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伊勢谷友介が語る、未来を変えるためにアーティストができること

伊勢谷友介が語る、未来を変えるためにアーティストができること

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望

現代においてプロデューサー的能力のないアーティストはほとんど無意味なんです。単にお金のためだけに働いていないという部分が、『ザ・テノール』の輪嶋さんに最も共感する部分ですね。

―REBIRTH PROJECTでは、伊勢谷さんはアーティストであると同時にプロデューサーとしても活動されています。その意味でも、今回の役柄と共鳴するところがあったのではないでしょうか?

伊勢谷:会社をやっていると、アーティストとプロデューサーの両方の狭間に立たされることもありますね。はっきり言い切ってしまうと、現代においてプロデューサー的能力のないアーティストはほとんど無意味なんです。現実問題として、会社であればお金が尽きると大変なことですが、お金と同時に必要なものが「志」です。単にお金のためだけに働いていないという部分が、『ザ・テノール』の輪嶋さんに最も共感する部分ですね。

―REBIRTH PROJECTは、組織というかたちの表現で社会にコミットしているわけですよね。映画では、主人公が声を失ってオペラ劇場との契約を切られてしまい、彼をバックアップする輪嶋さんの会社も経営的な危機に陥る。そこには経済と表現の衝突があると思います。

伊勢谷:外側から見た「宇宙人の視点」で話させてもらうと……いまの社会は資本主義で回っていますよね。そして、資本主義を支えているのが株式や消費だと思うんですが、しばしばお金を稼ぐためにお金を使うことが目的になってしまっているんです。でも、本来お金というのは物々交換のあいだに入る道具であって、何かを活かすものではないわけです。外からこの構図を見ていると、お金を盲目的に信じている現状というのが、じつは間違っているということがわかります。でも、自分が1人の人間として株式市場の真っ只中にいて、さらに1人の消費者になっていくと、混乱の中で正常な理解が失われてしまう。

―俯瞰して見ることができないから。

伊勢谷:そう。これから人間が進んでいかないといけないのは、お金がどういうものなのかを再認識すること。本来、お金を使うということには志があって、「あなたが頑張ってくれることに対して私は賞賛する」っていう意味での行為であるべきなんです。消費者として企業の商品を買う、というのはまさしくそのことの連続でなければいけないんですよ。

伊勢谷友介

―盲目的に買うのではなく、その背景にあるものを理解したうえで、お金を使うかどうかを決める、という行動であるべきだと。

伊勢谷:お金を稼ごうと思ったら、ただぐるぐるとお金を経済の中で回すことで、増えていくと思います。大事なのは、未来のことを考えて、どうやって生きたお金を回すか。これを大人がちゃんとやらない限り、子どもは間違ったお金の使い方を当たり前だと思ってしまう。根本的なお金に対する意識が低いから、「なんで資本主義が悪くなっていくのか?」ということを考えられていないんです。

―しかし、REBIRTH PROJECTも株式会社であることで、いろんな人たちの思惑が交差しますよね。その調整など、苦労することも多いのではないでしょうか?

伊勢谷:映画でも、そこをきちんとやっていくということに輪嶋さんは本当に悩んでますよね。つまり、僕ら経営者がやらないといけないのは、いいことをしてお金を稼げるシステムを作ることなんですよ。もちろん理想はもっと先にあるんです。だけど、夢みたいな理想に向かって一足飛びに猛進するのはクリエイターのすることじゃない。それは、ただ夢を語っているだけで、思っているんだったらきちんと一歩ずつやり遂げなければいけない。REBIRTH PROJECTは、その過程にいると考えています。

『ザ・テノール 真実の物語』©2014 BY MORE IN GROUP & SOCIAL CAPITAL PRODUCTION & VOICE FACTORY. ALL RIGHTS RESERVED.
『ザ・テノール 真実の物語』©2014 BY MORE IN GROUP & SOCIAL CAPITAL PRODUCTION & VOICE FACTORY. ALL RIGHTS RESERVED.

―撮影の現場に入られて、そういった意識を反映させたシーンはありますか?

伊勢谷:いや、考えるまでもなく自然にやっていました。今回の役は自分と地続きだったように思います。

「作らないデザイン」っていうのも、現代のアーティストが挑戦するべきことだと思います。それは、例えば政治にコミットすることにも通じている。

―伊勢谷さんが考える現代のアーティスト像について、もう少し伺いたいです。単にものを作るだけでは、もはやアーティストはその役割を果たせないと思いますか?

