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KAATで作家とキュレーターが作る劇場での新しい現代美術展の試み

KAATで作家とキュレーターが作る劇場での新しい現代美術展の試み

KAAT EXHIBITION 2017
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

東京、京都、秋田、山形。各地のコミュニティーを混ぜ合わせたいという思いがある。(中野)

―『詩情の森』の作家の並びを見ると、土地の伝承や信仰を取材するなど、風土と対峙するような作品を作る作家が多いと感じますが、何か意図があるのでしょうか?

中野:それは、たまたまかもしれません。ただ今回、日本画の作家たちは山形の東北芸術工科大学にゆかりのある作家で、マテリアルの使い方やモチーフの神話性、民間伝承的な雰囲気に、東北の風土はすごく出ていると思います。

地域の問題で言えば、美術大学の周囲にある作家のコミュニティーは意識しますね。日本で美大が集まっているのは東京と京都。東北には秋田と山形に美大がありますが、そうすると必然的にそのまわりに作家が集まる(笑)。そうすると、コミュニティーの周囲だけで作り手と鑑賞者が成立してしまうので、コミュニティー同士の交流があまりないんです。

キュレーター・中野仁詞
キュレーター・中野仁詞

:それは実感としてわかります。

中野:そうした各地のコミュニティーを混ぜ合わせたいという思いはあります。『オープンシアター』も、京都を拠点にしている石塚さんをはじめ、関西勢が多いんです。

石塚:たしかに、僕がずっと京都で活動をしている理由には、人のつながりができていることや、材料調達がしやすいことがあります。代々やっている漆屋もあり、材料がなくなったら自転車ですぐに買いに行けるし、ケミカルな実験をしようとしたら、それをサポートしてくれる場所もある。そういう環境からか、関東方面であまり展示はしていなかったのですが、中野さんがよく京都に来て、混ぜようとしている感じは伝わっていました。

田中望『モノおくり』2013年 『詩情の森―語りかたられる空間』出品作家
田中望『モノおくり』2013年 『詩情の森―語りかたられる空間』出品作家

藤堂『Debris-Ntnl Stdm (Tokyo)』2016年 Photo:Keizo Kioku 『詩情の森―語りかたられる空間』出品作家
藤堂『Debris-Ntnl Stdm (Tokyo)』2016年 Photo:Keizo Kioku 『詩情の森―語りかたられる空間』出品作家

飯川雄大『デコレータークラブ-Mr.Kobayashi,The Pink Cat』 2016年 『オープンシアター2017』出品作家
飯川雄大『デコレータークラブ-Mr.Kobayashi,The Pink Cat』 2016年 『オープンシアター2017』出品作家

小林耕二郎『動物と動物のあいだ』2016年 Photo:Hayato Wakabayashi  『オープンシアター2017』出品作家
小林耕二郎『動物と動物のあいだ』2016年 Photo:Hayato Wakabayashi 『オープンシアター2017』出品作家

作品は鑑賞者それぞれの感覚のズレを通して、対話を生む場所。(角)

―現代美術というと、抽象的な空間で行われる知的なものというイメージもありますが、最近は具体的な土地にこだわって住み、それを制作に反映する作家も多いと感じます。石塚さんは京都という土地と、ご自身の作品には関係があると思いますか?

石塚:作品に反映されているかはわからないですが、京都だと古いものを見ようと思ったらすぐに行ける良さはありますね。無意識に周囲の環境も取り込んで制作している部分はあります。

石塚源太
石塚源太

中野:風土から受ける影響は、無意識のうちに熟成しているものだと思います。僕がなぜキュレーションのメインをインスタレーションにしているかと考えると、子供の頃から地元の藤沢から近い鎌倉の庭園に、よく連れて行かれたからなんです。庭園は石や木と自分の関係性を味わう一種のインスタレーションで、その影響は確実にあると思う。

―角さんはむしろ、土地を離れたことで、感覚の違いに驚いたわけですよね。

:僕は現代美術を心ざしたのがわりと年を取ってからで、大学では工学部に通っていたんです。それは地元では、美術をやるという発想自体が生まれなかったからなんですが、ものを作ることは好きだったので、上京してから金工に移り、そして彫刻を始めた。なので、最初から現代美術の問題を抽象的に考えるというより、暮らしている場所や生活から出てくることをモチーフにしてきました。

石塚:2013年に、アートフロントギャラリー(東京・代官山)で角さんの展示をたまたま見たんです。そのとき、素材を見せることに意識的な作家だなと感じて。プレーンにも作れるのに、わりと手つきやテクスチャーがあったので、いま金工出身と聞いて腑に落ちましたね。

角文平『L字の丘の城』2011年 Photo:Yuichiro Tanaka
角文平『L字の丘の城』2011年 Photo:Yuichiro Tanaka

―福井でやられていたものづくりとは?

