脳内で組み立てた「架空の街」を毎日増殖させる弱冠23歳の才能

明日を担うアーティストやデザイナーを発掘、支援する目的のもと2008年より開催され、多数のクリエイターを輩出してきた『Tokyo Midtown Award』。今回、アートコンペ部門のグランプリを受賞したのは、設計図にも似た細やかな描写と、SF漫画やアニメーション表現の金字塔を思わせる風格を宿した都市風景を描く23歳のアーティスト、田島大介だ。その精密で壮大な作風は、昨秋おこなわれたアキバタマビ21の『捨象考』において漫画や建築といった分野からも話題になるなど、各方面で注目の若手である。平面作品に加え、戦艦などを摸した立体作品、自身のルーツでもある漫画などを横断的に制作する田島の俯瞰的な眼差しと、それらの作品が生み出される背景をひもといた。

石田徹也さんや大竹伸朗さんの「1枚の作品が持つ力」に衝撃を受けて、キャンバスのなかで勝負しようと思ったんです。

―今回、東京ミッドタウンの「ストリートミュージアム」で展示されている『A.D.2098』を拝見して、その構図とスケール感に圧倒されるような感覚を得ました。じっくり見ていくと実在するビルやタワーなどの様々な発見がありおもしろいです。

「A.D.2098」 木製パネル、黒インク、ケント紙、オイルマーカー、丸ペン W336×H162×D3cm ©DAISUKE TAJIMA 2016
「A.D.2098」 木製パネル、黒インク、ケント紙、オイルマーカー、丸ペン W336×H162×D3cm ©DAISUKE TAJIMA 2016

田島:『A.D.2098』では「未来の東京」をテーマに制作しました。作品が展示される場所が東京ミッドタウンということもあったので、六本木の象徴となるような建造物をいくつか描いているんですよ。

―たしかに東京タワーなどが見えますね。実在の風景をベースにいつも作品を制作されていますか?

田島:ふだんは頭のなかのイメージをもとに、ひたすらキャンバスに向き合っている感じですね。写真や実物を見てもその通りには描けるはずがないというジレンマがあるので「見ないほうがマシ」というか……。

田島大介
田島大介

―かなり精密な構図ですが、特に写真などを見ずに架空の街を描いているということですか……?

田島:想像を参考にするほうがストレスなく描けるんですよね。例えばWikipediaで解説文を読んでそこから場面を想起したり、そういう方法が自分には向いていますね。ただ一部、例えば看板の文字のようなものは、実際に香港の街の風景を写真に撮って、それを参考にしたりもしています。

―絵をよく見ると、同じ黒色でも太さが異なりますね。画材はどういったものを使用されているのでしょうか。

田島:下書きは鉛筆で、仕上げは丸ペンと証券用インク、あと定規です。丸ペンは、一般的には漫画制作に使われる道具なのですが、自分は高校生から大学生の途中まで漫画を描いていたので、その延長線上で使っています。同じペンをずっと使っていると磨耗してきますよね? そのペンをずっととっておいて、摩耗率の異なる12本を、描きたい線によって使い分けているのですが、このペンの使い方は、大友克洋さんの手法を参考にしています。

下書きは頭のなかで組み立てたイメージをもとに鉛筆・シャープペンで行なう
下書きは頭のなかで組み立てたイメージをもとに鉛筆・シャープペンで行なう

仕上げは丸ペンとインクで
仕上げは丸ペンとインクで

―きっかけは漫画だったのですね。たしかに田島さんの描く都市風景は、大友克洋さんや士郎正宗さんといった漫画家の方々が作り出す世界観を彷彿とさせます。

田島:自分の作品を見た方からはそういった感想をいただくことがあるのですが、漫画を描くきっかけであり一番影響を受けているのは、浦沢直樹さんですね。高校時代美術部に所属していたのですが、部室の机のなかに『20世紀少年』があって。すぐ「描きたい!」と思い漫画を描くようになりました。

絵を描くときに使用している道具。コピックで黒の階調を塗り分け、摩耗率の異なる丸ペンで線の太さを描き分ける。シャープ芯はきまって4Bとのこと
絵を描くときに使用している道具。コピックで黒の階調を塗り分け、摩耗率の異なる丸ペンで線の太さを描き分ける。シャープ芯はきまって4Bとのこと

―そのまま、漫画家の道を歩むことは考えなかったのでしょうか?

