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高田唯に訊く。ズレや違和感も受け止める度量の広いデザイン世界

高田唯に訊く。ズレや違和感も受け止める度量の広いデザイン世界

『遊泳グラフィック』展
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:鈴木渉 編集:宮原朋之、川浦慧

生活とデザインは分けられないし、その人の普段はデザインにも匂いとして出るものだと思う。

―高田さんがこのテクノロジー全盛の時代に、あえてアナログな技術や手仕事を大切にするのは、お父さんの仕事や、彼を通して見た過去のデザインの影響がありますか?

高田:それは、すごくあります。僕は父が45歳のときの子どもだったので、小さい時から父というより、おじいちゃん的な存在でした。父はもちろん、版下を作っていた世代ですが、代官山の同潤会アパートにあった職場に行くと、当時登場したてのMacやさまざまな資料が転がっていた。そういう古い作り手の住処みたいな場所に、ワクワクしていたのはあります。身のまわりに道具が充実していたので、小さい頃から友達と比べて僕の持っている文具はすごく良いやつだったんです(笑)。

高田唯

―自分だけ道具類がやたら充実しているわけですね(笑)。

高田:だから、どうしたって絵を描いちゃったのかもしれない。あと、僕の学生時代は2000年代前半で、ちょうど佐藤可士和さんやヒロ杉山さんなど、デジタルを活かした若手が大活躍しているときでした。それにも興奮したんですけど、当時から自分は手仕事に強く惹かれていた。たとえば、杉浦康平さんや原弘さん。1960年代~70年代くらいの過去の作品の方が、むしろ新しく見えました。

当時、「日本宣伝美術会」という、戦後を代表するデザイン団体を紹介した『日宣美の時代』という展示があったんです。これがめちゃくちゃ格好よかったんですね。時代の激しさが印刷物から溢れていて、ぶん殴られたような気持ちよさがあった。シルクスクリーンの色彩の美しさや荒い網点、たっぷり乗ったインク。作り手の熱意や思いが直接紙の上に乗っている感じがしたんです。

―そこに自分の好きな世界を発見したんですね。

高田:そんなある日、桑沢の掲示板を見たら、田中一光デザイン室のアルバイト募集を発見しました。二度見しましたね(笑)。速攻電話して、そこから昼間は事務所、夜は桑沢というデザイン漬けの日々でした。

一光さんのもとで学んだことはたくさんありますが、とくに大きかったのは生活への姿勢です。一光さんの事務所では、みんなでご飯を食べることをモットーにしていたんです。朝は全員でコーヒーを飲む。昼食の準備では、米を研いだり出汁を取ったりが、僕たちバイトの仕事でした。一見、画面の外にあるものを大切にするその姿勢は、いまのうちの事務所のあり方にもつながっていると思います。

高田唯

―Allright Graphicsでは、大切にしていることに、「自分を整え、信頼し、毎日を味わいながら仕事をし、生活を送る」ことを挙げていますね。

高田:実務的なことではないけど、僕たちも普通の人間なので、生活を大切にしないと良いデザインも生まれないと思うんです。あまりにストイック過ぎてもだめで、適度に悩みながらも、生活をしっかり送らないと、人の気持ちもわからない。生活とデザインは分けられないし、その人の普段はデザインにも匂いとして出るものだと思います。

―桑沢を卒業後は、「くまモン」などのデザインでも知られる水野学さんのgood design companyで活躍されたあと、独立されましたよね。その経緯は、どういうものだったのでしょうか?

高田:一番は、父が倒れてしまったことです。水野さんとは、水野さんの指示のもと、まず僕が良いグラフィックを作る。そして水野さんがそれを言語化する。という、良いチームを組ませてもらったし、もっとも影響を受けた一人です。でもそんな矢先、父が倒れてしまい、デザイン職をしていた姉と、父と僕の三人で仕事をしようと無理を言って独立しました。そこでだいぶ「自立する」というスイッチが入りましたね。

父はすでに手を動かす立場ではなかったですが、一緒に仕事をしてあらためてさまざまなことを学びました。たとえば、「デザイナーは社会問題も考えるべき」という哲学。独立直後にやった、ある劇団の沖縄をテーマにした公演の印刷物では、泡盛のラベルを模したデザインを見て、父が「米軍機をひとつ入れなさい」と言ったんです。デザイナーは、ただ問題解決をするだけの存在ではなく、問題提起もできるということをその姿勢から学びました。

中央右側に、ひとつだけ赤い米軍機が隠れている
中央右側に、ひとつだけ赤い米軍機が隠れている

高田:普段の生活や、社会に対する視点、街にある雑多なものからの刺激。そうした自分のストレートなあり方と、いわゆる「美しいデザイン」をひとつの画面のなかで両立させたい。欲張りですけど、それができていたのが、高度経済成長のデザインだと思うんです。まだ遠く及ばないですが、そこにずっと引力を感じながら、デザインをしてきましたね。

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イベント情報

高田唯展『遊泳グラフィック』
高田唯展『遊泳グラフィック』

2017年9月19日(火)~10月19日(木)
会場:東京都 銀座 クリエイションギャラリーG8
時間:11:00~19:00
休廊日:日曜、祝日
料金:無料

プロフィール

高田唯
高田唯(たかだゆい)

グラフィックデザイナー、アートディレクター。株式会社Allright代表。1980年東京生まれ。桑沢デザイン研究所卒業。good design companyを経て、2006年Allright Graphics設立。2007年Allright Printing設立。2017年Allright Music設立。東京造形大学准教授。

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