
メジャーに焦がれるインディーズ魂 KENTARO!!インタビュー
- インタビュー・テキスト
- 浦野芳子
- 撮影:相良博昭
東京ELECTROCK STAIRSとしての活動を優先させてきたKENTARO!!が久々にソロ公演を行ったのが今年1月。それは、緻密に構成された東京ELECTROCK STAIRSの作品とは対極的とも言える、(パーソナリティーの吐露とも受け止められかねない場面が散りばめられた)むき出しで、エモーショナルなものだった。
いつかレジデンシャル(劇場専属の)カンパニーを持ちたいという大きな目標に向かって、最近はダンスだけでなく、音楽活動にも精力的に取り組んでいるというKENTARO!!。この5月に東京芸術劇場で、東京ELECTROCK STAIRS『銀色テンポラルの中で鳴く』と、自身のソロ『MAKE IT futten』の2本立てで公演を行う彼に、あらためて最近の心境をうかがった。
素の自分を舞台で観せるといっても、素の瞬間が観るに値するものでなくてはいけないと思うんです。
―昨年秋にインタビューさせていただいてから、ちょうど半年が経ちました。じつはあのときのKENTARO!!さんは、すごく疲れているような印象で(笑)、「この人ダンス辞めちゃうんじゃないかな……」とすらも勝手に感じていたのですが、今日は顔色も良く、お元気そうなので安心しました。
KENTARO!!:そうですか? それは良かったです(笑)。でもたしかにあのときは、ある種の「行き詰まり」のようなものを感じていたのは事実で、今の気持ちはまたちょっと違っているのかもしれませんね。
―その直後の公演、東京ELECTROCK STAIRS『つまるところ、よいん』と、今年1月のソロ公演『ひとびとひとり』を拝見して、それぞれ真逆の印象を感じたんです。カンパニー公演『つまるところ、よいん』では、ヒップホップをベースにしつつも、巧みに計算された動きと構成によってコンテンポラリーダンスとしての作品性を強く印象付けられました。しかし、ソロではそうした計算を一切外した、むき出しのKENTARO!!を観たような気がします。叫び声を上げたり、自分の身体を打ったり、不穏な雰囲気もあって……。KENTARO!!さんの中には、カンパニーとソロの表現で明確な棲み分けがあるのでしょうか。
KENTARO!!:東京ELECTROCK STAIRSは、ヒップホップなどのテクニックをベースとしながらもストリートダンスではないというコンセプトが今はあって、それを「観てもらう」ことを前提に作っています。こういうコンセプトでやっているのは少なくとも日本では僕だけだと思うし、だからこそ細かくこだわって演出をする。全てにおいて、「観せたいこと」「やって欲しいこと」をダンサーたちに要求しています。一方でソロに関しては、もう特に観せたいこととか、伝えたいことがあるわけではないんですよね……。
『ひとびとひとり』2014年1月世田谷パブリックシアター シアタートラム
撮影:大洞博靖
―え、そうなんですか?
KENTARO!!:だから『ひとびとひとり』では、そのときの自分の中に溜まっていたものを自然に吐き出した、という感じが強かったんです。
―ここ数年、ソロから遠ざかっていたのはそういうこともあったんでしょうか?
KENTARO!!:それだけでもないんですが……この間のソロは、どれだけ「普通に、今のままの自分を見せられるか」を試したようなところもあります。そして「今の自分」を踊ることが、そのまま作品作りにもなり得る、ということがわかったのは収穫でした。
『ひとびとひとり』2014年1月世田谷パブリックシアター シアタートラム 撮影:大洞博靖
―自分の身体を通して何かを伝えたい、というのとはまた違った視点から舞台、創作に向かっているということでしょうか?
KENTARO!!:舞台で踊るということは、他人に観てもらって成立する世界なので、自分本位の作品を作るつもりは毛頭ありません。一人で舞台に立ち「素」の瞬間を観せるといっても、それを「素」に観せないくらいの身体とテクニック、そして場馴れした空気を持っていないといけない。「素」でいる瞬間が、すでに観るに値するものでなくてはいけないと思うんです。
―『ひとびとひとり』で印象的だったのは、「あーあー」という声を発したり、変な擬音が入ってきたり、空元気のような笑顔を見せたり、急に倒れたり、自分を殴ったり。不穏な感じがありつつも、ものすごくエモーショナルで……。それが前回のインタビューの印象と繋がって興味深かったんです。
KENTARO!!:ここしばらく、ミヒャエル・ハネケ監督の映画にハマっていたからかも知れません。ハネケに影響されて、自分の中に灰色のものが生まれて、その感じが出ちゃったのかも(笑)。
『ひとびとひとり』2014年1月世田谷パブリックシアター シアタートラム 撮影:大洞博靖
―「素」で舞台に立つというのは、インプロビゼーションでやっている部分もあるのですか?
KENTARO!!:半分半分です。あらかじめそれぞれのシーンは作っておくのですが、それを公演全体の流れの中で使うかどうかは、本番で決めています。だから自分でも、今日の舞台はどんな風になるのか最後までわからない。客席の空気を感じながらピースを選び、つなげていく感じです。
イベント情報
- 『東京ELECTROCK STAIRS Vol.9』
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2014年5月21日(水)~5月25日(日)全7公演
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
振付・音楽:KENTARO!!『銀色テンポラルの中で鳴く』
出演:
横山彰乃
高橋萌登
服部未来
泊麻衣子
田代理絵『MAKE IT futten』
出演:KENTARO!!料金:
前売 一般3,200円 学生2,700円 当日3,500円 リピーター1,000円(本公演2回目以降の来場のみ、要予約・半券必須)
プロフィール
- KENTARO!!(けんたろー)
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1980年生まれ。「東京ELECTROCK STAIRS」主宰。13歳からHIP HOP、LOCKDANCE、HOUSEなどのストリートダンステクニックを学び、クラブシーンにおいて様々なイベントに出演する。現在はオリジナル音源を交えた自由な発想による独自のダンスを創作中。また若手発掘イベントのキュレーションや様々な自主企画を発信している。2008年『横浜ダンスコレクションR』にて若手振付家のための在日フランス大使館賞、『トヨタコレオグラフィーアワード2008』にてオーディエンス賞、ネクステージ特別賞、2010年には『第4回日本ダンスフォーラム賞』を受賞。海外からの招聘も多数あり、昨年1月にはカンパニーによるNYでのショーケースが『NY Times』紙にて取り上げられ、称賛された。