:それはいわゆる美術ではなく、山で伸びた枝を鉈で切り、それで何かを作ったり、畑を耕したり、小屋を建てたり。そういう生活に密着した制作が、現在につながっている気がします。

いまでもアーティストである以前に、普通の親として感じることや、日常生活で感じることがすごく大事。何でこんなに電車が混んでいるのかとか、埋立地に人が住んでいることの不思議さとか、そんな疑問も作品のモチーフにしています。だけど一方で、作品を通して人との感覚の違いが浮き彫りになることも面白いんです。

角文平
角文平

―というのは?

:たとえば『一戸建てマンション』という、一戸建ての住宅を金属で貫いて、高く組み上げた作品があるんです。自分の中では、これだけ地面から離れ、密着して生活していることの違和感を表現しているつもりが、「かわいい! ここに住みたい」と言う鑑賞者もいて(笑)。僕が抱いているのはあくまでひとつの感覚であって、答えがあるわけではない。作品はそれぞれの感覚のズレを通して、対話を生む場所だと思います。

角文平『一戸建てマンション』2012年
角文平『一戸建てマンション』2012年

―今回の会場も、ホワイトキューブではない特殊な空間ですが、作品とそれが展示される場の関係は、いま広く問われていますよね。それこそ言い尽くされたことですが、各地で増加する芸術祭でも、その場の性格をいかに取り込むかが課題になっています。

:単純に土地の魅力や文脈を絡めたものでないと、見ることも、作ることもつまらないですよね。どの分野でもそうでしょうが、なぜそれをやるのかという意味が重要で、別にここじゃなくてもいいものは、やる意味がないし、見たくない。僕も芸術祭に参加するときは、そこでやることの意味を明確にすることを、とても意識しています。

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イベント情報

『詩情の森―語りかたられる空間』

2017年4月30日(日)~5月28日(日)
会場:神奈川県 横浜 KAAT 神奈川芸術劇場
時間:10:00~18:00(入場は閉場の30分前まで)
参加作家:
角文平(彫刻 / 1978年生まれ、東京都在住)
金子富之(日本画 / 1978年生まれ、山形県在住)
田中望(日本画 / 1989年生まれ、山形県在住)
藤堂(彫刻 / 1969年生まれ、東京都在住)
長沢明(日本画 / 1967年生まれ、山形県在住)
三瀬夏之介(日本画 / 1973年生まれ、山形県在住)
料金:一般600円 学生・65歳以上500円
※高校生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付き添いの方1名は無料
※10名以上の団体は100円引き

『オープンシアター2017』

2017年5月28日(日)
会場:神奈川県 横浜 KAAT 神奈川芸術劇場
時間:10:00~18:00
参加作家:
飯川雄大(映像/ 1980年生まれ、兵庫県在住)
石塚源太(漆芸/ 1982年生まれ、京都府在住)
小林耕二郎(彫刻/ 1975年生まれ、東京都在住)
宮永亮(映像/ 1985年生まれ、京都府在住)
料金:無料
※一部作家は『詩情の森』展期間中に館内展示を行います。

プロフィール

角文平(かど ぶんぺい)

1978年、福井県生まれ。東京都在住。2002年、武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科金工専攻卒業。日常に存在する様々な物をモチーフとし、その中から物同士をパズルのように組み合わせることで、本来物の持つ機能や意味をずらし、新たな意味を持った立体作品を制作。近年は、空間や地域の持つ意味を作品の中に取り込むようなインスタレーションも展開している。

石塚源太(いしづか げんた)

1982年、京都府生まれ。2008年、京都市立芸術大学大学院工芸専攻漆工修了。漆に宿る質感と、その触覚によって作品と観者の間に生まれる現象や影響関係に着目し制作している。現在京都市在住。

中野仁詞(なかの ひとし)

1968年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院美学美術史学専攻前期博士課程修了。主な企画に、パフォーミング・アーツは、音楽詩劇 生田川物語–能「求塚」にもとづく(創作現代能、2004年、神奈川県立音楽堂)、アルマ・マーラーとウィーン世紀末の芸術家たち(音楽・美術、06年、同)、生誕100年ジョン・ケージ せめぎあう時間と空間(音楽・ダンス、11年、神奈川県民ホールギャラリー)。現代美術展では、塩田千春展「沈黙から」 (07年、神奈川県民ホールギャラリー)、小金沢健人展「あれとこれのあいだ」(08年、同)、「日常/場違い」展(09年、同)、「デザインの港。」浅葉克己展(09年、10年、同)、泉太郎展「こねる」(10年、同)、「日常/ワケあり」展(11年、同)、さわひらき展「Whirl」(12年、同)、「日常/オフレコ」展(14年、KAAT神奈川芸術劇場)、第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館 塩田千春「掌の鍵」(15年)ほか。芸術資源マネジメント研究所研究員。東海大学非常勤講師。

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