YeYeと後藤正文が考える、ミュージシャンの幸せな在り方

メジャーとインディー、東京と地方、バンドとソロ……。これらのテーマは、音楽について話をするときに、必ず話題にあがるテーマだと言えよう。そして、これらは時代によってその意味合いを多少変えながらも、その良し悪しというのは、結局そのミュージシャンがどんな未来を思い描いているかによって変わってくる。9月にアルバム『HUE CIRCLE』を発表し、現在は全国ツアー中のYeYeと、同じく9月に横浜スタジアムでの10周年記念ライブを終えたASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文は、かつて後藤のソロ楽曲“LOST”にYeYeがゲストボーカルで参加して以来の仲。京都在住で、インディーレーベルに所属、サポートメンバーと共に活動するYeYeと、メジャーのど真ん中に位置しながら、自主レーベルを立ち上げて、ソロワークやプロデュースも手掛ける後藤との対話は、それぞれの立ち位置を反映しつつ、やはりミュージシャンとしての顔がはっきりと浮かび上がる内容に。ジョークや天然が飛び交いつつも、今二人が思うことを、かなり突っ込んだところまで話してもらった。

「この人は世に出ていくべきだ」って思ったんですよね。広くいろんな人が聴きたいと思うような何かを持ってるんじゃないかって、勘が働いたというか。(後藤)

―YeYeさん、先日の東京でのレコ発、お疲れさまでした。前日にドラムの(妹尾)立樹さんが怪我をして、ライブに出られなくなってしまうという、思いがけないドラマチックな状況でしたね……。

YeYe:ライブ前日の練習に1時間以上経っても来ないから、「おかしいな」と思ってたら電話がかかってきて、「骨折れたかもしれへん」って。それで、ライブまで24時間切った中でitokenさんにお願いして、数曲叩いていただいたのですが、完璧だったし、華のあるドラムで、ホントに助けられました……。なんとか終わってよかったです(笑)。

YeYe
YeYe

―後藤さんはライブでの印象深いアクシデントってありますか?

後藤:昔は空調が寒すぎて、演奏中にトイレ行きたくなることがよくありました(笑)。

YeYe:長丁場ですもんね(笑)。

後藤:そういうときは、「すみません、ちょっと待っててください」ってMCで言ってから行きますけどね(笑)。でも一番のピンチは、アリーナツアーの最終日にノロウイルスかなんかにやられちゃって(笑)。

YeYe:あの、噂に聞いたんですけど、そういうときってニンニク注射ってやつするんですか?

後藤:ニンニクでは胃腸の調子はよくならないんじゃないかな?(笑) それに僕はニンニク注射やったことないよ(笑)。

―(笑)。お二人の接点と言えば、後藤さんのソロ“LOST”にYeYeさんがゲストボーカルで参加されていましたよね。後藤さんはどうやってYeYeさんのことを知ったのですか?

後藤:YeYeが前にやってたバンドが『閃光ライオット』に出て、僕らのラジオ番組でそのバンドの曲がかかったんですよ。“そらに”っていう曲で、僕たちが“ソラニン”を出したときだったから、そういうダジャレも含めて、「アジカンにはこれを聴いてもらいましょう」みたいな感じで。それで、「いい声だね」ってラジオで言って、その後Twitterで話しかけたのを覚えてる。

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)
後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

YeYe:ゴッチさんが呟いてくれはって、それに対していろんな人から「ゴッチさんが言ってるよ」っていうふうにいっぱい言われて、「あらら」ってなりました。

後藤:そのときデモとか出してたんだっけ?

YeYe:MySpaceには上げてたかもしれないですね。

―じゃあ、後藤さんはYeYeさんのデビュー以前からご存知だったんですね。

後藤:僕はレーベルをやってるから、「どこかと契約あるのかな?」と思って、DMで連絡したら、「今度出すんです」って言うから、「よかったね」っていうやり取りをして。「この人は世に出ていくべきだ」って思ったんですよね。広くいろんな人が聴きたいと思うような何かを持ってるんじゃないかって、勘が働いたというか……。先輩ミュージシャンとしての勘とかじゃなく、いちリスナーとして、「この人いいなあ」って。

―“LOST”でゲストボーカルに起用したのは、どういう理由だったんですか?

