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演劇は最も危険な芸術である 三浦基インタビュー

演劇は最も危険な芸術である 三浦基インタビュー

インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:高見知香
2014/03/13

演劇は人を動かす力を持っている。だから、ヨーロッパやロシアでは最も尊敬を集めている芸術であり、最も危険な芸術として弾圧を受けてきたわけです。

―先日下北沢B&Bで開催された、映画『ドストエフスキーと愛に生きる』トークイベントでの、森達也監督との対話がとても印象的でした。森監督は現代社会を切り取って解釈を加え、観客に疑問を投げかける社会的なドキュメンタリー作品を撮られていますが、三浦さんはそういう作品はとてもじゃないけど作れないと。作品で自分の考えを提示するのはなるべく避けたい。だけど、そういうやり方のほうが個人や世界を変えていく力を持っているのではないか、というお話でした。

三浦:芸術家というのは、大きく作家タイプであるか、そうでないかという2種類に分けられると思っているんです。ここでいう作家とは、自分が世界の中心にいる人、確固とした自分の世界や視点を持っている人のことです。現場に飛び込んで、自分の視点で作品を切り取ってくる森さんは作家タイプですが、僕はそうではない。当然、自分の世界を強く持っているドストエフスキーも作家です。一方、作家タイプではない芸術家の代表が俳優。彼らは媒介、つまりメディアなんです。

KAAT×地点 共同制作作品第4弾『悪霊』 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ 2014年3月10日~23日 撮影:松本久木 Photo:Hisaki Matsumoto
KAAT×地点 共同制作作品第4弾『悪霊』 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ 2014年3月10日~23日 撮影:松本久木 Photo:Hisaki Matsumoto

―そういえば、三浦さんも俳優からキャリアをスタートさせていますね。

三浦:演劇という芸術の現場では、観客は作家ではなく、俳優の演技や美術、照明といった媒介に触れているわけです。おそらく作家タイプより媒介タイプのほうが舞台の現場では観客の支持を得やすい。なぜなら、自分の世界を持っている人は強いから、よっぽどのことがないと観客も耳を傾けない。媒介は作家と観客の間に入ってコミュニケーションを取ることが仕事です。もしそこで何らかのリアリティーを感じてもらえることができたなら、かけがえのない経験として観客の記憶に残ります。「演劇は生だからいい」というのはそういうことで、少なくともヨーロッパやロシアでは最も尊敬を集めている芸術であり、同時に最も危険な芸術とされ、中世には500年以上も教会から弾圧を受けたりしてきたわけです。

―演劇という表現手法はフィクション的で、一見直接的な表現ではないかもしれませんが、観客にアクチュアルな問題意識を喚起させたり、それによって人を動かすくらいの力を持っている可能性があるのでは、と。

三浦:ええ。だから、もし「え? まだ『悪霊』観ていないの!? 早く観たほうがいいよ!」という状況になれば、世界は変わるんじゃないかと思っています(笑)。

KAAT×地点 共同制作作品第4弾『悪霊』 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ 2014年3月10日~23日 撮影:松本久木 Photo:Hisaki Matsumoto
KAAT×地点 共同制作作品第4弾『悪霊』 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ 2014年3月10日~23日 撮影:松本久木 Photo:Hisaki Matsumoto

地点の台詞は変な喋り方だと言われますが、何で普通にやらないかというと、普通の台詞だと僕自身が飽きて寝てしまうからなんです(笑)。

―公演のチラシにも「多声性(ポリフォニー)」というキーワードが使われているように、文節や単語レベルで役者が声色を変えながら台詞を発語する地点の表現方法は、よく「多声性」という言葉で語られています。今回、地点が『悪霊』を上演するのは意外だった反面、ある意味これまでの活動とも親和性が高いのではないかと思いました。

三浦:(笑)。そう思われるだろうなと思って、あえて『悪霊』を選んだというのもあるんです。『悪霊』の解説を読んでいて「あ、ポリフォニーって書いてある! これを宣伝文句にしよう!」って。

―え?(笑)

