ROTH BART BARONが海外進出と、刺激的なイギリス滞在を語る

イギリスデビューに向けたプロジェクトをクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」にて成功させたROTH BART BARON。ロンドンでのレコーディングを終えた彼らは、既発曲のリミックスや、新曲“dying for”をApple MusicやSpotifyなどで全世界配信。あわせてこれらの楽曲を収録したアナログ盤EP『dying for』をリリースする。

彼らはロンドンでどんな刺激を受けたのか。The xxやMura Masaなどが象徴する、いまのイギリスの音楽シーンとも共振するサウンドはどのように生まれたのか。これまでレコーディングで訪れてきたカナダ、アメリカとイギリスにどういった違いがあるか。そして、アリアナ・グランデのライブ会場テロ事件をイギリス国内で経験し、ショックを受けた彼らの心を支えたものとは。三船雅也、中原鉄也に話を聞いた。

英語で歌うか日本語で歌うか、という問題は常につきまとうけれど、宮崎駿に対して「英語で作らないんですか?」とは言わないじゃないですか。(三船)

—ロンドンにはどれくらい行っていたんですか?

三船(Vo,Gt):約ひと月です。ちゃんと向こうの人たちの生活や街を知ろうと思って。真剣に音楽に向き合おうとすると、どうしても長期になってしまうところがあるんです。

—これまでの作品でもROTH BART BARONはアメリカやカナダのスタジオでレコーディングしてきましたよね。そして、その場所の空気感も音楽の中に入っていると言っていた。

三船:そうですね。その街の空気やそこで自分がどう生きるのかということは、音楽の中にグラデーションのように常に入っていると思います。ただ、結局いろんな国に行って思うのは、「どこに行っても僕らは変わらないな」っていうことです。

左から:三船雅也、中原鉄也
左から:三船雅也、中原鉄也

—二人から見たロンドンはどんな土地でしたか?

三船:人との関係性、街並みや、生活する人間のリズムは日本と近いと思うことが多かったです。それでいて多様性のある、マルチカルチャーな国だとも思いますし。いろんな人種のカップルや家族がバスに乗って、それぞれの言語を話している。この先、日本が辿るであろう道の先を行っている感じがありましたね。

中原(Dr):僕らが居たのは「ハックニー」という、どちらかというと観光客のいない北の外れのエリアだったんです。ただ、近くに市場もあるしライブハウスもあって賑やかなところで。確かに日本に近い部分はちょっとあったかな。

ROTH BART BARON、ロンドンで撮影された新しいアーティスト写真
ROTH BART BARON、ロンドンで撮影された新しいアーティスト写真

—今回のプロジェクトでは、アナログ盤EPを制作し、その収録曲が「Spotify」や「Apple Music」などのサブスクリプションサービスで配信リリースされます。これはどういう意図があったんでしょうか?

三船:いろんな人がいろんな形で聴けるフォーマットで音楽を提供したいんです。もちろん、僕らはロックバンドだから、レコードはプレスします。やっぱりコンピューターのスピーカーで聴くのと、レコードに針を落として聴くという行為は全然違うと思っているので。

ただ、いまの時代は「Spotify」みたいなストリーミングを通して、とても簡単に世界の人たちに音楽を渡すことができる。大きなステップだなって思います。

三船雅也

—海外で音楽を届けるにあたって、ROTH BART BARONにはいろんな選択肢があったと思うんです。たとえば、「日本語で歌うか英語で歌うか」。けれど、ROTH BART BARONは日本語を選んだ。

三船:えーと、「英語か日本語か」という問題は、特に僕らみたいな音楽性だと常につきまとうんです。でも、宮崎駿に対して「映画を英語で作らないんですか?」とは言わないじゃないですか。それは映画が日本人のものになったからですよね。そう考えると、ひょっとしたらまだロックミュージックが日本人のものになってないからなのかもしれない。

—なるほど。

三船:なにより、僕らが音楽をやる上で「英語じゃない」ということがネックになった経験がないんですよ。おかげさまで日本以外のいろんなところでライブをやらせてもらってきたけど、幸運にも困ったことがない。そこが僕の中でのある種の自信にもなっている。「英語にしなきゃ誰も聴いてくれない」って絶望したことがないんです。

