特集 PR

型破りな水野しず、資生堂『花椿』を読む。躊躇しないネット論

型破りな水野しず、資生堂『花椿』を読む。躊躇しないネット論

資生堂『花椿』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:西田香織 編集:野村由芽

社会ってすごくサイレント。でも普通なら言葉にするのをためらってしまうことを、大きい声で言ってしまうことがクールだと思うんです。

―先ほど、質の高さ=別の次元に連れていってくれること、という風に話されていたのが印象に残っています。最近のメディアで紹介されやすい「質の高さ」って、食やインテリア、あるいは自己啓発的活動など、とにかく自分自身への内向きな癒しを追求するものが多いと思います。でも、水野さんは、「外」へ向かって開かれている多様性こそが、質の高さだと考えているわけですよね。

水野:もちろん自分が心地よく感じることだって大切な基準ですけど、もっと当たり前にいろんなドアがあっていいと思うんです。ちょっと前に展覧会のキュレーションをしたのですが、作家さんが『引っ越しする絵画』っていう作品を展示していて。凍らせた絵具を壁に設置して、それが下に置いたキャンバスに溶け落ちてく様子を「引っ越し」に例えたんですけど、ある人が「絵具を垂らすやつなら僕もやったよ」って感想を言っていたんですね。

―ジャクソン・ポロック(20世紀アメリカの抽象絵画を代表する作家。絵具をキャンバス上にしたたり落とす「ドリッピング」などの技法を使い、即興から生まれる作品を数多く手がけた)とかのことを言っているんでしょうね。

水野:たぶんそうですね。でも、その作品をみんなが楽しんでいるのは、美術史や絵画技法の視点ではなくて、絵具が溶けて落ちていくことを「絵画の引っ越し」に見立てた、作家個人の表現のほうなんですよね。 私自身は美術教育の中で生まれる表現を信じたい気持ちがあるから、指摘をした人の視点も理解できるんだけど、目の前で起きていることを自分の価値観だけで理解してしまうのは豊かじゃないと思うんです。つまり何が言いたいかっていうと、表現っていうものへのドアがたくさんあることが「質の高さ」なんじゃないか、ってことなんですけど。

水野しず

―ある枠組みが、自由や多様性を抑圧してしまうことはざらにありますしね。

水野:社会ってすごくサイレントじゃないですか。みんながオフィスで仕事しているときもサイレントだし、電車に乗っているときだって騒音は聞こえていてもサイレントだし、コンビニや舗装された道路も駅前も、みんなサイレント。

でも、本当はみんな心の中にいろんな声や現象が起こっているんですよね。そういう、普通なら言葉にすることをためらってしまうものを、大きい声で言ってしまうことがクールだと思うんです。サイレントであることに慣れ過ぎちゃうと、大きい声を出す発声法すら忘れちゃうじゃないですか。その方法を思い出すことが大切なんですよね。私の場合は、声を出すっていうよりも、どうしても大きな声が出ちゃうって感じですけど(笑)。

水野しず

―たしかに(笑)。

水野:さらに深く思っていることは、声や言葉の先にあるもので。私、言葉っていうのは末端で、本質はイメージだと思っているんです。本人がイメージを持っていなかったら、どんな言葉を使っても伝わらないと思う。イメージの質をどれだけ下げずにコミュニケーションが取れるかっていうことが豊かさだと思う。これから先、インターネットが世の中のほとんどを埋め尽くすようになっても、私は絶対それを失いたくないんです。

ネットだと、感じの悪いネタやニュースのほうが数字を稼げちゃったりしますけど、私は積極的に感じのいいことをしていきたい。

―最後にまた『花椿』に話を戻しますが、資生堂は「一瞬も 一生も 美しく」をコーポレートメッセージとしています。これは、化粧やファッションで着飾る美しさと、心の中にある美しさを同じ高さで見ているということだと思います。水野さんが言う言葉とイメージの関係に当てはめると、言葉は「一瞬」で、イメージは「一生」なのかもしれません。確かなイメージを持つことで、言葉も力を持ちうる。美しくあれる。

水野:私の名刺の裏に、導火線に火がついたダイナマイトを持っている自画像を載せているんですけど、「生と死」とか、「笑いと悲しみ」とか、遠いようで近いものが紙一重にある緊張感が好きなんですね。うまく言葉にできないけれど、その緊張感が張りつめている瞬間の美みたいなものがある気がします。

名詞の裏に描かれているイラスト
名詞の裏に描かれているイラスト

―しかもその自画像、「気さく」って言葉が添えられているんですよね。謎めいている(笑)。

水野:気さくな人って、「感じがいい」じゃないですか。私、自分が言われていちばん嬉しいのが「感じがいいですね」って言葉なんですけど、それってけっこう大事だと思うんです。

