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演劇は最も危険な芸術である 三浦基インタビュー

演劇は最も危険な芸術である 三浦基インタビュー

インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:高見知香
2014/03/13
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「地点語」と形容される独特の音楽的な発話方法で、これまでチェーホフやシェイクスピア、ブレヒトなどの古典作品や、アルトー、イェリネク、太田省吾など前衛作家の言葉を現代演劇に作り変えてきた40歳の演出家、三浦基。彼は、今日本で最も注目されている演出家の一人だ。

そんな三浦が今年3月、KAAT神奈川芸術劇場で上演するのが、ドストエフスキー原作の『悪霊』。ここ数年、太宰治、芥川龍之介と、日本文学を次々と舞台作品に立ち上げてきた三浦は、今なぜ巨匠ドストエフスキーに挑もうとしているのか。それをアクチュアルな問題として、どのように現在へと接続しようとしているのか。その理由を辿るインタビューは、ドストエフスキーの魅力だけでなく、演劇という芸術の持つ可能性、地点独自の「音楽的」と言われる発語法、さらには日本における現代演劇のあり方、未来にまで話が及ぶものとなった。

ドストエフスキーは人間観察が執拗で、俯瞰した目線で世界を描きます。いろんな読み方が許されると思いますし、敵として不足はないですね。

―地点は、ここ3年、芥川龍之介原作の『Kappa/或小説』、太宰治原作の『トカトントンと』『駈込ミ訴ヘ』という三作品を「日本文学シリーズ」としてKAAT神奈川芸術劇場で制作してきました。今年4年目にして、なぜドストエフスキーの『悪霊』を制作されることになったのでしょうか?

三浦:日本文学であれば、戯曲でも小説でもなんでもいいというオーダーが劇場からあって、「日本文学シリーズ」を作ってきました。太宰と芥川を選び、小説を演劇に作り直すということにこだわり、徹底的に考えた3年間でしたね。それで、4年目からは日本文学という枠組みも外して考えることになったんです。

『トカトントンと』KAAT神奈川芸術劇場 2012年 撮影:青木司
『トカトントンと』KAAT神奈川芸術劇場 2012年 撮影:青木司

―「世界中の文学」という幅広い選択肢になって、迷うことはなかったですか。

三浦:ぶっちゃけ何をやったらいいのか、わからなくなりました(笑)。いくつか候補作は出たのですが、最後の一押しとなるものがありませんでした。候補の中には、同じドストエフスキーの『地下室の手記』もあったんですが、なんとなく物足りなかった。『地下室の手記』は、太宰の『駈込ミ訴ヘ』と同じモノローグ(一人語り)形式の作品なので、同じ手法を使えば、あっさりできてしまうんですよね。

―結果的に三浦さんはドストエフスキー、そして『悪霊』という作品を選びました。「最後の一押し」となったのはどういう部分でしたか?

三浦:今までやっていないことに挑戦したかったので、長編をやりたいと思っていました。あと『悪霊』には、神や政治、革命といったテーマが出てきます。『駈込ミ訴ヘ』でもキリスト教というテーマを扱いましたが、もっとそれを掘り下げてみたかった。それに、革命に挫折したという内容にも興味を惹かれました。

『駈込ミ訴ヘ』KAAT神奈川芸術劇場 2013年 撮影:橋本武彦
『駈込ミ訴ヘ』KAAT神奈川芸術劇場 2013年 撮影:橋本武彦

―今さらあらためてですが、ドストエフスキーは非常に語るべきところの多い作家ですよね。まさに巨匠というか。

三浦:誤解を恐れずに言えば、どんな人でもドストエフスキーは好き。読んでみて、くだらないという人はまずいない。やっぱり偉大な作家だと思います。亀山郁夫(ロシア文学者)さんの言っていた「ドストエフスキーを読むか読まないかで人生が変わる。読んだことがあるかどうかで世界は変わる」は大袈裟だけど一理あって、そういう意味では僕にとっても1つのターニングポイントにできるかなと。あと、そろそろ大きな文学作品を上演していかないと、自分自身が手慣れた演出手法に頼ってしまうようになる怖さもあります。少しオーバーな言い方になりますが、今ドストエフスキーの作品を上演することで、人類の英知を演劇がどのように考えているのかを表したいと思っています。

三浦基
三浦基

―小説を演劇にするということは、戯曲を演劇にすることとは全く違う作業だと思います。三浦さんはどのように小説を演劇にしているのでしょうか?

