特集 PR

apapico×おぐち対談 芸術or仕事で揺れるイラストレーターの苦悩

apapico×おぐち対談 芸術or仕事で揺れるイラストレーターの苦悩

apapico『It's not started, yet.』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:豊島望 編集:山元翔一

やっぱり、人は誰しも、他人には理解されない、こじらせている何かってありますからね。(おぐち)

―apapicoさんが、作家を志向するモードに至ったきっかけは、何があったのでしょうか?

apapico:30歳を超えて、ある程度、見えてくるものってあるんですよね。20代の頃は精神面・肉体面からも漠然とした希望があったんですけど、30代になってガクッと体力が落ちてきて。そうなったとき、改めて「自分」っていうものと対面する感覚があったんです。

たとえば、僕は仕事以外にも、同人イベントで本を作ることもあるんですけど、同人の枠に自分で自分を収めているのがもったいないし、「今、もっと表現すべきことがあるんじゃないか?」って思ったりするんです。

apapico

apapicoによるデジタルイラスト作品
apapicoによるデジタルイラスト作品

apapico:今日持ってきたシルクスクリーンの作品も、どれだけ紙に印刷したところで、根本をデジタルで表現している以上、自分が原画で表現したことはインクを通して伝わらないかもしれないから、「じゃあ、自分で刷っちゃえばいいんじゃないか?」っていう考えから始めたことで。

―なんというか……非常に「巨匠」的な考え方ですよね。

apapico:そもそも、僕からしたら、おぐちさんのほうが「巨匠」なんですよ(笑)。

―作家さん同士の対談って、意気投合していく場合がほとんどですけど、今日はお二人の意識の違いがどんどん如実になってきますね(笑)。

apapico:本当に、僕とおぐちさんはスタンスが違いますよね。今の僕は、自分が表現したいものを率先して出していこうっていうスタンスですけど、おぐちさんの絵にある個性は押さえても押さえても滲み出てくるものなんじゃないかと思うんです。

たとえば、おぐちさんの描くキャラクターの「目」には、すごく特徴がありますよね。睨んでいるわけでもなく、媚びているわけでもなく、いやらしいわけでもなく、カッコつけているわけでもない……静かにじっとこっちを見ている、あの目はすごく印象的だなって思う。

おぐちの自主制作によるデジタルイラスト ©OGH
おぐちの自主制作によるデジタルイラスト ©OGH

おぐち:ありがとうございます。自分では、特に意識はしていないんですけどね(笑)。でも、「押さえても出てくるもの」っていうのはたしかにそうで、僕自身が、どれだけクライアントの言うとおりにしよう、自分の「我」なんていらないんだって思って描いても、どうしたって、「おぐちさんの絵には味がありますよね」って言われたりするもので。

―もしおぐちさんが今、先ほどおっしゃった「俺の絵」を描くとしたら、どんなものを描きたいと思いますか?

おぐち:これは本当に、個人的なことなので、わかってもらえなくてもいいんですけど……鶏肉を煮込んだときに出る白濁の煮汁があるじゃないですか。あの煮汁って、光の反射でちょっと虹色になる瞬間があるんですよ。あの感じが好きなんです。

もともと、白っぽいものが好きなんですけど、特に、白いものが虹色に光る瞬間を絵で表現したいとずっと思い続けていて。今、それを仕事でやろうとは思わないですけど、仮に「何をしてもいい」と言われたら、ただただ、それを追求する時間を作りたいと思います。

―なるほど……やっぱり、おぐちさんのなかの根本にあるものって、すごくアーティスティックな「業」なんですね。

おぐち:やっぱり、人は誰しも、他人には理解されない、こじらせている何かってありますからね。

apapico:僕はこじらせてこじらせて、今、やり始めちゃいました(笑)。

左から:apapico、おぐち

apapicoが制作したタブロイドやCDジャケットなど
apapicoが制作したタブロイドやCDジャケットなど

今、ネットの世界って、すごい勢いで絵が消費されているんです。でもそれだと、キャラクターが可哀想じゃないですか。(apapico)

おぐち:でも、なんだかんだで、僕はいい時代だと思いますよ。ネットのおかげで、自分のなかの「こじらせているもの」を出しても、受け入れられる世の中にはなっていますから。だからもし、この記事を「こじらせているもの」を絵で表現したいと思っている中高生たちが読むなら、「大丈夫だと思うよ」って言いたいですね。もっとネットとかに出していいよって。

―可能性は開かれている時代ですからね。

おぐち:あとは、この先、apapicoさんがデジタルイラストレーターでありながら、画家としても成立する道を切り拓いてくれたらいいなって思います。そしたら僕は後々、「apapicoさんならやってくれると思いました!」って言うので(笑)。

左から:おぐち、apapico

apapico:ははは(笑)。でも、5年後の僕は「やっぱり、おぐちさんは正しかったんだ」って言っているかもしれないですから。

―わからないですからね、この先どうなるかは。

おぐち:現時点での僕らの感覚はこうだけど、この先はわからない。apapicoさんのように、自分の個性をどんどん売り出したほうが、いろんな媒体にコネクトできる時代になるのかもしれないし。

