当真伊都子インタビュー

高木正勝作品のボーカリストとして知られるシンガー兼ピアニスト、当真伊都子が初のソロ・アルバム『dreamtime』を発表した。ピアノの弾き語りというシンプルなスタイルを選択し、プライベートな録音環境でレコーディングが行われた本作は、彼女の囁くような美しい歌声とピアノが堪能できると同時に、深い森の中に迷い込んだかのような安心と不安が同居する不思議な感覚を味わえる作品である。そしてもうひとつ、本作は当真伊都子という音楽家が初めてリスナーと正面から向き合い、正直な自分の心を歌い始めるまでの、感動的なドキュメントでもあるのだ。そんな音楽家としての本当のスタート・ラインに立った彼女の、現在の心境を訊く。

(インタビュー・テキスト:金子厚武)

高木正勝さんは、自分で言葉や音を選ぶ面白さに気付かせて下さいました。

―「4歳の誕生日よりピアノを弾き始めた」とのことですが、それはどのようなシチュエーションだったのでしょうか?

当真:音楽を聴く事、演奏する事が大好きな両親の元に生まれ、ピアノがある環境で育ちました。母が「この子は指が長いからピアノに向いている」と思ったらしく、勧めてくれたようです。

―音楽家としてのキャリアを簡単に振り返っていただけますか? 元々はボーカリストではなかったそうですが?

当真:ピアノを弾き始めた頃から、クラシックを演奏してきました。ソロであったり、アンサンブルであったり、今も演奏しています。曲を作り始めたのは、高木さんの作品に参加してからです。それまでは誰かの作品を演奏することばかりしていましたが、自分の歌を歌い、自分のピアノを演奏するようになりました。

当真伊都子インタビュー

―高木さんの作品への参加は当真さんにとってどんな体験であり、なぜ自分の歌・ピアノへと向かわせたのでしょう?

当真:高木さんは、自分で言葉や音を選ぶ面白さに気付かせて下さいました。それまで自分では開いた事のなかった引き出しを開いて下さったんです。

―高木さんとのそもそもの出会いは? また、高木さんの作品にはどのような印象をお持ちですか?

当真:出会ったのは、高木さんが岡山でライブをなさったとき、私がその頃所属していたバンドでフロント演奏を務めたんです。高木さんの作品は愛情深く、また力強さを感じます。

―影響を受けた音楽家は?

当真:キース・ジャレット、ニック・ドレイク、ザ・ビートルズ、シューマンです。

「自然はいつもそこにある」という安心と信頼、そして、自然はあなた(聴いて下さる方々)のそばにもある、という思いです。

―『dreamtime』にコンセプトのようなものはありますか?

当真:正直に申しますと、特にはありませんでした。ただ、ライブで聴いてもらうのではなく、プライベートな時間に聴いてもらうということを常に意識していました。自分が部屋で音楽を聴いているときと同じように、私の音楽を聴いて下さる方々にそっと寄り添える音楽とはどういう音楽だろう? ということを考えながら、録音していました。

―「ヒーリング、癒し」といった観点で語られることも多いかと思いますが、ご自身では自分の音楽をどのように捉えていますか?

当真:素朴、ですね。

―ピアノでの弾き語りという形式を選んだのはなぜですか?

当真:コントロールし易いからです。まだまだ表現力が不足しているので、人を演奏で引っ張るということが難しいんですよね。深く息を吸いたくなったり、吸いたい息を我慢したくなったり、記号などで示す事が困難な気持ちを、弾き語りであれば自分で調整しつつ演奏することができるので。

―「限りなくプライベートな録音環境」で録音されたとのことですが、具体的にはどのような環境で録音されたのですか?

当真:自宅や知人宅など、馴染みの深い場所です。自分が落ち着くことのできる場所・時間で録音しました。

―ボーカリストとして心がけていることは?

当真:力を抜くこと、周りの音をよく聴いて混ざろうとすること、整え過ぎないこと、好きな歌声を聴くこと、香りを吸い込むように聴くことです。

―人間と自然との関係性を詩的に描いた歌詞が非常に印象的です。歌詞の背景にはどのような思いがあるのでしょう?

当真:「自然はいつもそこにある」という安心と信頼、そして、自然はあなた(聴いて下さる方々)のそばにもある、という思いです。音楽に包まれることによって、見ている景色が変わると良いなと願っています。

待っていてくれる人がいるという事は私に大きな勇気をくれます。

―そのような自然への思いには何か背景があるのでしょうか? 自然の中で育ったのですか?