新しいMusic Video『ATOM (UK mix)』のワンシーン
新しいMusic Video『ATOM (UK mix)』のワンシーン

三船:現地でコミュニケーションを取るときには英語なんですけれど、いまのところ音楽を作る上で英語を使おうという好奇心や気持ちが生まれていないんですよね。もちろん、「日本人だから」ということにこだわっているわけではないです。日本人特有のプライドの高さだけで「いいものを作れば誰かが気付いてくれる」という幻想を抱くつもりはまったくない。そこに対しては僕らはすごくニュートラルで、フレキシブルでいたいと思います。

—少なくとも、いまは日本語で歌っていても世界各国の人に届いている実感がある。

三船:そうですね。音楽はもうひとつの言葉だなって思うんです。言語の壁をふっと越えられるところがある。僕らのライブでも、演奏してるうちに初めてのお客さんがわーっと盛り上がることがよくあって。ある種の直感というか、シックスセンス的なものに助けられてるところもあるかもしれないです。

—今回のロンドン滞在時にもライブをやったんですよね。自分たちの音楽をどんな風に受け入れられた実感がありますか?

中原:僕らって、どちらかというと北国の人に受け入れられる感覚があるんですよね。ロンドンもその感覚に近かったですね。当然初めて聴いてもらう人たちばかりだったし、こちらの言葉もわからないけど、それまでバーで飲んでた人たちがどんどん集まってくれて。

中原鉄也

三船:パブとライブスペースが隣り合ってるようなライブハウスだったんです。終盤には知らないおじさんやお兄さんたちが、みんな初めて聴く曲なのに合唱してた。あれはすごかったですね。何かがハマっているような感覚がありました。

中原:東京では得られない手応えでしたね。

僕らの楽曲には、普通のエンジニアさんだったら嫌がりそうなノイズがいっぱい入ってるんですけど、それをどんどん前に出してリミックスした結果、綺麗になりました。(三船)

—“ATOM”“Demian”“アルミニウム”という代表曲3曲の「UK Mix」は原曲とはかなり違った聴き応えになっていますね。

三船:ボーカルを録り直したり、オーバーダブしたり、いろいろロンドンでやりました。ただ、リミックスというよりリメイク、リブートしたという感覚があって。

—というと?

三船:僕も正直ここまで変わると思ってなかったんで、いいサプライズでした。ブラッドリーというエンジニアと、アレックスというアシスタントと一緒にやってたんですけれど、彼らがいままでに僕らが録った材料をもとに全然違う料理に変えてしまったんです。

中原:「このシンセの音は面白いね、もっと前に持ってきちゃおう」とか、そういう発想なんですよ。いままでは引っ込めてたものをむしろ目立たせよう、それを切って貼って別のところにも付けちゃおう、みたいな。

中原鉄也

三船:僕らの楽曲って音にならない音がいっぱい入ってるんです。たとえば、バンジョーにわざとバイオリンの弓を当てて引っ掻いた音とか、普通のエンジニアさんだったら嫌がりそうなノイズが入ってるんですけど、それをどんどん前に出した。そうしたら、結果、綺麗になってるんだよね。

中原:むしろその音がキーポイントになってたりする。ビックリしました。

—もともとROTH BART BARONの音楽ってオーガニックなものだと感じます。けれど、そういう曲をThe xxとかalt-JとかMura Masaのようないまのロンドンのエレクトロニックミュージックに通じる感性で再構築した。なので、曲の根本は変わらないままエレクトロニックなサウンドになった印象がある。そういう感覚はありました?

三船:すごくありました。いまのイギリスのエレクトロニックミュージックのカルチャーがうまくクロスオーバーしている。バンドサウンドとエレクトロニックなサウンド、有機的なものと無機的なものが独特の混ざり方をしているんです。

別にエレクトロニックな要素をすごく入れてるわけじゃないんだけど、ブラッドリーとアレックスのフィルターを通してミックスすると、やっぱり彼らの音になるんですよ。そこに僕らがまたアイデアを乗せていったりする。その哲学に触れたのは、すごく大きかったですね。

三船雅也

イギリスでは、自然をコントロールする美しさ、人の手によって生み出される純度の高い「綺麗さ」に触れた感じがします。(三船)

—新曲の“dying for”は、どういうモチーフから生まれたんでしょうか?

三船:最初はピアノのコードが頭に浮かんできたんです。頭の中にずっとピアノの音だけ鳴ってて、どうしようかなって思っているうちにイギリスのプロジェクトが始まることになった。そこから自分が予期していなかった方向にどんどん進んでいきました。もっと音数を減らして、コンパクトに、いままでとちょっと違うアプローチのサウンドがいいなって思いながら、イギリスで形にしていったんです。

—この曲に関しても、いまのイギリスの音楽カルチャーからの刺激の影響はありました?

