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圧倒的な女性支持を集めるアリシア・キーズから、日米の今を分析

圧倒的な女性支持を集めるアリシア・キーズから、日米の今を分析

アリシア・キーズ『Here』
インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:岩本良介 編集:山元翔一

(アリシアは)そもそも男性を全然意識していないようにも見えます。

―歌詞の面ではどうでしたか? 先ほどはよくわからないとおっしゃっていましたが。

小袋:やっぱり俺は男だから、言っていることがビビッとこないんです。それに、彼女はそもそも男性を全然意識していないようにも見えます。「男はこうだから」というのがない。「私は指輪もジュエルも捨てる、何もかもいらないの。ゼロから人生を始めるわ」と、歌っている。

―“Pawn It All”がまさにそういう曲ですね。

小袋:でも、だからこそ女性には響くものがあるんじゃないかと思います。ここまで同性に支持を集めているアーティストは珍しいですよね。ティーンのヒップスターだったらまだわかる。アリシア・キーズほどいろんな層の女性に支持されている人はなかなかいないんじゃないかな。

小袋成彬

―女性にとっては自分の生き方を重ねる存在になっていると。小袋さんがアリシア・キーズを知った最初のきっかけは?

小袋:19歳か20歳の頃に、“If I Ain't Got You”を教えてもらって聴いたのがきっかけですね。家でカバーしたりしていました。その当時は、単純にメロがきれいだし、歌がいいなって思ってました。Jay-Zの“Empire State Of Mind”にフィーチャリングに参加したのとか、好きでよく聴いてましたね。

2003年リリースの『The Diary Of Alicia Keys』に収録。アリシア・キーズの代表曲の一つ

―そこからどんなふうに聴き方は深まっていったんでしょう?

小袋:アーティストとして曲を作るようになって、いろんな音源を参考にするようになってからです。アリシアの場合は歌ですね。歌い回しのソウルフルな感じとか、一瞬裏返ってしまうところとか。そういうところは参考にします。

―今作のサウンドで印象的だったのは?

小袋:ファレル・ウィリアムスが、今作の“Work On It”をプロデュースしていますよね。ファレルのアレンジ、好きなんです。“Happy”もそうなんですけど、彼はスネアが頭に4つ入るアレンジをよくするんですよ。

小袋:今っぽい音って、生なのか打ち込みなのかわからないところが特徴で。今回もドラムのレコーディングをしてないのに、それを生っぽく聴かせている。そこはファレルの腕がすごいと思います。ただ、途中でティンパニの音が入ってくるんです。調べたらBeyonceの“Superpower”という曲と全く同じ音、同じフレーズを使い回してて。「それいいんだ!」って思いましたね(笑)。

小袋成彬

―そういうふうにサウンドプロダクションの面で楽しめるポイントがたくさんある。

小袋:ありますね。楽しんでるの俺だけかもしれないけど(笑)。“Hallelujah”という曲のストリングスアレンジも注目です。サイモン・ヘイルという人がやっているんですけど、この人、宇多田ヒカルさんの『Fantôme』の全曲のストリングスアレンジをやった人なんですよ。

小袋:宇多田さんとサイモンがすごく仲良くて、「アリシアの新作にサイモンが入っているんですけど」って聞いたら「彼は素晴らしいよ」って。いろいろ話を聞きました。

―どういう話を聞いたんですか?

小袋:サイモン・ヘイルって、ロンドン大学を出た音楽エリートなんです。宇多田さんはアレンジを全部自分でなさるんですけど、細かなオーケストレーションは彼にも相談するらしく、「いい感じだよ」って言われたそうなんです。そういうふうにして仲良くなったと聞きました。サイモン・ヘイルはサム・スミスの“Stay With Me”のストリングスアレンジもやっている人なんですよ。

―サム・スミスと宇多田ヒカルとアリシア・キーズと仕事しているということは、今の音楽シーンの影のキーパーソンになっていると言えますね。

小袋:“In Common”も同じでしょうね。プロデューサーにIllangelo(The WeekndやDrakeを手がけるR&Bプロデューサー)を呼んでいる。

―アルバムを聴くとIllangeloが関わった“In Common”と“Holy War”だけ音の質感は違いますね。

小袋:全然違いますね。トロントの音がします。

―小袋さん自身、『Fantôme』で宇多田ヒカルさんと一緒に作業して、得るものは大きかった?