当真:確かに、自然の中で育ちました(笑)。というのもありますが、大きな自然を目の前にしたときや、素朴な自然に安らいだときは、心が素直に震え、有り難さを感じるからです。

―歌詞は基本的に英語ですが、“joy”の日本語訳が“不変”だったり、“hide it”が“探す”だったりしますよね? この発想はどういったところから生まれているのでしょう?

当真:「joy = 不変 = 喜び」、「hide it = 探す = 隠す」のように、私にとって切り離せない関係にあるものということを表しています。誰にとってもそうかもしれない、とも思っています。

―“dancer”には歌詞がありませんが、対訳だけは載っています。この理由は?

当真:この曲はピアノの部分の方が先にできたんですけど、演奏しているとき、また繰り返し聴いているときに見えてきた景色が、この対訳だったんです。それをみなさまにお伝えしたら、より想像の幅を広げていただけるのではないか、と思って載せることにしました。

―“joy”だけが日本語詞であることに理由はありますか?

当真:“joy”はこのアルバムの曲の中で、最も新しい曲なんです。私が英語で歌うのは「日本語にはない発音が面白いから」というのが理由なのですが、「自分の気持ちに幕をかける」というのも理由です。実は、後者の理由は私の弱点だったのですが、最近乗り越えることができました。日本語で自分の気持ちを表現し、聴いてもらいたいと思う事ができるようになったので、日本語で歌うことに挑戦しました。

―弱点を乗り越えることができたのは、なにかきっかけがあったのですか?

当真:これ! というきっかけは無いのですが…私の歌を聴きたいと言って下さる方が徐々に増えてきたという事が乗り越える助けとなりました。幕をかけたままだと、聴きたいと言って下さる方に対して背を向けていると感じるようになったんです。正直に心を込めて歌おう、と思ったときに答えが見えました。待っていてくれる人がいるという事は私に大きな勇気をくれます。これからは、ファンタジーも心も歌うことができると思います。

どんな作品とでもきちんと向かい合うと、必ずぬくもりを感じることができるんですよね。

―『dreamtime』というタイトルの由来を教えてください。

当真:「dream」について歌っている曲が多いからです。夢のこと、無意識のこと、ファンタジーのことを歌っています。現実のような、夢のような、そういうひとときをみなさまに過ごしていただきたく願っています。

―アートワークは高木さんが担当されていますが、どのようなやり取りをしたのでしょう?

当真:図書館の奥で眠っていた本のように、大人の方にも満足していただける絵本・画集・詩集のようにとお願いしました。曲を深く聴き、詩を丁寧に読み、仕上げて下さったと思います。

当真伊都子インタビュー

―ちなみに、高木さんは『dreamtime』についてどんな感想をおっしゃっていましたか?

当真:宮沢賢治作品の読後感と似ている、と。

―さすが、実にしっくりくる感想ですね。ちなみに、当真さんご自身は宮沢賢治の作品はお好きですか?

当真:はい、大好きです。子供部屋の本棚に入っていました。特に『セロ弾きのゴーシュ』、『注文の多い料理店』、『シグナルとシグナレス』、『銀河鉄道の夜』が好きです。

―音楽以外で当真さんにとってのインスピレーション源となるものはなんでしょう?

当真:景色、絵、人、違和感や余韻を残す出来事ですね。

―最近「違和感や余韻を残す出来事」がありましたか?

当真:とある3人で同じ記号を見ていたはずが、解釈が3様だったことがありました。

―もう少し具体的に教えていただいてもいいですか?

当真:このことは本当は秘密なのですが…知人とアンサンブルをしていたときに、「情熱的に演奏する」という記号があって、情熱を高らかに演奏する人と、情熱をうなるように演奏する人と、情熱をこらえつつ演奏する人と、3者3様だったんです。3人共伸び伸びと自分の解釈を表現したので、当然不揃いなアンサンブルになってしまったのですが(笑)、それがすごく印象的だったんです。

―最後に、抽象的な質問になりますが、当真さんにとっての「音楽」とは?

当真:いつもそばに在るものです。自然と同じであり、人と同じでもある。どんな作品とでもきちんと向かい合うと、必ずぬくもりを感じることができるんですよね。私にとってなくてはならない存在です。

リリース情報
当真伊都子
『dreamtime』

2010年4月7日発売
価格:2,800円(税込)
felicity FCT-1002

1. sound of dream
2. helpless
3. wind grow
4. dancer
5. word
6. as velvet
7. upstanding
8. timeless sleep
9. joy
10. hide it

プロフィール
当真伊都子

1977 年生まれ。岡山県出身。4 歳の誕生日よりピアノを弾き始める。ライブでフロントをつとめたことがきっかけとなり、高木正勝の作品(rehome, sail, COIEDA)にヴォーカルとして参加。



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