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海外で高評価の28歳監督・稲葉雄介の正体を、Paranelと探る

海外で高評価の28歳監督・稲葉雄介の正体を、Paranelと探る

インタビュー・テキスト
森直人
撮影:永峰拓也

熊本発、日本とタイの合作ロードムービー。今年の『カンヌ国際映画祭』のマーケットでも話題を呼んだ映画がまもなく劇場公開される。その名は『アリエル王子と監視人』。東南アジアの架空の国・ルベール王国のアリエル王子(チャーノン・リクンスラガーン)が、お忍びで休暇を過ごすため熊本を訪れる。王子の付き人は、監視人=公認のデート相手として、リサ(伊澤恵美子)という地元の一般女性を仕込んだ。雄大な自然や街を走る路面電車など、熊本の美しいロケーションをバックに、生き方も立場もまるで異なる男女の一期一会の3日間が描かれる。

責任の重圧に縛られている王位継承者が異国で束の間の自由を味わう……という物語は小さなファンタジーのようだが、実は普遍的な若者が抱く等身大のパーソナルな心情がじんわり伝わってくる。王子とリサの3日間は、自己実現にまつわる葛藤と、ささやかな変化が表れる奇跡の時間と言えるだろう。

監督の稲葉雄介は現在28歳。海外の映画祭で評価されている期待の新鋭だ。彼はどんな想いを今回の映画に乗せたのか。そして音楽を担当したのは、個性豊かなレーベル「LOW HIGH WHO?」の主宰者、Paranel。二人のコラボレーションを軸に、お互いのクリエイションについて語ってもらった。「好きなこと」「やりたいこと」を続けていくための作法とは?

今回の映画って、王子の気持ちだけ追っていくと、あんまり明るい話ではないと思うんですね。でもすごくキャッチーに見せたかったんです。(稲葉)

―まずは今回の映画の制作に至った経緯を教えてください。

稲葉:そもそもは、タイとの文化交流の一環として、映画を共同製作する企画があったところから始まりました。そこに新人監督を起用しようということで、以前に僕が助監督で参加したドキュメンタリー『ちいさな、あかり』(2013年、大野隆介監督作品)のプロデューサーの鈴木智彦さんからお声をかけていただきました。でも僕は熊本出身でもないし、タイのこともよく知らなかったんです。タイ映画はさほど日本で紹介されていないですし。だからまずは実際に熊本で住んでみたり、バンコクに滞在したり、「土地を知る」ところからスタートしました。

―Paranelさんとはどういう出会いだったのですか?

稲葉:Paranelさんは、ヒロインのリサ役を演じてもらった伊澤恵美子さんから以前にご紹介いただいたことがあって、今回音楽監督をお願いしようと、初めてお会いしに行きました。

Paranel:自分のレーベル(LOW HIGH WHO?)の事務所でもある僕の家で顔合わせをして、初対面の時はあんまりしゃべりませんでしたよね。監督は、「謎の好青年」みたいな印象でした(笑)。

稲葉:(笑)。

左から:稲葉雄介、Paranel
左から:稲葉雄介、Paranel

―タイといえば、稲葉監督は自主制作で撮られた初監督作『君とママとカウボーイ』(2010年)で、同国の名匠アピチャッポン・ウィーラセタクン監督から絶賛を受けていますね。

稲葉:あの映画はもともと大学の卒業制作だったもので、劇場公開していないんですけど、韓国の『シネマ・デジタル・ソウル・フィルムフェスティバル』という映画祭で上映された時に、アピチャッポン監督が審査員を務められていたんですね。そうしたら作品をすごく気に入っていただいて、そのあとのクリスマスに「これを宣伝に使うといい」とのメッセージ付きで推薦コメントをいただきました。

―最高のクリスマスプレゼントですね! そしてParanelさんは今回の映画のシナリオを読んだ時点で、いきなり曲を書き始めたとか。

Paranel:はい。新しい曲を作りつつ、これまでのストックからも選んで、自分の直感で仮のサウンドトラックアルバムを作っちゃったんです。

稲葉:その音源をいただいたのが撮影に入る1週間くらい前だったんですよ。最初、スタッフルームで聴いた時は本当にびっくりしました。読解力がすごすぎる! って。脚本にはそこまで具体的に書いてないことでも、僕の真意や映画の本質を全部汲み取ってくれているような音楽だったんです。メインテーマとして使わせてもらった“Dry Envy”もその中に入っていた曲で、もう感動しちゃって。

