CAMPFIRE MUSICに訊く、歌手としての「のん」とどう関わる?

日本におけるクラウドファンディングのトップランナーであるCAMPFIREが、のんの自主レーベルである「KAIWA(RE)CORD」に賛同し、サポートしていくことが発表された。同時に、「CAMPFIRE MUSIC」を設立するという。

キリンジ“エイリアンズ”のカバーや、『WORLD HAPPINESS 2017』への参加など、徐々に音楽活動が目立ち始めていたのんだが、自主レーベル「KAIWA(RE)CORD」を立ち上げ、ついに正式にアーティストデビューを果たすというニュースは、すでに大きな話題を呼んでいる。そして、彼女が主演を務めた映画『この世界の片隅に』の大ヒットや、クラムボンやぼくのりりっくのぼうよみらの活動によって、クラウドファンディングへの理解が広まるなか、「レコード会社でも、アーティスト所属事務所でもない」という「CAMPFIRE MUSIC」は、どんな役割を果たしていくのだろうか?

そこで今回は、CAMPFIRE代表の家入一真と、音楽事業 / エンタメカルチャー担当執行役員の岡田一男を迎え、「CAMPFIRE MUSIC」設立の意図と、CAMPFIREの未来について話を訊いた。確実に時代が変わりつつある予感に、一緒にドキドキしてほしい。

ネットののんさんに対する支持は半端なくて、基本的にみんなが彼女を応援するスタンスでいる。(家入)

―創作あーちすと・のんさんが音楽活動のために自主レーベルを立ち上げると聞き、「CAMPFIRE MUSIC」がそれに賛同し名乗りを上げたそうですね。「CAMPFIRE MUSIC」の立ち上げの発表、のんさんの自主レーベル「KAIWA(RE)CORD」のサポートということで、二重の驚きでした。

岡田:たまたまお話をいただけたので、ホントご縁なんですよ。のんさんが音楽活動を始めるということで、制作を手伝っている方からご紹介いただいて、のんさんの自主レーベルに賛同しました。「『CAMPFIRE MUSIC』をやろうとしていたので、もしかしたら一緒にできるかもね」なんて話をしてたら、実際にサポートさせていただくことになって。こちらから「音楽やりましょう!」って言ったわけではなくて、ご本人が以前から音楽活動をされていたみたいで。

家入:彼女の存在って、クラウドファンディングやCAMPFIREを活用してもらえる存在として、ある意味象徴的だと思うんです。僕はネットの住民なんですけど、ネットの彼女に対する支持は半端なくて、基本的にみんなが彼女を応援するスタンスでいる。なので、のんさんの自主レーベルをサポートできると決まったときは、僕もめちゃくちゃテンションが上がりました。

岡田:あと、『この世界の片隅に』(のんは、主人公・北條すずの声優を務めた)も大きいですよね。作品としても素晴らしかったし、クラウドファンディングの概念が一般化して、より身近になるきっかけを作ったと思うから、その作品で主演をされていたのんさんとご一緒できるというのは、縁を感じました。

のん
のん

「KAIWA(RE)CORD」ロゴ画像
「KAIWA(RE)CORD」ロゴ画像

―のんさんとはなにかお話されましたか?

家入:ひとつのところに収まらないタイプなんだろうなっていうのは前から感じていたんですけど、実際に話をしてみて、それがよりわかったというか。「もっともっといろんなことがやりたいんです」とおっしゃってましたね。「音楽もやりたいし、絵も描きたいし、もちろんお芝居もやりたい」って。めちゃめちゃいい子なんですよね。

家入一真
家入一真

―そもそも、家入さんは現在の音楽業界、音楽を取り巻く環境に対してどんな問題意識を持っていて、「CAMPFIRE MUSIC」でどう音楽を扱おうとお考えなのでしょうか?

家入:僕はネットの黎明期からずっと個人向けのサービスをやってきたつもりなんですけど、あの頃って、「誰しもが表現者になれる時代がやってくるぞ」みたいな感じだったと思うんです。パソコンを使って、音楽を発表できたり、絵を見てもらったり、素晴らしい時代がやってくることをみんな夢見ていたし、僕もそこにロマンを感じてました。

で、実際それってある程度実現したと思うんです。スマホなんて当時は想像もしてなかったけど、自分が歌ったり踊ったりした表現をその場で生中継できたり、電子出版で本を出したりできるようになった。でも、それが実現したときに、「あれ? これってホントに幸せなことなんだっけ?」って、ふと思うことが増えたんですよね。

―夢見ていたことが実現したはずなのに?