三船:すごくあったと思います。この曲のレコーディングはTHE HEAVYのツアーメンバーでキーボードを弾いてるトビー・マクラレンのプライベートスタジオを借りてやったんです。そこでトビーと一緒に音を作りながらレコーディングしていきました。

ロンドンのトビー・マクラレンのプライベートスタジオでの様子
ロンドンのトビー・マクラレンのプライベートスタジオでの様子

—THE HEAVYとはどういう接点があったんでしょう?

三船:もともと向こうのスタッフとも、「新しい曲を録るならロンドンの空気を閉じ込めてレコーディングしたいんだ」という話をしていて。最初は自分で調べたりしたんですけど、やっぱり現地のミュージシャンに聞くのがいいなって思って、紹介してもらったんです。そうしたらちょうどツアーの合間で空いてると言われて。

ロンドン、ミックス作業が行われた Dean Street Studioのミックスルーム
ロンドン、ミックス作業が行われた Dean Street Studioのミックスルーム

三船:実際、ロンドンのエレクトロニックな質感、有機的なものと無機的なものが融合しているような感じというのがそのスタジオにもあったんですよ。同時に、そのフィーリングは街自体にもあって。

—どういうことでしょう?

三船:イギリスの人たちって、古い音楽を現代風に解釈することを、大袈裟じゃなく自然にできちゃうところがあるんですよね。ロンドンの街自体も、誤解を恐れずに言えばどこか「人工的な自然さ」が広がっている。イングリッシュガーデンを見ても、自然の美しさと、人の手が入った箱庭的な美しさが混ざっている。それが音楽でいうアコースティックなものとエレクトロニックなものの混ぜ方に通じる。

一方で、もっと投げっぱなしなのがアメリカとかカナダのいいところなんです。「自然は俺たちの手に負えない」っていう価値観があるというか。いままでの僕らは北米ばかりでレコーディングしていたせいか、そっち側しかなかったんですよね。粗野というか(笑)。そういう自然をコントロールする美しさ、人の手によって生み出される純度の高い綺麗さに触れた感じがします。

ROTH BART BARON、ロンドンでの様子
ROTH BART BARON、ロンドンでの様子

—個人的には、この曲にいまのイギリスのエレクトロニックミュージックと通じ合う印象を感じているんです。というのは、世界全体の音楽シーンの動きでいうと、ここ10年近くアメリカのマイアミ発のEDMという文化が世界中に広がっている。そこで成功しているDJやプロデューサーの多くはオランダやスウェーデンなどのヨーロッパの人たちが多いんですね。その一方で、UKには内省的、内向的なエレクトロニックミュージックのシーンが脈々と根づいている。決して快楽原則だけではない音楽ですね。ROTH BART BARONが持っているアコースティックな感覚をそこに持っていったことで生まれる音楽という風に受け取りました。

三船:なるほど、それは面白いですね。僕らもやっぱり快楽原則主義ではないので。その裏に理由がないと手放しで喜べない。そういうシニカルなところはイギリス人の感覚に合ってると思います。前々からそう言われてたし(笑)。

クラウドファンディングは信頼の証としての「お金」に対して誠実になれるひとつのツールだと思う。(三船)

—前の取材で語ってもらったように、今回のイギリスのレコーディングはクラウドファンディングのプロジェクトとして行われたわけですよね(理想の海外進出とは? MONOらの例からROTH BART BARONと考察)。僕も支援させていただきましたが、改めて、クラウドファンディングで支援者を募ってみていかがでしたか?

三船:「支援」というより、「仲間ができた感覚」に近いですね。これまで会ったこともなければ、顔も知らない人たちが参加してくれて。実際にロンドンに来てくれた人もいるし、僕らがやってきたことを発表する会に来てくれた人たちもいた。そういう人が現実にいるって実感できました。

ROTH BART BARON、ロンドンでの様子
ROTH BART BARON、ロンドンでの様子

三船:実は僕らがミュージックビデオを撮影したのが5月22日だったんですけれど、その前日、ちょうどマンチェスターのアリアナ・グランデのライブ会場でテロが起きたんですね。そのときに感じることが大きかったんです。

—というと?

