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キワモノと呼ばれた大浦信行の、タブーを恐れない芸術家の極意

キワモノと呼ばれた大浦信行の、タブーを恐れない芸術家の極意

インタビュー・テキスト
杉山洋祐(編集集団WawW!Publishing)
撮影:豊島望
2014/07/07

今日、「靖国」という言葉をおいそれと口に出す人は少ない。それは、「歴史認識」「A級戦犯合祀」「首相参拝」といった靖国をめぐる様々な問題が、今なお複雑に絡み合い、もはや個人が容易く解くことができなくなって久しいからだ。そんな、もはやイデオロギーや政治的な思想を抜きにしては語れなくなりつつある「靖国」を、まったく別の角度から鋭く照射した前代未聞の映像作品『靖国・地霊・天皇』が、終戦記念日を控えたこの7月に公開される。

監督は、天皇を主題とした版画作品『遠近を抱えて』、アウトサイダーな人生を生き抜いた活動家・見沢知廉の生涯を描いた映画『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』など、社会でタブーとされている領域に躊躇なく分け入り、常に表現の限界に挑み続ける異端の美術家・大浦信行である。

大浦監督の取材にあたり、いったいどんなアヴァンギャルドな人物なのだろうかと、少なからず身をこわばらせていた。しかし、取材に赴いた先で待っていたのは、予想に反するかのように柔和で穏やかな雰囲気を纏う、極めて紳士的な大浦の姿だった。とてもタブーを侵すようには見えない大浦は、『靖国・地霊・天皇』でなにを伝えたかったのか。そして、なぜ彼は65歳を迎えた今なお、他に類を見ない独自性をもった表現活動を続けていられるのか。そこにあったのは、芸術家としての尋常ならざる覚悟だった。もの作りに関わる人必見の取材になったと思う。

靖国に眠る死者たちと、どうすれば対話できるのか? 想像力でもって、その視点を意識的に作り出そうとしたのが、今回の映画の試みなんです。

―大浦監督はこの映画『靖国・地霊・天皇』について、イデオロギー的 / 思想的に是非を問う作品ではないとはっきりおっしゃっていますよね。

大浦:そうですね。もちろん、そういう見方をされやすいテーマだとは思いますし、僕自身、撮影を通じて右派と左派のはっきりとした意見の対立を肌身で感じました。

大浦信行
大浦信行

―右派陣営を代表する弁護士の徳永信一さんと、左派陣営を代表する弁護士の大口昭彦さんがそれぞれの立場から「靖国」への意見を述べていますが、決してお互いが交わることはありませんね。

大浦:右は右、左は左で、それぞれ筋は通っているんですよ。聞いていて、「なるほどね」なんて引き込まれそうになるくらいに。でもね、この映画でそのどちらかを批判する気は毛頭ないんです。

―では、大浦監督はこの映画でなにを描こうとされたのでしょうか?

大浦:描きたかったのは、「死者との対話」です。「現実に生きている我々が、いかにして現実の真っただ中に死者を呼び戻せるか?」という視点を持ったとき、「靖国の地下に眠る死者たちと対話できるのではないか?」と思ったのが、この映画を撮るそもそものきっかけでした。

―つまり、政治的なイデオロギーうんぬん以前に、まず現代における「死者」の存在に焦点を絞ったと。それはなぜですか?

大浦:たとえば靖国には246万人余りの死者たちが眠っているけど、ほとんどの人がそのことを脇に置いて、政治的な理屈を並べますよね。でも、単純にその死者たちのことはどうするんだっていう、人間の普通の感覚を取り戻したかったんです。そこに思い至ることができるとすれば、やっぱりそれはどこにも所属していない表現者としての自由な我々の役割だろうと。「死者を思う」というのは、ある種抽象的な心の問題みたいなものだと思うんですけど、現実が抱えている問題に想像力を重ね合わせることで、靖国に眠る死者たちと、どうすれば対話できるのか? という視点を意識的に作り出そうとしたのが、今回の映画の試みなんです。