三浦:いや本当に(笑)。ただ、「ポリフォニーって何だ?」と考えると単純ではありません。『悪霊』のポリフォニーとは、旧世代やセクトなどの問題が同時に進行していく「物語としてのポリフォニー」なんです。決して、地点の発語スタイルのようなポリフォニーを意味しているわけじゃない。

三浦基

―発語としてのポリフォニーと、物語としてのポリフォニーの違いということでしょうか。

三浦:昨年上演した『駈込ミ訴ヘ』の原作は、ユダの告白をテーマにした独白の小説です。それを舞台で上演するにあたって、僕は台詞を5人の役者に分散させ再構築させました。ある台詞は5人で喋ったり、あるところでは1人で喋ったり、1つの台詞を単語で区切って3人で喋ったり。そこへさらに、主題である裏切り、寝返り、嫉妬などのさまざまな感情が入り込む。あれはまさにポリフォニーだったと思います。ただ『悪霊』は、テキストの質が違うので、あの方法では上演できません。

―先ほど『悪霊』の稽古も拝見させていただきましたが、地点の作品はいわゆる「普通の」演劇の発話方法とは異なりますよね。

三浦:何で普通にやらないかというと、普通の台詞だと僕自身が飽きて寝てしまう(笑)。台詞には「感情」があります。どういう気持ちで発しているのか? イライラしているのか、悲しいのか、楽しいのか、そういう感情が発話にはともなっています。長台詞を例にすれば、1つの感情をもとに、言い回しや韻を意識する、あるいはブレスの方法などによってその台詞を言い切る。さらにそこに、俳優自身のちょっとした味付けが入ると、名優という評価が下されます。でも現代では、もっと短いスパンで感情は切り替わっているはず。だから、地点では台詞をときには単語のレベルまで細分化していって、別々の感情を乗せるということを俳優と取り組んでいます。台詞を細分化するときの引き出しが多ければ多いほど面白いと思うし、感情を切り替える能力が問われます。それらを積み重ねていけば、全体としてポリフォニー的な表現が生まれるんです。

KAAT×地点 共同制作作品第4弾『悪霊』 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ 2014年3月10日~23日 撮影:松本久木 Photo:Hisaki Matsumoto
KAAT×地点 共同制作作品第4弾『悪霊』 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ 2014年3月10日~23日 撮影:松本久木 Photo:Hisaki Matsumoto

―「音楽的」と評価されることが多い地点の発話方法は、明確な感情に基づいているんですね。

三浦:最終的には僕の手でコンポーズ(作曲)をしますが、うまくいくと、ある程度勝手にそうなってくれるんです。それに音楽を作っているわけじゃなくて、ある作家がいて、テキストがあって、作家の言いたいことを細分化して、結果としてこうなっている。変な喋り方って言われますけど、やっているほうは真面目なんですよ。

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イベント情報

KAAT×地点 共同制作作品第4弾
『悪霊』

2014年3月14日(金)~3月23日(日)
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ
原作:F.ドストエフスキー(翻訳:江川卓)
演出・構成:三浦基
舞台美術:木津潤平
衣裳:コレット・ウシャール
出演:
安部聡子
石田大
小河原康二
岸本昌也
窪田史恵
河野早紀
小林洋平
永濱ゆう子
根本大介
料金:一般3,500円 24歳以下1,750円 高校生以下1,000円 65歳以上3,000円

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プロフィール

三浦基(みうら もとい)

1973年福岡生まれ。地点代表。演出家。桐朋学園大学演劇科・専攻科卒。1999年より2年間、文化庁派遣芸術家在外研修員としてパリに滞在する。2001年帰国、地点の活動を本格化。05年、京都に活動拠点を移転。07年より「地点によるチェーホフ四大戯曲連続上演」に取り組み、第三作『桜の園』にて『文化庁芸術祭』新人賞受賞。ほか、『2011年度京都市芸術新人賞』など受賞多数。著書に『おもしろければOKか? 現代演劇考』(五柳書院)。主な演出作品にイェリネク『光のない。』、シェイクスピア『コリオレイナス』、ブレヒト『ファッツァー』など。

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