家入:みんなが表現者になってしまったら、趣味は多様化して、好みのアーティストはバラバラになる。たとえば「日本中みんなが応援するアーティスト」みたいな人は出づらくなりましたよね。そんなふうに、音楽に関するいろんなことが、かつての形では成り立たないような時代になっていくなかで、「一番割を食うのは誰なんだ?」って考えると、やはりアーティストにしわ寄せが来るんだろうなって思うんです。

儲かる人はさらに儲かって、儲からない人はずっとそのまま、という二極化が起こるなかで、僕らは常に後者の側でありたいと思う。だって、小さな経済圏はたくさん生まれますからね。これからのアーティスト、地方でくすぶってる人、生まれながらの家庭環境で学ぶ機会がない人たち。僕らは常にそっち側でありたいっていうのが根底にあるんですよね。

CAMPFIREとして「レーベル」をやろうかとも話していたんですけど、「同じようなことをやってもな」って。(岡田)

―そういった想いがあるなかで、クラウドファンディングを軸とするCAMPFIREが、他のジャンル・業界ではなく、「音楽」により深く踏み込んでいこうと思った理由は?

家入:デジタル化の流れのなかで一番矢面に立ってきたのが音楽業界だと思うんです。ここでミュージシャンとお金に関する新しい仕組みを作ることができれば、それをそのままとは言わないまでも、次は出版や映画というように、一個一個、市場を増やしていけるんじゃないかっていう考えもありました。

左から:岡田一男、家入一真
左から:岡田一男、家入一真

―具体的に「CAMPFIRE MUSIC」は、どういったことを実践していくのでしょうか?

岡田:最初は、CAMPFIREとして普通に「レーベル」をやろうかと話していたんですけど、僕はこれまでレコード会社にいたこともあって、「同じようなことをやってもな」って気持ちがあって。ただアーティストを抱えるだけじゃない、もっとCAMPFIREならではのミュージシャンとの関わり合いができるんじゃないかと思ったんです。

なので、「CAMPFIRE MUSIC」がイメージしていることは、いわゆる「レーベル」ではないんですよね。今のところ言葉がないから、「CAMPFIRE MUSIC」としか言えないんですけど、レコード会社でも事務所でもない、新たなあり方を模索しています。

―これまでのレーベル、あるいはマネジメントやプロダクションのあり方とはどう違うのでしょう?

岡田:いろんな考えのアーティストがいて、レーベルとかマネジメントが導いていい方向にいくアーティストもいれば、自分たちがDIYでやりたいアーティストもいるわけですよね。なので、メジャーレーベルと組んで、新しいレーベルを作ったり、イベントを作ったり、そのためのお金集めを新しい体験として作っていく方法を考える、というのがまずはひとつです。

もうひとつは、自分たちでやっていきたいアーティストとか、小さいチームのアーティストに、クラウドファンディングを活用してもらうことはもちろん、僕たちが出資だけでなく、融資をしたりすることも考えています。

岡田一男

―アーティストの自主的なあり方を後押しするような枠組みを作る?

岡田:そうです。メジャーデビューしてもバイトしてるアーティストがいっぱいいるなかで、それを変えていけたらなというのは、いつも思ってることで。それに、アーティスト自身が自分のやってることに対してより責任を持ったり、もうちょっと考えることが必要なんじゃないかなって。

活動が上手くいかないことをスタッフの責任にしちゃうアーティストも結構多いと思うんですけど、「スタッフがちゃんとやってくれない」って愚痴ったところで、なにも始まらない。レコード会社やマネジメントのレールに乗っかって、「アーティストは曲を作るだけ」というのもひとつのやり方だけど、そこで上手くいかなかったときに不満が出てしまうのであれば、自分でチームを作ろうよって。そういう提案をしたいんです。

―それって、実際に岡田さんがいろんなアーティストと接するなかで感じたことですよね?

岡田:そうですね。たとえば、SKY-HIのチームって、外部の僕もそうですけど、彼自身が一緒にやりたいスタッフを集めているんです。彼は、「こうしたいから、こういう人が必要」ってはっきり言う。エイベックスはそれを認めてる分、彼は自分のことは自分で責任を取って、絶対人のせいにはしない。

SKY-HIと比較をしてなにかを語るわけではないですが、J-POPのど真ん中にいるAAAもやりながら、そういうことをやれる人がいるんだったら、もっと時間のある人たちは、もっといろいろできることあるんじゃないかなって。

岡田:他に挙げると、先日CAMPFIREとして、クラムボンとクラウドファンディングのプロジェクトをご一緒させていただきましたけど、彼らのスタンスはすごくDIYで、自分たちで全部決めて、自分たちがやりたいことをやってるんですよね(参考記事:クラムボンが一歩踏み出して話す、アーティストの「お金」の話)。「CAMPFIRE MUSIC」を始めるにあたって、クラムボンの影響はすごく大きいです。

―「CAMPFIRE MUSIC」はクラウドファンディングをどのように使っていくのですか?