田島:漫画雑誌の新人賞を受賞したこともあったのですが、プロの漫画家になりたいという気持ちはあまりなくて。かといってアートの世界も視野になかった。そんななか、大学1年生のときに石田徹也さんや大竹伸朗さんの作品集を見て、とにかく「1枚の作品が持つ力」に衝撃を受けたし「かっこいい!」と思って。そこからは自分もキャンバスのなかで勝負したいと考えるようになったんです。

人って生きてるなかで何かを忘れていくなって感じていて、そういうものに抗いたくて毎日場所を問わず描いているんです。

―田島さんの作品は、ビルや戦艦、何かしらの機構などがモチーフにされていますが、それはどういう想いからきているのでしょう?

田島:ビルは集合体としてのあり方に惹かれるんです。なんというか、そこから巨大な都市や膨大な情報のなかで生きる人間の孤独も見えるような気がするんですよね。

―たしかに田島さんの描かれるビルはそれ自体にエネルギッシュな印象を受けます。

田島:人間が描かれていないことで、よく「背景画」のようだと言われることもあるのですが、僕には建造物も人間と平等に活き活きして見えるし、物語を感じるんですよね。だからビルは、何かの背景にあるべきものでも風景でも無機物でもなく、自分にとっては主役なんです。

田島大介

―高層ビル群に、ある種のエネルギーやストーリーを感じるということですが、特にビルに囲まれて子ども時代を過ごしたというわけではないですよね?

田島:そうですね。子ども時代は山に行って虫を捕まえたり、川に行ったり、のどかな土地で育ちました。でもその頃からすでに今描いているような風景や戦艦、周囲のものを描写していたんですよ。おそらく漫画やアニメから得たイメージが自分のなかに蓄積しているんだと思うのですが、僕は今、自分が子ども時代に好きだったものを忘れないために描いていると思っていて、家でも、新幹線のなかでも、場所を問わずどこでも毎日描いているんです。人って生きていくなかで何かを忘れたり、社会の風潮に気持ちを流されたりするなって日々感じていて、そういうものに抗いたいのだと思います。

―今日お持ちいただいたドローイングもすごい量ですもんね。しかも封筒や、ちらしの裏にまで(笑)。

田島:今日持ってきたのはごく一部ですが、描くことは日々の習慣になっています。人に見せるものと見せないもので描き方を変えていて、こういうふだん人に見せないものの場合は、もう無意識的に描いていますね。

封筒の裏に描かれた戦艦のドローイング。田島いわく「封筒は紙がしっかりしていて描きやすい」とのこと
封筒の裏に描かれた戦艦のドローイング。田島いわく「封筒は紙がしっかりしていて描きやすい」とのこと

 

―平面の一方で、戦艦などをモチーフとした立体作品も制作されていますね。これも、設計図を描くことなく想像で制作されるんですか?

田島:はい。そもそも設計図ってどういうものかがよくわからなくて。木材で骨組みを作って、サランラップの芯やダンボールを組み合わせています。立体は、日頃から描いている戦艦のスケッチの向こうにあるものですね。

戦艦のスケッチ
戦艦のスケッチ

「天龍級6番艦リュウグウノツカイ率いる神風艦隊」 段ボール、木材、針金ワイヤー、ラッカー、パステル W90×H115×D570cm, W43×H94×D380cm,  W50×H96×D380cm ©DAISUKE TAJIMA 2015 撮影:森昌之
「天龍級6番艦リュウグウノツカイ率いる神風艦隊」 段ボール、木材、針金ワイヤー、ラッカー、パステル W90×H115×D570cm, W43×H94×D380cm, W50×H96×D380cm ©DAISUKE TAJIMA 2015 撮影:森昌之

今のような作品制作をこれから40~50年にわたってとにかく継続していきたいと思っているんです。

―今回、『Tokyo Midtown Award』に出品したきっかけはどういったものだったのでしょうか?