後藤:“LOST”と言いつつも、人生やライフがテーマの曲だから、おじさんが一人で歌ってるのはなんか違うなあと思って(笑)。女の人の声が入ってきたほうがよりドラマチックになるというか、生まれてから得るものと失うもののイメージが、自分以外の異性の声が入ってきたほうが広がると思ったんです。

―YeYeさんは声がかかったときビックリしたでしょうね。

YeYe:呼ばれたのがめちゃめちゃ大きいスタジオで、あんなところには初めて入りました。録音してるブースからミキサーのところまで、部屋がもう1個作れるぐらい広くて、すごいなあと思いました。あの大きさに緊張しましたね……。

後藤:YeYeはスタジオでシーンとしてましたね。なんか、キュッとなってました(笑)。そのときよりは今のほうがフランクに話せるようになったよね。

YeYe:そうですね。それまでTwitterでやりとりしてたのが、そのときに初めて会ったので……。

後藤:「チャット友達が初めて会う」みたいなね(笑)。お互い本名も知らず、ハンドルネームで呼び合うみたいな(笑)。

―それをきっかけに、その後はいろんな場所で共演されて、親交を深めてきたと。

YeYe:はい、『THE FUTURE TIMES』のイベントに誘っていただいたり。

後藤:大阪のイベントに一緒に呼ばれて、無茶振りで(“LOST”を)歌えってなったりね(笑)。

YeYe:あのときは、カラオケで歌いましたね(笑)。

暗い曲ばっかり入れたアルバムも作ってみたい。そのレコ発のイベントは、みんな布団持参で、寝ながら聴くっていう(笑)。(YeYe)

―YeYeさんは9月にアルバムが出て、あの作品は海外のチェンバーポップの影響などを消化したものでした。今はまだ全国ツアー中ですが、少しずつ次の作品のビジョンも見えつつあるのでしょうか?

YeYe:私はギターの弾き語りから音楽を始めたんですけど、もともと弾き語りがしたかったわけじゃなくて。サポートメンバーありきの、楽団みたいな感じの形態でやりたいとずっと思っていたので、今はホントに自分のやりたかった形態でやれてるんです。これからはさらにそのチェンバーポップみたいな要素も入れて、最終的には50人ぐらいいるような感じでやれたら面白いんじゃないかなって思ってます(笑)。

後藤:バンドって、メンバー余ってるぐらいのほうが楽しいからね。「あの人何してるんだろう?」みたいな。でも、50人は多いんじゃない?(笑) まあ、例えば、BROKEN SOCIAL SCENEみたいな形ってすごく理想で、メンバーがそれぞれ別ユニットで活動してるんだけど、みんな集まるとBROKEN SOCIAL SCENEになるっていう、ああいうのは見てて羨ましい。化学調味料みたいな音楽じゃなくて、ちゃんと血の通った感じが、あの周りにはあるような気もするし。

―そう言われてみると、トロントのシーンと京都のシーンって、ちょっと近いところがあるかもしれないですね。

YeYe

YeYe:YeYeの場合は、あくまでサポートメンバーに参加してもらってるのがよくて、たぶんバンドやったら、めっちゃケンカしてると思うんです。でも、サポートメンバーの距離感で、YeYeのエゴでやってることに付き合ってもらってる上に、自分にとってお兄ちゃんみたいな関係の人たちばっかりで。いろいろ助言もくれるし、勉強しながらできるのもすごくしっくり来てて……。えっと、好き勝手やらせてもらってます(笑)。


―単純に、今はまってるアーティストや作品ってありますか?

YeYe:ツアー中なので、ステージではウワーってやりたいんですけど、ライブをあまりにいっぱいし過ぎると、それ以外の時間は静かな音楽が聴きたくなるんですね。IT’S A MUSICALのエラ・ブリクストが別でやってるBOBBY & BLUMMっていうユニットがあるんですけど、それはシックな感じで優しい声なので、今はそれが好きですね。

―そういう曲も作ってみたいと思いますか?

YeYe:ライブのことを考えると、静かな曲とかテンポの速い曲とか、いろいろ盛り込んだほうが聴いてる側は楽しいと思うので、そういうことを踏まえてセットリストを組んでるんです。でも、暗い曲しか聴きたくないときもあることを考えると、暗い曲ばっかり入れたアルバムも作ってみたいなと最近思ってて。聴きながら、途中で寝られるぐらいの(笑)。

―寝ちゃうんだ(笑)。

YeYe:そのレコ発のイベントは、みんな布団持参で、寝ながら聴くっていうのをやりたいです(笑)。

後藤:22時ぐらいに、消灯してからスタートでね(笑)。で、部屋の隅っこでYeYeが小っちゃいあかり灯して暗い歌を……ってめっちゃ怖いじゃん(笑)。普通そんなライブ考えつかないよ?

