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apapico×おぐち対談 芸術or仕事で揺れるイラストレーターの苦悩

apapico×おぐち対談 芸術or仕事で揺れるイラストレーターの苦悩

apapico『It's not started, yet.』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:豊島望 編集:山元翔一

僕は、おぐちさんとは真逆で、どんどんと作家熱が燃え上がっているんです。(apapico)

―おぐちさんには「アーティスト」への憧れみたいなものはなかったのですか?

おぐち:もちろん、大学の頃は周りに「霞を食って生きていこう」っていう人たちもいましたし(笑)、そういう人たちが多かったからか、僕は逆に、人から頼まれて描くことにやりがいを感じていたんです。

それに、人とのコミュニケーションを取らなさすぎるのもどうかと思うんですよ。本当にヤバい作品を作っている人たちって、まともに話が通じない人ばかりですから(笑)。そういう意味では、僕が活動を始めた頃から、イラストコミュニケーションサービスがネットで普及し始めたのも大きいかもしれないです。

―pixivのような、イラストや漫画専門のSNSですよね。

おぐち:そうです。そのおかげで、画家ほど霞を食って生きていかなきゃいけないわけでもなく、デザイン会社に就職しなきゃいけないわけでもなく、その中間で、ある程度自分の好きに活動しても、それが仕事になる機会が増えた。それが、今の「イラストレーター」という職業のあり方につながっているのかなと思いますね。

apapico:やっぱり、僕らの世代は手法がデジタルである、という点も大きいですよね。一昔前までは、水彩とか、アナログな手法を使って描かれているイラストレーターが多かったんですけど、僕らの世代って、デジタル絵が普及して、データでネットにもアップできるし、発注もネットから来るしっていう、デジタル環境が揃ったっていう時期だったから。

apapico

apapicoによるデジタルイラスト作品
apapicoによるデジタルイラスト作品

おぐち:でも、だからこそ、イラストレーターが画家になっていくことの難しさっていうのもあるんですよねぇ……。

―その「難しさ」って、具体的にどんなものなのでしょうか?

おぐち:画家は、まず1点ものであることが大前提なんです。でも、デジタルの場合は画像データだから、同じ作品が2個も3個も存在してしまうし、それによって価値が分散してしまう。しかも、デジタルで完成しているものを紙に印刷したりすると、どうしても、違和感が出てしまうんですよ。

―でも、シルクスクリーンのような、大量生産されながらも、アート作品として価値が生まれるものもありますよね?

おぐち:シルクスクリーンは、あくまで「シルクスクリーン」というジャンルが価値を持っているから作品になり得るんですよ。でも、僕らのようなデジタルイラストレーターが描くデジタルイラストに、「1枚〇〇円」って絵画作品のように値がつくことは現状ないんです。今後、そうなればいいと思うけど、今はまだ、デジタル作品を絵画作品にすることに高い壁があって、多くの人がその壁をなかなか登れない。

おぐち

―なるほど。

おぐち:だから、同じ「イラストレーター」という肩書きでも、アニメやオタク分野の「デジタルイラストレーター」と、作家色を持っている「イラストレーター」の境界線も出てくるんです。今の若い子たちには、デジタルイラストレーターを「現代のアーティスト」のような存在だと思っている人たちもいるみたいなんですけど、全然そんなことはなくて。本当に、古典的なアーティストとして、霞を食って生きている人たちは、今でも別にいるんですよね。

―おぐちさんは今後、画家としての活動もやっていきたい、という気持ちはあるんですか?

おぐち:そりゃあ僕も、依頼されたものではなく、バンクシー(イギリスのロンドンを中心に活動する覆面芸術家)みたいに自分の範囲だけで作ったもので評価されたいって思います。もし、デジタルイラスト1枚に絵画作品と同じように値がつく時代がきたら、僕は今のクライアント仕事はやめちゃいますね。「俺の絵だ!」っていうものを描き始めると思う。だから、今日、apapicoさんがシルクで刷った作品を持ってきているじゃないですか。こういったものを見ると、ドキッとするんです。「いいなぁ」って。

apapicoが展示会『It's not started,yet.』用に書き下ろしたアクリル絵画と、過去に制作したシルクスクリーンの作品
apapicoが展示会『It's not started,yet.』用に書き下ろしたアクリル絵画と、過去に制作したシルクスクリーンの作品(展示会の詳細を見る

apapico:僕は、おぐちさんが冷静に「デジタルイラストレーター」という職業を見ているのとは真逆で、どんどんと作家熱が燃え上がっているんです。もちろん、デザイナーやイラストレーターとして、クライアントや絵を見てくださる人たちのことを考えないとNGかなって思うんですけど……でも、どこかで常に、「他の人とは違うことをしたい」と思っている自分がいて。今まで培ってきたものをぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて、マヨネーズみたいにビュッと出したら何が出るんだろう? っていう実験をしたい気持ちが、最近はどんどん出てきているんです。

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イベント情報

『It's not started,yet.』

2017年10月20日(金)~10月22日(日)、10月27日(金)、10月28日(土)
会場:東京都 馬喰町 factory
時間:12:00~20:00(金曜は15:00~20:00、入場は各日19:30まで)
料金:入場無料

プロフィール

apapico(あぱぴこ)

福島県出身。東京工芸大学デザイン学科卒業。デザイナー&イラストレーター。学生時代よりアーティストのアシスタントやクラブイベントでのVJをやりつつ、イラストやデザインを勉強。村上隆のカイカイキキにて学んだ後、現在はstudioNASでイラスト / 各種デザインに従事。

おぐち

東京藝術大学油絵科卒業。村上隆率いるカイカイキキのグループ展への参加経験や、ブラウザゲーム『艦隊これくしょん -艦これ-』の敵艦デザイン、グッドスマイルレーシングの『レーシングミク 2014ver.』公式イラスト、また、PS Vitaゲーム『カリギュラ』のキャラクターデザインを手がける。現代アートからポップカルチャーまでを横断し、揺るぎない独自の世界観を持ちつつも、新たな表現を探求し続けるアーティスト。

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