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インディペンデントのカリスマ・岸野雄一が『メ芸大賞』を受賞

インディペンデントのカリスマ・岸野雄一が『メ芸大賞』を受賞

『文化庁メディア芸術祭』
インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:相良博昭

「エモーション」を検索することはできない。検索からこぼれ落ちたところに「面白いもの」があると思うんです。

―『正しい数の数え方』は、いままで積み上げてきたことの集大成というお話でしたが、今作を含めて岸野さんの作品のコアにあるものって、ご自身ではなんだと思われますか?

岸野:陳腐な言い方になりますが、観客が作品を観たときに醸しだされる「エモーション」の共有でしょうか。そこには自分の哲学があるのですが、それは言語化できるものではない。言葉やロジックからはこぼれ落ちてしまうものなんです。ですので、実際に足を運んでもらい、観て、感じていただくしかない。

『第19回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門大賞』 岸野雄一『正しい数の数え方』 ©2015 Out One Disc
『第19回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門大賞』 岸野雄一『正しい数の数え方』 ©2015 Out One Disc

―批評家としての分析力を持ってしても、その「エモーション」の正体は言葉にできない?

岸野:検索キーワードさえあれば、なんでも調べられる世の中ですが、検索からこぼれ落ちるところに「面白いもの」があると思うんです。エモーションって検索には引っかかりませんよね。「スーパーの入口につながれている犬が、いつ飼い主が戻ってくるかわからずに『くぅーん』と鳴いているときの気持ち」っていうのは、検索しようがない。でも、こうやってコミュニケーションを取りながら、その「気持ち」を共有することはできるじゃないですか。

―批評家としての岸野さんと、クリエイターとしての岸野さんは、作品についての向き合い方が違っているのかもしれませんね。

岸野:批評では、他人の作品を自分の言葉でいかに広く共有できるかをずっと考えてきました。けれども実作者としては、言語化できないもの、だけど絶対に存在するものを表現することにチャレンジしている。自分で言語化できることは書けばいい。言葉にできないことを表現の俎上に乗せられたらと思っています。

 岸野雄一

―『正しい数の数え方』は、岸野さん演じる100年前の俳優・川上音二郎を主人公に繰り広げられます。“オッペケペー節”で一世を風靡し、1900年の『パリ万博』にも出演した川上音二郎は、パリで公演した岸野さんとも重なる部分があります。

岸野:音二郎の“オッペケペー節”は、日本語ラップの元祖とも言われていて、音楽のなかでリズミカルに日本語を表現した最初の人物であり、日本人による最初期の音源としてレコードにも残されているんですね。音二郎自身の声ではないのですが、一座の公演の様子が記録されています。

―今作では、レコードも重要なアイテムになっているそうですね。

岸野:レコードはまさに「記録」であり、記録された情報は正確な反復を生み出します。一方、「記憶」はあいまいで簡単に作り変えられるものとされてきましたが、いまでは記録も改変可能な時代になり、記憶のほうが人の心に届いてしまうこともある。そんな「記憶と記録」の関係、「再表象と再生」の関係もテーマの1つになっています。

―子ども向けの作品とはいえ、哲学的な深いテーマに貫かれている。

岸野:ただ、子どもたちにそういう哲学を知ってほしいわけではありません。一番感じてほしいのは、自分が子どもの頃に感じていた「果てしない気持ちへの畏敬の念」ですね。それは、子どもたちだけでなく、老若男女が共感できることだと思いますし、自分自身の生命観を持つことともつながっていきます。先日、お正月で遊びに来た親戚の小学生に『ウルトラQ』の第10話「地底超特急西へ」というエピソードを見せたのですが、主人公である子どもが助からないラストシーンで、親戚の小学生はびっくりして泣いていました。いまのテレビドラマだと、子どもは常に庇護の対象であり、救われる存在なんですよ。でも、現実の世界ではそんなことはなく、子どもは大人よりも簡単に死んでしまうんです。

―「死」というものを想像したとき、そこには果てしない感覚が広がっていきます。子ども向けの作品だからといって、子どもだましにするつもりはないんですね。

岸野:子どもにわかるものを作りましょうという姿勢では、子どもをナメていることになってしまいますよね。今回のようにメディアを横断する複雑な作品でも、子どもたちはどうやって読み解けばいいのか必死で考えながら観てくれるんです。昨年、パリ公演の後にアサヒ・アートスクエアで上演した際は、子どもたちが食い入るように観てくれて「やった!」と思いました。子どもは「おもしろい」「つまらない」を瞬時に判断するいちばんシビアな観客ですからね。『文化庁メディア芸術祭』での上演も、どんな反応があるのか楽しみにしています。