『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014
『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014

死者は見えないからこそ、批判も礼賛も簡単にできてしまう。今のその状況はすごく一方的だと思います。

―となると、『靖国・地霊・天皇』でいう「地霊」の存在は、「死者との対話」を描くために不可欠なキーワードだったんですね。

大浦:はい。だから「地霊」とはつまり、靖国に眠る246万人余りの死者たちのことを指してます。でも、地霊や死者といっても、実際は見えないわけじゃないですか? 見えないからこそ、批判も礼賛も簡単にできてしまう。今のその状況はすごく一方的で、純粋に死者を想い、死者と対話していることにはなりませんよね。だからこそ、「地霊というものを我々の生きている現実にどうリアリティーをもって描けるか」というのが、この映画では最も力を入れなければならない部分だったんです。その役割の担い手として頭に浮かんだのが、金滿里(キム・マンリ)さんでした。

金滿里 『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014
金滿里 『靖国・地霊・天皇』より ©国立工房2014

―この映画での金滿里さん(身体表現者、身体障がい者だけの劇団「態変」を主宰。舞踏家・大野一雄に師事)は、現実空間に出現した地霊そのものとして描かれている、と。

大浦:そうです。この映画を撮る前から金滿里さんのことは知っていたんですけど、最初に彼女の舞踏を見たときは、いやぁ、びっくりしましたよ。床に寝っころがって、ごろごろ這っているだけなんだけど、なぜか鬼気迫るものがあった。後々、24時間介護が必要な重度の身体障害をもっている人だと知って、その舞踏が、壮絶な訓練によるものだとわかったわけです。そのときから、この人の、この舞踏を、いつか映画で使いたいってずっと思っていたんですよ。それで今回、「地霊……あ、金滿里さんだ!」って。

―映画で金滿里さんが出てくるシーンは、現実感が揺らぐというか、「『なにか』が現実に現れた」という異様な緊張感が走るのを感じました。正直、怖かったです(笑)。

大浦:そうですよね(笑)。でもそれは、映画だからこそ成せることなんです。いわゆる路上パフォーマンスというのは、昔ならいざしらず、今はなにをやっても驚かない人が多くなっていて、それは、金さん程の存在感とパフォーマンスでも例外じゃないんです。あるとき、とある公園の桜の下で、映画と同じような舞踏をやったんだけれども、やっぱりほとんどの人たちは素通りでしたね。どうしても現実の風景そのものに負けてしまうんです。だからそういう意味で、金滿里さんの存在を映画の中で説得力を持ってどこまで描けるかは、かなり重要だったんです。

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作品情報

『靖国・地霊・天皇』

2014年7月19日(土)からポレポレ東中野ほか全国で順次公開
監督・編集:大浦信行
出演:
大口昭彦
徳永信一
あべあゆみ
内海愛子
金滿里
声の出演:鶴見直斗
配給:国立工房

プロフィール

大浦信行(おおうら のぶゆき)

映画監督・美術家。1949年富山県生まれ。19才の時より画家を志し、絵画制作を始める。次いで24才の頃より8ミリで映画制作を始める。その後1976年より1986年までニューヨークに滞在中に、画家・荒川修作のもとで7年間助手をつとめる。1986年帰国後、彫刻制作を始める。一方、昭和天皇を主題とした版画シリーズ「遠近を抱えて」14点が日本の検閲、タブーにふれ、作品が富山県立近代美術館によって売却、図録470冊が焼却処分とされる。それを不服として裁判を起こすも、一審・二審をへて、2000年12月最高裁で棄却とされ全面敗訴。この天皇作品問題を通して、日本における「表現の自由」、天皇制とタブー、検閲について、社会・美術・言諭界に問題を提起した。2001年には映画『日本心中前編』を、2005年にはその続編となる『9.11-8.15日本心中』を公開。2011年には『天皇ごっこ』脚本・監督。こうした活動を経て、2014年に最新作『靖国・地霊・天皇』がついに完成。

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