面白い「ライブ盤」を求めて KIRINJIインタビュー

6人編成のバンドになってからは初のアルバム『11』を昨年8月にリリースし、秋には初の全国ツアーを敢行したKIRINJI。今年に入ると4月の『ARABAKI ROCK FEST』を皮切りに数本のフェスに参加し、生まれ変わった姿をより多くの人にアピールしてきた。そんな中、6月に行われたビルボード公演のライブ音源にポストプロダクションを施し、『11』を再構築した『EXTRA 11』がリリースされる。

ライブDVDやYouTubeの存在によって、「音楽を聴くこと」と「映像を見ること」の距離が縮まり、ライブ盤の位置付けが変化する中にあって、このKIRINJIのアプローチは非常に興味深い。そして、昨年発表されたアルバムを、この短いスパンで新鮮な作品にガラリと変えることができたのは、年齢も性別も背景も異なる六人の集団であるKIRINJIが、今も急速なスピードでバンドとして進化していることの表れだとも言えよう。堀込高樹、田村玄一、千ヶ崎学、コトリンゴの四人に話を訊いた。

初めてバンドでやる楽しさを知りました。(コトリンゴ)

―まずは去年初めて全国ツアーを回ってみての手応えから話していただけますか?

千ヶ崎(Ba,Syn,Vo):いやもう、とにかく楽しかったです(笑)。もちろん最初はそれぞれに緊張もあったと思うんですけど、ツアーになると生活も一緒っていう時間が続くから、呼吸が合ってくるんですよね。それはツアーならではだなって。

堀込(Vo,Gt):ツアーが終わって何週間後かに、坂本真綾さんのトリビュートのレコーディングがあったんですけど、『11』を録ったときとはまた違う、ナチュラルな演奏が録れたんですよね。ハーモニーのダビングも、前はお互いの声に頑張って合わせるみたいな感じだったのが、自然に合わせることができるようになっていました。

田村(pedal steel,steel pan,Gt,Vo):徐々にみんながポテンシャルを発揮するようになったというか、特にコトリさんとか弓木ちゃんが伸び伸びしてきて、演奏しながら、「今日はすごいな」って思ったりしましたね。まあ、男連中は昔から一緒にやってきているのでそこまで代わり映えはしないんですけど、女性が二人いることでかなり新鮮なツアーでした。ライブ後の打ち上げも含め(笑)。

『KIRINJI BBL SPECIAL NIGHTS』@Billboard Live TOKYO 撮影:戸塚由真
『KIRINJI BBL SPECIAL NIGHTS』@Billboard Live TOKYO 撮影:戸塚由真

―華やかさが違いますよね(笑)。コトリさんはいかがでしたか?

コトリンゴ(Vo,Pf,Key):信頼感が強まったというか、私がちょっとへましても、リズム隊の楠さんと千ヶ崎さんががっちり合っているので、すぐに戻って来れる安心感があるんです。どんどんリズムも合うようになって、初めてバンドでやる楽しさを知りました。

―バンドのメンバーとして活動するのは初めてですよね?

コトリンゴ:初めてです。一人とか、もしくはトリオだと、わりとやりたい放題やっても許されますけど、バンドだとそうもいかないことがありますよね。(田村)玄さんがいつも美味しいフィルを入れてくるんですけど、かっこいいのを弾かれると、「私もそれ弾きたい」って、フィルの取り合いみたいになっちゃって(笑)、そういうのは気をつけないとって思いました。

コトリンゴ
コトリンゴ

堀込:でも、そこで「1番はコトリさん、2番は玄さん」って決めちゃうのもつまらないからね。

田村:前の「キリンジ」だったころはそこがきっちりしてたんですけど、今は自由なんです。だから、偶然やったことの重なり具合がものすごくいいときもあるんですよね。


―メンバー六人に加えて、去年のツアーから矢野博康さん(元Cymbals。現在は作曲家、音楽プロデューサー)が参加されてますよね。そもそも、なぜ矢野さんが参加することになったのですか?

