特集 PR

250年続く窯と現代アートの異種格闘対談 水野雄介×服部浩之

250年続く窯と現代アートの異種格闘対談 水野雄介×服部浩之

『あいちトリエンナーレ2016』虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影・編集:野村由芽

アートは、市民に直接的に役立つものではありません。でも、無駄に思える回り道や迂回が、じつは自分とは違う価値観への理解を促してくれる。(服部)

―キュレーターである服部さんに質問です。瀬戸本業窯は、時代の変遷のなかでプロデューサーと職人的な役割の比重を変えながらもの作りに関わってきました。それはここ十数年の学芸員、キュレーターの仕事の変化にも通じるような気がします。

服部:そうですね。

―つまり、美術館内で展覧会を企画したり、収蔵品を研究・保存したりすることが主要業務だった学芸員に、国際展や地域主体の芸術祭のキュレーションという新しい仕事が課せられるようになってきた。この変化について服部さんはどのようにお考えでしょうか?

服部:僕は10年くらい山口や青森に住んで、地域のアートセンターで学芸員として働いてきました。そのなかで思ったのは、アートセンターや美術館の存在はやはり重要だということです。もちろんアートは、道路整備や商業施設の立ち上げのように、市民に直接的に役立つ、影響を与えるものではありません。

―そうですね。

服部:僕たちがやっているのは、現代美術というすごく限定された領域内で、海外からアーティストを招聘して、しばらく町に滞在してもらって新作を作ってもらうとか、町の人と交流してもらうとか、そういう小さなことです。でも、そうやって外と内の交流の回路を閉ざさないことで、既存の状況に小さな風穴を開けるチャンスが生まれると思うんです。

それは効率的に最短距離を目指すことが正しいとされる社会のシステムのなかではなかなか生まれないもので、無駄に思える回り道や迂回が、じつはいろんな試行錯誤や自分とは違う価値観への理解を促してくれる。その機会の場としてアートセンターや美術館が機能していると思っています。

服部浩之

―それは『あいちトリエンナーレ』のような大きな芸術祭も同様でしょうか?

服部:規模の大きい催しですから、どうしても「来場者○○万人達成しました!」というような具体的な数字が強調されてしまいますけど、現場で起きていることの大半は、本当に見えづらい、地道な取り組みです。でも意外とそこが重要で、こうやって水野さんとお話しする機会ができたのも、あるアーティストが陶磁を作品に使ってみたい」と言ったからなんですよね。普通の方法や付き合いではなかなかつながらない人たちと出会える、その拡張性みたいなものが、アートにはあって、今回は芸術祭がその一助になっている。

長い歴史の奥行きと、幅の広さ。それを兼ね備えた土地が愛知なんでしょうね。(水野)

―たしかに今回のトリエンナーレには、モンゴルやアラスカ出身など、普通に暮らしていては絶対に会えないアーティストが多く参加していますね。

服部:例えば、豊橋地区で展示しているグリナラ・カスマリエワ&ムラトベック・ジュマリエフはキルギス共和国出身のアーティストです。二人は、ユーラシア大陸を横断するシルクロードで問題になっている、中国からの産業廃棄物についての映像作品を発表していて、私たちの消費活動とも関係して引き起こされている問題ですが、そんな問題があることを知るチャンスはほぼないですよね。でもアート作品というメディアに乗せることで、そのことを別の回路から知ることができるわけです。

これは極端に遠い場所の例かもしれないですけど、瀬戸物の器だって、こうやって水野さんと関わりができたからこそ僕はリアリティーを持つことができた。それってとても重要なことだと思うんですよ。質問の答えになってないかもしれないですけど(苦笑)。

『あいちトリエンナーレ2016』展示風景 グリナラ・カスマリエワ&ムラトベック・ジュマリエフ《ニュー・シルクロード--生存と希望のアルゴリズム》2016  photo:怡土鉄夫
『あいちトリエンナーレ2016』展示風景 グリナラ・カスマリエワ&ムラトベック・ジュマリエフ《ニュー・シルクロード--生存と希望のアルゴリズム》2016 photo:怡土鉄夫

水野:いや、とても腑に落ちる話でしたよ。古い家に生まれたものですから、自分は意外と思考が柔軟でなくなってしまっているなと、服部さんの話を聞いて思いました。僕は実際に使うものを作っている人間なので、現実的な見方がついつい強くなってしまいます。でも、ある意味ではひとりよがりに、好き勝手やっているようにも見えるアーティストという人たちが、じつは日本に小さな刺激を与えてくれる存在なんだってことなんでしょうね。

服部:そうなんです。「創造する人間の旅」というのは、芸術監督の港千尋さんが今回のトリエンナーレにつけたサブタイトルですが、それは港さん自身が写真家であり、旅人であり、いろんな土地を旅してきた体験に端を発しているんですね。だから現代アートの祭典とうたいながらも、じつはそこに当てはまらないような広い表現、あるいはどのジャンルにもカテゴライズできないような独創的な表現も含まれている。アートが一つの回路にはなっているけれど、ここで出会える人やものは、もっと多様なものへと開かれているんです。