岡田:「CAMPFIRE MUSIC」でご一緒するアーティストに、毎回クラウドファンディングを使ってもらう、ということではないです。マネタイズとしてクラウドファンディングは当然選択肢のひとつだけど、僕らはそれを強要するつもりはない。

先ほども言った「アーティストへの融資」というのは、CAMPFIREのサービスとして新しく始めた「CAMPFIREレンディング」(クラウドファンディングで資金調達に成功したプロジェクト実行者を対象とした融資)というサービスの延長線とも言えると思います。そうやって、お金の新しい流れを作りたいんですよね。「契約がこうだから、いくらまでしか制作費や宣伝費を出せない」じゃなくて、「じゃあ、どの手段を使ってやりたいことを実現させようか」っていう話が、僕らはできると思うんです。

「なんで生きてるんだっけ?」みたいなところを、根っこからサポートしていくと、きっとみんな辛くなくなるんじゃないかな。(家入)

―音楽業界におけるクラウドファンディング自体の広がりは、どのように実感されていますか?

岡田:ホントにいろんなアーティストに使っていただけるようになりました。ぼくのりりっくのぼうよみがクラウドファンディングで資金を集めてメディアを作ったり、ゆるふわギャング、THE NOVEMBERSみたいなDIYの人たちから、最近だと緒方恵美さん、KEMURI、天才バンド、モーモールルギャバンやbonobosなど、メジャーに所属するアーティストにも使ってもらえるようになった。この1年で状況はすごく変わったと思います。

左から:岡田一男、家入一真

家入:最終的には、「人生定額プラン」というビジネスをやりたいんですよね。制作費を集める手段って、クラウドファンディングだけじゃなくて、いろんなサービスが出てきてるけど、一方で「生活費をどう賄うのか」というのも重要な観点だと思っていて。生活費さえなんとかなれば、ものを作ることはできるじゃないですか?

今まではひとつの曲を作るのに、流通や販売も含めたいろんな人が関わって、大きな仕組みで動いていたわけですよね。それって経済が上向きだった時代にはすごくよかったけど、経済が小さくなるなかで、もう持ちこたえられなくなってるのが今だと思うんです。

―なるほど。

家入:なので、どんどん小さな仕組みのなかでものが作れる形を作って、アーティスト自身がそれをコントロールするようになるっていう、そこまでは見えてる未来。じゃあ、それを全部アーティストに強いるのかというと、それはそれで大変だと思っていて、そのために僕らにはなにができるのかを常に問い続けないといけない。

その課題のひとつには、彼らが生きていくための基盤をなにかしら作るっていうことも含まれていると僕は思っていて。たとえば、衣食住を全部サポートすることができれば、きっと生きやすくなるだろうなって。そういうことを含めて、今はお金のあり方が多様化してる時代で、サポートの仕方にも、クラウドファンディグなのか、融資なのか、生活費を集めるのか、いろんなやり方がある。そうやって、お金にまつわるすべてを「滑らかにする」ということを掲げてるんです。

岡田一男

―昨年の取材(クラウドファンディングは業界をどう変える?家入一真×岡田一男)では、「クラウドファンディングは打ち上げ花火的になってしまいがちだけど、そうじゃなくて、持続的に考えたい」とおっしゃっていましたが、その実践とも言えそうですね。

家入:そうですね。プラットフォーム側としては、持続していくための仕組みを考えることがミッションだと思いますし、ただ騒がせて、一過性で終わるんじゃなくて、継続していく仕組みを作っていかないといけないと思っています。

時代が変わっていって、ある種辛い状況にもなっていくと思うんです。でもそのなかで、自分たちがどう生きたいのかってところまでブレイクダウンして、「なにが幸せなんだっけ?」「なんで生きてるんだっけ?」みたいなところを、根っこからサポートしていくと、きっとみんな辛くなくなるんじゃないかなって思うんですよね。

自分のお金が社会にどんなインパクトを与えたかが可視化されると、人はもっとお金を使うようになると思う。(家入)

―クラウドファンディングの認知が広まり、新たに「CAMPFIRE MUSIC」がスタートする。今後のCAMPFIREがどうなっていくのか、改めて、話していただけますか?