小袋:僕は大きかったですね。音楽の聴き方が変わりましたし、「芸術として聴く」「サウンドプロダクションを聴く」という、2つの聴き方は間違ってなかったかもって思いました。

芸術的なものってないがしろにされがちじゃないですか。特に日本ではそうで。でも、「芸術」というものを信じてやってきた人がいて、同じように信じてやっている俺がいるんだって思えたんです。宇多田さんと一緒に楽曲を作り上げることができて、救われた気がします。

―フィーチャリング参加した“ともだち”は同性愛をテーマにした曲でしたね。

小袋:別に僕はゲイではないんですけれど、同性の人が好きになってしまう気持ちはよくわかる。同性に対して、「触れたい」「愛おしい」って気持ちが生まれたり、一緒にいて心地いいと感じたりするのは、誰にでもある感覚だし、そこにフタをしてはいけないと思います。

小袋成彬

―ここ数年、日本でも以前と違う若い層がアメリカのR&Bやブラックミュージックに触れはじめている実感があるんです。それに影響を受けたミュージシャンが日本の音楽シーンのトレンドを作っている実感もある。小袋さんもそれを担う一人だと思うんですけれども、アリシア・キーズにかぎらず、今のアメリカのブラックミュージックと、その日本への届き方はどう見ていますか。

小袋:届いているんですかね? でもジャンルの垣根はなくなった気がします。R&Bも、ヒップホップも、ずいぶん前から境目がなくなってきて融合した感じがある。R&Bだから聴くという人があんまりいなくなりましたね。昔は、黒人の歌が上手いR&Bシンガーを聴くという層がいたけれど。いろんな垣根がなくなって、ジャンルを越えたフィーチャリングも増えてきましたよね。

小袋成彬

―明らかに今のアメリカのシーンは少し前と違いますよね。昔はジャンルの垣根があった。でも今は、カニエ・ウェストにフランク・オーシャン、Bon Iverが参加していて。Rihanna、ビヨンセ、ジェイムス・ブレイク、Chance The Rapper、The Weeknd、それらのミュージシャンが数珠つなぎのように、それぞれの作品にそれぞれが参加している。ジャンルは関係なく、才能を持っている人がどんどん引っ張られてつながっていく。そういう感じがします。

小袋:たしかに、それは絶対にあると思います。僕も海外の人と仕事をする中でそれを日々感じます。なぜそうなっているのかはわからないんですけどね。そして、その数珠つなぎの中に日本が入っているのは間違いない。

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リリース情報

アリシア・キーズ『Here』日本盤
アリシア・キーズ
『Here』日本盤(CD)

2016年11月30日(水)発売
価格:2,376円(税込)
TSICP-4952

1. The Beginning(Interlude)
2. The Gospel
3. Pawn It All
4. Elaine Brown(Interlude)
5. Kill Your Mama
6. She Don't Really Care_1 Luv
7. Elevate(Interlude)
8. Illusion Of Bliss
9. Blended Family(What You Do For Love) ft. A$AP Rocky
10. Work On It
11. Cocoa Butter(Cross & Pic Interlude)
12. Girl Can't Be Herself
13. You Glow(Interlude)
14. More Than We Know
15. Where Do We Begin Now
16. Holy War
17. Hallelujah
18. In Common
19. In Common(Black Coffee Remix)
20. In Common(kaskade Remix)

プロフィール

アリシア・キーズ
アリシア・キーズ

グラミー賞15冠、全世界累計セールス3500万枚以上を誇るアリシア・キーズ。7歳からピアノをはじめ、ベートーヴェン~モーツァルトといったクラシックから、ジャズまで幅広く音楽を学ぶ。2001年、デビュー作『Songs in A Minor』を発表、グラミー5部門を受賞し全世界で1200万枚以上のセールスを記録。2003年に2ndアルバム『The Diary of Alicia Keys』を発表。2作連続でグラミー4部門受賞という快挙を成し遂げる。2007年に3rd『As I Am』、2009年に5thアルバム『The Element of Freedom』を発表。またJay-Zとの共演曲「Empire State of Mind」が空前の大ヒットを記録し、第53回グラミー賞で2部門を受賞する。2012年にリリースしたアルバム『Girl on Fire』は、全米初登場1位を記録。アーティストとしての活動のほか、女優業や、熱心な慈悲事業活動家としても知られる。2016年11月4日に4年振り、通算6作目となるニュー・アルバム『Here』をリリースした。

小袋 成彬(おぶくろ なりあき)

音楽レーベル「Tokyo Recordings」の代表取締役。シンガー、音楽プロデューサーとしても活動を行う。これまでに、綿めぐみやCapesonらのプロデュース、水曜日のカンパネラのトラックメイキングなどを手がけ、OKAMOTO'S、柴咲コウ、宇多田ヒカルなどの作品に関わる。

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