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女性ダンサーが語る、満員電車で培われた日本人の文化と個性

女性ダンサーが語る、満員電車で培われた日本人の文化と個性

国際交流基金アジアセンター
インタビュー・テキスト
武藤大祐
撮影:田中一人

いま日本のコンテンポラリーダンスシーンのなかで、国境をまたいで活動する振付家やダンサーがますます増えている。なかでも伝統舞踊が豊富に息づく東南アジアで活躍する代表的なダンサー・振付家といえるのが、山田うんと北村明子だろう。

山田は近年、マレーシアのダンサーや教育者たちと継続的に交流を深めていき、先日クアラルンプール公演を終えたばかり。一方の北村は、インドネシアの伝統舞踊の踊り手たちとがっぷり四つにコラボレーションした『To Belong』プロジェクトを4年続けてきただけでなく、昨年からはカンボジア、ミャンマー、インドへも視野を広げている。

世代は近いものの、そのスタイルは大きく異なる二人だが、東南アジアでの経験からどんな刺激を受け取っているのだろう。意外にもはじめてとなる対談で、それぞれの視点を語ってもらった。

インドネシアの武術プンチャック・シラットのある流派では「プトリ」っていう女性の技が最高位なんです。一番上手くならないと教えてもらえない。(北村)

―1月末に行なわれた、山田さんのクアラルンプール公演を拝見させていただきました。『ワン◆ピース』(マレーシアキャスト版)と、ダンスカンパニー「Co.山田うん」による『春の祭典』の二本立て。非常に充実した内容で、打ち上げも深夜まで盛り上がっていましたが、朝7時発の帰国の飛行機には無事に乗れましたか?

山田:乗れましたよ、朝までサルサクラブで踊っていましたけど(笑)。現地のダンサーたちに行きつけの店に連れて行ってもらって。ナイトカルチャーの1つとして、じつはサルサがいまアツいんですよ。

Co.山田うん『春の祭典』マレーシア公演 ©Wakako Aichi
Co.山田うん『春の祭典』マレーシア公演 ©Wakako Aichi

山田うん『ワン◆ピース』(マレーシアキャスト版) ©Wakako Aichi
山田うん『ワン◆ピース』(マレーシアキャスト版) ©Wakako Aichi

北村:日本でもサルサブームありましたよね。ラテンのノリって有無を言わさず、その場にいるだけで巻き込まれちゃう。

山田:もう腰とか振っちゃって。プロみたいな人が教えてくれるんですけど、10分くらいするとすぐ踊れるようになるので、気がついたら知らない男の人にグルグル回されたりしてる(笑)。

北村:上手い人にリードされてね。

山田:ただ、サルサの踊りは男性に主導権があるんですよね。そこがちょっとね、だんだん腹が立ってくる(笑)。

北村:すごくよくわかります(笑)。

北村明子
北村明子

―お二人とも日本だけでなく、他のアジアの国々での活動も活発ですが、東南アジアに通いはじめたのは、北村さんのほうがやや早いんですよね?

北村:最初は武術に興味があって、「プンチャック・シラット」というインドネシアの武術を習いはじめたのが2003年頃。そのときは毎年バリの山奥に通って、とんでもなくハードな修行をしていました。朝6時に起きて3時間、昼3時間、夜3時間。

山田:ええ~~。

北村:いまはもうできない(笑)。

―北村さんといえば、インドネシアのダンサーとのプロジェクト『To Belong』や、最近はカンボジア、ミャンマー、インドへもリサーチに行かれているそうですが、もともとは武術への興味だったんですね。

北村:大学時代にはダンス以外にも空手を習ったり、古武術研究家でもある甲野善紀さんの道場に通っていたこともあります。

北村明子『To Belong / Suwung』 photo:大洞博靖
北村明子『To Belong / Suwung』 photo:大洞博靖

―山田さんも甲野善紀さんとは交流がありますよね。今日は女性ダンサー二人の対談ですが、お二人ともやっていることはわりと男っぽい。

北村:他のアジアの国へ出かけて行くと、現地で知り合う女性ダンサーや女優の方たちがすごくたおやかで……、衝撃を受けることが多いです(笑)。

山田:そうそう、女性として潤ってる!(笑) ダンスよりも演劇のほうが顕著で。そもそもムスリムでヒジャブ(イスラム教の女性が頭や身体にまとう布)を毎日身につけているような女性も、カラフルな布やアクセサリーでオシャレに気を使っていたり。私の関わった学校などでは、たおやかで潤っていて、ピュアで、ちょっと殻を割ると泣いちゃうくらい繊細な方が多かった印象がありますね。

北村:インドネシアのスマトラ島に暮らす、ミナンカバウ人のような母系社会に行くと、また違うのかもしれません。ちなみにインドネシアの武術プンチャック・シラットの伝統流派の1つPDでは「プトリ」っていう女性の技が一番高位なんです。一番上手くならないと教えてもらえない。その動きもたおやかで、ちょっとした仕草で相手を倒すような技になっているんですよ。

