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伊勢谷友介が語る、未来を変えるためにアーティストができること

伊勢谷友介が語る、未来を変えるためにアーティストができること

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望
2014/10/14

我々が映画を作るっていうのは、物質的に言えばただの破壊行為なんですよ。でも、フェルナンド・メイレレス監督は、自分のやったことに対して責任を持とうとしている。

―REBIRTH PROJECTの活動を、ヨーゼフ・ボイス(ドイツの現代美術家、社会活動家)が提唱した社会彫刻として指摘する声がありました。ボイスは、人間は誰しもが芸術家であり、人々が未来の世界や社会を創造していく「社会彫刻」こそが、未来の芸術のかたちだと唱えた。伊勢谷さんたちがやろうとしていることは、あえて名付けるとすれば「社会彫刻2.0」とでも呼ぶべき、新しい試みのような気がします。

伊勢谷:僕自身はボイスのことを全然知らなくて、友人が「それって社会彫刻ってやつじゃない?」って教えてくれたんです(笑)。個人的には「ガバメント2.0」と名付けたいかな。僕たちは新しい消費の選択を提案しましたが、それを選択する術自体を知らない人もいるのがわかってきました。だとすれば、それを知らないままでいるのは何故なのか、っていうことを考えてみる。そういう地道な活動の積み重ねが次のステップを生み出していく。そのための方法論が、新しい政治形態としての直接民主政治なんです。

『ザ・テノール 真実の物語』©2014 BY MORE IN GROUP & SOCIAL CAPITAL PRODUCTION & VOICE FACTORY. ALL RIGHTS RESERVED.
『ザ・テノール 真実の物語』©2014 BY MORE IN GROUP & SOCIAL CAPITAL PRODUCTION & VOICE FACTORY. ALL RIGHTS RESERVED.

―これまで伺ってきたような発想を伊勢谷さんに与えたきっかけは一体何なのでしょうか。

伊勢谷:うーん……集合知を実現するインターネットの登場も大きいと思いますし、仏教における「全体と個」の捉え方もあると思います。歴史上の人物で言うと、高杉晋作や、来年の大河ドラマで演じることになる吉田松陰。あとは白洲次郎も。それから、僕は2008年に『ブラインドネス』という映画に参加したんですが、監督のフェルナンド・メイレレスも僕に大きな影響を与えてくれた1人ですね。

―いま名前を挙げた維新期の人たちは、ナショナリストが多いですね。

伊勢谷:たしかに(笑)。でも、彼らの時代にはナショナリズムが必要でしたけれど、現代の僕らにとってナショナリズムは不要なものですよ。REBIRTH PROJECTが、資本主義経済を1つのツールとして用いているように、彼らはナショナリズムを使うことで大勢の人たちに訴えかけることを試みたのだと思います。つまり、ナショナリストだったのではなく、それぞれ時代に必要なイノベーションのかたちをデザインするために、結果的にナショナリズムを用いるかたちになったのではないでしょうか。

―では、メイレレス監督からは、どのような影響を受けたのでしょうか?

伊勢谷:ハリウッドでも活躍する彼は、経済格差の大きいブラジルではもちろん成功者の1人なんですよ。プロダクションの社長でもあって、大きな土地を持っている。でも、自分が住んでいるのは本当に小さな家で、高級車に乗っているわけでもない。メイレレス監督がそこで何をやっているかと言うと、森の再生に取り組んでいるんです。彼らが二酸化炭素をどのくらい使ったかを計算して、それを酸素にしてくれるくらいの分量の木を植樹しています。そして、映画の撮影が予定よりはやく終わったりすると、その余ったバジェットを森の再生に投資しているんです。我々が映画を作るっていうのは、物質的に言えばただの破壊行為なんですよ。でも、彼は自分のやったことに対して責任を持とうとしている。その結果、会社のスタッフからもすごくリスペクトされていて、よき父親、よき夫でもある。素晴らしい人です。

伊勢谷友介

―成功した表現者が、志を失ってミイラ取りがミイラになるってことはしばしばあるわけですよね。でも、余った予算を森林保護に振り分けるとか、映画製作という行為を別の使い方に転化することもできると、メイレレス監督は示してくれているわけですね。

伊勢谷:本当に考えている人だと思います。見た目は鼻毛が出てるような方なんですけどね(笑)。でも、信念があるんです。

学生運動に敗北した世代やバブル世代の大人が、若い人たちの想いや願いを潰しているわけですよ。言い方が汚くなっちゃいますけど、本当に「ふざけるなこの野郎!」って思います。

―伊勢谷さんは、いまの学生や若い人たちをどう見ていらっしゃいますか?

