インタビュー

小林克也だから語れる、ソロ活動30周年を迎えた桑田佳祐の魅力

小林克也だから語れる、ソロ活動30周年を迎えた桑田佳祐の魅力

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:豊島望 編集:矢島由佳子

本当のクリエイティブは、民主主義とかが関係のない世界なんですよね。

―確かに、桑田さんの歌詞を読むと、人間についてはもちろん、社会全般のことを幅広く見ているような印象を受けます。

小林:ただ、幅広いと言っても、学者みたいな感じではないんですよ。どっちかと言うと、カメレオンとかと同じで、魚眼みたいなものを持っていて、動くものに対してピュッと反応するというか。僕が言う「物の見方が違う」っていうのは、そういうことなんです。

小林克也

―物の見方という意味では、ソロの場合、サザン以上に自分の「見られ方」を意識しているように感じます。

小林:いや、「こうやると面白いんじゃないか」っていう、脚本家とか演出家みたいなことは、彼はあんまり考えてないと思う。僕ら普通の人間は、そういうことを考えなきゃいけないところがあるけど、彼の場合、彼自身の興味本位であるというか。だから、誰かが客観的に見て、「桑田さんがこういうのをやったら面白いんじゃないですか?」と言ったとしても、彼はあんまり乗ってこないと思うんだよ。つまり、自分が面白いと思わないと乗ってこないし、一度そう思ったら突き進む。

―あくまでも自分の興味を追究するというか。

小林:理想的なクリエイティブというのは、そうあるべきなんですよ。たとえば、映画の場合、監督の下に助監督をはじめいろんなスタッフがいるわけだけど、監督の言っていることが絶対で、まわりのスタッフは、それに従っていくわけじゃないですか。本当のクリエイティブはそういうものというか、民主主義とかが関係のない世界なんですよね。

小林克也

―けれども、結果的に、間違いなくファンを満足させるところに着地しますよね。

小林:そうですね。ただ、ちょっとビックリするときもあるよね(笑)。変な被り物でステージに出てきたりしてさ(笑)。だけど、そういうところからこれまでにない尖ったものが出てきたりするのが、桑田くんのすごいところなんだよね。

昔の文豪たちと同じ世界に入っているような感じが、彼の曲を聴くたびにしていたのね。

小林:あと、今の話で思い出したけど、僕がずっと不思議だと思っていたことが、ひとつあって。

―なんでしょう?

小林:“勝手にシンドバッド”(1978年、サザンオールスターズのデビュー曲)の頃から、僕は彼の歌詞を、すごく日本的だなって思っていたんです。たとえ英語で歌ったとしも、その描く風景とかが非常に日本的。もっと言うなら、昔の文豪たちと同じ世界に入っているような感じが、彼の曲を聴くたびにしていたのね。 で、それを知り合いの評論家に言ったら、「克也さんの言っていること、全然わからないよ」って言われたんです。桑田くんの曲は、洋楽の要素もいっぱい取り入れてるし、全然日本的じゃないですよって。で、確かにそうなんだけど……。

小林克也

―小林さんの言う、「文豪的」というのは?

小林:たとえば、“勝手にシンドバッド”は、よく見るとひとつの小説と同じような動きになっているんです。スーッと車が近づいてきて、<砂まじりの茅ヶ崎>から始まって、パッと自分の心の景色が見えてくる。それって、ちょっと「トンネルを抜けると雪国であった」っていう、川端康成の『雪国』みたいじゃないですか。

<胸さわぎの腰つき>っていうのは、小説だったら何ページにもわたって描写するところを、たったひと言で描写しているような気がして。彼の歌詞を見ていると、少ない言葉で、いろんなものが、すごく活き活きと描かれているんですよね。

で、そのあと突然<今何時>って言葉が出てくるけど、あれは映画や小説で、カットがパッと変わって、突然アップになったり、回想シーンになったりするような感じに近い。あの曲は、3分とか4分という短い時間のなかに、そういうものが、すごくたくさん入っているような気がするんだよね。

―一見すると唐突ですが、「カットが変わる」と考えると、いろいろ納得できますね。

小林:でしょ? あと、彼は、文学的な日本語のフレージングをよく使うじゃないですか。そこに僕は、明治とか大正とか、あの頃の文豪の世界と近いものを感じるんですよね。

ただ、バックの音楽は洋楽の要素が入っているから、ものすごく不思議な感じがあって。そういうことを言いたかったんだけど、その評論家にはわかってもらえなかった(笑)。だけど、その後、桑田くんは“声に出して歌いたい日本文学”(2009年、“君にサヨナラを”のカップリングに収録)という曲を作ったじゃないですか。

小林克也

―ああ、ありましたね!

小林:そこで彼は、中原中也から太宰治、与謝野晶子、芥川龍之介、小林多喜二まで、文豪たちの小説を、自分の声で歌い上げてみせたわけです。そのとき僕は、「ああ、ここまで桑田くんは辿り着いたのか」って思ったんだよね。そのときも、その評論家には、わかってもらえなかったけど(笑)。

―(笑)。

小林:そう、僕はハワイによく行くんですけど、そのときに知り合う現地在住の日本人が、みんなサザンをよく聴くんですよ。「ハワイはサザンが合うんですよ」って言うんだよね。ロスに住んでいる日本人も、同じようなことを言っていた。でも、僕にはその感覚が、正直彼らほどはわからなくて。

考えたんだけど、彼らは長いあいだ海外で生活をしていて、そこから生まれる望郷の念みたいなものを、サザンの音楽が助けているんだと思うんですよ。彼らが「合うね」っていうのは、その望郷の念を、サザンの音楽が景色のなかに溶かしてくれるからなんじゃないかなって。自分の心の風景と、今見てる風景がすごく合うというか。

そういう意味で、サザンの音楽っていうのは「演歌」だと思うんですよ。それは、いわゆる今の演歌みたいなものじゃなくて、その人が生まれ育った日本的ななにかを感じさせるという意味での「演歌」ね。それは桑田くんが持っている文豪的な部分が、そうさせているんじゃないかと思ったわけです……これはちょっと説明しづらいけど、是非わかってもらいところなんだよね。

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プロフィール

小林克也(こばやし かつや)

ラジオDJ、ナレーター、俳優、ミュージシャン。1941年3月27日生まれ。広島県福山市出身。慶応大学在学中よりコンサート司会、DJを始める。1976年から、ラジオ番組『スネークマンショー』を開始。現在は、『FUNKY FRIDAY』(NACK 5)、『ビートルズから始まる。』(BAY FM)、『ベストヒットUSA』(BS朝日)、『SmaSTATION!!』(テレビ朝日)のナレーションなどのレギュラー番組を務める。ミュージシャンとしては、「スネークマンショー」名義、「ザ・ナンバーワン・バンド」名義で、作品を発表。また、『うわさのファンキーフライデー』(辰巳出版)など著作も多く、幅広く活躍中。

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