YeYe:そうですか? もう結構考えてて、持ち物リストに「寝袋持参してください」って書いておくんですけど、結局みんなライブに寝袋なんて持ってこないから、一応貸出し用も5つぐらい準備しておいたけど、全然足りひんくてどうしよう……ぐらいの状況まで想像してます(笑)。

後藤:物販で売ったらいいんじゃない? YeYeオリジナル寝袋(笑)。

YeYe:なるほど、売れば解決ですね(笑)。

左から:YeYe、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

メジャーとインディーのどっちが偉いとかもないし、良し悪しなんだよね。ストレスを感じない限りは、どんな環境でもいいと思う。(後藤)

―後藤さんは最近the chef cooks meやDr.DOWNERのプロデュースも手掛けられていますよね。ちょっと無茶振りですが、もしYeYeさんをプロデュースするとしたら、「こんなことをやったら面白いんじゃないか」っていうアイデアはありますか?

後藤:僕の基本的なプロデュース方針って、ミュージシャンのやりたいことを叶えるだけなので、「こういうのやったら?」っていう提案はあんまりしないんです。どうしたら一番よく録れるかを考えたり、迷ってるときは判断したり、それぐらい。だから、YeYeも好きなことをやったらいいとは思うんだけど、あとは今後のプランをどう考えてるのかっていうところですよね。例えば、お茶の間みたいなところにどの程度あがっていくのか。こたつにまで入っていくのか、玄関だけ開けてみるのか、その辺のバランスをどうしていくんだろうなって。もちろん、そんなこと考えてなくて、とにかくいいものが作れればいいっていうのでもアリだと思うし。

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

YeYe:最初は、「売れてやる」みたいな気持ちで音楽を始めたわけじゃ全くないんです。気がついたら音楽になってたって感じで、ホントにすごく人に恵まれてきていて……。

後藤:今のとこ太字だね。「気がついたら音楽になってた」って(笑)。

YeYe:それで、最近チャットモンチーさんの『ふたりじゃない』っていうDVDを観たんですね。そのDVDには「チャットモンチーを支える裏方の部分にも着目した」って書いてあって、それで観てみようと思ったんです。私はもちろん今までメジャーに行ったことがないから、初めてその裏側を知って、みんなで作り上げていく信頼感がホントにすごいと思って、めちゃくちゃ感動したんです。

―あのDVD、素晴らしいですよね。

YeYe:今、私はインディーのレーベルに所属させてもらってて、めちゃめちゃ助けてもらってるんですけど、マネジメントはついてないので、今回のツアーも自分でホテルや新幹線の手配をしているし、めっちゃ大きいスーツケースに物販や機材を詰めたりしながらやってるんです。今はこういうことを経験するときだと思ってるんですけど、そのDVDを観て、サポートあってこそのミュージシャンというか、スタッフの方がいれば、さらに音楽に邁進できるなって考えると、そういう環境もいいなと思いました。

後藤:メジャーとインディーのどっちが偉いとかもないし、良し悪しなんだよね。ストレスを感じない限りは、どんな環境でもいいと思う。でも、「さすがに物販誰かに持ってほしい」って思い始めたら、人が必要だよね(笑)。

YeYe:機材を運ぶとき、ライブハウスにエレベーターがないと終わりなんですよ(笑)。「まだ新人やし、頑張ろう」って思ってるんですけど、そういうところで体力を取られちゃって……。

―実際にライブがどうやって作られていくのかを経験しておくのはすごく大事だと思うけど、ミュージシャンとしては「音楽だけに集中したい」と思うのも当然ですよね。

後藤:でも、だんだんスタッフが増えていくと、「今まであれ僕がやってたんだよな」みたいに、ちょっと「仕事を取られていく」みたいな感覚もあるんですよ。特に最初の頃は結構そういう思いもありました。ただ、ミュージシャンとして音楽を作る上ではあんまりお金のことを考えたくないから、僕の場合はホントにそれだけが理由でマネージメントに所属してますね。無邪気に「あのアンプ使いたい!」って言いたいっていう(笑)、それだけなんです。

僕が最近周りにいるミュージシャンを手伝ってるのは、才能あるやつにちゃんとお金を引っ張ってきたいから。(後藤)

―後藤さんは今はソロの新作をレコーディング中とのことですが、ソロはご自身のレーベルでやられてるんですよね?