堀込:いくつかの曲で打ち込みを使っているので、それをコントロールするマニピュレーターが必要だったんです。

田村:つまり、楠に伸び伸びやってもらうためっていう(笑)。

左から:田村玄一、堀込高樹、コトリンゴ、千ヶ崎学
左から:田村玄一、堀込高樹、コトリンゴ、千ヶ崎学

―前までは、その役目を楠さんがやっていたと。

堀込:キャリアが長いわりに、みんなそれは不慣れだったんですよ(笑)。でも、矢野さんはその辺バッチリだからお願いして、でもそれだけっていうのもなんだから、パーカッションとか、曲によってはシンセも弾いてもらって、ビルボードのライブではドラムを叩いてもらったりもしています。

千ヶ崎:矢野さんに入ってもらって、初日のクオリティーが上がりましたね。もともと矢野さんは監督気質というか……。

―プロデューサーでもありますもんね。

田村:そうですね。周りをいつも見渡しているし、全部の音を聴いてる。

千ヶ崎:ライブ中にちょっと「あれ?」ってなると、矢野さんが勘付いてこっちを見てくれて、肝心なところで「行くよ」って、目で合図してくれるんですよ。実は矢野さんは同じサークルの先輩で、もう20年以上の付き合いなんですけど、一緒にツアーを回るのは初めてだったので、不思議な感じもありつつ、すごく嬉しかったですね。

ライブの勢いは生かしたまま、別の「スタジオ作品」として出す方が、試みとして面白い気がして。(堀込)

―今回発表される『EXTRA 11』は6月に行われたビルボードでのライブ音源に、ポストプロダクションを施した作品になっています。いわゆるライブ盤とは異なる、変わった作りのアルバムになっていますが、なぜこのような形でのリリースに至ったのでしょうか?

堀込:『11』を出してからもう1年経つので、ホントはオリジナルアルバムを作りたかったんですけど、今年はフェスにたくさん出ようっていう話をしていて、フェスをやりながらレコーディングをするのは難しいと。であれば、ライブが決まっていたビルボードで、去年のツアーとは違う形に『11』をアレンジして録って、ポストプロダクションを施して、『11』とは別の作品としてリリースしようと思ったんです。

堀込高樹

―『11』リリース時のインタビューで、これからは音源だけじゃなくてツアーにも力を入れて、ライブをレコーディングに反映させたいとおっしゃっていたので、まさにそういう部分が反映された作品だとも言えそうですよね。

堀込:そうですね。あと7月に出した『真夏のサーガ』のカップリングにツアーのライブ音源を収録していたから、ただのライブ盤だと、「またかよ」っていう感じもあるかなって。まあ、通常のライブ盤だって、録ったものをそのまま出すわけではなくて、ミックスし直しているんですけど、その手間の割には、そんなに面白いアイテムだとは思えなかったんですよね。であれば、ライブの勢いは生かしたまま、別の「スタジオ作品」として出す方が、試みとして面白い気がして。

―ライブ盤の受け入れられ方が、今と昔では変わってるという感触もあるのでしょうか。

堀込:ライブに行くハードルは下がっていると思うんですよ。世の中的に、フェスがたくさんあるから。でも、ライブ盤を買おうってところにはつながってない気がしますよね。

千ヶ崎:DVDが普及してからは、みんなライブDVDを買いますよね。音だけっていうのはそんなに需要がないのかもしれない。だから、『真夏のサーガ』みたいに、カップリングに入れることが増えてるんじゃないかな。

千ヶ崎学

―確かに、最近ライブ音源はシングルの付属物になってますよね。コトリさんはライブ盤に想い入れはありますか?

コトリンゴ:ジャズはライブ盤が多いというか、もともとライブレコーディングが多いですけど、ポップスだとやっぱりDVDを買っちゃいますよね。あと最近だと、その日のライブ音源を帰りにもらえる企画とかもあるし、そういう記念盤みたいな扱いになっているのかなと思いますね。

去年出たばっかりの作品をまた作り直すわけだから、買ってくれた人に「前のと大差ねえじゃん」って思われないようにしたくて。(堀込)

―ビルボードでのライブ、およびそれを作品にする上では、何か方向性が決まっていたのでしょうか?

