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「子供たちのシェルターになる音楽を」腹を括った木下理樹の覚悟

「子供たちのシェルターになる音楽を」腹を括った木下理樹の覚悟

ART-SCHOOL『Hello darkness, my dear friend』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:永峰拓也 編集:山元翔一

「そもそも、人間ってそういう生き物なんだ」と言いたいというか……許したいんです。

―いま、子供たちのシェルターであるために、木下さんがすべきことは何だと思いますか?

木下:曝け出すことだと思います。本来、人間っていい部分だけではないじゃないですか。みんな「猫が可愛い」とか言っているけど、「じゃあ、どれだけの野良猫が人間に殺されているんだ?」なんて考えたりすると、本当にそう思う。でも、「いい部分だけでない」ということを一概に否定するんじゃなくて、「そもそも、人間ってそういう生き物なんだ」と言いたいというか……許したいんです。そうすることで、「こんな生き方もあるんだよ」って伝えられると思うんですよ。

―確かに、追い詰められてしまう子供たちって、周りから押しつけられた価値観から逃れられなくなっている場合も多々あるのかもしれない。だからこそ、「許し」を提示することはすごく大切なことかもしれないですよね。今回はサウンド面も、緩やかな音の重なりを聴かせる、非常にあたたかみのある優しいサウンドに仕上がっていて、ここにも「許し」を感じます。

木下:ART-SCHOOLの現メンバーで、メロウな「静」の方向に寄ったものは作ったことがなかったので、それをやってみたいなと思ったんです。あと、活動休止中に聴いていたのが、クラシック音楽やTHE BEACH BOYSのブライアン・ウィルソンが作るような、室内楽的な音楽だったことも大きいかもしれない。ブライアン・ウィルソンって、THE BEACH BOYSのリーダーだったくせに海に入れなかったんですよ(笑)。

―丘サーファー代表みたいな人ですよね(笑)。

木下:彼は、全部憧れを歌っていた。それも、「海に入れたらいいなぁ」という願望として歌うのではなく、もはや「海に入っている」という非現実を当たり前のように歌っている……THE BEACH BOYSのリーダーだった人が、海にも入れず女の子を眺めているだけだったなんて、ゾッとすると同時に、純粋さやノスタルジーを感じるじゃないですか。そういう要素が欲しかったのかもしれないです。

木下理樹

―もし、ブライアン・ウィルソンが「海に入りたいな」と歌っていたら、それは現実に対して能動的な音楽になっていたと思うんですよ。でも、「海に入っている」という妄想を歌うことで、彼の音楽は現実から切り離された桃源郷的な音楽になっているんですよね。

木下:そうですよね。今回は、僕ら自身が、時代の流れからどうやって孤立しようかって考えていた部分もあったんです。

―それって、言い換えれば「大人」であることを拒絶して、「子供」であり続ける道を選んでいる、とも言えると思うんです。このご時世、アーティストも「大人」であることを求められる場面もあるじゃないですか。木下さんって、あえてそこに向かっていない方だと思うんですよ。

木下:そうですね……アーティストにはそれぞれの「役割」があると思うんです。東北ライブハウス大作戦(東日本大震災後に立ち上がった、東北三陸沖沿岸地域にライブハウスを建設するプロジェクト)やアジカンのゴッチ(後藤正文)がやっていることを自分は真似できないし、尊敬の目でしか見ていないんですけど、ただ、僕が同じことをやっても、それは表現が嘘になってしまうし、そこにはなんのリアリティーもないと思うんですよ。……でも、思えばジョン・レノンも人間らしい人だったし、「役割」を全うした人ですよね。彼は本当にすごい人だと思うけど、夫としてはとんでもない野郎だったわけじゃないですか(笑)。

―そういう話もありますよね(苦笑)。

木下:世界平和を歌いながら、家では暴力を振るっていたという(笑)。でも、「それが人間だ」ということを表現するのが、自分の役割なんだと思う。すべてをひっくるめて愛さないとダメなんですよ。人間って、本当に弱くて残酷で、そして、愛おしい生き物だから。

ART-SCHOOLで僕自身が曝け出して、「こういう大人もいるよ」ということを提示したいんです。

―いまのお話を聞いて思うのは、ひとつの価値観を掲げ過ぎることの危険性ってあるなということで。たとえば、「世界平和」を唱えることは大切だけど、その主張を受け手に押しつけることは、ときに暴力にもなってしまう。木下さんには、そうした暴力性に対する違和感があるんですかね?