後藤:アジカンは大きいバンドだから、華やかなところにいてほしいっていう願望があるけど、自分のソロは自分のお金で、自分のやりたいことを自分の責任でやるのがいいかなって。ずるいとは思うけどね、別キャラを編み出したみたいで(笑)。昔はアジカンと自分が一体化してたけど、最近はアジカンは乗り物っていうか、ロボみたいなものだと思ってて、メンバーに「右手よろしく。ちゃんとミサイルボタン押してね」っていう感じなんですよね(笑)。そういう意味で、本名からYeYeって名前にしたのはいいなって思った。すごくポップだし。

YeYe:フルネームでギターを弾いてる女の子って、いっぱいいはるじゃないですか? さっきも話したように、弾き語りのシンガーソングライターっていうふうには思われたくなかったし、それがやりたいわけじゃなかったので、名前を変えたんです。

後藤:いいと思う。本名で創作活動するのって、呪いみたいなところもあるからね(笑)。「お前はそこにいろ」って言われてしまうというかね。

―後藤さんもソロのときは「Gotch」名義ですよね。

後藤:みんなに僕のこと「Gotch」だと思ってほしい。本名はうっすら隠していこうかなって(笑)。

―(笑)。では最後に改めて、今日ここまで話したことを踏まえて、後藤さんからYeYeさんに何かアドバイスをいただけますか?

後藤:関西に住んだままやったほうがいいなあとは思う。

YeYe:私も場所は変えたくないです。

後藤:今と同じメンバーのまま、売れたらいいよねって思う。それは1つの希望ですよね。自分の周りにいるミュージシャン全体に金銭的なものを落とせるっていう。僕が最近周りにいるミュージシャンを手伝ってるのは、才能あるやつにちゃんとお金を引っ張ってこようっていう気持ちがあるからで、そうするとみんな音楽やりやすくなって、またいいものが生まれると思うし。

左から:後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、YeYe

―関西に住んだままのほうがいいっていうのは、どういう理由ですか?

後藤:YeYeって、東京の人に好かれそうな感じがするから、自分が望めば、例えばファッション雑誌みたいな華やかなところに呼ばれたりすると思う。でも今のメンバーと一緒にやってれば、メジャーとかインディーに捉われることもないっていうか。バンドメンバー以外にも周りに仲間がいっぱいいると思うんだけど、結局それが全てなんじゃないかな。東京に来てワッとやっちゃうと、大人が考えるYeYe像に押し込めようとする動きがあると思うんだけど、それは許せないタイプだと思うし。

YeYe:はい、許せないタイプです……。見抜かれてますね(笑)。今のメンバーとずっと一緒にやりたいっていうのは私も思ってたから、ゴッチさんに言われると「それでいいんだ」って、すごく安心しました。

後藤:やってる人はそのままで、聴く人だけ増えるのが幸せだから。その分、多少YeYeが引き受けなきゃいけないこともあるかもだけどね。取材が増えるとか(笑)。

YeYe:はい、そういう覚悟はあるので、頑張ります。ありがとうございました!

イベント情報
YeYe
『HUE CIRCLE』全国ツアー

2013年12月7日(土)
会場:宮崎県 Liberty

2013年12月14日(土)
会場:北海道 札幌 oyoyo

2014年1月12日(日)
会場:京都府 KYOTO MUSE

東京『空気公団 × YeYe LIVE』

2013年12月25日(水)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:東京都 下北沢 mona records

書籍情報
後藤正文
『This is ASIAN KUNG-FU GENERATION Photographs by MITCH IKEDA』

2013年12月28日発売
著者:MITCH IKEDA
価格:4,200円(税込)
発行:株式会社KADOKAWA

プロフィール
YeYe (ぃえぃえ)

1989年生まれ。2011年に発売されたデビューアルバム『朝を開けだして、夜をとじるまで』は作詞作曲はもちろん、すべての楽器の演奏までをセルフ・プロデュースで行う。デビューアルバムに収録されている「morning」が、α-STATIONをはじめ、ラジオ関西、鹿児島フレンズFM、FM徳島、FM三重の各局パワープレイに選ばれる。

後藤正文(ごとう まさふみ)

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターであり、楽曲全ての作詞とほとんどの作曲を手がける。これまでにKi/oon Music (SONY)から7枚のオリジナル・アルバムを発表。2010年にはレーベル「only in dreams」を発足させ、webサイトも同時に開設。また、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞「THE FUTURE TIMES」を編集長として発行するなど、 音楽はもちろんブログやTwitterでの社会とコミットした言動でも注目される。Twitterフォロワー数は現在240,000人を超える。



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