田島:大学に入学した頃からポスターを見て気になっていたのですが「今はまだ実力的に無理かな」とずっと思っていて。卒業制作後、制作の調子がよかったので、満を持して応募しました。

―グランプリの副賞としてハワイで滞在制作を行ったそうですね。

田島:今年の2月に2週間滞在して、前半1週間はスタジオのなかで制作、後半の1週間でライブドローイングを行ないました。「いろんな人に作品を見てもらいたい」という動機だけで応募したので、グランプリを獲れたことも、ハワイに行けることにも驚きました。香港の風景は好きなので、アートフェアのついでに街や看板の写真を撮ってそれを作品の参考にしたりするのですが、基本的にあまり積極的に海外に行くタイプではないので。それにハワイというと観光地のイメージしかなくて特に興味がなかったんです。でも実際は全然違いました。

ハワイ大学マノア校 コモンズギャラリー内でのライブドローイング風景
ハワイ大学マノア校 コモンズギャラリー内でのライブドローイング風景

―と言うと?

田島:現地の人たちの身長、体格、肌の色、それぞれ異なるいろんな人が入り混じっている感じが新鮮でした。毎日濃厚な新しい出会いがあって、いろいろありすぎて覚えてないくらいなのですが(笑)、出会った人々それぞれが異なるバックグラウンドや考え方をもっているので、日本人と比較すると一人ひとりが誰とも個性がかぶってないのが印象的で。そのことがとても自由に感じられて、日本のなかで作品作りをやめざるを得ない人や、作家を続けていくことを悩む人にその雰囲気を知ってほしいとも思ったんですよね。

ハワイ大学マノア校 コモンズギャラリー内でのライブドローイング風景
ハワイ大学マノア校 コモンズギャラリー内でのライブドローイング風景

―やめざるを得ないというのは、アーティストが日本で生きていく厳しさといったことでしょうか?

田島:日本ではアートを支援する制度があまりないので、レベルが高い人がたくさんいるにもかかわらずアートの分野で活動を続けていきにくい風潮がありますよね。自分の周りでもそういった悩みを抱えている人がいるし、行き詰まりを感じてやめてしまう人も多いように感じていて。でもだからこそ自分は、今のような作品制作をこれから4~50年にわたってとにかく継続していきたいと思っているんです。

田島大介

―今の段階ですでに、「続ける」ことに自覚的でありたいと考えているんですね。

田島:さっき自分が、大竹伸朗さんや石田徹也さんに惹かれると言ったのも、作風ではなくて、作品に向かうひたむきさみたいな姿勢の話なんですよね。10年間くらいだったら同じ作品を作り続けることってできると思うんですけど、それ以上になると話は別なんじゃないかなと。その目標は、今は自分のためだけかもしれないけど、続けたという事実がいずれは若い人たちの活動を後押しするのではいかと思っていて。だから、ずっと続けていくためにも毎日絵を描いてないと落ち着かないんですよね。自分にとって中断は許されないんです。

イベント情報
東京ミッドタウン『ストリートミュージアム』

2016年3月18日(金)~4月17日(日)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン プラザB1F
出展作家:
田島大介
上坂 直
阿部岳史
尾花賢一
風間天心
三上俊希
料金:無料

プロフィール
田島大介 (たじま だいすけ)

1993年奈良県生まれ。画家。2015年愛知県立芸術大学美術学部美術科彫刻専攻卒業。平面、立体、複製物など多様な媒体を駆使しながら制作を展開している。近年の主な展示に、『Young Art Taipei 2015』(2015年 / Sheraton grande, 台北)、個展『怒りと圧力の街』(2015年 / LAD GALLERY, 名古屋)、『アートアワードトーキョー丸の内2015』(2015年 / マルキューブ, 東京)、『Tokyo Midtown Award 2015』(2015年 / 東京ミッドタウン プラザB1F)、『捨象考』(2015年 / アキバタマビ21, Arts Chiyoda333,東京)



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