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高田唯に訊く。ズレや違和感も受け止める度量の広いデザイン世界

高田唯に訊く。ズレや違和感も受け止める度量の広いデザイン世界

『遊泳グラフィック』展
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:鈴木渉 編集:宮原朋之、川浦慧

綺麗なデザインが得意な人は山ほどいるので、僕たちは生っぽい表現を探し続けている。

―高田さんは普段、街を歩いて見つけた看板などの意外な色の組み合わせや、魅力的な書体を、自身のデザインに積極的に取り入れていますよね。

高田:僕はそれを「天然のグラフィック」と呼んでいます。よく見かけるのは駅ですね。駅に行くと、「危険」や「●●線は向こうです」と、駅員さんが必要に駆られてPowerPointなどで作った張り紙がありますよね。

高田:道具に不慣れな人が頑張って作ったものですが、その分、力強くてわかりやすい。「美しさ」はさておいて、伝わるように作る。その工夫に感動するんです。「きっとこれが伝えたかったんだな」「そう考えた人がいるんだな」というところに思いを馳せるのが好きで。

高田唯

高田:自分の仕事の場合、伝えたいことを先に乗せて、美しさはあとで整える。『JAGDA東京新歓コンパ』のポスターなど、僕はよく色面を使うのですが、これは戦後のデザイナーがよく使った手法であると同時に、スナックなどの看板から刺激を受けたものです。

そうしたグラフィックを見ると、デザイン教育では美しいことや整えることが優先されるけど、それが良いことばかりじゃないと気がつく。綺麗なデザインが得意な人は山ほどいるので、僕たちは天然、生っぽい表現を探し続けているんです。

『JAGDA東京新歓コンパ』ポスター
『JAGDA東京新歓コンパ』ポスター

―「情報伝達」と「美しさ」を分けたとき、一般的にデザイナーは後者を優先するというイメージもありますよね。字がすごく小さいポスターは多いじゃないですか。

高田:僕の場合、伝えたいことを打ち出す分、逆にごちゃごちゃしてわかりづらいという意見も聞きますが(笑)。でも、一方でわかりづらくても良いと思う。よく「コンセプトは?」とすぐ聞く人がいますが、そこにはデザイナーがやたらコンセプチュアルに作品を整理して、人に伝えてきた弊害もある。僕はそんな一方的な伝え方ではなくて、関わる人たちの思いがごちゃごちゃに混ざった表現があってもいいと思うんです。

一番怖いのは思い込み。「これはこういうもんだろう」という先入観が一番気をつけないといけないところ。

―教育の話がありましたが、高田さんは東京造形大学で教鞭も執っています。聞くところでは、商品パッケージの「食品成分表」を模写させたりするそうですが……。

高田:そういうところにも、面白さを感じてほしいんですね。あるものをそのまま見るのではなく、自分の認識をちょっと揺らし、違う角度から見ても良いんじゃないか。

たとえば噛んだガムをじっくり見ると、宇宙生物や臓器にも見える。週刊誌の中吊り広告から文字だけを取り除くと、想像もしなかった光景がある。選挙ポスターも、誰が決めたかわからないルールが詰まっていますよね。日常にある面白いものに感動できると、人生は豊かになると思っていて、ゼミ生にはそれを知ってほしいんです。

―共通しているのは、頭や理論でグラフィックを考えるのではなく、現実のものに触れ合って分析して、それを貪欲に自分のフィールドに持ち込もうという意識ですね。

高田:一番怖いのは思い込みだと思うんです。「これはこういうもんだろう」という先入観が、デザイナーが一番気をつけないといけないところ。「男は青で、女は赤」とか、誰かが勝手に決めたものを自然に受け入れているけど、それに対して「ちょっと待って」と距離を持てるようになってほしくて。

高田唯

―デザインに対して、強い思い込みを持っている学生は多いんですか?

高田:やはり高校時代から興味を持って、グラフィックデザイン科に入ってくる子たちなので、そういう人は多いです。でも、綺麗なデザインを作れるだけの人は大勢いる。だから僕は、学生全員がデザイナーだけで食えるとはまったく思わないし、むしろそれ以外の部分の良さを積極的に伝えます。写真やイラスト、音楽、コミュニケーション能力。何でもいいのですが、デザインに加えて自分をいかせる得意なこともひとつ見つけてあげたい。

それは、活版工房を始めて気づいたことでもあります。以前は、それこそ思い込みで、グラフィックデザインだけをやれば良いと思っていた。でも、やりたいことはどんどんやっていくべきなんですよね。最近では活版印刷担当のスタッフの東郷清丸が、自分の作った音楽をうちで出したいということで、工房に加えて音楽レーベルも始めたんです。いろいろやることで、若い人にデザイン事務所はこういうことをやっても良いと伝えたいなと。

東郷清丸『二兆円』ジャケット写真
東郷清丸『二兆円』ジャケット写真

―まさに「Allright」な感じですね。

高田:ははは(笑)。そうですね。「良い名前、付けたなー」と思います。

―そんな高田さんの今回の個展、どんな展示内容になりそうですか?

高田:印刷物からプロダクトまで、これまでの代表作が並びますが、『高田唯展』とはいえ、いろんな人が関わっているので、かなりゴチャゴチャした内容になると思います。たとえば各作品には、デザインに詳しくない人でも背景がわかる解説が付くのですが、これを書いたのは近所に住む男の子なんです。

―近所に住む男の子にテキストを任せるとは……すごいですね。

高田:うちに入りたくて上京してきて、文章が好きというので「じゃあ、書いて」と(笑)。僕の周りではそういう偶然の出会いがよく起こるんです。展示フライヤーでも、題字を描いてくれた小林一毅くんやイラストの平山(昌尚)くんにいい意味で裏切られて、良いものができました。会場もそうしたいろんな人の意志が入り込む、熱のあるものになると思います。ちょっとヘビーなので、2回くらいに分けて見てほしい(笑)。

『遊泳グラフィック』ポスター
『遊泳グラフィック』ポスター(サイトを見る

―タイトルの「遊泳」のワードも、歩き回り遊んでいる姿から、お姉さんが付けてくれたものだとか。人も街の表現も取り込む高田さんの活動からは、自分一人の感性を突き詰めるのとは違う、デザインの度量の広さのようなものを一貫して感じます。

高田:僕が一番言いたいのは、そこかもしれませんね。すべてを「受け入れる」ではなくてもいいんですけど、「受け止める」くらいはしてもいいんじゃないか。そうした自分の世界が広がる瞬間が、生きていてもっとも楽しい部分だし、どんな状況でも「なるようになる」というエネルギーで仕事がしたい。とくに、これからデザインの道を進もうとしている若い人の、デザインの概念が広がるようなきっかけになれば嬉しいですね。

高田唯

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イベント情報

高田唯展『遊泳グラフィック』
高田唯展『遊泳グラフィック』

2017年9月19日(火)~10月19日(木)
会場:東京都 銀座 クリエイションギャラリーG8
時間:11:00~19:00
休廊日:日曜、祝日
料金:無料

プロフィール

高田唯
高田唯(たかだゆい)

グラフィックデザイナー、アートディレクター。株式会社Allright代表。1980年東京生まれ。桑沢デザイン研究所卒業。good design companyを経て、2006年Allright Graphics設立。2007年Allright Printing設立。2017年Allright Music設立。東京造形大学准教授。

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