伊勢谷:アーティストが「ものを作って発表する人」というカテゴリーの中に収まっていること自体、とても縛られた状態だとも言えますね。例えば「作らないデザイン」っていうのも、現代のアーティストが挑戦するべきことなんですよね。それは、例えば政治にコミットすることにも通じている。ある問いに対して「こういうやり方もあるんじゃないか?」と提示することもデザインであり、アートであると、僕は思っています。

『ザ・テノール 真実の物語』©2014 BY MORE IN GROUP & SOCIAL CAPITAL PRODUCTION & VOICE FACTORY. ALL RIGHTS RESERVED.
『ザ・テノール 真実の物語』©2014 BY MORE IN GROUP & SOCIAL CAPITAL PRODUCTION & VOICE FACTORY. ALL RIGHTS RESERVED.

―例えば何らかのプロダクトを作るとして、それがどのように流通して、どのような波及効果を社会にもたらすか、までをデザインして、はじめて作品になる、というか。

伊勢谷:まさにシステム作りですよね。似た商品が2種類あって、片方は安価で大量に出回っているけれど、品質がよくない。もう一方は、高いけれども安全性が約束されていて、生産者の志が伝わる。そのどちらを選ぶかというときに、自信を持っていい方を選択できるシステムを作りたい。僕たちは、それを選ぶためにもっと賢くならなければいけないんですよ。

―既存の確立したシステムの過中で、新しい考え方を示す必要があるということですよね。

伊勢谷:そうですね。それで僕らがいまやろうとしているのは、地域の中で直接民主政治をイメージして、市民自治のかたちを提唱することなんです。栃木県那須塩原で進んでいる駅前の土地開発に、REBIRTH PROJECTが入って、僕らなりの提案をしています。お金を使って、箱ものを作って、「はい、何でもやってごらんなさい」っていうんじゃなくて、市民の意識をそこにどうやって入れていくかっていうことを考えていこうとしています。

『ザ・テノール 真実の物語』©2014 BY MORE IN GROUP & SOCIAL CAPITAL PRODUCTION & VOICE FACTORY. ALL RIGHTS RESERVED.
『ザ・テノール 真実の物語』©2014 BY MORE IN GROUP & SOCIAL CAPITAL PRODUCTION & VOICE FACTORY. ALL RIGHTS RESERVED.

―具体的な目標はあるんでしょうか?

伊勢谷:まだ過程にあるので「これが目標だ」って言い切るのは難しいですね……。でも、もちろん最終的な目標は、直接民主政治の実現。そのためには、議会制民主主義の議論もしなければいけないですから、時間はかかりますけど。だからいまは、とりあえず1万人を投票に出向いてもらえるようにしたいな、と。

―投票率を上げるということですか?

伊勢谷:投票率を上げることが目的ではなくて、政治システムの周知がまず必要なんです。その上で、自分たちの決定したことがどんどんかたちになっていくという、実際的な経験を積み重ねることが大切。いまみたいに政治屋さんにだけ政治を任せておくと、このあいだ兵庫でもありましたが、政務活動費の私的流用なんかが起きちゃいますよね。もし直接民主政治が実現すれば、ファシリテーターとしての議員が数人必要になるだけで、議員の数は圧倒的に少なくなります。そうすれば、汚職が起こる可能性も限りなくゼロに近づくのではないでしょうか。

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作品情報

『ザ・テノール 真実の物語』

2014年10月11日(土)から新宿ピカデリー、東劇ほか全国ロードショー
監督:キム・サンマン
出演:
ユ・ジテ
伊勢谷友介
チャ・イェリョン
北乃きい
ナターシャ・タプスコビッチ
ティツィアーナ・ドゥカーティ
配給:『ザ・テノール 真実の物語』プロジェクト

プロフィール

伊勢谷友介(いせや ゆうすけ)

1976年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部修士課程修了。大学在学中、ニューヨーク大学映画コースに短期留学し、映画制作を学ぶ。『ワンダフルライフ』(是枝裕和監督、1998年)で俳優デビュー。その他代表作品としては、『CASSHERN』(紀里谷和明監督、2004年)、『龍馬伝』(NHK大河ドラマ、2010年)、『るろうに剣心』(大友啓史監督、2014年)など。2002年、初監督作品『カクト』が公開。2008年、「人類が地球に生き残るためのプロジェクト」として「REBIRTH PROJECT」をスタートさせ、株式会社リバースプロジェクトの代表を務める。2012年、「誰かに任せる民主主義から、自分で決める民主主義(参加型民主主義)へ」の理念を掲げ、 クラウドガバメントラボを設立。2014年10月11日に、映画『ザ・テノール 真実の物語』が公開。

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