家入:今までは「クラウドファンディングのCAMPFIRE」だったと思うんですけど、これからは「クラウドファンディングもやってるCAMPFIRE」になっていくんだろうなってイメージです。

お金が必要な人に対するお金の集まり方って、一般の人から集めるだけじゃなくてもいいと思うんですよ。僕はクラウドファンディングもあくまでひとつの手段でしかないと思っていて、一般の人から集めることもあれば、僕らがお金を出すパターンがあってもいいと思ってる。「こうじゃなきゃいけない」ということはないと思っていて、ただもっとお金の流れが滑らかになるといいなっていう、それだけなんです。

左から:岡田一男、家入一真

―クラウドファンディングも、あくまでお金の流れを滑らかにするためのひとつの手段なんだと。

家入:お金がコミュニケーションツールとして流通していくような世界を作れたらなと思っていて、その手段のひとつがクラウドファンディングという感覚なんですよね。

この前「個人の預金残高が1000兆円を超えた」というニュースを見たんですけど、この金額って、世界でもトップクラスなんですよ。特に日本には「貯金神話」があるから、80歳、90歳のおじいちゃんおばあちゃんが未だに貯金を続けている。銀行に預けても大して金利もつかないなかで、だったら、そのお金の流動性をもっと増やせば、もっといろんな人たちに行き交うお金になるのにと思うんです。

―なるほど。

家入:たとえば「NPOバンク」って、NPOに融資するお金を一般の人から集めるんです。僕が100万円貸すと、その100万円はNPOにいく。「返して」って言えば返ってくるけど、利子はつかない。でも、ただ銀行に預けているよりは、誰かのためになることにお金を使えますよね。それで社会がちょっとでもよくなったら、「社会がよくなった」ということ自体が利子なんじゃないかっていう考え方なんですよ。

きっとこういうお金の流れがこれからもっと生まれてくるはずで、自分のお金がどんなインパクトを与えたかが可視化されると、人はもっとお金を使うようになると思う。そういうお金の流れを作っていきたいんです。

家入一真

―自分がお金を出して、かっこいいアーティストが世に出るきっかけになったら、ある意味それも利子だと考えられる。

家入:そう思います。利回りなんてなくても、「あのアーティスト、実は俺関わったんだぜ」って言えれば、それもひとつの幸せかもしれないし、そこにはいろんな形があるはず。

岡田:CAMPFIREは、いろんな人を結びつけたり、面白いものを世の中に出す手助けをしていることで知見がたまっていくので、音楽のことだけじゃなく、いろんな専門性のあるものを領域横断的にやっていけたらいいなと思ってます。他のクラウドファンディングサービスにはない、いろんなジャンルのことを一緒に考えられたらなと。

岡田一男

家入:いろんなことをやりながら、お金と向き合う業態って、今までなかったと思うんです。なので、面白いとは思うけど、まだまだ未開拓ではあるんですよね。

ただ、僕、福武書店の福武(總一郎)さんの「経済は文化のしもべである」って言葉がすごく好きで。僕らはお金を扱うから、経済に関わる身ですけど、あくまで文化という前提に立つ。そこが一番重要なことだと思っています。

サービス情報
CAMPFIRE

国内No.1のクラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」(キャンプファイヤー)を2011年より運営。CAMPFIREはあらゆるファイナンスニーズに応えるべく、「資金調達の民主化」をミッションに、個人やクリエイター、企業、NPO、大学、地方行政など、様々な挑戦を後押ししています。 これまでに8,000件以上のプロジェクトを掲載し、プロジェクトに対する総支援者数は約28万人、流通金額は29億円に達しました。

プロフィール
家入一真 (いえいり かずま)

起業家。1978年福岡県出身。株式会社CAMPFIRE代表取締役。2001年に株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を創業後、JASDAQに上場。他にもオンザコーナーなどのカフェ運営を行うpartycompanyや、スタートアップへの投資を行うpartyfactory、ECプラットフォームBASEの創業、シェアハウス「リバ邸」を日本各地に立ち上げるなどの活動も行なっている。著書に『もっと自由に働きたい』『新装版 こんな僕でも社長になれた』『お金が教えてくれること』『15歳から、社長になれる』『バカ、アホ、ドジ、マヌケの成功者』『ぜんぜん気にしない技術』『ぼくらの未来のつくりかた』『我が逃走』など。

岡田一男 (おかだ かずお)

1979年東京都出身。2002年、エイベックス株式会社に入社。2011年に独立し、株式会社ハレバレを設立。2016年より、株式会社CAMPFIRE執行役員。株式会社Candee社長室室長。「音楽を中心とした助っ人」として、音楽業界・エンターテイメント業界の裏方として勤労に励む。

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