三浦:一般的に、戯曲というのは「私は◯◯だと思う」という台詞によって成り立っています。でも小説は、「彼は◯◯した」という三人称なんです。それは一般的に台詞になり得ません。これまで「日本文学シリーズ」の作品で、色々な角度からその三人称を台詞として発語しようと挑戦してきましたが、演劇における三人称は「ト書き」のようになってしまうので、どうしても制作現場ではそれを排除する方向に向かってしまう。「彼は◯◯した」と言われても、ただ説明的なだけだし、「じゃあ、それを喋っている俳優はどう思っているんだ?」という疑問が残ってしまうんです。とは言え、戯曲に立ち戻っても普通だしつまらない。「お前の話なんか聞きたくない」と思ってしまう(笑)。

―悩ましいところですね。

三浦:ドストエフスキーの場合は人間観察が執拗で、長台詞を多用しつつも俯瞰した目線で世界を描きます。そのト書き部分と長台詞のバランスが絶妙なので、何度読んでも印象が違うんです。だから、あえて戯曲として読み込んだとしても、いろんな読み方が許されると思いますし、敵として不足はないですね。これだけの長編作品だしドラマも多い。短縮版を作っても、おそらく5時間くらいのドラマになるエピソードは詰まっています。今回はドストエフスキーの『悪霊』を読んで、自分がどういう気持ちになったか、その読後感を1時間30分ほどの上演時間の中で立ち上げたいと思っています。

3月11日に行なわれた、「KAAT舞台芸術講座 舞台演出家と映画監督が読み解く ドストエフスキー『悪霊』」 青山真治(映画監督)×三浦基のトーク風景
3月11日に行なわれた、「KAAT舞台芸術講座 舞台演出家と映画監督が読み解く ドストエフスキー『悪霊』」青山真治(映画監督)×三浦基のトーク風景

職業作家というジャンルを開拓し、小説だけでなくジャーナリズムやメディアの起源となった人がドストエフスキーだと思います。

―三浦さんご自身にとって、ドストエフスキーという作家の魅力とは、どの部分にあるのでしょうか?

三浦:個人的に面白いと思うのは、彼はおそらく歴史的にも職業作家の第一号だったということです。もちろん、先代の作家たちはたくさんいますが、貴族や学者とかじゃなく、文学だけで生計を立てようとした初めての人物と言ってもいい。そんな時代に、職業作家として生きようとした態度というのは、ある種、宗教的とも言えるし、その覚悟を決めた人。そこが一番信頼できるし尊敬できる部分です。

―当時は職業作家だけでなく、まだマスメディアもなかったような時代ですよね。

三浦:今では当たり前になっていますが、職業作家なんていう存在はそもそも不要だった。社会の状況を知るために取材で現場に出て行ったり、それをもとに小説を書いたり、すごく面白い人種だと思う。そのジャンルを開拓し、近代小説だけでなくジャーナリズムやメディアの起源となった人がドストエフスキーなのではないかと思います。

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イベント情報

KAAT×地点 共同制作作品第4弾
『悪霊』

2014年3月14日(金)~3月23日(日)
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ
原作:F.ドストエフスキー(翻訳:江川卓)
演出・構成:三浦基
舞台美術:木津潤平
衣裳:コレット・ウシャール
出演:
安部聡子
石田大
小河原康二
岸本昌也
窪田史恵
河野早紀
小林洋平
永濱ゆう子
根本大介
料金:一般3,500円 24歳以下1,750円 高校生以下1,000円 65歳以上3,000円

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プロフィール

三浦基(みうら もとい)

1973年福岡生まれ。地点代表。演出家。桐朋学園大学演劇科・専攻科卒。1999年より2年間、文化庁派遣芸術家在外研修員としてパリに滞在する。2001年帰国、地点の活動を本格化。05年、京都に活動拠点を移転。07年より「地点によるチェーホフ四大戯曲連続上演」に取り組み、第三作『桜の園』にて『文化庁芸術祭』新人賞受賞。ほか、『2011年度京都市芸術新人賞』など受賞多数。著書に『おもしろければOKか? 現代演劇考』(五柳書院)。主な演出作品にイェリネク『光のない。』、シェイクスピア『コリオレイナス』、ブレヒト『ファッツァー』など。

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