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インディペンデントのカリスマ・岸野雄一が『メ芸大賞』を受賞

インディペンデントのカリスマ・岸野雄一が『メ芸大賞』を受賞

『文化庁メディア芸術祭』
インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:相良博昭

毎年、国内外でエッジのある作品が多数公募され、その入選者が注目される『文化庁メディア芸術祭』の受賞作品展が、間もなく国立新美術館で開催される。19回目となる今回もマンガ、アニメ、ゲーム、アートなど、幅広いジャンルから選りすぐられた作品が一堂に展示されるが、そのなかでも異彩を放ちつつ、注目を集めている一人が、『エンターテインメント部門大賞』を受賞した岸野雄一であるのは間違いないだろう。

音楽家、パフォーマーとしてNHK教育テレビの道徳番組『時々迷々』のテーマソングの作詞・作曲・歌唱と番組全体の音楽プロデュースや「ヒゲの未亡人」で活動し、博覧強記の著述家としてあらゆるカルチャーについて執筆、さらには東京藝術大学で教鞭をとり、坂本龍一と映画音楽の研究書を著し……と、「スタディスト(勉強家)」という謎の肩書を名乗る岸野雄一の活動は、あらゆるジャンルを横断している。

今回『エンターテインメント部門大賞』を受賞した『正しい数の数え方』は、そんな岸野が作った子ども向けの音楽劇。このインタビューでは、『正しい数の数え方』に込められた、子どもたちに対する思いだけでなく、岸野自身の子ども時代の思い出、そして芸術に注ぐ「エモーション」の根源までたっぷりと語りおろしてもらった。

メディアを横断しながら物語を進めることで、子どもたちの自由な想像力を掻き立てたかった。

―ミュージシャン、パフォーマー、批評家、大学講師など、さまざまな分野で活躍されている岸野さんですが、ずっと一貫して名乗られている「スタディスト」という肩書きについて教えて下さい。

岸野:最初は「勉強家」と名乗っていたんですけど、それでは「ギャラを勉強しまっせ~!」みたいな、ディスカウントの意味にも取れてしまうので、あるときに「スタディスト」に変えました(笑)。そもそも、なにか専門的な職業に就きたかったわけではなく、広く文化総体と関わっていきたいと思っていたので、この肩書は都合がいい。実演もできるし、批評もできる。その時々でスタンスを変えられるんです。

 岸野雄一
岸野雄一

―「なんでもあり」な表現活動をするための肩書きだったんですね。『第19回 文化庁メディア芸術祭』では、そんな岸野さんによる「人形劇+演劇+アニメーション+演奏」作品、『正しい数の数え方』が『エンターテインメント部門大賞』を受賞しました。まさにジャンルにとらわれない、独自の視点やユーモアにあふれた参加型の作品ですが、これはどんな経緯で作られたのでしょうか?

岸野:パリのデジタルアートセンター「ラ・ゲーテ・リリック」のキュレーターから「子ども向けの作品を作ってほしい」と依頼を受けたのがきっかけでした。未亡人に扮したぼくが映像とシンクロしながらパフォーマンスする「ヒゲの未亡人」というユニットをやっているのですが、そのヨーロッパツアーをキュレーターが観に来てくれて。日本では「ヒゲの未亡人」と聞くとコミカルな名前のイメージが先行しますが、ヨーロッパでは、演劇仕立てのライブと映像のコラボレーションをアートの文脈で見てくれる人がたくさんいるんです。

―たしかに、映像と音楽と演劇が掛け合わさった「ヒゲの未亡人」は、メディアアート的でもありますね。

岸野:ただ、子どもがいきなり「ヒゲの未亡人」の文脈を理解するのは難しい。しかもオファーをいただいてから公演までわずか3か月しかなかった。そこで、ぼくがやっているバンド「ワッツタワーズ」で長らく演奏している“正しい数の数え方”をストーリー仕立てにリメイクし、「ヒゲの未亡人」の手法と組み合わせたパフォーマンスにできないかと考えたんです。「数」は、人が社会を認識したり、生きていくうえでの基本でもあり、音楽などいろんなところにつながる要素を持っていますよね。この曲は、ぼく自身のテーマソングみたいなものでもあったので、自分がいままで積み上げてきたことの集大成として「全部のせ」で盛り込みました(笑)。

―舞台背景に流れるアニメーションでは、ひらのりょうをはじめ、稲葉まり、らっパルといった、注目の若手アニメーターとともに、キャラクターデザインを西島大介、水野健一郎らが担当しています。

岸野:アニメーションは自分の世界観をヴィジュアライズするわけですから、とてもこだわりました。時間がなかったので逆転の発想で、一人ではなくいろんなアニメーターの方にお願いしたんです。せっかくいろんな人に頼むのだから、絵のタッチも動きもバラバラにやったほうが面白い、と。主人公の川上音二郎と犬のジョンがいろんな絵柄で登場しても、観ている子どもたちは自然とその共通点を探してくれます。さらにぼく自身がステージ上で演じている姿もあり、人形劇もある。そうやってメディアを横断しながら1つの物語を進めることで、さまざまな表現手法を行き来する可能性や楽しさから、子どもたちの自由な想像力を掻き立てることがやりたかったんです。

―それで「人形劇+演劇+アニメーション+演奏」という構成になったわけですね。ちなみに岸野さんは子どもの頃、神様になりたいと願っていたそうですが、それはなぜだったんでしょうか?

