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わかり合えないのは自然なこと 歴史問題に揺れる日韓作家対談

わかり合えないのは自然なこと 歴史問題に揺れる日韓作家対談

『フェスティバル/トーキョー15』
テキスト
萩原雄太
インタビュー:佐々木鋼平
2015/11/17

「嫌韓」や「ネトウヨ」といった極端なものはあくまで例外的なケースだが、メディアを通して入ってくる情報によれば、日本と韓国との関係は難しいものとなっているようだ。21世紀に入り、両国の交流は進展しているとはいえ、いまだ歴史認識という暗く重い障壁が横たわっており、その壁を超えることは至難の業だ。

劇団「東京デスロック」の主宰であり、埼玉県富士見市の劇場「キラリ☆ふじみ」の芸術監督も務める多田淳之介は、2013年に発表した『カルメギ』で、外国人演出家としてはじめて、韓国で最も権威ある『東亜演劇賞』を受賞した。この作品は、アントン・チェーホフの『かもめ』をモチーフとしながら、韓国人劇作家ソン・ギウンが日本の植民地時代の韓国の日常を描いた作品として換骨奪胎した作品だ。

この秋、多田は『カルメギ』でタッグを組んだギウンとともに『颱風奇譚』という新作を上演する。『フェスティバル/トーキョー15』(以下『F/T』)をはじめ、韓国でも上演されるこの作品は、ウィリアム・シェイクスピアの『テンペスト』を下敷きにしながら、ふたたび植民地時代を背景にアジア近代化の幕開けを描くファンタジーになるという。日本と韓国という国境をまたぎながら、両国の演出家と劇作家はなにを感じて創作を行なっているのだろうか? 彼らが語った言葉からは、日韓のアーティストが一緒に作品を作る難しさとともに、あえてそこに踏み込んでいく背景が浮かび上がってきた。

「日韓」という枠組みでの作品制作は、国の問題ではなく、東アジアに暮らす人間としての、当事者意識から作っているつもりなんです。(多田)

―日本の植民地時代の韓国の日常を描き、韓国で『東亜演劇賞』三冠(2013年度、作品賞・演出賞・視聴覚デザイン賞)に輝いた『カルメギ』は、日本と韓国のお客さんの反応が全然違ったそうですね。やはり両国の間には歴史認識の違いが根深く横たわっており、それを乗り越えるのは簡単ではないのでしょうか?

ソン:日韓の歴史についての感覚や、そもそも持っている知識は両国民で大きく違います。『カルメギ』のときは、両国の観客に同じ芝居を観せることで、こちら側も「こんなに違うのか!」とあらためて思わせられるほど、反応の違いがありました。

ソン・ギウン+多田淳之介『カルメギ』(2013年10月) ©Doosan Art Center
ソン・ギウン+多田淳之介『カルメギ』(2013年10月) ©Doosan Art Center

多田:そもそも日本では、朝鮮半島の歴史を学ぶ機会があまりにも少ないんです。日本人にとって植民地時代の話はショッキングな題材ではありますが、その実情をしっかり直視しないといけないとは思います。とはいえ、あまりそれを言いすぎると、「反日」と叩かれるんですが……(苦笑)。

―多田さんは、2009年から韓国でも活発に作品を発表されていますが、日韓の歴史や政治的なギャップをどのように感じ、どのように受け入れてきたのでしょうか?

多田:当初、韓国では「歴史の話はしない」というスタンスで、生活も作品制作も行なってきました。歴史の話をはじめると、面倒くさいことばかりでその先に幸せな結末が待っていないんですよ。だけど、『カルメギ』を作ることになって、ようやく歴史の話にもちゃんと向き合おうと決めたんです。その理由は、おそらくここ数年の日韓関係の変化もあったと思いますし、僕自身の年齢、あるいは東日本大震災があったことも影響していると思います。

―震災は、日韓の問題にどう関わってくるのでしょうか?

多田:震災以降、「日本人としてのアイデンティティーとはなにか?」ということを考えるようになりました。関東に暮らす人間として、震災に対してある程度の当事者意識を持つことはできますが、西日本の人たちにとっては、当事者意識も薄くなってしまいますよね。そんな状況のなかで、日本人としてどこまでの距離感で当事者意識を持つべきか? について考えざるを得なかったんです。日韓という枠組みで作品を作ることも同様です。戦争へと向かっていった日韓の歴史を描くのは、「悪いことをしたから反省をしなければいけない」という気持ちから作っているわけではなく、この地域に暮らす一人の人間としての、当事者意識から作っているつもりなんです。