―黒か白かではっきり断言できる人物にも人は惹かれるし、ネットなんかだと露悪的なくらいに決断する人がもてはやされますけど、「感じがいい」には勝てない気がします。

水野:ネットだと、感じの悪いネタやニュースのほうが数字を稼げちゃったりしますけど、それは本当に嫌だなって思います。私は本当に積極的に感じのいいことをしていきたいし、『花椿』さんが「感じのよさ」を保っていてくれるのは、本当に心の支えになっています。

水野しず

―なるほど(笑)。

水野:資生堂の「感じのよさ」は絶対変わらないと思いますね。もしもある日突然、資生堂の感じが悪くなってたら、その頃には日本っていう国はもうなくなっているでしょうね!

Page 3
前へ

サイト情報

『花椿』
『花椿』

『花椿』は、1937年に創刊、その前身である『資生堂月報』(1924年創刊、1933年に『資生堂グラフ』に改題)を含むと、90年以上にわたって刊行を続けてきました。「美しい生活文化の創造」の実現を目指し、人々が美しく生きるためのさまざまなヒントをお届けすることを目的に、時代に先駆けた新しい女性像や欧米風のライフスタイルなどを提唱してきました。昨今のインターネットやスマートフォンの急速な普及に伴い、2011年にはウェブ版の配信をスタートさせ、新たな読者の獲得を目指しました。その後もメディア環境は一層激しく変化しています。今回のリニューアルで若い世代と親和性の高いウェブ版に軸足を移すことによって、新たな読者層との出会いを広げていきます。

プロフィール

水野しず(みずの しず)

1988年12月19日生まれ、岐阜県多治見市出身、東京都在住。2007年に美大進学のため上京。大学時代は自主制作アニメーションと演劇に没頭。卒業制作として「最悪の事態」(60分)を制作後中退。その後、ネット上で話題になり『ミスiD2015』グランプリ(講談社)に選出。選出後も事務所には所属せずフリーで主にイラスト、漫画、ライター、モデル等の仕事をしている。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

斉藤和義“アレ”

ドラマ『家売るオンナの逆襲』の主題歌でもある斉藤和義48枚目のシングル“アレ”のMVが公開。冒頭から正方形の枠に収められた動画や画像が繋ぎ合わされていくこのMV、実は斉藤本人が撮影・編集・監修を務めたという。某SNSを彷彿とさせるたくさんの動画や画像がめまぐるしく変わる様に注目して「アレ」とは何かを考えながら観るのも良し、ひたすら猫に癒されるのも良しです。(高橋)

  1. OKAMOTO’Sが大人と少年の間で語る、28歳で迎えた10周年の心境 1

    OKAMOTO’Sが大人と少年の間で語る、28歳で迎えた10周年の心境

  2. 竹内結子主演、異色のリーガルドラマ『QUEEN』。監督は関和亮、音楽も注目 2

    竹内結子主演、異色のリーガルドラマ『QUEEN』。監督は関和亮、音楽も注目

  3. 『十二人の死にたい子どもたち』キャラ&場面写真に橋本環奈、新田真剣佑ら 3

    『十二人の死にたい子どもたち』キャラ&場面写真に橋本環奈、新田真剣佑ら

  4. 柴田聡子がジャコメッティら巨匠から活力をもらう展覧会レポ 4

    柴田聡子がジャコメッティら巨匠から活力をもらう展覧会レポ

  5. 『鈴木敏夫とジブリ展』4月から神田明神で開催、鈴木敏夫の「言葉」に注目 5

    『鈴木敏夫とジブリ展』4月から神田明神で開催、鈴木敏夫の「言葉」に注目

  6. 『乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展』開催間近、齋藤飛鳥らが訪問&感想 6

    『乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展』開催間近、齋藤飛鳥らが訪問&感想

  7. 石原さとみが後楽園堪能する東京メトロ新CM 曲はスキマスイッチと矢野まき 7

    石原さとみが後楽園堪能する東京メトロ新CM 曲はスキマスイッチと矢野まき

  8. Spangle call Lilli lineの美学 20年消費されなかった秘密を探る 8

    Spangle call Lilli lineの美学 20年消費されなかった秘密を探る

  9. back numberが深田恭子主演ドラマ『初めて恋をした日に読む話』主題歌 9

    back numberが深田恭子主演ドラマ『初めて恋をした日に読む話』主題歌

  10. 漫画本に囲まれる「眠れないホテル」MANGA ART HOTEL, TOKYOが2月開業 10

    漫画本に囲まれる「眠れないホテル」MANGA ART HOTEL, TOKYOが2月開業