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イベント情報

『第19回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門大賞』受賞作品 岸野雄一『正しい数の数え方』

2016年2月3日(水)~2月14日(日)開演15:00(金曜日のみ18:00開演の回もあり)
会場:東京都 六本木 国立新美術館 2階 企画展示室2E
プロデュース・脚本:岸野雄一
ディレクション:伊藤ガビン
演奏:ワッツタワーズ
出演:
岸野雄一
ジョン(犬)
声の出演:加藤賢崇
料金:無料(混雑状況によって整理券を配布する場合あり)

トークショー
『わたしが知ってる岸野雄一』

2月3日(水)
ゲスト:大友良英(音楽家)
2月4日(木)
ゲスト:ケラリーノ・サンドロヴィッチ(劇作家、音楽家)
2月6日(土)
ゲスト:宇川直宏(エンターテインメント部門審査委員、現在美術家、京都造形芸術大学教授、DOMMUNE主宰)
2月7日(日)
ゲスト:細馬宏通(滋賀県立大学人間文化学部教授)
2月8日(月)
ゲスト:伊藤ガビン(編集者、ゲームデザイナー、平成22~24年度メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員)
2月10日(水)
ゲスト:八谷和彦(メディアアーティスト、東京芸術大学美術学部准教授)
2月11日(木・祝)
ゲスト:常盤響(写真家、デザイナー)
2月13日(土)
ゲスト:西島大介(漫画家、音楽家)
2月14日(日)
ゲスト:松本弦人(グラフィックデザイナー)
会場:東京都 六本木 国立新美術館 2階 企画展示室2E
時間:16:30~17:00
料金:無料(混雑状況によって整理券を配布する場合あり)

『第19回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展』

2016年2月3日(水)~2月14日(日)
会場:東京都 六本木 国立新美術館、TOHOシネマズ 六本木ヒルズ、SuperDeluxe、セルバンテス文化センター東京ほか
休館日:国立新美術館は2月9日、他会場は決定次第オフィシャルサイトで発表

受賞作品:
アート部門
大賞
CHUNG Waiching Bryan『50.Shades of Grey』
優秀賞
Adam BASANTA『The sound of empty space』
Marcel.lí ANTÚNEZ ROCA『Ultraorbism』
KASUGA(Andreas LUTZ / Christoph GRÜNBERGER)『Wutbürger』
長谷川愛『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』
新人賞
山本一彰『算道』
Lorenz POTTHAST『Communication with the Future 06 - The Petroglyphomat』
Louis-Jack HORTON-STEPHENS『Gill & Gill』

エンターテインメント部門
大賞
岸野雄一『正しい数の数え方』
優秀賞
Jesse RINGROSE / Jason ENNIS『Dark Echo』
Sougwen CHUNG『Drawing Operations Unit:Generation 1』
Assocreation / Daylight Media Lab『Solar Pink Pong』
Marc FLURY / Brian GIBSON『Thumper』
新人賞
吉開菜央『ほったまるびより』
Christian WERNER / Isabelle BUCKOW『Black Death』
橋本麦 / ノガミ カツキ group_inou『EYE』

アニメーション部門
大賞
Boris LABBÉ『Rhizome』
優秀賞
岩井俊二『花とアリス殺人事件』
Riho UNT『Isand (The Master)』
NGUYEN Phuong Mai『My Home』
Gabriel HAREL『Yùl and the Snake』
新人賞
新井陽次郎『台風のノルダ』
Agnès PATRON / Cerise LOPEZ『Chulyen, a Crow's tale』
Natalia CHERNYSHEVA『Deux Amis (Two Friends)』

マンガ部門
大賞
東村アキコ『かくかくしかじか』
優秀賞
志村貴子『淡島百景』
田亀源五郎『弟の夫』
業田良家『機械仕掛けの愛』
HO Tingfung『Non-working City』
新人賞
ネルノダイスキ『エソラゴト』
おくやまゆか『たましい いっぱい』
安藤ゆき『町田くんの世界』
料金:無料

プロフィール

岸野雄一(きしの ゆういち)

1963年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科、美学校等で教鞭をとる。「ヒゲの未亡人」「ワッツタワーズ」などの音楽ユニットをはじめとした多岐に渡る活動を包括する名称としてスタディスト(勉強家)を名乗る。

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何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

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