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注目を集める「伝統芸能」の楽しみ方を作家・岩下尚史に聞く

注目を集める「伝統芸能」の楽しみ方を作家・岩下尚史に聞く

『スパイラル芸能の宴2016「花方」~第二章「若松の宴」』
インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:田中一人 編集:佐々木鋼平

若い継承者の成長を見ながら自分も年月を重ねることは、後々の人生に深い喜びをもたらすはずです。

―3回目を迎える『スパイラル芸能の宴『花方』』では、今回、歌舞伎俳優の片岡千之助が踊る「清元『玉屋』」とともに、新橋芸者による舞踊が上演されます。「フジヤマ・ゲイシャ」と言われるように、日本文化の代表格と見られている芸者ですが、実際に芸者の芸を見たことがある人は、能や歌舞伎以上に少ないですよね。

岩下:いまでは、花柳界も衰退してしまい、当人たちですら芸者という職業の実態がよくわからなくなっていて、三味線を弾いて歌っているのが芸者だと思っている人がほとんどです。一般の人々も、テレビや芝居のなかでは見たことはあっても、実際に芸者を見たことがある人は少数でしょうね。

左から:喜美弥、きみ鶴、寿々女
左から:喜美弥、きみ鶴、寿々女

―今回の『花方』に出演するのは、まさにいま新橋で活躍する芸者たちです。いったい、彼女たちの芸にはどんな特徴があるのでしょうか?

岩下:新橋は、明治以降、政府の高官や財界人が社交場として利用していたため、日本を代表する一流の花街として現在に至ります。また、明治半ばから芸の奨励策を用いて、稽古に熱心な土地でした。大正14年に創設された新橋演舞場は、その象徴的な事業であり、これが実を結び、昭和30年代には新橋芸者から二人の人間国宝が誕生しています。

―新橋の花柳界は芸に対して高いプライドを持っていたんですね。

岩下:ただ、芸に力を入れすぎたせいで、芸者は踊って唄うものという印象が強くなりすぎた気味もあります。その本来の仕事は、宴の主催者を助けて、招待客の心を和ませるように進行することにあります。そうした客の機嫌を取り持つための手段として、唄三味線と踊りがあるわけで、芸者にとって一番大切なのは、場の寸法を読むこと、機転を利かした会話の心得でしょうね。

『花方』~序章「花の宴」公演の様子 撮影:岡本隆史
『花方』~序章「花の宴」公演の様子 撮影:岡本隆史

―なるほど。さらに『花方』では、名人と呼ばれるベテランではなく、若手の芸能者たちを積極的に起用しています。どうして「名人芸」ではなく、若い芸に焦点を当てているのでしょうか?

岩下:伝統芸能が古臭いものに思われていた昭和の頃までは、その家に生まれても反抗したり、他の職業に就く若者も少なくありませんでした。しかし最近の若い人たちは、当たり前のように家を継ぐようなのです。だから、そういう人たちを呼んで、「どういうつもりで継いだの?」「こんな大変な状況なのにどうしたいの?」ということを聞きたい。その覚悟のほどを聞いて、皆さんにご紹介することで、及ばずながら、応援したいと思いまして。

左から:片岡千之助、清元昂洋、清元一太夫
左から:片岡千之助、清元昂洋、清元一太夫

―スパイラルホールに足を運ぶ観客のほとんどは、伝統芸能をはじめて観るような若い人々だと思います。今回の『花方』を見て、なにを感じてほしいですか?

岩下:『花方』では、スパイラルホールを「青山亭」という座敷に見立て、実際の芸をご覧に入れます。もし若い継承者の芸に、好ましいものをお感じになりましたら、どうぞ、(片岡)千之助さんの出演する歌舞伎芝居へもお出掛け下さい。そして、清元昴洋さんや一太夫さんに就いて、お稽古をなさってみて下さい。また、新橋のお茶屋へお上がりになり、三人の芸者衆を呼んであげて下さい。こうした応援の一つひとつが、芸を後世に伝えることにつながります。

―助成金ではなく、生きた文化として「伝統芸能」を後に伝えていけるわけですね。

岩下:先ほど、芸の本質は人格だと申しましたが、若い継承者の成長を見ながら自分も年月を重ねることは、後々の人生に深い喜びをもたらすはずです。私はそのご紹介役として、俳優の八嶋智人さんと一緒に、青山亭の宴を催し、皆さんに楽しんでいただきたいと思っております。

―わかりました。今日は日本の芸能を考える上で、とても意義深いお話が聞けました。

岩下:こんな歳になっても、伝承芸能の世界に対する権力も影響力もない私ですが(笑)、スパイラルホールさんのご厚意で、このような機会をいただいたわけですから、楽しんでもらえる、そして色気のある宴を開きたいと思います。

―いやいや、岩下さんのような存在が、日本の芸能を変えると思います! どうもありがとうございました。

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イベント情報

『スパイラル芸能の宴2016「花方」~第二章「若松の宴」』

2016年4月29日(金・祝)16:30開演(開場は開演の30分前)
会場:東京都 表参道 スパイラルホール

第1部
清元『玉屋』

立方:片岡千之助
浄瑠璃:清元一太夫、清元國恵太夫
三味線:清元昂洋、清元美十郎

トークセッション
出演:
片岡千之助
清元昂洋
清元一太夫
進行:八嶋智人
聞き手:岩下尚史

第2部
東をどり『東風流彩色見本』

立方:喜美弥、きみ鶴、寿々女
演奏:多賀子、照代、由良子

トークセッション
出演:
喜美弥
きみ鶴
寿々女
多賀子
照代
由良子
進行:八嶋智人
聞き手:岩下尚史

料金:前売3,500円

プロフィール

岩下尚史
岩下尚史(いわした ひさふみ)

作家。國學院大學客員教授。新橋演舞場株式会社在職中、企画室長として劇場創設の母体である新橋花柳界主催「東をどり」の制作に携わる。2007年処女作『芸者論』で新人としては異例の第20回『和辻哲郎文化賞』を受賞。これを機に、本格的な作家としての活動を開始。三島由紀夫にまつわる実話をモチーフに書き下ろした小説『見出された恋』『ヒタメン』など話題作を発表している。また、日本人の古典的な暮らしや伝承芸能についての実態に基づいた識見が注目され、講演会のみならず、テレビ番組の出演など様々な場で活躍をしている。

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