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注目を集める「伝統芸能」の楽しみ方を作家・岩下尚史に聞く

注目を集める「伝統芸能」の楽しみ方を作家・岩下尚史に聞く

『スパイラル芸能の宴2016「花方」~第二章「若松の宴」』
インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:田中一人 編集:佐々木鋼平

歌舞伎、能、狂言などの「伝統芸能」に対して、近年、人々の関心が高まっている。2013年にリニューアルした歌舞伎座には、当初の予想を20万人も上回る年間130万人あまりの人々が押し寄せており、東京を中心に伝統芸能の魅力を紹介するイベントも以前に比べて格段に増加している。かつては「古くさいもの」として冷淡な扱いを受けてきた伝統芸能だが、ここに来て、その面白さにようやく多くの人が気づきはじめたようだ。

2013年より、作家の岩下尚史によって開催されている『花方』は、そうした芸能のゆくえに関心を寄せる人たちに、次代を担うべき清々しい継承者を紹介するシリーズ。当代一の芸の目利きであり、かつては新橋演舞場に勤務しながら伝統芸能を見続けてきた岩下は、スパイラルホールを自らの座敷に見立て、若手の芸能者たちによる実技とトークセッションによって、「芸」による充実した会の成功を目指しているのだ。

ところが今回、そんな岩下に話を聞いたところ、いわゆる「伝統芸能」に対する世間からの好意的なイメージに対して、違和感を感じることも多いと言う。それは一体どういうことなのだろうか? 岩下が捉える伝統芸能の「実状」を語ってもらった。

昔のインテリは、伝統芸能は「封建的」だと悪口を言ってたのに、いまでは逆に褒めるようになりました(笑)。

―CINRA.NETでも、伝統芸能を取材した記事の人気は高く、若い人たちを中心に興味の高まりを肌で感じています。岩下さんとしては、このような状況をどのように感じていますか?

岩下:たしかに公演の数は増えたようですね。この10年ほど前から新聞やテレビが、急に「伝統文化」「伝統芸能」と取り上げだして、世間一般も好意的な態度を取りはじめたような気がします。昭和の頃は負の印象が強かったですからね。

―そうだったんですか?

岩下:敗戦によって進歩的な文化人が、伝統的なものはすべて「封建的」だと決め付けたんですね。いまはブームにもなっていますが、それまでは「歌舞伎なぞ無学な衆愚の慰みにすぎない」というのが、知識人たちの認識だったと思います。

―そこまで虐げられていたんですね。意外です。

岩下:それが、最近ではメディアもインテリたちも、いわゆる「伝統芸能」を文字や口の上では誉めるようになり、たとえば、文楽への助成金問題が話題になると、「国が保護するべきだ」なんて意見も出てくるほど(笑)。昔に比べたら、ずいぶん好意的になった気がします。もっとも、私などは「伝統的」とされる物事に接するたびに「本当かな?」と怪しまずにはいられないのですが……(笑)。

岩下尚史
岩下尚史

―「伝統的」という枠組みすらも怪しいということでしょうか?

岩下:そもそも「伝統芸能」「伝統文化」と呼ばれる、茶道、華道、謠曲仕舞、琴三味線、日本舞踊などは、いずれも稽古を授けて得る指導料や家元制度によって支えられてきたんです。その家の芸を伝承するには、まずは継承する者の生活が成り立つようにしなければならない。だからこそ「封建的」だと戦後に批判されようとも、昭和30年代から40年代までは「花嫁修業」の名のもとに、「お稽古ごと」として繁盛していました。それが平成になって以降は激減したんです。

―「伝統芸能」の世間的なイメージはどんどん変化している?

岩下:最近はメディアにも注目されていますが、実際には、いまでも伝統芸能に興味を持っている人は、まだまだ世の中の1パーセントくらいかもしれませんね(笑)。たとえば、歌舞伎座のお客さんの層は広がったとは思いますが、生まれてはじめて歌舞伎を観る人が圧倒的に多いですし、1回観たらそれで終わりだという人も多いかもしれません。ファンになって何回も観に来るような人は、全体から見たらわずかかもしれませんね。

―まだまだ、伝統芸能が、かつてのように身近になっている状況ではないんですね。

岩下:もともと伝統芸能っていうものは、民衆とは縁の薄いものだったんですよね。歌舞伎は「江戸の庶民のもの」という表現も、あれはなんとなく印象操作の気味がありますね。

『花方』~第一章「星逢いの宴」公演の様子 撮影:岡本隆史
『花方』~第一章「星逢いの宴」公演の様子 撮影:岡本隆史

―え、そうなんですか?

岩下:その歴史を振り返っても、そもそも歌舞伎は「贅沢品」だったんですね。もちろん身分に関係なく観られる点では、江戸時代から大衆芸能でしたが、もともとは金がかかるものだったんです。安い席も一部ありましたが、芝居茶屋を通して見物するのは、御殿女中や旗本、それに町人と称される表通りに大きな店を構えるような金持ち、その取巻きである花街の芸者などが中心でした。金も暇もない庶民は、江戸三座(幕府から認められた中村座・市村座・森田座による歌舞伎)には縁がなく、寺社の境内で小屋掛けの芝居を観に行くか、寄席で噺家が見てきたように話す内容から想像して、役者の顔などは錦絵で眺めるほかはなかったでしょう。

―歌舞伎といえば、江戸の町人文化というイメージだったんですが、大きな誤解だったんですね……。

岩下:そもそも町人という階級は家持ちの有産者であり、いわゆる庶民ではなかったんですよ。そういった庶民的なイメージは、昭和20、30年代の時代劇映画によって作られた「幻想」だと思います。ちょうどその頃から、歌舞伎座が、バスで乗り付けてくる団体客を受け入れるようになり、本当の意味での歌舞伎の大衆化がはじまります。その昔、江戸時代の武士階級が滅びてからは、歌舞伎の観客の主流は花街の女性が中心で、あとは金と暇のある有産階級の夫人令嬢でしたが、この昭和30年代を機にいろいろな人が団体客の一員として、歌舞伎を観に行くようになっていきます。

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イベント情報

『スパイラル芸能の宴2016「花方」~第二章「若松の宴」』

2016年4月29日(金・祝)16:30開演(開場は開演の30分前)
会場:東京都 表参道 スパイラルホール

第1部
清元『玉屋』

立方:片岡千之助
浄瑠璃:清元一太夫、清元國恵太夫
三味線:清元昂洋、清元美十郎

トークセッション
出演:
片岡千之助
清元昂洋
清元一太夫
進行:八嶋智人
聞き手:岩下尚史

第2部
東をどり『東風流彩色見本』

立方:喜美弥、きみ鶴、寿々女
演奏:多賀子、照代、由良子

トークセッション
出演:
喜美弥
きみ鶴
寿々女
多賀子
照代
由良子
進行:八嶋智人
聞き手:岩下尚史

料金:前売3,500円

プロフィール

岩下尚史
岩下尚史(いわした ひさふみ)

作家。國學院大學客員教授。新橋演舞場株式会社在職中、企画室長として劇場創設の母体である新橋花柳界主催「東をどり」の制作に携わる。2007年処女作『芸者論』で新人としては異例の第20回『和辻哲郎文化賞』を受賞。これを機に、本格的な作家としての活動を開始。三島由紀夫にまつわる実話をモチーフに書き下ろした小説『見出された恋』『ヒタメン』など話題作を発表している。また、日本人の古典的な暮らしや伝承芸能についての実態に基づいた識見が注目され、講演会のみならず、テレビ番組の出演など様々な場で活躍をしている。

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