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KAATで作家とキュレーターが作る劇場での新しい現代美術展の試み

KAATで作家とキュレーターが作る劇場での新しい現代美術展の試み

KAAT EXHIBITION 2017
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

工芸の場合、良い「もの」を作ればそれでいいと思ってしまうところがいまだに多い。(角)

―石塚さんは「工芸の家」というプロジェクトもやられていて、宿として改修された元アパートの木造物件の階段を漆で塗っています。あれも、あの場でやることの意味が重要ですね。

石塚:そうですね。あのプロジェクトは、工芸にたずさわる作家たちが、どういう風に建築と関われるのかという問題意識でやっているものです。2015年にオープンしたKYOTO ART HOSTEL kumagusukuの改修前の既存の構造や意匠に工芸の技法を用いて参加しました。僕は、元々あった階段を漆の工程ごとに塗り分けた。

石塚源太『漆塗りの階段』 2014年 Photo:Nobutada Omote collection:OZASA KYOTO
石塚源太『漆塗りの階段』 2014年 Photo:Nobutada Omote collection:OZASA KYOTO

石塚:普段の制作では、どうしても完成品の表面しか見せることができないですが、漆の世界ではプロセスに重きが置かれていて、ある表情の表層の下にある技術がすごく大事なんです。それを見せられないかと思ったんですね。ものを置いて見てもらうのとは違い、階段に触れることと見ることが重なる体験を作りたかったんです。

石塚源太
石塚源太

―そもそも、工芸家が建築にどう関わるかという問題意識はどこから出てきた?

石塚:「工芸の家」は、「APP ARTS STUDIO」という工芸を作り手の視点から読み解き、その制作の方法を探っていくユニットのひとつのプロジェクトなんです。ギャラリーで飾られる作品とは違い、どう別の視点で仕事を展開できるのか。普段は、「もの」を対象に制作してしまいがちなんですけど、ここにはそれが空間に広がる面白さがあります。

:その問題意識はわかります。僕もそうだったんですけど、とくに学生のころは、「もの」の想像力は働く一方、周りの空間までの意識はなかなか持てないんですよね。とくに工芸の場合、良い「もの」を作ればそれでいいと思ってしまうところがいまだに多い。でも、工芸家もただ器を作っていては生きていけなくて、どのように技術的な可能性を広げられるかの模索は重要ですよね。

角文平
角文平

現代美術展の面白さは、つねに価値を作りつつあるものだということ。(中野)

石塚:以前、あるコミッションワークをやったことがあって、僕はものに集中していて、最初は建築家の意見がよく掴めなかったんです。ただ、実際に展示すると、建築家は空間全体を俯瞰して、その中の作品を意識していたことがわかった。

今回は、作品を展示する場所がガラス張りの開けた空間なんですが、その場所というお題から作っている感覚があるんですね。逆に言うと、空間自体に力があるので、作品が力を保っていないと埋もれてしまう。そうならないよう、作品と場所の緊張感を見せられたらと思います。

中野:場所と作品の関係は、僕も若いキュレーターに教えるのが難しいことで、やはり現場で覚えるしかないと思う。以前、ある作家の展示をした際、どうしてもうまく見せられない作品があって。そうしたら彼が、「これは見せ方じゃなくて、僕の作品が悪いんですよ」と言ったんです。それは面白い体験だった。人には具体的な身体の感覚があるわけで、事前のイメージにこだわらず、現場で作ることが大事だと思います。

キュレーター・中野仁詞
キュレーター・中野仁詞

―展示自体も、作品と人の距離感が絶えず問われるものになりそうですね。

中野:おそらく空間に入ると、かなり雑多な感じがすると思うんです。ただ、すでに価値が確定した巨匠や古典の展示と違う、現代美術展の面白さは、つねに価値を作りつつあるものだということ。いい意味でのカオス性に、身を委ねていただければと思います。

:僕はさきほども触れた『空中都市』を、少し数を増やして展示します。この作品自体も人の視線の高さを意識して作ったものなのですが、今回の場合、橋のような装置で展示空間に高低差ができるので、さらにいろんな見え方ができると思う。また、日本画に描かれた風景と、僕の家を同時に見ることで、新しい物語が生まれるかもしれない。そのようにすべての出品作品が絡み合う、無数の見方が楽しめる展示にしたいですね。

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イベント情報

『詩情の森―語りかたられる空間』

2017年4月30日(日)~5月28日(日)
会場:神奈川県 横浜 KAAT 神奈川芸術劇場
時間:10:00~18:00(入場は閉場の30分前まで)
参加作家:
角文平(彫刻 / 1978年生まれ、東京都在住)
金子富之(日本画 / 1978年生まれ、山形県在住)
田中望(日本画 / 1989年生まれ、山形県在住)
藤堂(彫刻 / 1969年生まれ、東京都在住)
長沢明(日本画 / 1967年生まれ、山形県在住)
三瀬夏之介(日本画 / 1973年生まれ、山形県在住)
料金:一般600円 学生・65歳以上500円
※高校生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付き添いの方1名は無料
※10名以上の団体は100円引き

『オープンシアター2017』

2017年5月28日(日)
会場:神奈川県 横浜 KAAT 神奈川芸術劇場
時間:10:00~18:00
参加作家:
飯川雄大(映像/ 1980年生まれ、兵庫県在住)
石塚源太(漆芸/ 1982年生まれ、京都府在住)
小林耕二郎(彫刻/ 1975年生まれ、東京都在住)
宮永亮(映像/ 1985年生まれ、京都府在住)
料金:無料
※一部作家は『詩情の森』展期間中に館内展示を行います。

プロフィール

角文平(かど ぶんぺい)

1978年、福井県生まれ。東京都在住。2002年、武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科金工専攻卒業。日常に存在する様々な物をモチーフとし、その中から物同士をパズルのように組み合わせることで、本来物の持つ機能や意味をずらし、新たな意味を持った立体作品を制作。近年は、空間や地域の持つ意味を作品の中に取り込むようなインスタレーションも展開している。

石塚源太(いしづか げんた)

1982年、京都府生まれ。2008年、京都市立芸術大学大学院工芸専攻漆工修了。漆に宿る質感と、その触覚によって作品と観者の間に生まれる現象や影響関係に着目し制作している。現在京都市在住。

中野仁詞(なかの ひとし)

1968年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院美学美術史学専攻前期博士課程修了。主な企画に、パフォーミング・アーツは、音楽詩劇 生田川物語–能「求塚」にもとづく(創作現代能、2004年、神奈川県立音楽堂)、アルマ・マーラーとウィーン世紀末の芸術家たち(音楽・美術、06年、同)、生誕100年ジョン・ケージ せめぎあう時間と空間(音楽・ダンス、11年、神奈川県民ホールギャラリー)。現代美術展では、塩田千春展「沈黙から」 (07年、神奈川県民ホールギャラリー)、小金沢健人展「あれとこれのあいだ」(08年、同)、「日常/場違い」展(09年、同)、「デザインの港。」浅葉克己展(09年、10年、同)、泉太郎展「こねる」(10年、同)、「日常/ワケあり」展(11年、同)、さわひらき展「Whirl」(12年、同)、「日常/オフレコ」展(14年、KAAT神奈川芸術劇場)、第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館 塩田千春「掌の鍵」(15年)ほか。芸術資源マネジメント研究所研究員。東海大学非常勤講師。

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