堀込:アレンジに関しては正直結構難航しました(笑)。というのも、一度アルバムとして完成させたものを、次の年に作り変えるのはなかなか難しいんです。ただのアンプラグドでもつまらないし、「あの曲がこうなったんだ」っていう驚きとか面白味がないと作品として成立しないと思ったので、そこはメンバーでいろいろ相談しました。例えば、“fugitive”は千ヶ崎くんと「この曲ツービートでやったらいいよね」って話を前からしていたり、“ONNA DARAKE!”はカントリースウィングっぽくやったら面白そうとか。叩き台は僕が作って持って行って、それをみんなでアレンジした感じです。

田村:“ONNA DARAKE!”は斬新だよ。音階もマイナーからメジャーに変えたもんね(笑)。しかも、この曲のアレンジのイメージとして渡されたのが、細野(晴臣)さんの“Pom Pom蒸気”だったんです。僕はペダルスティール弾きだから細野さんには想い入れがあって、『トロピカル・ダンディー』(1975年)では駒沢裕城さんがペダルを弾いてて、『泰安洋行』(1976年)では谷口邦夫さんがスティールギターを弾いてたので、「次のアルバムは俺が弾けたらいいな」って思ってたの(笑)。そうしたら、次のアルバムにはスティールが入ってなくて、いつの間にか(高田)蓮くんがそのポジションになっちゃった(笑)。とにかく、ああいうスタイルのスティールギターは好きなので、それをKIRINJIでできて嬉しかったですね。

田村玄一

―一番大胆に再構築されているのは、“雲呑ガール”でしょうか?

堀込:そうですね。ライブ音源を聴いてみたら、ただオリジナルより元気がないだけのように聴こえたので、思い切ってコントラバスをシンセベースに変えて、ハーモニーも変えて、玄さんのペダルは残響を全部切って、並べ直して作りました。「これはリアレンジが難しいから、誰かにリミックス頼みませんか?」って話もあったんですけど、みんなから「頑張ってやってください」って言われて(笑)。

千ヶ崎:ビルボードのライブに関しては、全編コントラバスでやることにしていたんですよね。だから、本来コントラバスでアプローチするのは難しい曲も、できる限りそのままやってみるっていうのが個人的な課題というか、面白いところでしたね。

―ただ、それを作品にするにあたっては、ポストプロダクションを施していると。

千ヶ崎:そうですね。インプロ度の高い曲とかは、できる限りライブ音源をそのまま使いたかったんですけど、アコースティックベースはどうしてもマイクで拾った音じゃないと、ラインの音だと納得いかなかったので、悩んだ挙句、マイクで拾って録り直しているんです。

堀込:アコースティックな感じでやってみたけど、元のアレンジとそんなに変わらない印象の曲もあったんですよね。そういうときは、元のアレンジのキャラクターを決めている楽器を変えると、結構変わった感じがして。例えば“虹を創ろう”は、オリジナルはペダルスティールなんですけど、ライブではバンジョーで、今回の音源だとスティールパンに変わっているんです。さらに、そこにコトリさんがシンセを足したりして、元の音源ともライブとも違う形になってるっていう。

左から:田村玄一、堀込高樹

―ポストプロダクションを施すにあたって、何か参照点があったりしたんですか?

堀込:いや、特にないですね。実はこういうことって、わりといろんな人がやってるんですよ。フランク・ザッパは常にライブをマルチで録っておいて、「ここいいな」と思った部分を拾って、1枚のアルバムにしてる。だから、実はよくある方法なんだけど、最近のポップス系ではやってる人があんまりいないのかなって。

―ここまで大胆に再構築してるものはあまりない気がしますね。

堀込:そうかもしれないですね。ただ、今回に関しては状況がそうさせた部分も大きいというか、さっきも言ったように、去年出たばっかりの作品をまた作り直すわけだから、買ってくれた人に「前のと大差ねえじゃん」って思われないようにしたくて。そのために、いろいろ知恵を絞って作ったアルバムなんです。

ゴールデンボンバーがステージに鉄棒を置いてて、曲の途中で鉄棒始めたのは「やられた!」と思ったなあ。(田村)

―昨年のレコーディングとツアー、そして今年のフェス出演と『EXTRA 11』の制作によって、六人の関係性も当初と変わってきているのではないかと思うのですが、そのあたりはいかがですか?

堀込:例えば、“ONNA DARAKE!”の今回のバージョンって、楠さんがボーカルなので、楠さんフィーチャーみたいになってるけど、実は曲のムードを決定しているのは玄さんのペダルスティールなんですよね。誰かをフィーチャーして、ただその人が軸で曲が成り立っているというだけじゃない。そういうのが今回のアルバムでは所々散見できる気がして、グループとしてより生き生きしてきたのかなって思いますね。