岸野:ははは。それは絶対的な存在への憧憬といったものではなく、単に死ぬのが本当に怖かったから、「なんとかして神様になって死を免れることはできないか?」と本気で考えていたんです。でもあるとき子ども版の『聖書』や『古事記』を読んでいたら、神様たちもバタバタ死んでいく(笑)。「うわ、神様も死ぬんだ……」というショックで2、3日眠れなかったことを覚えています。

―まさに、想像力が生み出した体験ですね(笑)。

岸野:あと、人間は成長と共に新しい言葉をどんどん覚えていくので、大人になれば動物とも話せるようになると信じていました。それも、そうじゃないと知ったときは落胆した(笑)。「金色」ってどうやったら作れるんだろう? と、いろんな色のクレヨンを混ぜて実験したこともあります。そのときも濁ったグレーになって落胆しましたが、子どもたちにはそういった「イメージする力」を養ってほしいと考えているんです。万能感の快楽を克服しておのれの力量を知る、というあきらめの瞬間ですね。

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イベント情報

『第19回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門大賞』受賞作品 岸野雄一『正しい数の数え方』

2016年2月3日(水)~2月14日(日)開演15:00(金曜日のみ18:00開演の回もあり)
会場:東京都 六本木 国立新美術館 2階 企画展示室2E
プロデュース・脚本:岸野雄一
ディレクション:伊藤ガビン
演奏:ワッツタワーズ
出演:
岸野雄一
ジョン(犬)
声の出演:加藤賢崇
料金:無料(混雑状況によって整理券を配布する場合あり)

トークショー
『わたしが知ってる岸野雄一』

2月3日(水)
ゲスト:大友良英(音楽家)
2月4日(木)
ゲスト:ケラリーノ・サンドロヴィッチ(劇作家、音楽家)
2月6日(土)
ゲスト:宇川直宏(エンターテインメント部門審査委員、現在美術家、京都造形芸術大学教授、DOMMUNE主宰)
2月7日(日)
ゲスト:細馬宏通(滋賀県立大学人間文化学部教授)
2月8日(月)
ゲスト:伊藤ガビン(編集者、ゲームデザイナー、平成22~24年度メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員)
2月10日(水)
ゲスト:八谷和彦(メディアアーティスト、東京芸術大学美術学部准教授)
2月11日(木・祝)
ゲスト:常盤響(写真家、デザイナー)
2月13日(土)
ゲスト:西島大介(漫画家、音楽家)
2月14日(日)
ゲスト:松本弦人(グラフィックデザイナー)
会場:東京都 六本木 国立新美術館 2階 企画展示室2E
時間:16:30~17:00
料金:無料(混雑状況によって整理券を配布する場合あり)

『第19回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展』

2016年2月3日(水)~2月14日(日)
会場:東京都 六本木 国立新美術館、TOHOシネマズ 六本木ヒルズ、SuperDeluxe、セルバンテス文化センター東京ほか
休館日:国立新美術館は2月9日、他会場は決定次第オフィシャルサイトで発表

受賞作品:
アート部門
大賞
CHUNG Waiching Bryan『50.Shades of Grey』
優秀賞
Adam BASANTA『The sound of empty space』
Marcel.lí ANTÚNEZ ROCA『Ultraorbism』
KASUGA(Andreas LUTZ / Christoph GRÜNBERGER)『Wutbürger』
長谷川愛『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』
新人賞
山本一彰『算道』
Lorenz POTTHAST『Communication with the Future 06 - The Petroglyphomat』
Louis-Jack HORTON-STEPHENS『Gill & Gill』

エンターテインメント部門
大賞
岸野雄一『正しい数の数え方』
優秀賞
Jesse RINGROSE / Jason ENNIS『Dark Echo』
Sougwen CHUNG『Drawing Operations Unit:Generation 1』
Assocreation / Daylight Media Lab『Solar Pink Pong』
Marc FLURY / Brian GIBSON『Thumper』
新人賞
吉開菜央『ほったまるびより』
Christian WERNER / Isabelle BUCKOW『Black Death』
橋本麦 / ノガミ カツキ group_inou『EYE』

アニメーション部門
大賞
Boris LABBÉ『Rhizome』
優秀賞
岩井俊二『花とアリス殺人事件』
Riho UNT『Isand (The Master)』
NGUYEN Phuong Mai『My Home』
Gabriel HAREL『Yùl and the Snake』
新人賞
新井陽次郎『台風のノルダ』
Agnès PATRON / Cerise LOPEZ『Chulyen, a Crow's tale』
Natalia CHERNYSHEVA『Deux Amis (Two Friends)』

マンガ部門
大賞
東村アキコ『かくかくしかじか』
優秀賞
志村貴子『淡島百景』
田亀源五郎『弟の夫』
業田良家『機械仕掛けの愛』
HO Tingfung『Non-working City』
新人賞
ネルノダイスキ『エソラゴト』
おくやまゆか『たましい いっぱい』
安藤ゆき『町田くんの世界』
料金:無料

プロフィール

岸野雄一(きしの ゆういち)

1963年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科、美学校等で教鞭をとる。「ヒゲの未亡人」「ワッツタワーズ」などの音楽ユニットをはじめとした多岐に渡る活動を包括する名称としてスタディスト(勉強家)を名乗る。

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