三船:僕は一緒に宿泊してた撮影クルーのみんなと第一報を聞いたんです。そこにはイギリス人のスタッフもいたし、ドイツ人の女性監督もいた。10代の女の子が亡くなって、その友達やお母さんが泣きながらインタビューに応えてるのをラジオで聞いて……とにかくやられちゃって。僕らがいたのはロンドンだからマンチェスターと距離はあるけれど、テロというものが実際に自分に近い場所で起こっていると否が応でも肌で感じてしまった。

ブラッドリー・スペンス(プロデューサー)と三船雅也
ブラッドリー・スペンス(プロデューサー)と三船雅也

三船:そこから「いまの自分たちに何ができるのか」という話をみんなで真剣にしたんです。でも、自分は音楽のために来たわけだし、メンタル的には辛いけれど自分のやるべきことをやるしかないと思った。そう思えたのは、「クラウドファンディングしてくれた仲間の人たちに対して恥ずかしいことをしたくない」というのが大きかったんです。僕らだけだったら精神的にへこんでいたのかもしれない。でも「ああ、ここでやめるわけにはいけないな」と思った。変な話だけれど、励まされたようなところがありました。

—クラウドファンディングはお金を払った側からしたら「前払い」でしかないとも言えるわけなんですよ。たとえばプロジェクトに出資して、そのリターンとしてアナログ盤のEPが届くというプランだったら、「お店で買うか」「事前に予約注文するか」という違いでしかない。

三船:確かにそうかもしれません。

—だけど、そこに期待や応援の気持ちが乗っかることで、単に資金が集まるだけじゃないプラスの効果がアーティストにもたらされることがある。

三船:そうですね。人の信頼や期待が生まれたり、受け取る側に責任感やいろんな感情が生まれる。仰るように、「お金以上の何か」があると思います。そこはクラウドファンディングを始めるにあたって、すごく考えました。

左から:三船雅也、中原鉄也

三船:自分もアメリカの友達がレコードをリリースするにあたってクラウドファンディングに参加した経験があって、その中で自分に芽生えた価値観があるんです。だから、自分がやるにあたっても「そもそもお金とは何か」みたいなところまで考えたんですよね。

—どう考えられたんでしょう?

三船:お金ってそもそもある種の信頼の形じゃないですか。たとえば「美味しいコーヒーを作ってくれたから」とか「いい音楽を聴かせてくれたから」という、そういうものに対して「ありがとう」の代わりのように渡す。いまはお金自体が世の中に回るようになっているけれど、本来の価値はそこにあったはずだと思うんです。

クラウドファンディングはそこに対して誠実になれるツールだと思うし、そこに立ち戻ることができるシステムだと思います。そういうことを考えることができたのが、一番大きかったことかもしれない。でも、まだまだこれで終わりじゃないし、プロジェクトを成功させて自分たちの音楽をイギリスに広めていく目的がある。音楽を続けていくことが一番大きな恩返しだと思いますね。

ROTH BART BARON、ロンドンでの様子
ROTH BART BARON、ロンドンでの様子

—『ATOM』からは2年が経ちますし、いまはそろそろ新しい作品に向けて想像力を働かせていく段階になってるのではないでしょうか。

三船:そうですね。激動の2年間で、インプットは沢山できたんで、それをアウトプットしたいと思ってます。自分なりに、いまの時代をどう生きるのかを出せたらいいなと。そこに向けて一生懸命音楽と向き合ってる感じです。すごく純度の高い毎日を過ごしながら、順調に、マイペースにこもっているところですね。

イベント情報
『ROTH BART BARON EP release party "dying for”』

2017年11月9日(木)
会場:東京都 新代田 FEVER

『ROTH BART BARON Live at "文翔館議場ホール"』

2017年12月23日(土・祝)
会場:山形県 山形県郷土館「文翔館」議場ホール

プロフィール
ROTH BART BARON
ROTH BART BARON (ろっとばるとばろん)

三船雅也(Vo/G)、中原鉄也(D)による東京出身のインディーロックバンド。 2014年、1stアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』を真冬のフィラデルフィアで制作。2015年、2ndアルバム『ATOM』をカナダ・モントリオールのスタジオにて現地ミュージシャンとセッションを重ね作り上げる。その後、日本国内のみならずUS・ASIAでツアーを行うなど精力的なライブ活動を展開、2016年12月には恵比寿リキッドルームにてバンド史上初、9人フル編成による単独公演「BEAR NIGHT」を開催、圧巻のステージを披露、大歓声のもと1年を締めくくった。また大型ミュージックフェスティバルにも数多く出演、2015年サマーソニック、2016年フジロック、2017年ライジングサン、朝霧JAM、各会場にて大きなインパクトを残している。2017年はバンドキャリア初、クラウドファンディングをプラットフォームにイギリス、ロンドンにてEP盤を製作、この秋、待望の新曲”dying for”を発表。



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