―同時にメインタイトルである「虹のキャラヴァンサライ」も示唆的だと思います。キャラヴァンサライとは「旅の休息地」という意味ですが、愛知全体がアーティストや観光客にとっての旅の拠点になっている。さきほど水野さんが瀬戸本業窯にガンディーのお孫さんがやって来たという話をされましたが、それは器の一大拠点である瀬戸という土地があったからこそ生まれた出会いですよね。

服部:旅の根っこになる場所があることはすごく重要で、もの作りの文化がいろんな場所に根付いている愛知は、キャラヴァンサライとしてとてもよい環境だと思います。職人さんだけでなく、美大や芸大が多いのも作家にとっては創作しやすい環境ですし、そういった活動を発信するメディアも揃っている。

左から:水野雄介、服部浩之

瀬戸本業窯の登り窯付近を歩く猫

水野:愛知県って、物理的にほぼ日本の真ん中じゃないですか。そして山だけでなく海がある。これが活発な人の往来を促す大きな要素になりました。だから、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という時代の権力者たちが揃って愛知出身なのも偶然ではないと思います。

それと職人の目線から言うと、瀬戸で採れる白い土には不純物がほとんどないんですよ。不純物がないということは、養分を必要とする農業には適していないけれど、作陶には最良の場所だということ。さらに近代化以降は、その土がガラスや電子基板のセラミックにも幅広く用いられるようになった。その土地の特長が、1000年続く瀬戸の歴史を築いてきたんです。長い歴史の奥行きと、幅の広さ。それを兼ね備えた土地が愛知なんでしょうね。

記事の感想をお聞かせください

知らなかったテーマ、ゲストに対して、新たな発見や感動を得ることはできましたか?

得られなかった 得られた

回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Page 3
前へ

イベント情報

『あいちトリエンナーレ2016』

2016年8月11日(木・祝)~10月23日(日)
会場:愛知県 愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内、豊橋市内、岡崎市内のまちなか

プロフィール

水野雄介(みずの ゆうすけ)

1979年、江戸時代から続く愛知県瀬戸の窯元「瀬戸本業釜」に生まれる。瀬戸の地独特の手法を守りつつ、革新的なものづくりにも挑戦。民芸運動の活動や瀬戸に残る歴史的な遺物の復興など、様々な活動を行なっている。

服部浩之(はっとり ひろゆき)

1978年愛知県生まれ。アジア各地を中心にインディペンデント・キュレーターとして活動。早稲田大学大学院修了(建築学)後、2009年から2016年まで青森公立大学国際芸術センター青森[ACAC]学芸員。つねに「オルタナティブなあり方」を意識の根底に据え、MACという略称を持つアートスペースを山口、ハノイ、青森などで展開。近年の企画に、十和田奥入瀬芸術祭(十和田市現代美術館、奥入瀬地域、2013)、「MEDIA/ART KITCHEN」(ジャカルタ、クアラルンプール、マニラ、バンコク、青森、2013−2014)などがある。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. 東京スカイツリー天望デッキから配信されるライブ『天空の黎明』全演目発表 1

    東京スカイツリー天望デッキから配信されるライブ『天空の黎明』全演目発表

  2. 常田大希提供曲に隠れたジャニーズらしさ SixTONES“マスカラ” 2

    常田大希提供曲に隠れたジャニーズらしさ SixTONES“マスカラ”

  3. 異才スティールパン奏者、電子音楽家の2つの顔 小林うてなの半生 3

    異才スティールパン奏者、電子音楽家の2つの顔 小林うてなの半生

  4. 在宅ワークを快適に。コロナ禍でさらに注目の音声メディアを紹介 4

    在宅ワークを快適に。コロナ禍でさらに注目の音声メディアを紹介

  5. お父さんはユーチューバー / 美術のトラちゃん 5

    お父さんはユーチューバー / 美術のトラちゃん

  6. シンセと女性たちの奮闘物語『ショック・ドゥ・フューチャー』 6

    シンセと女性たちの奮闘物語『ショック・ドゥ・フューチャー』

  7. カンヌ4冠『ドライブ・マイ・カー』の誠実さ 濱口竜介に訊く 7

    カンヌ4冠『ドライブ・マイ・カー』の誠実さ 濱口竜介に訊く

  8. 「ドラえもんサプライズ誕生日会」の「招待状」広告が朝日新聞朝刊に掲載 8

    「ドラえもんサプライズ誕生日会」の「招待状」広告が朝日新聞朝刊に掲載

  9. 「千葉=無個性」への反抗。写真展『CHIBA FOTO』を語る 9

    「千葉=無個性」への反抗。写真展『CHIBA FOTO』を語る

  10. ROGUEが語る、半身不随になってから再びステージに上がるまで 10

    ROGUEが語る、半身不随になってから再びステージに上がるまで