コトリンゴ:千ヶ崎さんも今まではほとんど歌ってなかったけど、どんどんみんなでコーラスするようになってきたので、そこがもっと進化すればいいなと思います。

千ヶ崎:頑張ります(笑)。

コトリンゴ:ぜひ! この間「千ヶ崎さんがタップしながら歌うのはどうですか?」って言ったんですよ(笑)。もしくは、玄さんのリードボーカルとか。

田村:じゃあ、僕もタップします(笑)。

堀込:玄さんの方が上手そうだよね。

千ヶ崎:元体操部ですからね。

堀込:玄さんにはバク転してもらいましょうか(笑)。

堀込高樹

―今のKIRINJIは何をやってもオッケーな自由度の高さがありますよね。タップやバク転はわからないけど(笑)。

田村:ゴールデンボンバーがステージに鉄棒を置いてて、曲の途中で鉄棒始めたのは「やられた!」と思ったなあ。

千ヶ崎:じゃあ、僕らも鉄棒を置いて、弓木ちゃんのギターソロの後で玄さんにぐるんぐるん回ってもらいましょう。で、エンディングに合わせて、ムーンサルトで着地するっていう(笑)。

コトリンゴ:ステージもサーカス小屋みたいなのを借りて……。

千ヶ崎:夢が膨らむねえ。『サルティンバンコ』(シルク・ドゥ・ソレイユの演目)みたいになったりして(笑)。

堀込:劇団の人たちが花園神社の境内にテントを張って、そこで何日間か公演したりするでしょ? だから、まずはテントを作ることから始めて、「鬼子母神行くとKIRINJIやってんぜ」みたいな感じもいいですね(笑)。

―今年のビルボード公演みたいに、毎年違った特別公演があるとかいいですね。

堀込:これまでのKIRINJIはしっかり座って、ジッとして聴くような、わりとメロウな曲をやっているイメージがあったと思うんですけど、これからはもっとアクティブな形を見せていきたいですね。しかも、ステージに6人とか7人とかいると、誰かもう1人紛れ込んでもわかんないんじゃないかって気持ちにさせると思うんですよ。「自分もこの中で何か弾けそうな気がする」とか、「私がラッパ吹いてもいいかも」とか、そういう気持ちにさせるようなライブができたらいいなと思います。

左から:千ヶ崎学、コトリンゴ、堀込高樹、田村玄一

―11月にはライブハウスでのライブがありますし、また違ったKIRINJIが見れそうですね。

堀込:そうですね。『11』の曲ばかりやってもなんなので、昔の曲もいくつかやりつつ、初めてやる新曲もそこでできるといいですね。最近の流れがしっかりと見えて、「次はこんなモードかしら?」ってみなさんに感じてもらえるような内容になるといいなと思っています。

リリース情報
KIRINJI
『EXTRA 11』(CD)

2015年11月11日(水)発売
価格:3,240円(税込)
UCCJ-2131

1. だれかさんとだれかさんが
2. fugitive
3. ONNA DARAKE!
4. 狐の嫁入り
5. 虹を創ろう
6. 雲呑ガール
7. ジャメヴ デジャヴ
8. 心晴れ晴れ
9. 進水式

イベント情報
『KIRINJI LIVE 2015』

2015年11月21日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 六本木 EX THEATER ROPPONGI
料金:スタンディング6,480円 指定席7,020円(共にドリンク別)

2015年11月25日(水)OPEN 18:15 / START 19:00
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO
料金:スタンディング6,480円(ドリンク別)

プロフィール
KIRINJI
KIRINJI (きりんじ)

1996年10月、実兄弟である堀込泰行(vo & gt)、堀込高樹の二人で「キリンジ」を結成。97年CDデビュー。2013年4月12日のツアー最終日をもって堀込泰行が脱退。<兄弟時代>17年の活動に終止符を打つ。以後、堀込高樹がバンド名義を継承、同年夏、新メンバーに田村玄一/楠均/千ヶ崎学/コトリンゴ/弓木英梨乃を迎えバンド編成の「KIRINJI」として夏フェス出演を皮切りに再始動。新体制初のレコーディングは大貫妙子トリビュートアルバムにて「黒のクレール」をカヴァー。2013年12月には新体制初となるワンマンライブ「KIRINJI LIVE2013」も東京・大阪で開催。新たに男女混成バンドとして新鮮なアンサンブルを披露。2014年夏、レコードレーベルをVerve/ユニバーサルミュージックに移籍してアルバム『11』をリリース。2015年7月22日にはシングル『真夏のサーガ』、11月11日にはスペシャルアルバム『EXTRA 11』をリリース。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 面白い「ライブ盤」を求めて KIRINJIインタビュー

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて