
一度は音楽業界と決別した藤井麻輝、復帰後の怒濤の活動を語る
minus(-)『G』- インタビュー・テキスト
- 小野島大
楽曲提供の話も、BELLRING少女ハートのライブがあまりにも面白かったんで、楽屋でこっちから言ったんですよ。一緒にやりませんかって。
―では、具体的な内容について訊かせてください。“The Victim”は、アイドルグループのBELLRING少女ハート(以下、ベルハー)にminus(-)が提供した楽曲をリメイクしたものです。そもそものきっかけはライブでベルハーと共演したことですよね。
藤井:今年5月に対バンツアーをやったんですよ。各地で、ゲスト違いで。
―ヒカシューとかTHE NOVEMBERSとか。
藤井:企画段階で、異色の対バンをアイドル系でもやりたいねって金光さん(マネージャー、雑誌『音楽と人』編集長)と話してて、金光さんが推薦してくれた中でスケジュールが合ったのがベルハーだったんです。
―対バン企画で一緒にセッションまでやって、その後に曲まで提供して。ベルハーはどうでした?
藤井:よくわかんなかったです……。
―(笑)。ベルハーのバージョンの“The Victim”も聴きましたけど、ボーカルが強力すぎてトラックまで頭が回らないという……。
藤井:それでいいんです(笑)。繰り返しばかりの一見単純な歌詞なんですけど、7人の女の子がああいう詞を歌っていくことの狂気というかカオスが出れば、それでいいのかなと思って。でも、ベルハーのライブはホントに凄いですよ。ファンはモッシュするしダイブするし。
―ああいう今のアイドルカルチャーに興味があるんですか?
藤井:いや、ベルハーぐらいライブがぶっ飛んでないと興味は湧かないですね。ベルハーは僕の音楽観がすべて破壊されるぐらいの、ある意味最強のノイズユニットなので(笑)。これ、否定してるように受け取られるかもしれないけど、肯定してるんですよ。ライブを1回見ればわかります(笑)。楽曲提供の話も、彼女たちのライブがあまりにも面白かったんで、楽屋でこっちから言ったんですよ。森岡が曲を書いて僕がトータルプロデュースするので、一緒にやりませんかって。
―自分から申し出たんですか! じゃあ本気じゃないですか(笑)。ライブの映像では面白くなさそうな顔してたのに(笑)。
藤井:僕、ああいう場が苦手なんですよ(笑)。でもライブはホントに面白かったし、彼女たちのキャラクターがなければ“The Victim”はできなかった。素材としても優れているし、いいアーティストだと思います。だからホント、「お仕事感」はないですよ。そもそも今は「お仕事感」のない仕事しかしてないし。
―そしてその“The Victim”のリメイクが、『G』に収められていますね。
藤井:ベルハーのバージョンは、僕が作るノイズとは違う方向のノイズミュージックだったから、作っているうちに自分も壊れちゃって(笑)。それでもできあがったものを聴いていたら、フレンチなエレポップみたいなアプローチにもできるんじゃないかと思って、minus(-)でやってみようと思ったんです。
専任のボーカルがいないから、minus(-)はストレスなくやれてるんじゃないですかね。
―“The Victim”で歌っているボーカルのKateはどういう経緯で決まったのでしょう?
藤井:ボーカルはいっぱい候補がいて、最初はもうちょっとパワーのある女性ボーカルも一瞬考えたんですけど、やはりウィスパー系のコケティッシュなボーカルがいいと思い、オファーしました。
―他にも今作では、“Peepshow”でLUNA SEAのJが歌っています。
藤井:Jはベーシストだし、生粋のボーカリストではないんですけど、いい感じで曲にハマってますよね。データだけ送って、彼のスタジオで歌を録ってもらったんですけど、想像をはるかに超える歌を聴かせてくれました。この“Peepshow”はライブでは森岡が歌ってるので、ファンからすると「どうして(森岡)賢ちゃんじゃないの?」って声はあると思いますけど、「(森岡のボーカルの)クオリティーが低いからだよ」としか言い様がないですね。
―(笑)。いいんですか、そんなこと言って。
藤井:全然いいんじゃないですか。そういうキャラなんで(笑)。だって森岡は、表現者ではありますけど、ボーカリストではないですもん。付け焼き刃でできるものじゃないですよ、ボーカルは。
―そういう意味では、minus(-)に専任のボーカリストがいないことをハンディキャップだと感じることはありますか?