でも、今の僕は、デジタルイラストレーターから画家への高い壁を超えるのは、もう少し長い目で見てもいいと思っていて。それまでは、あくまでも必要とされる絵を描くスキルを持った人材として活動することに専念したいなって思っています。

―apapicoさんの今後はどうですか?

apapico:他の誰も見ていないような、カッコいいもの、可愛いもの、面白いものを探し出して、自分なりの表現の形で「こういうのがあるよ」って提示する、媒介のようなことをやれたらいいなと思いますね。その結果、今まで見たこともないようなものを作ることができたら、万々歳だなって思います。

―近々、展示会も予定されているんですよね?

apapico:そうですね。そこでは、新しいシリーズを展開する予定です。今、ネットの世界って、すごい勢いで絵が消費されているんです。昨日、pixivのランキングで1位を獲っていた絵が次の日にはなくなっている。でもそれだと、そこに描かれているキャラクターが可哀想じゃないですか。そういう、消費されてしまう絵の価値を変えるための挑戦もしていきたいなって思っています。

たとえば、キャラクターを単純に描くだけでは、「なぜ、そのキャラクターがその表情をしているのか?」っていうことが伝わらない。それなら、そのキャラクターが、どういう場面にいるのかっていう環境自体を描いてみたらどうだろう? っていう視点で、キャラクターを引きで描くっていうことを、そのシリーズではやってみようと思っています。

apapico

おぐち:……本当に、「巨匠」ですねぇ。

apapico:いや、だから、僕からしたら、おぐちさんのほうが「巨匠」なんですって!(笑)

記事の感想をお聞かせください

知らなかったテーマ、ゲストに対して、新たな発見や感動を得ることはできましたか?

得られなかった 得られた

回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Page 3
前へ

イベント情報

『It's not started,yet.』

2017年10月20日(金)~10月22日(日)、10月27日(金)、10月28日(土)
会場:東京都 馬喰町 factory
時間:12:00~20:00(金曜は15:00~20:00、入場は各日19:30まで)
料金:入場無料

プロフィール

apapico(あぱぴこ)

福島県出身。東京工芸大学デザイン学科卒業。デザイナー&イラストレーター。学生時代よりアーティストのアシスタントやクラブイベントでのVJをやりつつ、イラストやデザインを勉強。村上隆のカイカイキキにて学んだ後、現在はstudioNASでイラスト / 各種デザインに従事。

おぐち

東京藝術大学油絵科卒業。村上隆率いるカイカイキキのグループ展への参加経験や、ブラウザゲーム『艦隊これくしょん -艦これ-』の敵艦デザイン、グッドスマイルレーシングの『レーシングミク 2014ver.』公式イラスト、また、PS Vitaゲーム『カリギュラ』のキャラクターデザインを手がける。現代アートからポップカルチャーまでを横断し、揺るぎない独自の世界観を持ちつつも、新たな表現を探求し続けるアーティスト。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. THE SPELLBOUNDがライブで示した、2人の新しいロックバンド像 1

    THE SPELLBOUNDがライブで示した、2人の新しいロックバンド像

  2. 中村佳穂が語る『竜とそばかすの姫』 シェアされ伝播する歌の姿 2

    中村佳穂が語る『竜とそばかすの姫』 シェアされ伝播する歌の姿

  3. 『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」 3

    『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」

  4. ジム・ジャームッシュ特集が延長上映 『パターソン』マーヴィンTシャツも 4

    ジム・ジャームッシュ特集が延長上映 『パターソン』マーヴィンTシャツも

  5. A_oから青い心を持つ全ての人へ 自由に、自分の力で生きること 5

    A_oから青い心を持つ全ての人へ 自由に、自分の力で生きること

  6. 地下から漏れ出すアカデミックかつ凶暴な音 SMTKが4人全員で語る 6

    地下から漏れ出すアカデミックかつ凶暴な音 SMTKが4人全員で語る

  7. 林遣都×小松菜奈『恋する寄生虫』に井浦新、石橋凌が出演 特報2種到着 7

    林遣都×小松菜奈『恋する寄生虫』に井浦新、石橋凌が出演 特報2種到着

  8. 『暗やみの色』で谷川俊太郎、レイ・ハラカミらは何を見せたのか 8

    『暗やみの色』で谷川俊太郎、レイ・ハラカミらは何を見せたのか

  9. ギャスパー・ノエ×モニカ・ベルッチ『アレックス STRAIGHT CUT』10月公開 9

    ギャスパー・ノエ×モニカ・ベルッチ『アレックス STRAIGHT CUT』10月公開

  10. 『ジョーカー』はなぜ無視できない作品なのか?賛否の議論を考察 10

    『ジョーカー』はなぜ無視できない作品なのか?賛否の議論を考察