伊勢谷:これは僕のフラストレーションの1つなんですけど、若い学生の1人が僕のところに遊びに来たときに、「森のことを考えて、真剣に保護活動をしたいと大学の教授に訴えると、『絶対にできない』と言われた」と言うんですよ。学生運動に敗北した世代やバブル世代の大人が、そうやって若い人たちの想いや願いを潰しているわけです。それで、のほほんと生きながら世界を変えることに諦めて、日本の森や川の破壊に加担している。言い方が汚くなっちゃいますけど、本当に「ふざけるなこの野郎!」って思いますよ。

―若い頃に抱いた理想を忘れてしまって。

伊勢谷:絶対に変えることはできるんですよ。でも、誰かがやらなければ始まらない。REBIRTH PROJECTは、『PEOPLE MAGNET TV』という番組にも関わっていますが、そこでは、例えば日本の山から木を伐採して、家具や家を作るという流れができつつあります。当たり前のことと感じるかもしれませんが、国内で林業をやろうとしても、日本の材木は値段が高くて、コストが安い輸入木材に押され、その結果国内の林業は衰退しているのが現実なんです。かつて使うことを目的に植樹された杉の木なんかは、使用されることなくそのまま放置されて、花粉症の原因になったりしているのに。そこで「花粉症を治そう」という理由をフックにして、クラウドファンディングでお金を集めて、林業を復活させたいんです。これも未来を変えるためのアイデアの1つで、REBIRTH PROJECTと地元の大学、そして有志で一緒にプロジェクトを進めています。

伊勢谷友介

―なるほど。それも、現代のアーティストができうるシステム作りの1つですね。

伊勢谷:本来は、全部のことがつながっているわけですよ。自分の生活を見直そうと思ったら、いくらでも穴があるわけで。でも志がそこにあれば、なんらかの解決法を見出すことができる。『ザ・テノール』の現場に参加することを僕が即座に決めたのも、映画人としてできることがあると確信していたからです。それはメイレレス監督から学んだことが基盤になっていますし、韓国のスタッフのパワーに触れて再確認できました。「個人同士がもっとつながっていって、外交をより豊かなものにしていこうぜ」というのが僕のアプローチですね。

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作品情報

『ザ・テノール 真実の物語』

2014年10月11日(土)から新宿ピカデリー、東劇ほか全国ロードショー
監督:キム・サンマン
出演:
ユ・ジテ
伊勢谷友介
チャ・イェリョン
北乃きい
ナターシャ・タプスコビッチ
ティツィアーナ・ドゥカーティ
配給:『ザ・テノール 真実の物語』プロジェクト

プロフィール

伊勢谷友介(いせや ゆうすけ)

1976年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部修士課程修了。大学在学中、ニューヨーク大学映画コースに短期留学し、映画制作を学ぶ。『ワンダフルライフ』(是枝裕和監督、1998年)で俳優デビュー。その他代表作品としては、『CASSHERN』(紀里谷和明監督、2004年)、『龍馬伝』(NHK大河ドラマ、2010年)、『るろうに剣心』(大友啓史監督、2014年)など。2002年、初監督作品『カクト』が公開。2008年、「人類が地球に生き残るためのプロジェクト」として「REBIRTH PROJECT」をスタートさせ、株式会社リバースプロジェクトの代表を務める。2012年、「誰かに任せる民主主義から、自分で決める民主主義(参加型民主主義)へ」の理念を掲げ、 クラウドガバメントラボを設立。2014年10月11日に、映画『ザ・テノール 真実の物語』が公開。

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