―撮影中にすでにオリジナルのスコアがあったっていうのもすごいですが、主人公のアリエル王子の感情に親密に寄り添う音楽になっていますよね。

Paranel:ありがとうございます。僕の場合、いつも理屈じゃなくて、直感だけで作業しちゃうんです。今回はなんでか知らないけど「やらなきゃ」ってすぐ思ったんですよね。もしかしたら監督の見えない情熱が僕に乗り移ったのかもしれない。

Paranel

稲葉:Paranelさんはいつも霊感的な動き方をされますよね。

Paranel:そうなんですかね?(笑) でも、普段から感覚で生きちゃってるので、GOMESSくんとか、レーベルで一緒にやってるアーティストからもよく怒られます。「ちゃんとしてくださいよ!」って。「はい、すみません」みたいな(笑)。

稲葉:今回の映画って、王子の気持ちだけ追っていくと、あんまり明るい話ではないと思うんですね。でもすごくキャッチーに見せたかったんです。そのバランスをとるのに“Dry Envy”という曲はぴったりでした。心浮き立つ明るい曲調なのに、タイトルはないものねだり的な自由への羨望が表れていて。

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作品情報

『アリエル王子と監視人』

2015年7月11日(土)から渋谷ユーロスペースにて公開、9月19日(土)から静岡シネ・ギャラリーにて公開、その他、全国各地で順次公開予定
監督:稲葉雄介
音楽:Paranel
出演:
チャーノン・リクンスラガーン
伊澤恵美子
忍成修吾
セリーナ・ウィスマン
石田えり
北本崇人
榎木智一
大西礼芳
篠井英介
配給:キリンジ

リリース情報

V.A. 『「アリエル王子と監視人」オリジナルサウンドトラック』(CD)
V.A.
『「アリエル王子と監視人」オリジナルサウンドトラック』(CD)

2015年7月8日(水)発売
価格:2,000円(税込)

1. In her room
2. Dry Envy / Paranel
3. 6y9b5uo2u2k1e2nt ~心模様~ / DJ6月
4. She said
5. わらう / ろはに
6. Downer / A.Y.A
7. ariel evan braden shanon alexander ashley daniel austin / Naclear
8. In the Club
9. Early morning / Monk is my absolute
10. She luved / 灯汰
11. At the bar
12. Open the door / EeMu
13. Wind Out The Cage / Kuroyagi
14. 少年ピクシーズのテーマ / waniwave
15. 母へ / Paranel
16. Arcade / Paranel
17. GIRL / Paranel & Terumasa Seto
18. 伝言
19. Kumamoto / Paranel
20. Dry Envy feat. Emiko Izawa / Paranel

プロフィール

稲葉雄介(いなば ゆうすけ)

海外の映画祭で評価されている、若手有望株の映画監督。初監督作『君とママとカウボーイ』(2010)は韓国のシネマデジタルソウル国際映画祭など、国内外の映画祭より招待を受け上映されている。同作に対し、映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクン(タイ出身映画監督、2011年カンヌ国際映画祭最高賞受賞)は、「私の2010年の映画体験のハイライトのひとつ」と最大限の賛辞を贈り、ニューヨークで開催された特集上映「The Unlimited Possibilities of Cinema」に上映作品として選出した。また、諏訪敦彦監督(カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞、元東京造形大学学長)の秘蔵っ子でもあり、活躍が期待される若手監督のひとり。

Paranel(ぱらねる)

1981年、千葉県生まれ。2006年にLOW HIGH WHO?プロダクションを設立運営。ミルバレー映画祭、ジンバブエ国際映画祭、ワイルドウッドバイザシー映画祭、ユージーン映画祭に正式招待された映画『フローズンライフ』の挿入歌に抜擢され以降、バーやカフェなどでピアノによる即興ライブを中心に活動。またビートメイカー名義COASARUとしても活動。2011年にレーベル術ノ穴よりアルバム「別人格コアサル」をリリース。まどがらすとのラップ&フォークグループ「雨風食堂」での活動や、画家として、映像作家として、アニメーターとして様々な顔を持ちながらも、一貫性のある表現を発信している。

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