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『F/T』はなぜ大変革した? 芸術祭と行政の舞台裏を探る

『F/T』はなぜ大変革した? 芸術祭と行政の舞台裏を探る

インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:相良博昭
2014/10/21

日本最大の舞台芸術の祭典『フェスティバル/トーキョー』(以下『F/T』)が、今秋も11月1日から開催される。今年から大々的なリニューアルを行い、ビジュアルやラインナップのみならず、フェスティバルを運営するディレクターも一新。『F/T』の立ち上げから5年間にわたって、独自のコンセプトによるプログラムを作り続けてきた相馬千秋プログラムディレクター体制から、ディレクターズコミッティという集団体制に変更。その代表として就任したのが、ベテランプロデューサーの市村作知雄だ。

舞踏カンパニー「山海塾」の制作としてキャリアを開始し、世界でのアートのあり方を研究してきた市村。また、1998年からは『F/T』の前身となる『東京国際芸術祭』のディレクターとして、世界中のアバンギャルドな舞台作品を日本に紹介。近年も韓国最大の「多元芸術」の祭典『Festival Bo:m』の日本初上陸をサポートするなど、過去から現在にわたって最先端の舞台芸術シーンを作り上げてきた人物だ。

一見、これまでの相馬プログラムディレクターによる、ヨーロッパスタイルの「大統領制」から、ベテランを代表としたディレクターズコミッティという集団体制への変化は、フェスティバルの「退化」にも受け取られかねないものである。しかし、そこには日本における舞台芸術やアートシーンの未来を見据えたラジカルな哲学が潜んでいた。『東京オリンピック』の開催が決定し、行政から割り当てられる文化予算が拡充されようとしている今、芸術はどのように社会と関係を結べばいいのだろうか? 市村との対話は、リニューアルした『F/T』の葛藤から、アートと政治の関係を見据えたディープな社会論へと発展していった。

30人30通りの答えがあることを「多様性」と呼ぶことがありますが、それはただの相対主義にすぎません。30人それぞれが違う意見をぶつけ合い、別の何かが生まれることが多様性の良いところなんです。

―まず、やはり最初に聞かなければいけないと思うのですが、今年の『F/T14』では大幅なリニューアルが行われました。演劇・アート界の一部では、さまざまな憶測も飛び交うくらいの事件でもあったわけですが、いったい、なぜこのタイミングで大幅なリニューアルが行われたのでしょうか?

市村:まず、制度面での大きな変化として、今年から東京都が主催から外れました。これまでは『F/T』の運営において、こちらも行政の立場を考えなければならず、彼らも行政としての立場を守らなければなりませんでした。東京都もこの状況に気を使ってくれて、なるべく口を出さずに済む方法を考えてくれたのが、主催の立場を降りるということ。その代わり、東京都の文化に関する基本方針を定め、また芸術への助成事業を行う機関「アーツカウンシル東京」を通じて助成を受けています。

『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』 総合ディレクション:大友良英・プロジェクトFUKUSHIMA! ©地引雄一
『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』 総合ディレクション:大友良英・プロジェクトFUKUSHIMA! ©地引雄一

―東京都としては、「お金を出すが、口は出さない」というスタンスになった。つまり、フェスティバルとしては一人立ちして、より自由度が増したということですね。では、なぜそこで『F/T』の立ち上げ当初からプログラムディレクターを務めた相馬千秋さんからディレクターズコミッティという集団体制に移行して、さらに大ベテランの市村さんが代表に就任したのでしょうか?

市村:ディレクターズコミッティを形成したとはいえ、今年のプログラムは結果的にほとんど僕が組んでいます(苦笑)。昨年の10月頃からプログラムを組み始めなければいけないのですが、まさに『F/T13』の開催時期。結局、僕一人で進めるしかない状況でした。昨年の『F/T13』が終わった段階で、一人のディレクターが意思決定するシステムについての是非や、世代交代をさせたいという自分の意向について内部で話し合いを持ちました。そこで、今年からディレクターズコミッティという組織を作ることで、このコミッティにさらに若い人を引きこもうと決めたんです。

―コミッティは言わば「若手育成の場」ということでしょうか?

