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演劇は最も危険な芸術である 三浦基インタビュー

演劇は最も危険な芸術である 三浦基インタビュー

インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:高見知香
2014/03/13

僕は10年後も絶対に演劇をやっている。けれども10年後、日本の公共劇場が俳優を雇用できていないという状態だったら……現代演劇に未来はないでしょうね。

―地点は昨年、稽古場兼アトリエ「アンダースロー」を京都にオープンしました。日本の小劇団で自分たちのアトリエを持つというのは、極めて稀なケースですよね。

三浦:僕は、こまばアゴラ劇場を持っている青年団演出部の出身だから、劇団が劇場を持っているということ自体は、比較的当たり前のこととして捉えているんです。文学座や俳優座といった新劇の劇団もアトリエを持っていますよね。9年前に京都に活動拠点を移した理由も、京都芸術センターという京都市の稽古場施設を使用できることがわかっていたからですし、自分たちのアトリエを持つつもりで京都に行ったんです。だから創作活動と並行しながら、アトリエとなる物件探しも進めていたんですよ。

「アンダースロー」内観 撮影:松本久木 photo:Hisaki Matsumoto
「アンダースロー」内観 撮影:松本久木 photo:Hisaki Matsumoto

―そうだったんですね。

三浦:一方で、舞台装置の保管場所という問題もあります。再演の機会があったときのため、これまでは貨物コンテナを借りて装置を保管していたけれど、演目がたまっていくにつれ、スペースが一杯になってしまうから、どれかを捨てなければいけないという選択を迫られる。劇団としてはアトリエを持つのが遅すぎたというくらいの認識です。

―現実的な意味で、作品を「捨てる」ということになってしまうんですね。

三浦:ただ、確かに日本の小劇団がアトリエを持つということは、かなりレアなケースであることも確かですね。これまでも地点は劇団を法人化し、所属俳優は給料制という形で今に至っています。他の劇団も法人化して融資を受けて、アトリエを構えればいいんです。地方に行けば物件も安くなりますよ。ただ、それがなかなかできないのは、日本の現代演劇の状況によるものです。結局、東京中心で、スタッフは公共劇場やアートマネジメント団体に所属して生き残ることができても、俳優や演出家たちは、継続的に活動するということ自体が難しい。そういう意味では、地点の活動はこれからのモデルケースになるという自覚はありますね。

「アンダースロー」内観 撮影:松本久木 photo:Hisaki Matsumoto
「アンダースロー」内観 撮影:松本久木 photo:Hisaki Matsumoto

―アトリエを持つことで、創作面に影響はありましたか?

三浦:フットワークがすごく軽くなって、たとえば海外から舞台関係者がたまたま来日したときなどに、いつでも作品を観せることができるようになりました。その結果、具体的に招聘が決まった作品もあります。もちろん観客を集めることは大変ですが、上演を行いながら作品に修正を加えていけるので、作品のクオリティーが上がることも間違いないです。

―以前、佐々木敦さんとの対談では、「地点の俳優が人から羨ましがられるようなギャランティーと名誉を獲得して初めて、『日本に現代演劇がある』ということになる」とおっしゃられていましたね。アトリエはそのための布石という意味もあるのでしょうか?

三浦:その意味ではまだまだで、あと2ステップくらいが必要です。アトリエの開設は、もう少し目の前のビジネス的な側面が強いですね。たとえば、劇場からオファーを受けたとき、アトリエを持っていれば京都で制作できるので、宿泊滞在費もかかりません。つまり、劇場と交渉する際に劇団側の付加価値が上がるんです。劇場側も、ただ滞在制作を持ちかけるだけではなく、僕たちを滞在させる意味が求められるでしょう。それがお互いにとって良いプレッシャーとなって、対等な関係が築けると思うんです。

地点『ファッツァー』撮影:松本久木 photo:Hisaki Matsumoto
地点『ファッツァー』撮影:松本久木 photo:Hisaki Matsumoto

―たしかに拠点のない劇団は全面的に劇場側の条件を聞いて、場所を借りて制作する選択肢しか選べないわけですね。

三浦:そうですね。ただ、それだけでは「名誉」や「尊敬」には至りません。最終的には、僕が芸術監督などのきちんとした立場になって公共劇場で活動することが必要です。日本ではSPAC(静岡県舞台芸術センター)やピッコロシアター(兵庫県立尼崎青少年創造劇場)のような一部の例外を除いて、公共劇場が俳優を雇用することはありません。国立劇場が俳優を雇用し、国立大学が演劇科を設置するといったピラミッド構造が成立しないと、「尊敬」を集めるということは難しいでしょうね。平田オリザ(劇作家・演出家)さんには、「お前が生きているうちには、そこまでいかない」と言われていますが(苦笑)。

―三浦さんのビジョンは公共をも巻き込んだ壮大な話なんですね。

三浦:オリザさんが言うようにそれは夢なのかもしれませんが、それを見失うと、アトリエを構えている意味がない。「素敵な場所ですね」「アトリエがあっていいですね」とよく言われますが、そう言われるために設置しているんじゃないんです。実際にはもうしびれを切らしているし、このままでは地点も現代演劇そのものもマズいという危機感があります。

三浦基

―それを打破する未来のためへの第一歩として、アトリエを構えているわけですね。三浦さんは、次の10年の展望をどのように考えているのでしょうか?

三浦:まず、いい作品を作らなきゃ生き残れない。自分たちでやっていて刺激がなかったら続かないし、すぐに摩耗してしまいます。それは集客にも如実に影響すると思います。一つひとつの作品でしっかりと仕事をしていかないと、10年後はないでしょうね。それは偽らざる気持ちです。ただ、全然別のこともあえて言いますが、一方で僕はすでに巨匠なんです(笑)。なぜかと言うと、10年後も絶対に演劇をやっているし、もし必要であればオペラでも商業演劇でもやれる。そういう意味での心配はありません。けれども10年後、日本の公共劇場が俳優を雇用できていないという状態だったら……現代演劇に未来はないでしょうね。

―この危機感は、とても重要なお話だと思います。

三浦:巨匠なので、本当はあまり懸念をしてはいけないんですけどね(笑)。

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イベント情報

KAAT×地点 共同制作作品第4弾
『悪霊』

2014年3月14日(金)~3月23日(日)
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ
原作:F.ドストエフスキー(翻訳:江川卓)
演出・構成:三浦基
舞台美術:木津潤平
衣裳:コレット・ウシャール
出演:
安部聡子
石田大
小河原康二
岸本昌也
窪田史恵
河野早紀
小林洋平
永濱ゆう子
根本大介
料金:一般3,500円 24歳以下1,750円 高校生以下1,000円 65歳以上3,000円

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プロフィール

三浦基(みうら もとい)

1973年福岡生まれ。地点代表。演出家。桐朋学園大学演劇科・専攻科卒。1999年より2年間、文化庁派遣芸術家在外研修員としてパリに滞在する。2001年帰国、地点の活動を本格化。05年、京都に活動拠点を移転。07年より「地点によるチェーホフ四大戯曲連続上演」に取り組み、第三作『桜の園』にて『文化庁芸術祭』新人賞受賞。ほか、『2011年度京都市芸術新人賞』など受賞多数。著書に『おもしろければOKか? 現代演劇考』(五柳書院)。主な演出作品にイェリネク『光のない。』、シェイクスピア『コリオレイナス』、ブレヒト『ファッツァー』など。

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