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ジャズから縄文まで渡り歩く音楽家が語る「戦争」と音楽の起源

ジャズから縄文まで渡り歩く音楽家が語る「戦争」と音楽の起源

『BATTLEFIELD-戦い終わった戦場で-「マハーバーラタ」より』
インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:永峰拓也
2015/11/18

土取利行という音楽家を知っているだろうか? ジャズドラマーとしてキャリアを出発し、坂本龍一、デレク・ベイリーなど世界的なミュージシャンと共演している土取は、その一方で、世界中の民族音楽を学び、弥生時代の銅鐸や、縄文土器を使った「縄文鼓」の演奏、フランスでは旧石器時代の洞窟遺跡での演奏といった、普通の「音楽家」の枠を超えた幅広い活動を行なっている。

そんな彼は、演劇界の巨匠、ピーター・ブルックとも長年にわたって交流を深め、20世紀を代表する作品『マハーバーラタ』(1985年)でも音楽監督として重要な役割を担っていた。今秋、ピーター・ブルックと土取は、30年の時を経て、『マハーバーラタ』に再挑戦した作品、『BATTLEFIELD-戦い終わった戦場で-「マハーバーラタ」より』を日本で上演する。

世界だけでなく、日本でも身近に感じられるようになった「戦争」の本質を描いた『BATTLEFIELD』。彼はなぜいま、ピーター・ブルックとともにこの作品を手掛けたのだろうか? そして、彼が求めてやまない「音楽の起源」とはなんだろうか? 彼の言葉を聞いていると「音楽」というジャンルの持つ幅広い魅力や、均一化されてゆくグローバリズムの波といった問題が浮かび上がってくる。演劇や音楽にほとんど興味がない読者でも、彼の言葉に耳を傾ければ、必ず「現代」を疑う発見があるはずだ。

音楽の起源を求めるために、さまざまな地域、時代の音楽に興味が湧いてきたんです。

―土取さんは、信じられないほど多彩な音楽活動をされていますが、その飽くなき音楽への探究心の原点にあるものはなんでしょうか?

土取:即興で演奏していると、どこからともなく音が現れ「なんでこう演奏したのか」自分でもわからない瞬間が多々あります。そこで、この不思議な音楽の起源を求めるために、さまざまな地域、時代の音楽に興味が湧いてきたんです。インドではリズムが円環構造なのに、イランでは横流れだし、ペルシャ音楽はインドよりもさらに細かい微分音でメロディーが成り立っています。一方、日本の伝統音楽はリズムではなく「間」をとっているという違いが見えてきます。

土取利行
土取利行

―一言で「音楽」といっても、国によって言語が異なるように、構成要素が異なっているんですね。

土取:一方、近代の西洋音楽は、ギリシャもドイツも、フランスもイギリスも、すべてドレミで統一されていますよね。ユーロ通貨と同じように音楽も標準化されているんです。その音楽文化を深く考えずにそのまま受け入れてしまったのが近代日本の誤り。特に1960年代以降、日本人の音楽的感性はどんどん西洋化され、コード進行のなかですべてを解決しようという価値観に変化してしまったんです。

―日本で音楽といえば西洋音楽のことであり、ドレミで作られたものだけが音楽であるかのように考えるのが一般的です。

土取:明治からの義務教育では、邦楽ではなく西洋音楽を教えるし、戦後の学校の音楽室にはバッハやモーツァルトの肖像画が飾られていますよね。邦楽ですら平均律に置き換えられ、五線譜を使うようになりました。たとえば、本当の「わらべうた」(童謡)はもう日本に残っていません。わらべうたは子どもが自由に歌っていたものなのに、先生がピアノで「正しい音階」に揃えてしまうんです。それは、わらべうたとは大きくかけ離れたものですよね。

―そういった世界各地の民族音楽に対する眼差しと、ピーター・ブルックの舞台音楽の仕事との共通点はありますか?

