
world's end girlfriendが遂に作り上げた、震災以降の音楽とは
- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
「今最も面白いインディペンデントレーベルをひとつ挙げろ」と言われたら、僕は迷わずworld's end girlfriend(以下、WEG)主宰の「Virgin Babylon Records」を挙げるだろう。2014年を振り返ると、海外からの評価も高いVampillia、「ポエムコア」のBOOL、「100%サンプリング製法」のcanooooopyといった超個性的なアーティストたちの作品を、ネットとフィジカル、有料と無料を横断しながら次々と発表し、Bandcampを使って新人アーティストの楽曲を投げ銭制で紹介する「Virgin Babylon Selected Works」もスタート。また、WEG本人としても、AKB48のドキュメンタリー映画の音楽を担当したかと思えば、「ネットのどこかに変名で新曲を発表」という大胆な試みを行ったりと、話題に事欠かない1年だった。
そんな2014年を締め括るのが、WEGの新作『Girls/Boys Song』。今年ひさびさの新作を発表したAphex Twinの名曲“Girl/Boy Song”を思い出さずにはいられないタイトルからして何やら意味深な本作のテーマは、ずばり「青春」とのこと。また、リリース形態は12インチのアナログレコードにダウンロードコードがついた形で、レーベルの通販サイトのみでの販売。さらには、媒体用のプレスリリースやサンプル音源もあえて用意せず、僕はこの日の取材をリスナーとまったく同じ条件で、つまり、YouTubeにアップされている“Boys”のみを聴いた状態で行っている。もちろん、これらの試みはすべてWEGの問題意識を反映したものであり、形骸化した「見えないルール」に対する疑問の投げかけなのだ。では早速、WEGにその真意を訊いてみよう。
小説とか映画と同じように、音楽も短編・中編・長編みたいな括りだけになればいいと思ってて。
―Virgin Babyonは2010年にスタートしていて、当初から配信時代を見据えて、新しいレーベルとアーティストとの関係性を構築してきたと思うんですね。昨年からはネット発のアーティストのリリースも増えてきましたが、WEGさんはこの4年間で起きた変化について、どうお考えでしょうか?
WEG:ネットレーベルが一度パッと盛り上がってきたとき、俺としてはもっといろんなリリースの方法や音楽家の新たな在り方などが生まれてくるかなと思ったんだけど、意外と行き着く先はあんまり変わらなかったなって印象で。
―結局行き着く先はCDでのリリースで、海外に比べると配信自体あまり伸びてないですもんね。
WEG:そういうのもあるし、発表される作品自体ももっと変わるかなって思ってた。例えばレコードとかCDには収録時間も含めて様々な制約があるわけだけど、配信だとそれもなくなるから、シングルとかアルバムっていう形態も必要なくなっていくんじゃないかなって。小説とか映画と同じように、音楽も短編・中編・長編みたいな括りだけになればいいと思ってて、別に10曲40分以上のアルバム形式にしなきゃとかじゃなくて、2曲で完成する作品でも300曲で完結する作品であってもいい。そういう「作品」が本来もつ形に変わるかなと思ったんだけど、意外と普通にシングルを出してアルバムっていう流れがそのまま残ったなって。
ボノが「無料の音楽は信じてない、音楽は神聖なものなんだ」みたいなことを言ってて、「馬鹿だなあ」と思って(笑)。
―そういう状況だからこそ、レーベルやWEGとしては、それこそ遊ぶような感覚も含めて、自由に作品を発表していますよね。中でも、9月の「ネットのどこかに変名で新曲を発表する」という試みはびっくりしました。あれって確か、最初は外国の方が見つけたんですよね?
WEG:一番最初はフランスの人が見つけて、その後日本や各国の方も見つけて、最終的には20人弱見つけたのかな。この話題が少し落ち着いて、そろそろみんな忘れたかなって頃に、深夜の3時半にこっそり「1時間だけ公開します」ってツイートして(笑)。そうしたら、バーッと1000人ぐらいが聴いて、でも1時間後には消して、その後は「削除されました、うせろ。」ってコンピューターがしゃべる音声だけを残すという(笑)。
―そもそもあのアイデアって、どこから生まれたんですか?
WEG:あれはちょうどU2がフリーのアルバムを出した頃で、ボノが「無料の音楽は信じていない、音楽は神聖なものなんだ」みたいなことを言ってて、「馬鹿だなあ」と思って(笑)。俺の中では音楽やその神聖さには元来無料も有料もまったく関係ないし、U2とは逆のやり方っていうか、「無料だけど、探しに行かないと見つけられない」っていうのを思いついて、それをやってみたっていう感じですね。
―U2のアルバムは、無料だからといって勝手にiTunesのライブラリに入ってて、問題になりましたね。なるほど、U2に対するリアクションだったんだ。
WEG:思いつきでやったことではあるんだけど、やったらやったでいろんな発見があって。欲しいものが手に入らないときって、普段以上にその人の本来のキャラが見えるんだよね。頑張って探す人、「わかんねえ」ってすぐにあきらめる人、「誰かがそのうちアップするだろ」って待つ人、「何でこんなめんどくさいことするんだ?」って怒る人、いろんな個が見えて、それがすごく面白かった。あとは探してる途中に別のいい音楽を偶然発見したような人もいて、「この感覚って昔あったよなあ」って思ったり。
―フリーにしちゃうと、それを手に入れるまでの「体験」が削ぎ落とされるとも言われますけど、やり方次第でフリーでも「体験」ができて、だからこそいろんな人のキャラも見えやすかったし、その途中での発見もあったっていうことかもしれないですね。ちなみに、結局どこにアップされていたのか、種明かししてもらってもいいですか?
WEG:あれはそんなに難しくなくて、Virgin BabylonのSoundCloudのフォロワーの中に、WEGの名前のend以外をwに変えた「wwwwww end wwwwwwwwww」っていうのがいて。
―なるほど! 言われてみると、確かに意外とわかりやすい。
WEG:一応何かしらつながりのあるところにあるってヒントは出してたから、意外と単純に考えたら、すぐに見つけられたんじゃないかな。
リリース情報

- world's end girlfriend
『Girls/Boys Song』(アナログ12inch) -
2014年12月25日(木)発売
価格:2,000円(税込)
Virgin Babylon Records / VBR-0231. Boys
2. Unable
3. Girls
4. Vacant
※ダウンロードコード付Virgin Babylon Records所属アーティストのミックス音源の期間限定フリーダウンロード
プロフィール
- world's end girlfriend(わーるず えんど がーるふれんど)
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world's end girlfriend(わーるず えんど がーるふれんど)
1975年11月1日 かつて多くの隠れキリシタン達が潜伏した長崎県の「五島列島」に生まれ10歳の時に聴いたベートーヴェンに衝撃を受け音楽/作曲をはじめる。2000年デビュー。アジア、EU、USツアーなどを行い『ATP』『Sonar』など各国フェスにも出演。映画「空気人形」の音楽を担当し2009年カンヌ映画祭や世界中で公開された。2010年『Virgin Babylon Records』を設立し「SEVEN IDIOTS」をワールドワイドリリース。圧倒的世界観を提示しつづけている。