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飴屋法水×藤田貴大対談 二人で巨大な才能・野田秀樹に挑戦する

飴屋法水×藤田貴大対談 二人で巨大な才能・野田秀樹に挑戦する

インタビュー・テキスト
橋本倫史
撮影:豊島望

野田さんもすごく巨大な才能だし、藤田君が出てきたときだって同じように思ったんです。(飴屋)

―今回、東京芸術劇場から「野田秀樹さんの戯曲を上演しませんか」という依頼を受けたときに、数ある戯曲の中から『小指』を選んだのはなぜですか?

藤田:さっき話した『マームと誰かさん・ふたりめ 飴屋法水さん(演出家)とジプシー』という作品は、飴屋さんが演じる男がクルマにはねられて、落下するまでの3秒間を描いた作品だったんですけど、もう一人の出演者である青柳いづみは歩道橋から飛び降りようとしている女性の役なんですよ。今から死のうとしていた青柳いづみが、クルマにはねられる飴屋さんの姿を見て、死ぬのをやめて生きることにした――そういう作品だったんですね。それは二人が違う役をやってるんだけど、同じ役を演じているようにも見えたんです。そのイメージが浮かんだ時点で、ちょっと『小指』と繋がっていたところがあって。『小指』は当たり屋の話だから、クルマにはねられるっていう共通点もあるんですけど、それ以上に「死んでしまう命と生まれ変わる命」というイメージがすごく『小指』と重なったんです。それで、最初のミーティングのときに「『小指』がいいです」という話と、「野田さんが一人二役で演じていた役は飴屋さんと青柳いづみにやってもらいたい」という話をしましたね。

藤田貴大

飴屋:それくらい、映像で観た『小指』のイメージが残ってたってことだよね。

藤田:残ってますね。『小指』は、母親の話でもあるんですよね。母親に背中を押された子供が車に接触するシーンがあるんだけど、ああいうところが僕の中では鮮やかに残っていて。

飴屋:お母さんが子どもの背中を押して車につっこませる――まあ、とんでもない犯罪ですよね。僕にも子どもがいるから余計に思うんだけど……ごめんね、うまく言えなくて。大袈裟に言うと「芸術事の役割」みたいな話になっちゃうんだけど、「人間が持ちうる幅」みたいなものに、野田さんが、まっすぐに、あらん限りに取り組んでいる戯曲だと思うんです。『小指』の中で、野田さんは「私たちの一族は」という台詞を書いているんだけど、それは特殊な一族の話ではなくて、誰の中にもありうることを描いていると思うんです。やっぱり、野田さんという人は僕にとって間違いなく巨大な才能なんですよ。若い頃から芸術なんぞの役割というか、その可能性や不可能性に、たぶんすごく自覚的で、そして驚嘆すべき情熱を持ってそれに取り組んでいる、まあ化け物みたいな人だと思うんです。

藤田:僕も演劇作家という仕事をしている以上、野田さんはライバルでもあると思っているんですけど、野田さんとは結構世代が離れている感じがするんですよね。もちろん飴屋さんとも歳の差はあるし、親子でもおかしくはない年齢差なんだけど、飴屋さんの作品や身体にはあんまり年齢差を感じなくて、それも驚異的なんですよ。僕は今、20代として飴屋さんを観ているわけなんだけど、自分が彼と同じ年齢になったときにこういう感触を残せるのかっていうことを考えると、すごく怖いんですよね。

飴屋:でもね、僕は藤田君と違って「職業は演出家です」とずっと名乗れないでいるんだよね。自分のやっていることを社会の中で必要なものとして成立させられていないという意識がすごく強いんですよ。この年になってもそれは変わらなくて、「自分にはなんて才能がないんだろう……」とずっと思っているんだよね。若いとき、唐さんや寺山さんといった巨大な才能に憧れてこの道に進んだけど、自分は全然演劇もできないし、役者もできないし、なにもできなくて。野田さんはすごく巨大な才能だし、藤田君が出てきたときだって同じように思ったんですよ。だから、彼が今みたいな話をしてくれても、自分にはよくわからなかったりする。

飴屋法水

―さっき、飴屋さんが「芸術事の役割」という話をされましたよね。『小指』が最初に上演されたのは1983年ですけど、それから30年以上が経った今という時代に対して、この作品はどういう刺さり方がありうると思いますか?

藤田:1983年に僕はまだ生まれてもないから、その頃のことは全然わからないんですけど、作品のモチーフはどの時代にも訴えられるものがあると思います。それが何なのかっていうのはこれから取り組むことだから、今話しても面白くない気はするんだけど、一方で古くなってしまった部分は絶対にあると思うんですよね。それを「今」として甦らせることが絶対に必要だと思っていて。そこにはいろんな要素があると思うんだけど、お客さんに届く声というのは、全然変わった気がするんですよね。これは演劇以外にも当てはまることだと思うんだけど、2014年の今、どんな声が人に届くのかってことを見直すべきだと思っています。

飴屋:僕は演出という立場にはないので、「この作品をどうしていきたい」という演出的なプランはないんだけど、彼と一緒に作品や野田秀樹という存在に取り組むことで、人というものの中にありうる「幅」、あってもいい「幅」というものについて、やっぱり考えるだろう。それは僕にとっても、社会にとっても切実に必要なことだと僕は思ってる。だから、そのことをただ真剣にやるだけです。

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イベント情報

『小指の思い出』

2014年9月29日(月)~10月13日(月・祝)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場プレイハウス
作:野田秀樹
演出:藤田貴大
出演:
勝地涼
飴屋法水
青柳いづみ
山崎ルキノ
川崎ゆり子
伊東茄那
小泉まき
石井亮介
斎藤章子
中島広隆
宮崎吐夢
山内健司
山中崇
松重豊

プロフィール

{飴屋法水(あめや のりみず)

1961年生まれ。1978年に唐十郎の「状況劇場」に音響で参加。1984年に「東京グランギニョル」、1987年に「M.M.M」を立ち上げ、その独特な舞台表現で人気を集める。1990年より現代美術に発表の場を移し1995年の『ベネチアビエンナーレ』において『パブリックザーメン』を発表するが、同年作家活動を止め、様々な動物を飼育販売する「動物堂」を開始。2005年『バ  ング  ント』展にて作家活動再開後は、『フェスティバル/トーキョー』『水と土の芸術祭』『国東半島アートプロジェクト』などに参加。いわきの高校生たちと共作した『ブルーシート』は『第58回岸田國士戯曲賞』を受賞した。

藤田貴大(ふじた たかひろ)

北海道出身。劇作家・演出家。マームとジプシー主宰。2011年6月~8月にかけて発表した三連作「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で『第56回岸田國士戯曲賞』を26歳で受賞。今までに様々なジャンルの作家と共作を発表。2013年「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」で初の海外公演を成功させる。2013年8月漫画家・今日マチ子原作「cocoon」を舞台化。

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