市村:それが理由の1つです。もう1つは、多様な人間が集まっている社会を前提として、ディレクターがどういう存在であるべきかを再考するというものでした。ヨーロッパのフェスティバルでは、1人のディレクターとドラマトゥルク(美術・文学などの専門知識から、演出家をサポートする役職)が並ぶやり方が一般的です。僕はずっとドラマトゥルクという役職を日本で確立させる仕事をしてきましたが、『F/T14』からはディレクターとサポート役のドラマトゥルクというやり方ではなく、ディレクターズコミッティ全員が決定権を握るかたちにしたんです。でも、そんなことがはたして上手く機能するのか? 誰もが疑問に思いますよね。

『透明な隣人 ~8 -エイト-によせて~』 作・演出:西尾佳織 ©宮田篤
『透明な隣人 ~8 -エイト-によせて~』 作・演出:西尾佳織 ©宮田篤

―「みんなで決定する」というと、責任の所在が曖昧になって上手く機能しないような印象があります。

市村:けれども、ポストモダンの時代においては、1人の人間に責任や決定権を集約させて物事を決めていくことに、疑問が生じ始めているとも思います。多少時間がかかっても、それぞれの意見を出し合い、対立したら話し合うという方法もある。また決定にあたっては多数決ではなく、とことん議論して決定します。この方法が上手くいけば、1人のディレクターよりも絶対に面白いものが生まれると思っています。

―目指すのは、「1+1」が3にも4にもなっていくシステム、ということですね。しかし、これまで『F/T』が推し進めてきたヨーロッパのスタンダードであるディレクター制から、共同ディレクター制への移行は、良くも悪くも「日本的なシステム」へと逆戻りしているように見えなくもありません。

市村:合議することが「日本的」なのではありません。むしろ、それが成立していないのが悪しき「日本的」ではないかと思います。ネゴシエーションによって事前に結論が出ていて、それを承認するための会議だから、意見をぶつけあうことがない。いくら何でもそんな合議はやりたくはありません。日本に比べて、ヨーロッパはエリート社会です。エリート教育を施された人々に社会を任せようという発想だから、ディレクター制が通用する。けれども、日本はエリート社会を作り上げてきたわけじゃありません。この日本の特色を活かせないかと考えて、今回の体制に至りました。

市村作知雄
市村作知雄

―エリート社会ではないからこその、多様性を活かしたいということでしょうか。

市村:「多様性」というのも誤解されている部分が多い言葉です。たとえば学校で、30人30通りの答えがあることを「多様性」と呼ぶことがありますが、それはただの相対主義にすぎません。30人それぞれが違う意見をぶつけ合い、別の何かが生まれることが多様性の良いところなんです。

―つまり、ディレクターズコミッティは、最大公約数を探るためのものではなく、ある意味「日本なもの作りのあり方を再考しよう」という意味を含んでいるのですね。

市村:急激にハンドルを切ることは、1人のディレクターによる体制が向いています。僕は『F/T』が始まった当初、ディレクター制を無理矢理でも日本に作って「相馬千秋をプログラムディレクターにします」と宣言しました。日本社会的な「誰が決めているのかわからない」状況はとても良くないと思っており、当時はそれで良かったんです。しかし、5年間やってきて、だんだん時代も変化していきますし、ずっと同じ体制でやっていれば軋轢も出てくる。理想的な組織というのはありませんから、そのときに合わせて変えていけばいいんです。

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イベント情報

『フェスティバル/トーキョー14』

2014年11月1日(土)~11月30日(日)
会場:
東京都 池袋 東京芸術劇場
東京都 東池袋 あうるすぽっと
東京都 東池袋 シアターグリーン
東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
東京都 吾妻橋 アサヒ・アートスクエア
ほか

『フェスティバルFUKUSHIMA! @池袋西口公園』
2014年11月1日(土)~11月2日(日)
総合ディレクション:大友良英・プロジェクトFUKUSHIMA!

