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今必要な笑いとは? いとうせいこうがジャック・タチ作品を語る

今必要な笑いとは? いとうせいこうがジャック・タチ作品を語る

インタビュー・テキスト
さやわか
写真提供:永峰拓也

今は、笑いにピントが合いすぎてるんじゃないのかな。もっとピントをずらせば、解放された気持ちになれると思う。

―15年ぶりに執筆された『想像ラジオ』を皮切りに、いとうさんは近年また小説を書かれてますけれども、そこでも音楽的なものや、あるいは笑いの要素を重視したいと考えていますか?

いとう:ユーモアは前より使うようにしているけど、音楽的な部分は、むしろやってないと思う。音楽性に振っていくと詩になっていくから、自分はそれをやるタイプの作家ではないだろうなって思って。響きというよりは、意味の方に寄せていって書いてます。でもそうするのはたぶん、僕が別のところで音楽もやれちゃってるからなんだと思う。

―別のフィールドで違う頭を使っている感覚ですかね。

いとう:そう。別なんですよね。そうやって両極端があるから、自分はタチみたいに思い詰めた表現にならないですんでいるのかもしれないよね。もう一方がなければ、苦しいと思うよ。もし、タチみたいに被写界深度がものすごく深くて、でもどこにもフォーカスしてないカメラで世界を見ていて、雑音だけがリズムのように聞こえてくるとしたら? 目に見えているもののすべての意味が壊れて、抽象に見えちゃうと思う。それで「もうどうでもいいや」っていう気になって笑っちゃう感じが、タチにはあるよね。

いとうせいこう

―タチの中でもその感じが最も出ているのが、『プレイタイム』ということになるでしょうかね。

いとう:そうだね。絵も、動きも、いちいち完璧なんだよね。画面の奥まで全部が統率されて動いている。でもまあそういうものは、ヒットしないよ(笑)。

―なぜそれだけ完璧なものがヒットしなかったのでしょうか?

いとう:そりゃ無理だよ。普通の人は、カメラの一番前にいる人物の物語を見るのがせいぜいなんだから。画面の奥でいろいろ動いているのなんて追えないし。でも今の時代っていうのは、カメラの一番前にいる人の物語ばかり見ることにそろそろ疲れてきてるんじゃないかなと思うんですよね。「なんでこんな世界に縛られてなきゃいけないんだ」とか、「なんで僕が僕じゃなきゃいけないんだ」と思って、日々から解放されたい人って多いんじゃないかな。そういう人が観ると、「ただバラバラのものがそこにあるだけ」というタチの世界を受け入れることができると思う。

いとうせいこう

―つまり、タチのような作品が、今求められていると思いますか?

いとう:ああいう映画は今はもうないけど、僕にとっては『プレイタイム』があってよかった。あんなにかっこいいセットはいまだに見たことがないし、まだまだタチのおしゃれさに時代が追いついてない部分はいっぱいあるんじゃないかな。もちろん、さっき言ったように、ほんわかした作品として楽しんでもいいと思うんだけどね。

―ほんわかした部分も、そうでないものも、全部入っているのがいいのかもしれないですね。

いとう:そうですね。奇妙な中に優しさもうまく共存しているから、観終わった後でわずかな温かみがギリギリ残るんだよね。それは、タチにとっても見てるほうにとっても、救いだよね。だから心に残るんじゃないかなあ。『プレイタイム』の最後のシーンなんて、ほんとにおしゃれな終わり方だから、いやになっちゃうよ。

―そういう温かみとか、笑いみたいなものが、自然な形で出ているのが魅力なのでしょうね。

いとう:今は、わかりやすくて決まり切った笑わせ方の作品が多いけど、言ってみればそういうのは、笑いにピントが合いすぎてるってことじゃないのかな。もっとピントをずらして、「全く無関係に映っているだけのものまで面白いような気がする」というくらいになれば、解放された気持ちになれると思う。そういう意味で、タチの映画は赤ちゃんになったつもりで観ればいいと思うよ。そうすれば、視点なんかどこにも合わないから(笑)。自分の気になるものだけを見て、ただ笑っちゃうみたいなことができるでしょ。タチの映画は、みんなと合わせる必要は何もないんです。だからスクリーンで、目を皿のようにしながら、しかもボンヤリと観てください(笑)。

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イベント情報

『ジャック・タチ映画祭』

2014年4月12日(土)~5月9日(金)
会場:東京都 渋谷 シアター・イメージフォーラム
上映作品:
『プレイタイム』(監督:ジャック・タチ)
『ぼくの伯父さん』(監督:ジャック・タチ)
『トラフィック』(監督:ジャック・タチ)
『パラード』(監督:ジャック・タチ)
『のんき大将 脱線の巻【完全版】』(監督:ジャック・タチ)
『郵便配達の学校』(監督:ジャック・タチ)
『ぼくの伯父さんの休暇』(監督:ジャック・タチ)
『ぼくの伯父さんの授業』(監督:ジャック・タチ)
『フォルツァ・バスティア'78/祝祭の島』(監督:ソフィー・タチシェフ、ジャック・タチ)
『家族の味見』(監督:ソフィー・タチシェフ)
『陽気な日曜日』(監督:ジャック・ベール)
『乱暴者を求む』(監督:シャルル・バロワ)
『左側に気をつけろ』(監督:ルネ・クレマン)
※公開プログラムはオフィシャルサイト、劇場を参照

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プロフィール

いとうせいこう

俳優、小説家、ラッパー、タレントとさまざまな顔を持つクリエーター。雑誌『ホットドッグ・プレス』の編集者を経て、1980年代にはラッパーとして藤原ヒロシらとともに最初期の日本語ヒップホップのシーンを牽引する。その後は小説『ノーライフキング』で小説家としてデビュー。独特の文体で注目され、ルポタージュやエッセイなど多くの著書を発表。執筆活動の一方で宮沢章夫やシティボーイズらと数多くの舞台・ライブをこなすなど、マルチな活躍を見せている。近年では音楽活動も再開しており、口口口やレキシ、Just A Robberなどにも参加している。

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