木下:難しいな……でも、僕が「誰かを助けたい」と思って音楽をやることも、他の誰かにとってはエゴに映る場合がありますよね。このアルバムだって、ひとつの価値観を押しつけているとも言えるわけだし。でも僕は、別に押しつけがましい表現であっても、品があるか、もしくは音楽的なレベルが高かったらいいと思う。アーティストと呼べる人はみんな、どんなに飄々として見せていても、「ああでもない、こうでもない」って悩み苦しみながらやっていると思いますからね。

木下理樹

―なるほど。「悩むこと」は、アーティストと子供に与えられた特権なのかもしれないですね。アーティストは「悩み続ける大人」とも言えるし。

木下:いまの子供たちが、この先、10年~20年後、子を持ち、社会を作っていくわけですよね。だからこそ、ART-SCHOOLで僕自身が曝け出して、「こういう大人もいるよ」ということを提示したいんです。たとえそれが小さなパイだったとしても、言っていくしかないんですよ。僕自身が、音楽とか、映画や本に救われてきた子供だったから。そんな自分がいま、アーティストをやっている以上、そういう役割についてしまったんです。

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リリース情報

ART-SCHOOL『Hello darkness, my dear friend』
ART-SCHOOL
『Hello darkness, my dear friend』(CD)

2016年5月18日(水)発売
価格:2,592円(税込)
Warszawa-Label / UK.PROJECT inc., / WARS-0002

1. android and i
2. broken eyes
3. Ghost Town Music
4. Melt
5. Julien
6. Paint a Rainbow
7. R.I.P
8. TIMELESS TIME
9. Luka
10. Supernova
11. NORTH MARINE DRIVE

イベント情報

『ART-SCHOOL TOUR 2016/Hello darkness, my dear friend』

2016年6月11日(土)
会場:千葉県 LOOK

2016年6月14日(火)
会場:京都府 MOJO

2016年6月16日(木)
会場:岡山県 IMAGE

2016年6月17日(金)
会場:福岡県 The Voodoo Lounge

2016年6月21日(火)
会場:埼玉県 HEAVEN'S ROCKさいたま新都心

2016年6月23日(木)
会場:新潟県 CLUB RIVERST

2016年6月24日(金)
会場:宮城県 仙台 LIVE HOUSE enn 2nd

2016年6月26日(日)
会場:北海道 札幌 COLONY

2016年7月1日(金)
会場:大阪府 梅田 Shangri-La

2016年7月3日(日)
会場:愛知県 名古屋 ell.FITS ALL

2016年7月9日(土)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM

料金:各公演 前売3,500円 当日4,000円(共にドリンク別)

プロフィール

ART-SCHOOL
ART-SCHOOL(あーとすくーる)

2000年に結成。木下理樹(Vo/Gt)のあどけなく危うげなボーカルで表現する独特の世界観が話題に。度重なるメンバー変遷を経て、2012年からは木下、戸高賢史(Gt)の2人に、元NUMBER GIRLの中尾憲太郎(Ba)、MO'SOME TONEBENDERの藤田勇夫(Dr)がサポートで加わる。2015年2月、新木場STUDIO COASTでのライブをもって活動休止。同年5月、木下理樹がクリエイティブチーム「Warszawa-Label」を設立。2016年2月に開催されたワンマン公演をもって本格的に活動を再開を果たす。2016年5月18日(水)に、8thフルアルバム『Hello darkness, my dear friend』をリリースする。

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