『驚愕の谷』
2014年11月3日(月・祝)~11月6日(木)
作・演出:ピーター・ブルック、マリー=エレーヌ・エティエンヌ

『羅生門|藪の中』
2014年11月5日(水)~11月9日(日)
アーティスティック・ディレクター:ジョージ・イブラヒム(アルカサバ・シアター)
演出:坂田ゆかり
美術:目
ドラマトゥルク:長島確

『春の祭典』
2014年11月12日(水)~11月16日(日)
振付・演出:白神ももこ
美術:毛利悠子
音楽:宮内康乃

『透明な隣人 ~8 –エイトによせて~』
2014年11月13日(木)~11月16日(日)
作・演出:西尾佳織

ミクニヤナイハラプロジェクト
『桜の園』

2014年11月13日(木)~11月17日(月)
作・演出:矢内原美邦

『動物紳士』
2014年11月15日(土)~11月24日(月・祝)
振付・出演:森川弘和
美術・衣裳デザイン:杉山至

『彼は言った/彼女は言った』
2014年11月19日(水)~11月24日(月・祝)
構成・出演:モ・サ

薪伝実験劇団
『ゴースト 2.0 ~イプセン「幽霊」より』

2014年11月22日(土)~11月24日(月・祝)
演出:ワン・チョン

『さいたまゴールド・シアター 鴉(からす)よ、おれたちは弾丸(たま)をこめる』
2014年11月23日(日)~11月26日(水)
作:清水邦夫
演出:蜷川幸雄

渡辺源四郎商店
『さらば!原子力ロボむつ ~愛・戦士編~』

2014年11月28日(金)~11月30日(日)
作・演出:畑澤聖悟

『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』
2014年11月28日(金)~11月29日(土)
作・演出:畑澤聖悟

『アジアシリーズ vol.1 韓国特集 多元(ダウォン)芸術』
『From the Sea』

11月3日(月・祝)~11月7日(金)
コンセプト・演出:ソ・ヒョンソク

『1分の中の10年』
2014年11月13日(木)~11月16日(日)
構成・振付:イム・ジエ

クリエイティブ・ヴァキ
『いくつかの方式の会話』

2014年11月14日(金)~11月16日(日)
構成・演出:イ・キョンソン

映像特集
『痛いところを突くークリストフ・シュリンゲンジーフの社会的総合芸術』
オープニングレクチャー:『クリストフ・シュリンゲンジーフの芸術と非芸術』
上映作品:
『時のひび割れ』
『友よ!友よ!友よ!』
『失敗をチャンスに』
『外国人よ、出て行け!』

シンポジウム
『アートにおける多様性をめぐって』

テーマ1:「韓国多元(ダウォン)芸術、その現状と可能性」
テーマ2:「日本におけるドラマトゥルクの10年」
テーマ3:「中国・北京――同時代の小劇場演劇シーン」
テーマ4:「都市が育むアート」

3夜連続トーク『舞台芸術のアートマネジメントを考える』
第1夜:「舞台芸術のアートマネジメントを現場から振り返る」
第2夜:「これからのアートマネジメントと、その担い手とは」
第3夜:「アートマネージャーのセカンドキャリア」

『まなびのアトリエ』

  • フェスティバル/トーキョー FESTIVAL/TOKYO 演劇×ダンス×美術×音楽…に出会う30日間
  • プロフィール

    市村作知雄(いちむら さちお)

    1949年生まれ。アート制作者。アート制作者の地位向上とスキルアップのための活動を続ける。特定非営利活動法人アートネットワーク・ジャパン会長、『フェステイバル/トーキョー』実行委員長、東京芸術大学音楽環境創造科准教授、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団評議員、企業メセナ協議会交流部会員など。

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