藤井:いや、ハマる人を曲ごとに選べるのは利点ですね。専任のボーカルだと、曲に対して歌がちょっと異質でも採用せざるを得なくなる。そうじゃないから、minus(-)はストレスなくやれてるんじゃないですかね。
―もう1曲、“Maze”ではCUTEMENのPicorinをゲストボーカルに迎えていますね。
藤井:デイヴ・ガーン(Depeche Modeのボーカル)みたいな声が欲しかったんですよ。というとPicorinに失礼ですけど。結構前から彼に歌ってもらいたかったんです。意表を突いてて面白いかなと思ったし、楽しんで起用してみました。
―2曲とも最初に楽曲があって、その曲の指し示す方向に沿ってボーカリストを選んでいったわけですね。
藤井:はい。曲があって、そこに乗っかる歌は誰がいいかなと考えて。
―“Descent into madness”と“Dawn words falling”は、森岡さんのボーカルですね。
藤井:“Descent into madness”は最初のライブからずっとやってる曲なんですよ。この曲は森岡が歌ってガンガン盛り上げる曲としてすでにファンの間では定着してるんで。比較的彼にとっては歌いやすい曲ですからね。
SCHAFTと睡蓮はけっこう身を削るんですよ、いろんな意味で。minus(-)は……公園で三角ベースやるよ、みたいな(笑)。
―21年ぶりの再始動となるSCHAFTの作業は、『G』の制作が終わってからスタートしたのですか?
藤井:いや、minus(-)が途中から入ってきたんです。SCHAFT再始動の発表は今年の10月でしたけど、実質は去年の春過ぎぐらいから始まってますから。僕は、SCHAFTと睡蓮とLillies and Remains(のプロデュース)をやるために復帰したようなものなんで。
―ではminus(-)は藤井さんの中でどういう位置づけなんですか?
藤井:minus(-)はそもそもライブをやるためのユニットなんですよ。音楽活動を再開するとき、一番最初に何ができるか考えたら、ライブだなと。でも、一人でピーピーガーガー(ノイズを)やっても広がらないと思って、パートナーとして思い浮かんだのが森岡賢なんです。だから最初は、作品作りのパートナーとしては考えてなかったんですけど、いつの間にか共作するようになって、CDも作るようになって、単なるライブユニットからパーマネントなユニットになってきたんですね。
―睡蓮、SCHAFT、minus(-)と、臨む姿勢は何が違いますか?
藤井:どれも全然違いますね。たとえば睡蓮だったら、鶴が機織りするみたいに篭もって、一つひとつの音をホントに考え抜いて磨き上げて、念の塊みたいな作り方をする。SCHAFTも睡蓮に近いけど、もう少し開放的ですね。この2つはけっこう身を削るんですよ、いろんな意味で。minus(-)は……公園で三角ベースやるよ、みたいな(笑)。缶蹴りするよ、みたいな。
―遊び感覚?
藤井:いや……適当ってわけではなくて、音に対する執着とか念とかを必要としない音楽ってことですね。プロデューサー的にちょっと距離を置いているというか。
―森岡賢を藤井麻輝がプロデュースしているような。
藤井:そう。作り方としては森岡ソロを僕がプロデュースしてる感じですね。
―なるほど。そう考えると、このユニットのいろんなことが説明できる気がしますね。
藤井:だからアー写も、僕は後ろに引っ込んで、森岡が前に出てるでしょ。
―ああ、そういう意味があるわけですね。
藤井:僕がプロデュースしない完全な森岡ソロもあるし、その違いを楽しんでもらえたらと思っていますね。うん、その言い方が正しいかもしれない。
―でも藤井麻輝の活動としては両方必要ってことですよね。睡蓮やSCHAFT的なものと、minus(-)的なものと。
藤井:そういうことにしておいてください(笑)。今はSCHAFTの作業の真っ最中なんで、どうしてもそっちに引っ張られますよね。音に対する入り込み方はminus(-)とは全然違いますから……と言うと森岡に悲しまれるかもしれないけど。
リリース情報

- minus(-)
『G』(CD) -
2015年12月9日(水)発売
価格:2,160円(税込)
AVCD-931681. Descent into madness
2. Peepshow
3. Maze
4. Dawn words falling
5. The Victim
イベント情報
- 『ワンマンライブ「LIVE 2015 Vermillion」』
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2015年12月28日(月)OPEN 18:15 / START 19:00
会場:東京都 新宿 ReNY
料金:4,500円(ドリンク別)
プロフィール

- minus(-)(まいなす)
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元SOFT BALLETの藤井麻輝と森岡賢によるユニット。2014年5月に結成。ニュー・ウェーブ、エレクトロニカ、ノイズという要素を交え、他にはないオリジナリティに溢れたサウンドを構築。10月22日にファーストミニ・アルバム『D』をリリースし、その後、LUNA SEA主催のフェスを始め、ヒカシュー、BELLRING少女ハート、石野卓球、SUGIZO、THE NOVEMBERSといった幅広い相手との対バンを行なう。2015年12月9日にはセカンドミニアルバム『G』をリリース予定。さらに12月28日には新宿ReNYでのワンマンライブを予定している。