
変化し続ける世界をサバイブしよう Serph(Reliq)インタビュー
- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
2009年のCDデビューから4年半が経過した今年の1月、待望視されていたSerphの初ライブが遂に実現した。会場は恵比寿のLIQUIDROOMで、チケットは見事ソールドアウト。Serphのような電子音楽家が、リキッド規模のハコを埋めるというのは、近年では異例のことである。ステージ上には立方体のセットが組まれ、そこに映し出される映像や、パフォーマーなどの演出も加わり、Serphが楽曲で描き出すユートピアを見事に具現化。最初は初ライブならではの緊張感が感じられたフロアも、1曲ごとに熱が高まっていき、後半には自在に変化するドラマチックな楽曲を思い思いに楽しむオーディエンスの姿を確認することができた。間違いなく、記念すべき一夜になったと言っていいだろう。
あの日の興奮がまだ冷めやらぬ中、今度はSerphの別人格であるReliqの約2年半ぶりとなる新作『Metatropics』がリリースされる。Reliqはビートを主体としたフロア向けの音楽性に加え、ユートピアを描くSerphに対し、現実に即した写実的な表現が特徴。新作に関しては「SF化する現実のための曲集」と「気候変動の激しい世界における新たなトロピカルミュージック」をテーマに掲げ、あえて新宿に身を置いて楽曲を制作することで、今の東京のムードを色濃く反映させた意欲作となっている。さらに、同日にはSerphのミニアルバム『Event Horizon』もBandcampで投げ銭制でリリースされるという、相変わらずの多作ぶりも発揮。「音楽を通して人になっていってる」と語る異才は、今また音楽家としての新たなフェイズを迎えているようだ。
1曲ごとに盛り上がっていって、アンコールにまで至ったっていうのは、人生のハイライトでしたね……今のところですけど(笑)。
―まずは何と言ってもSerphの初ライブがありました。率直に、感想を聞かせてください。
Serph:もう、感無量でした。アンコールまで出て……大変なことしちゃったなって(笑)。
―リキッドルームがソールドアウトですもんね。ホントに後ろまでギュウギュウでしたよ。
Serph:当日までちゃんと入るのかなって不安だったんですよ。でも、遠いところから来てくれる人がいたり、みんなお金を払ってきてくれて、「ああ、自分は人のために音楽がやれているんだ!」って実感がありました。ネット上の反応だけじゃ、やっぱりよくわからないですからね。
―これまでは基本的に自分が作りたいもの、聴きたいものを作ってきた。もちろんCDを出すようになって、リスナーからのリアクションが返ってくるようになってからは、その意識も少しずつ変わって来ていたとは思うんですけど、実際にその人たちを目の当たりにすることは初めてだったわけですもんね。
Serph:おっしゃる通り、今までは自分が聴きたいものだけをやってたけど、中間地点に落ち着き所を見つけないとダメだなって感覚も出てきました。作り手としての感覚も、リスナーに届けるんだっていう責任も、両方満たした作品っていうのをこれから作っていきたいなって。
―ライブ自体の手応えはいかがでしたか?
Serph:僕基本的に人が多いところだとすぐ体調悪くなっちゃったり、不機嫌になっちゃうんですけど、あの日だけはもう……すごくハッピーでした(笑)。終わった後なんてニコニコだったみたいで、「こんなに上機嫌なの見たことない」って言われたり(笑)。
―不安はなかった?
Serph:「拍手起きるかな?」「ブーイング出ないかな?」みたいな不安はあったんですけど、1曲ごとに盛り上がっていって、アンコールにまで至ったっていうのは、人生のハイライトでしたね……今のところですけど(笑)。
―確かに、最初はお客さんの側も「どんなライブになるんだろう?」って感じで身構えてる部分があったから、緊張感もあったけど、曲をやっていって、演出も加わって、どんどん温まっていきましたよね。
Serph:演出の力はすごく大きかったと思います。そこだけで勝負してるわけではないですけど、ひとつのショウとして見せるっていう意味では、ホントにたくさんの人にお世話になって、面白いものができたなって。
Serph初ライブ『noble presents Serph 1st concert「Candyman Imaginarium」』会場風景
―ただ美しかったり幻想的なだけじゃなくて、毒々しさもあるSerphらしいユートピアが、セット、映像、パフォーマーなどで見事に具現化されていましたよね。終わった後もお客さんみんないろんな感想を言い合ってて、それもなんだか嬉しかったです。
Serph:音楽っていうのは責任感を持ってやるものでもないとは思うんですけど、でも音楽で世に出て、それで人と関わってる以上は、使命感ではないですけど、自分がそういう立場なんだっていうのは改めて感じました。僕の脳の興奮とか、日々の体調管理みたいなものが、ダイレクトにリスナーの人たちに波及して行って、その人たちの人生を変えたり、Serphを聴いた一晩で何かが起きたり、起きなかったり、そういうことがあるんだなって思うと……ホントに、感無量の一言なんですよね。
―じゃあ、ライブはまたやりたいですか?
Serph:それはもう、絶対続けたいですね。
―よかったー、その言葉が聞けて! 「1回やって、もうこりごりです」って言われたらどうしようと思ったけど(笑)、その言葉が聞けただけで、今日の取材の甲斐があったというものです。気の早い話ですが、1回ライブを終えて、今後に対する何らかのビジョンも見えましたか?
Serph:僕はやっぱり音に集中する職人みたいな感じがあるんで、そこを軸にして、いろんなクリエイターさんに集まってもらって、どんどん面白いものにしていければいいなって思いますね。そもそも匿名で顔出しをしてない時点で、お客さん側のイメージは自由に広がりやすいと思うので、関わってくれる人全員の力を結集して、その1日を奇跡的な日にしたいなって思います。
リリース情報

- Reliq
『Metatropics』(CD) -
2014年4月18日(金)発売
価格:2,268円(税込)
noble / NBL-2111. wanderer
2. macafu
3. girlee
4. freelunch
5. rainyray
6. sentimen
7. sprite
8. willo
9. venghi
10. helfgott
11. straje
12. peace
13. tropika
14. tei
- Serph
『Event Horizon』 -
2014年4月18日(金)からnobleウェブサイトで配信
1. luck (summer mix)
2. heartstrings (tabla mix)
3. rem (folky mix)
4. magicalpath (romantico mix) 05. ankh (italiano mix)
6. pf
7. imari
※価格は購入者が自由に設定可能
プロフィール
- Serph(さーふ)
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東京在住の男性によるソロ・プロジェクト。2009年7月、ピアノと作曲を始めてわずか3年で完成させたアルバム『accidental tourist』をelegant discよりリリース。2010年7月に2ndアルバム『vent』、2011年4月には3rdアルバム『Heartstrings』、2013年3月に『el esperanka』をそれぞれnobleよりリリースした。より先鋭的でダンスミュージックに特化した別プロジェクト、Reliq(レリク)名義の2ndアルバム『Metatropics』が2014年4月にリリースされる。