから始めるのがアーティスト、とでもいうべきか。1つの対象をじっくり見て考える姿勢は、先ほどの「最近の人は見ることに油断してる」とは対照的かもしれませんね。

鈴木:まぁ、たまたま僕がファスナーや遊具たちから「任命」されたような感覚なんですけどね。ファスナーたちが集まる会議で、「鈴木になら任せてもいいんじゃない?」みたいな(笑)。

村松:ハハハ、「あいつは最後まで諦めずにやってくれそうだし」って(笑)。

鈴木:それでアイデアを授かって、僕はそれを形にすることで世の中に自分の居場所を得ることができる。どちらが先かはわからないところもあるんですけど。

村松:鈴木さんの第一印象が、ものすごいピュアな目をしていてびっくりしたんです。僕なんかある意味、いろいろやってるうちに自己矛盾や業にまみれて(笑)、人間の不完全性なんかも飲み込みながらやっている。

鈴木:大事なのはその人がいかに「ちょうど良く」生きていけるか、ですよねきっと。誰かの真似はできないし、社会との接点をもつ限りは、何かの役に立たないと成り立たない。作品を売って生きていくだけが、アーティストのありようでもないし。僕は反則技というか、その時々にタイミングよく助けや新しい関わりがやってくる感覚はあります。「助け」というのは、儲かりすぎないという意味も含めて(笑)。

村松:やっぱりコミュニケーションへの意識が高いですよね。エゴに忠実に作るみたいなことよりも。

鈴木:作品のほうが一人歩きしていく感じもあって、「俺が作ったぞ」感はあまりないんです。見る人は、アーティストの「作風」から表現をとらえようとするけど、逆に見えなくなっていることもあるとも思う。手法や作風は結果として作家の特性を示す1つの現れであっても、そこに至る間に起こっていく自分自身の変容が最もエキサイティングだし、そうでなければ作家側もディテールに精力を注ぐ意味がないでしょう?

村松:金太郎飴的なほうが商品としては成り立ちやすいかもしれないけど、僕も自分が何者かを定義したくないという気持ちがある。映画も1本ごとにペンネームを変えようかと思ったり(笑)。

鈴木:でも、そもそも人が毎日同じ名前で生きているのも、不思議なことですよね。生物学的には細胞も日々変わっていくし、実際、作品を作っていると自分の思考もすごく忙しく更新されていきます。見る度、作る度に自分が更新されている感覚がありますよ。

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村松亮太郎関連イベント情報

『秋のスペシャルナイト 3Dプロジェクションマッピング』

2013年10月16日(水)〜10月17日(木)
会場:東京都 東京国立博物館 平成館
時間:18:00〜21:00(入館は20:30まで)
投影時間:18:10〜20:20(約5分間の映像をループ上映予定)
料金:3Dプロジェクションマッピング鑑賞券+特別展「京都−洛中洛外図と障壁画の美」特別夜間開館入場券1枚+マッピング映像DVD
料金:2,400円

鈴木康広関連イベント情報

『PAPER –紙と私の新しいかたち-展』

2013年7月20日(土)〜9月8日(日)
会場:東京都 目黒区美術館
時間:10:00〜18:00
出展作家:
植原亮輔と渡邉良重(キギ)
鈴木康広
寺田尚樹
トラフ建築設計事務所(鈴野浩一、禿真哉)
DRILL DESIGN(林裕輔、安西葉子)
西村優子
休館日:月曜
料金:一般600円 大高生・65歳以上450円 小中生無料

書籍情報

鈴木康広<br>『まばたきとはばたき』
鈴木康広
『まばたきとはばたき』

2011年11月10日発売
著者:鈴木康広
価格:2,625円(税込)
発行:青幻舎

プロフィール

村松亮太郎(むらまつ りょうたろう)

映画監督、映像クリエイター。クリエイティブカンパニーNAKED Inc.代表。2006年から立て続けに長編映画4作品を劇場公開した。自身の作品が国際映画祭で48ノミネート&受賞中。近年は3Dプロジェクションマッピングに着目し、昨年末話題となった東京駅の3Dプロジェクションマッピング『TOKYO HIKARI VISION』の演出を手掛けた。今年10月に東京国立博物館で開催される特別展「京都」の3Dプロジェクションマッピングの演出を担当することが決定している。

鈴木康広(すずき やすひろ)

1979年静岡県浜松市生まれ。2001年NHKデジタル・スタジアムにて発表した「遊具の透視法」が年間の最優秀賞を受賞。アルスエレクトロニカ・フェスティバルへの出品をきっかけに国内外の多数の展覧会やアートフェスティバルに招待出品。2003年に発表した『まばたきの葉』は多くのパブリックスペースへ展開を続けている。瀬戸内国際芸術祭2010では『ファスナーの船』を出展し話題を呼んだ。2011年、初の作品集 『まばたきとはばたき』(青幻舎)を刊行。現在、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科専任講師、東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室客員研究員。

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