土取:西洋化された僕らは、演劇と音楽を違うジャンルとして捉えていますが、元来、日本やアジアの芸能の多くは音と演技が分かれずに一体化していました。かたちこそ違えど、音楽と演劇が密につながる可能性をピーターとの仕事のなかに感じています。また、文化を単一化し、音楽を平均律化しようとする世界のなかで、各国の文化を背景とする役者を起用して演劇の真実を追究するピーターの作品は、自分のやってきた仕事と共鳴する部分があります。

ピーター・ブルック(『BATTLEFIELD』パリ初演の翌9月16日、自身のアトリエにて撮影)
ピーター・ブルック(『BATTLEFIELD』パリ初演の翌9月16日、自身のアトリエにて撮影)

『BATTLEFIELD-戦い終わった戦場で-「マハーバーラタ」より』パリ初演<
『BATTLEFIELD-戦い終わった戦場で-「マハーバーラタ」より』パリ初演

―ピーター・ブルックと土取さんのコラボレーションは、40年にわたって続いています。なぜピーターは、土取さんの音楽を必要とするのでしょうか?

土取:僕のような即興演奏で役者と共同作業のできる人が希有だからでしょう。ピーターの作品でも、一昨年に来日公演を行なった『スーツ』のような作品は、いわゆる一般的な楽曲なので、僕は必要ありません。僕が音楽に関わるのは、役者の演技と同時に音楽に緻密な即興性が必要とされる作品のときなんです。ピーターは、役者と音楽が対等に渡り合う演奏を僕に要求してきます。

―「演劇と対等に渡り合う」とはどういうことでしょうか?

土取:ピーターの作品で即興演奏をする場合は、たとえばいま会話しているのと同じような感覚で、セリフを喋るように楽器を演奏しています。フリージャズの即興とは異なり、演劇は物語を伝えるための脚本があり、話はあらかじめ決められている。その決まりのなかで、役者が自由に演技をするように、僕も即興演奏をしているんです。

―フリージャズよりも、さらに繊細な感覚を必要とするんですね。

土取:また、それを演者の間だけで完結するのではなく、観客とともに共有する段階まで行かなければなりません。そのために、長い作業を通して無駄な音を一切そぎ落としています。僕は日本人ということもあり、「間」や「沈黙」を尊重します。ピーターが演出でもっとも大事にする「Silence」ですね。沈黙を感知すると、役者の指がすっと動く瞬間、セリフとセリフの微妙な「間」など、音を出す必要があるところが必ず見えてくるんです。

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イベント情報

『BATTLEFIELD-戦い終わった戦場で-「マハーバーラタ」より』

2015年11月25日(水)~11月29日(日)
会場:東京都 初台 新国立劇場 中劇場
脚本:ピーター・ブルック、ジャン=クロード・カリエール、マリ―=エレ―ヌ・エティエンヌ
演出:ピーター・ブルック、マリ―=エレ―ヌ・エティエンヌ
音楽:土取利行
出演:
キャロル・カルメーラ
ジャレッド・マクニ―ル
エリ・ザラムンバ
ショーン・オカラハン
※英語上演、日本語字幕付き
料金:一般7,000円 U-25チケット3,500円

プロフィール

土取利行(つちとり としゆき)

1950年、香川県生まれ。幼少時から祭り太鼓を叩く。1970年代から、ミルフォード・グレイブス、スティーブ・レイシー、デレク・ベイリーといったフリージャズの演奏家たちと共演を重ねる。1976年、ピーター・ブルックの劇団との仕事をはじめ、以降、『Ubu』『鳥の会議』『マハーバーラタ』『テンペスト』『ハムレットの悲劇』『驚愕の谷』などの音楽を手掛ける。世界中で民族音楽を学び、1980年代に桃山晴衣と岐阜の郡上八幡に拠点「立光学舎」を創立、日本の伝統文化再生にも取り組む。10年以上に渡り、日本音楽の古層を調査し、その成果を『銅鐸』『磬石(サヌカイト)』『縄文鼓』などのCDアルバムとしてリリース。最近では、フランスの洞窟壁画の音楽調査と演奏を行っている他、近代の流行歌の元祖、添田唖蝉坊演歌の研究・継承者としても活躍。

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