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ポジティブを強要されがちな風潮はイヤ 泉まくら×大島智子対談

ポジティブを強要されがちな風潮はイヤ 泉まくら×大島智子対談

泉まくら『アイデンティティー』
インタビュー・テキスト
阿部美香
撮影:岩本良介 編集:山元翔一、柏井万作
2016/09/20
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メディアでもてはやされるような、いそうに見えてじつはいない女の子ではなく、いたって普通の、いたって平熱の日常を送る女子の等身大の気持ちを歌い、語る泉まくら。ブームを呼ぶガールズラップシーンの中でも、圧倒的な個性を放つ泉まくらのビジュアルワークをデビュー以来ずっと手がけ、アートシーンでその独自の感性が注目を集めるイラストレーター・大島智子。そんな二人の最新コラボレーションが到着した。

泉まくら、約1年半ぶりの3rdアルバム『アイデンティティー』は、泉と大島の作品に底通していた、危うげで満たされない孤独感から一歩先へと踏み出し、新しい世界を見せてくれている。では、なぜこのタイミングで新しい扉を開いたのか? 二人に漂う、まろやかな空気のおしゃべりに耳を傾けてみると……内容は、決してまろやかなものではなかった。

元気にはなったんですよね。「現実」を受け入れないといけないのは絶望的……なんだけど、それが事実だし、じゃあ、「開き直る」しかないんだなって。(泉)

―泉さんと大島さんに対談していただくのは、約1年半ぶり。前回の対談(泉まくら×大島智子 共作を通じて、生きる自信を膨らませた二人)では、約3年間のお付き合いがありながらも、会って話すのは初めてという話でしたが、その後、いかがでしたか? まさか今回の対談が2回目ってことは……。

:2回目なんですよ!(笑)

大島:はい、お会いするのはあれ以来ですよね?

:でも、1年半ぶりっていう気は全然しなくて。いつもの大島さんがここにいてくれて、私、幸せです。

大島:私は……まくらさん、この間より元気な感じがする。

:そうですか!?

大島:新しいアルバム(『アイデンティティー』)も、前より元気だし、落ち着いてるなって印象があります。前の対談は『愛ならば知っている』(2015年)が出るときで、私たちの年代の「女子の幸せ」について話したんですけど……。

左から泉まくら、大島智子
左から泉まくら、大島智子

―たしかお二人とも「幸せな気持ちは別に表現しなくてもいい、それは他の人がやってくれるから」とおっしゃていて。だからお二人は、あえて詳しく言葉を交わさなくても同じ温度でコラボレーションできていて、それが心地いい。泉さんも大島さんも、一見ネガティブに見える、等身大の女の子の「平熱」が作品から立ち上ってくるんだ、というお話だったと思います。

:そうでしたね。

大島:そこから『アイデンティティー』を聴いて……今回は、幸せも不幸も区別なく受け入れてるアルバムだなって勝手に思いました。聴いていて、ポジティブになれます。

:よかった~!

大島:ふふふふ(笑)。

―今までの泉さんの楽曲にはなかった元気さを大島さんが感じたということは……泉さんに、この1年半で何か変化があった?

:元気にはなったんですよね、全体的に。『アイデンティティー』は、現在形の私の結論めいたものが表れたアルバムになりました。ブックレットの中にも直筆で文章を書いたんですけど……「現実」っていつも目の前にあるんですよね。

それが自分にとって最悪で、こんな現実なくていいと思っても、否応なしにある。しかも、それを受け入れないといけないのは絶望的……なんだけど、それが事実だし、その事実だけが最後まで残る。じゃあ、「開き直る」しかないんだなって思ったんです。「それならそれで、やったるわ!」って。それがたぶん、大島さんにちゃんと伝わったんですね。

大島:うふふふふ(笑)。

―何か現実的なキッカケがあったんですか?

:うーん……現実的な事柄としては、アルバム制作中に熊本の震災があって、制作の手が一回止まっちゃったのは大きかったですね。

―4月14日のことですね。泉さんは福岡を拠点としてらっしゃいますし、ショックな出来事でしたね。

:熊本や大分の方々は本当に大変だったと思います。でも……「音楽やってる場合じゃない!」と思ったわけではなくて、ただびっくりしたというか、フッとだめになった感じでした。

―5年前の東日本大震災のときは、「今、自分がすべきことは何か?」と表現の手を止めたミュージシャンやアーティストもたくさんいらっしゃいましたが。

泉まくら

:そういう、「自分が今このタイミングで歌を作るのってなんなんだろう?」と思えたら、答えが出たかもしれないですね。でも、なんなのかわからない、モヤっとした感覚があって……収録曲的にいうと、“さよなら、青春”だけが震災後なんです。

―1曲だけ、作ることができた?

:アルバムを仕上げなきゃというときに震災が起きて、作れなくなって、「どうしよう、締切がヤバイ……」というときに、プロデュースのnagacoさんが「だめだ、曲を書かないと。まくらが書くんだったら、自分も新しいのを作る」って作ってくれたのが、“さよなら、青春”のトラックなんです。そこで自分も、「あ、書く必要があるんだ」と思えて、スッと平常心に戻れました。モヤモヤを現実がサッと吹き飛ばしてくれた。だから、いいテンションで元に戻れた感じはあります。

―nagacoさんが背中を押してくれたんですね。

:はい。結果、“さよなら、青春”は自分でもすごく好きな曲になりました。だからといって、さっき言った「やったるわ!」がそこで生まれたとか、意識の変革があったというわけでもなくて。「やったるわ!」のほうは、もっと別で、自然に湧いてきた感情ですね。震災の影響は、スゴロクでいうと2マス抜けて元に戻った、みたいな感じです(笑)。

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リリース情報

泉まくら『アイデンティティー』
泉まくら
『アイデンティティー』

2016年9月7日(水)発売
価格:2,300円(税込)
術ノ穴 / sube-049 / DQC-1537

1. 時は交差して
2. 通学路
3. かげろう
4. ヒロイン
5. 宣誓
6. 枕
7. ひとりごと
8. P.S.
9. 日々にゆられて
10. 才能
11. さよなら、青春

プロフィール

泉まくら
泉まくら(いずみ まくら)

福岡県在住。2012年 術ノ穴へ所属し同年発表されたデビュー音源「卒業と、それまでのうとうと」が各メディアで話題となり、くるり主催「WHOLE LOVE KYOTO」出演やパスピエとのコラボ音源『最終電車』リリースなど大きな注目を集める。2013年10月には待望の1stアルバム「マイルーム・マイステージ」が各媒体でBEST DISCに選出。TVアニメ『スペース☆ダンディ』では菅野よう子、mabanuaとのコラボ楽曲を提供。映画『テラスハウス』挿入歌担当や、歌唱参加した資生堂CM『High School Girl』がカンヌ国際広告賞で2部門受賞するなど様々なシーンから注目されている。

大島智子(おおしま ともこ)

イラストレーター、映像作家。2010年頃からイラストを元にしたGIFアニメをTumblrにアップし始める。GIFアニメを使ったミュージックビデオやイラストレーションの制作を行う。

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