左から:ソン・ギウン、多田淳之介
左から:ソン・ギウン、多田淳之介

―「過去の精算」ではなく、あくまでも東アジア地域に暮らす人間としての「当事者意識」の問題である、と。

ソン:東日本大震災については、韓国は日本よりも身近ではありません。ニュースで映像を見たりはしましたが、遠い場所で起こった出来事に感じました。だけど韓国では昨年、セウォル号沈没事故が起こって、大きな社会問題なりました。自然災害と人災という違いはありますが、この事故をきっかけに、韓国のアーティストたちは「国」という枠組みについて強く意識するようになったんです。多田さんもこの事故に興味を持って、韓国のアーティストと議論をしていますよね。ここ数年、それぞれのタイミングで、自分たちの社会を意識して演劇を作るようになったのではないかと思います。

―『F/T15』で上演される『颱風奇譚』は、『カルメギ』と同様に、ソンさんが脚本、多田さんが演出を手がける、日韓のコラボレーション作品になっています。

多田:もともとは、『カルメギ』をKAAT神奈川芸術劇場で上演した際に、富士見市民文化会館「キラリ☆ふじみ」の館長が観にきてくれて、同じコンビで「キラリ☆ふじみ」で上演する作品も作ろうという話から『颱風奇譚』はスタートしました。個人的にも日本と韓国の劇場でコラボレーションをやってみたいと思っていたので、ギウンさんに相談し、ソウルの南山芸術センター、安山アートセンターといった劇場との共同制作が実現し、『F/T15』での上演も決まったんです。

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イベント情報

『フェスティバル/トーキョー15』

2015年10月31日(土)~12月6日(日)
会場:
東京都 東京芸術劇場、あうるすぽっと、にしすがも創造舎、アサヒ・アートスクエア、池袋西口公園、豊島区旧第十中学校
埼玉県 彩の国さいたま芸術劇場
ほか

富士見市民文化会館 キラリふじみ『颱風奇譚』
2015年11月26日(木)~11月29日(日)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
作:ソン・ギウン
演出:多田淳之介

地点×空間現代
『ミステリヤ・ブッフ』

2015年11月20日(金)~11月28日(土)
会場:東京都 西巣鴨 にしすがも創造舎
作:ヴラジーミル・マヤコフスキー
演出:三浦基
音楽:空間現代

『ブルーシート』
2015年12月4日(金)~12月6日(日)
会場:東京都 江古田 豊島区旧第十中学校
作・演出:飴屋法水

『God Bless Baseball』
2015年11月19日(木)~11月29日(日)
会場:東京都 池袋 あうるすぽっと
作・演出:岡田利規

『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』
2015年11月21日(土)~11月23日(月・祝)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 プレイハウス
作・演出・美術・衣裳:アンジェリカ・リデル(アトラ・ビリス・テアトロ)

パリ市立劇場『犀(サイ)』
2015年11月21日(土)~11月23日(月・祝)
会場:埼玉県 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
作:ウジェーヌ・イヨネスコ
演出:エマニュエル・ドゥマルシー=モタ

ギンタースドルファー/クラーセン
『LOGOBI 06』

2015年11月26日(木)~11月29日(日)
会場:東京都 浅草 アサヒ・アートスクエア

ゲーテ・インスティトゥート韓国×NOLGONG
『Being Faust - Enter Mephisto』

2015年11月19日(木)~11月22日(日)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
構成:ピーター・リー

プロフィール

多田淳之介(ただ じゅんのすけ)

演出家、俳優、富土見市民文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督、東京デスロック主宰。俳優の身体、観客、劇場空間を含めた「現前=現象」にフォーカスした演出を特徴とし、古典から現代劇、パフォーマンス作品まで幅広く手がける。「演劇LOVE」を公言し、地域、教育機関でのアウトリーチ活動も積極的に行い、韓国、フランスでの公演、共同製作など国内外問わず活動する。2013年、日韓共同製作作品『カルメギ』で韓国の演劇賞『第50回東亜演劇賞』を受賞。

ソン・ギウン

劇作家、演出家、第12言語演劇スタジオ主宰。2006年から本格的に劇作、演出活動を開始。慣習的な感情表現から脱皮した繊細で緻密な作品作りで注目を集める。いわゆる植民地支配下のソウルを微視的に描く作品や平田オリザの「科学」シリーズの翻訳・演出作品などを発表。『大韓民国演劇大賞優秀作品賞』『ドゥサン・ヨンガン芸術賞(公演芸術部門)』『今日の若者芸術家賞(演劇部門)』などを受賞。多田淳之介演出の『カルメギ』(2013)の脚本では、アントン・チェーホフ原作の『かもめ』を1930年代の朝鮮を舞台にしたか二カ国語(日本語と朝鮮語)が混ざり合う戯曲に翻案し、近作『新・冒険王』(2015)では、平田オリザとの共同脚本・演出を務めた。

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