女性アーティストが集まる会議には、インドネシアのお姫様や、マレーシアでホームレスになることを選択したアーティストの方などが集まっていました。(山田)

―山田さんはここ数年、マレーシアでの活動が続いています。

山田:マレーシアのダンスキュレーター、ビルキス・ヒジャスが女性のパフォーミングアーティストが集まる会議『Work It!』(2012年)に招いてくれて、そこからずっと交流が続いています。会議で私のプレゼンテーションを見た人が翌年、大学のインターナショナルダンスフェスティバル『Tari13』に呼んでくれて、そのフェスを見た演劇の先生が、また翌年にフィジカルシアターの授業をやってくれと。そこでいろんな学生と知り合っていくうちに「Co.山田うん」の作品を踊れる人がいそうだとわかったので、じゃあオーディションをしよう、と次々につながっていって。

山田うん
山田うん

―『Work It!』はどんな方の集まりだったんですか?

山田:アジアから6か国、ヨーロッパから6か国、合計12か国12人の女性パフォーマンスアーティストです。インドネシアのお姫様や、マレーシアでホームレスになることを選択したアーティストの方、ブラジルやノルウェーやギリシャ出身のコンセプチュアルアートを突き詰めている方などが集まっていました。みんなとてもポリティカルで、批評的で、マイノリティーで強烈でした。それぞれの表現手法を公演形式でプレゼンしたり、インド舞踊やフラメンコ、ギリシャ民族舞踊や阿波踊りなど、祖国の伝統芸能を教え合ったり、朝から晩まで喧々囂々を10日間行いました。

―女性ならではの議題も多そうですね。

山田:マレーシアでも女性にまつわる問題はいろいろあります。一夫多妻制の文化なので、ジェラシーやDVの問題とか。会議参加者全員で女性のための保護相談センターに取材にも行きました。そこで聞いた話をもとに、今度は私たち自身を振り返って見ると、じつはそれぞれが性的マイノリティーの問題を抱えていたり、いわゆる普通の「女性」なんてほとんどいないことがわかった。先ほど「女性らしさ」の話が出ましたけど、ものすごく巨漢の方とか、女性同士で結婚していて最近やっといい精子を見つけて子どもを授かった女性とか。なかなか過激な話し合いになりました。

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イベント情報

山田うんマレーシア公演
『ワン◆ピース』(マレーシアキャスト版)
『春の祭典』(Co.山田うん)

2016年1月30日(土)、1月31日(日)
会場:マレーシア クアラルンプールThe Kuala Lumpur Performing Arts Centre, Pentas1
共催:Co.山田うん、国際交流基金クアラルンプール日本文化センター、マレーシア国立芸術文化遺産大学、MyDance Alliance

Co.山田うん イスラエルツアー
『舞踊奇想曲 モナカ』他

2016年3月25日(金)、3月26日(土)
会場:イスラエル テルアビブ Tmu-Na theater

北村明子新作公演
『Cross Transit』

2016年3月30日(水)、3月31日(木)全3公演
会場:東京都 仙川 せんがわ劇場
演出・構成・振付 北村明子
ドラマトゥルク・ビジュアルアートディレクター:KIM HAK
振付・出演:
柴一平
清家悠圭
松尾望
長屋耕太
Chy Ratana(Amrita Performing Arts)
料金:
前売 一般3,000円 学生2,500円
当日 一般・学生3,500円

プロフィール

山田うん(やまだ うん)

ダンサー、振付家。器械体操、バレエ、舞踏などを経験し、1996年から振付家として活動を始める。音楽、美術、文学、学術、ファッション、多様な身体などをリソースに機知に富んだダンスを発表。2002年ダンスカンパニー「Co.山田うん」設立。日本における稀少なコンテンポラリーダンスのカンパニーとして、またソロダンサーとして、話題作を発表し続けている。繊細かつ生命力溢れるダイナミック、音楽性、物語性、幾何学構造を併せ持つパフォーマンスは世界中から注目されており、日本のみならずアジア、中東、欧州で舞台やコラボレーション、ワークショップ、また若手ダンサーの育成等を行なっている。『第8回日本ダンスフォーラム大賞』、平成26年度『芸術選奨文部科学大臣新人賞』受賞。

北村明子(きたむら あきこ)

振付家・ダンサー、信州大学人文学部准教授。早稲田大学在学中の1995年、文化庁派遣在外研修員としてベルリンに留学。2001年代表作『finks』は多数都市にて上演、モントリオール『HOUR』紙の『2005年ベストダンス作品賞』受賞。2005年ベルリン「世界文化の家」委託作品『ghostly round』は世界各国で絶賛を得た。2011年インドネシアとの国際共同制作「To Belong project」をスタートし、毎年新作を上演。2014年には『To Belong/Suwung』を発表、インドネシア公演を成功させた。同年、国際共同制作インドネシアオペラ『Gandari Dance Opera』がインドネシア『Tempo』紙にて『ベストパフォーマンス賞』受賞。2013~14年度信州大学文化庁事業の総合プロデュースを担当。2015年ACC個人助成日米芸術交流プログラムグランティー。

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