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柴田聡子が見た言葉をめぐる展覧会『ヒツクリコ ガツクリコ』展

柴田聡子が見た言葉をめぐる展覧会『ヒツクリコ ガツクリコ』展

『ヒツクリコ ガツクリコ ことばの生まれる場所』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

歌詞を書くとき、いつも心がけていることは、センチメンタルな気持ちに流されないこと。

前橋文学館の展示で柴田さんがもっとも熱く語っていたのは、「ムットーニ」こと武藤政彦さんによる自動からくり人形『題のない歌』。人形が置かれた小さな箱の前に座ると、箱のなかで朔太郎の詩集『青猫』に収められた同名の詩の世界が、驚くべき仕掛けによって展開されます。

ムットーニ『題のない歌』(原作:萩原朔太郎、2016年) / 作品の大きさからは想像できない独自の世界が細かいディテールで繰り広げられる
ムットーニ『題のない歌』(原作:萩原朔太郎、2016年) / 作品の大きさからは想像できない独自の世界が細かいディテールで繰り広げられる

じつは『青猫』、とくにその序文が大好きという柴田さん。ムットーニの作品を通して、あらためて朔太郎の詩の特徴も見えてくると語ります。

柴田:朔太郎はその序文で、「パッション」や「憂鬱」について書いているんです。でも彼は、ただ感情に身を任せるのではなく、その「かたち」をよく見ることが大事だと言っているように、私には思えました。

実際にムットーニさんの作品も、朔太郎の詩が「雲」や「船」など、想像できる具体的な言葉で構成されていたから、長いときを経ても、これほど豊かなイメージを膨らませることができたんじゃないかな、と思います。

柴田聡子

「朔太郎の詩は包容力がある」と話す柴田さん。その包容力を生み出す、冷静な言葉の「かたち」への意識は、さまざまな情景を描く彼女の詩作りでも大事だと言います。

柴田:センチメンタルな気持ちに流されないことは、歌詞を書くとき、いつも心がけていることです。歌詞というと、そこに描かれた「気持ち」が注目されるけど、じつはそれをきちんと伝えるには、リズムやビートも同じくらい大事だと思っています。

柴田聡子

言葉にならない感情もあるけど、言葉にしないと伝わらない。そのジレンマと、人類はずっと戦ってきたんだと思うんです。

前橋文学館をあとにした一行は、続いて徒歩5分ほどの距離にある、アーツ前橋へと向かいました。その道中の街灯の下には、「いま何を考えていましたか?」など、さまざまな質問の書かれた旗が。

「

これは、ヴァーバル・アート・ユニットTOLTAによるもの。最近、とにかく「考えはじめること」の大切さに気付いたという柴田さんも、こうして言葉を街に連れ出し、そのきっかけを作ることの重要さを語っていました。

そんなことを話すうちに、アーツ前橋に到着。前橋文学館では、越境的な活字表現の展示が中心でしたが、こちらでは言葉以前の言葉や、言葉の生まれる場所に注目した作品が多く並びます。最初の展示室では、言葉の初期段階にも近い「オノマトペ」をテーマにした、荒井良二さんと小学生によるワークショップの成果が飾られています。

柴田聡子

そのワークショップの内容とは、このようなもの。まず、「午後3時~4時までに耳に入ってきた音を書き出しましょう」という宿題が参加者の小学生に出されます。その言葉をもとに絵を描いたり工作をしたら、その制作物から再びオノマトペを考えます。こうして、その表現は既存の言葉の「型」を離れ、どんどんオリジナルなものになっていきます。

荒井良二と小学生によるワークショップの様子 撮影:木暮伸也
荒井良二と小学生によるワークショップの様子 撮影:木暮伸也

柴田聡子

私たちは普通、大人の言葉は定型文ばかりで、子どもの言葉は自由なものだと考えがちでしょう。しかし学芸員の方の話で面白かったのは、むしろ「型」を学んだばかりの子どもも、あまり自由な言葉は使わないということ。だからこそ、荒井さんが粘り強く参加者から引き出したオノマトペには、殻を破ったような勢いがあります。

柴田:すごく良いワークショップ! 私も普段、録音のために曲のイメージを人と共有するとき、新しい言葉の必要性を感じます。「誰々みたいに」や「言葉にできない」と言いたくなくて、ピッタリの言葉を探したい。

でも、既存の表現から離れるほど、「こんな言葉あるのかな?」と不安になります。それでも、恐る恐るくちにしてみて……、ということをいつも繰り返している。言葉にならない感情もあるけど、勇気を持ってそれを言葉にしないと、伝わらない。そのジレンマと、人類はずっと戦ってきたのかなと思うんです。

柴田聡子

自分の詩の無意味さに死にたくなることもあるけど(笑)、それが誰かに聴かれ、なにかを感じさせるのはすごいことだと思う。

アルバム『愛の休日』では、その「ちゃんと伝えること」をこれまで以上に考えたという柴田さん。次にやってきたのは、20世紀前半にヨーロッパで展開された芸術運動「ダダイスム」(以下、省略ダダ)を紹介するコーナーです。

ダダは、その運動名自体が「辞書でたまたま見つけられたもの」とも言われるように、意味や理性への疑いを追求した動向でした。彼らの開く集会では、みんなが口々に無意味な言葉を発するといったことが行われたのです。

トリスタン・ツァラ編『アンソロジー・ダダ ダダNo.4-5』(1919年) うらわ美術館蔵  / 「ダダ」とはトリスタン・ツァラが偶然に辞書のなかから見つけ出した言葉とされる
トリスタン・ツァラ編『アンソロジー・ダダ ダダNo.4-5』(1919年) うらわ美術館蔵 / 「ダダ」とはトリスタン・ツァラが偶然に辞書のなかから見つけ出した言葉とされる

その背景には、第一次世界大戦の影響もあったと言われます。言葉が象徴する理性。しかしその理性こそが、戦争をもたらした。そんな現実への抵抗の身振りとして、言葉の意味から距離を取ろうとしたのがダダの運動でした。じつはダダについて、「怖い」という印象があったと話す柴田さんですが、背景を聞いて少し見方が変わったようです。

柴田:ダダには、そこから先は焼け野原みたいな、無意味さの極北まで行くような怖さがあって……、だってみんなで無意味な言葉を話しているとか、怖いじゃないですか(笑)。だけど背景を知ると、そこにはポジティブな可能性もあったんだなと。厳しい状況のなか、そこから距離を取ることで、逆に現実をはぐらかして問題にアプローチしている面もあったのかもしれないですね。

柴田聡子

一見すると無意味な状況が、じつは切実な現実への態度にもなっている。そんなダダの表現のあり方は、だいぶ趣が違うものの、どこか柴田さんの歌詞とも通じます。

柴田:たしかに私も、「どうでもいいけど、どうでもよくないこと」を歌いたい。自分の詩の無意味さに死にたくなることもあるけど(笑)、それが誰かに聴かれ、なにかを感じさせるのはすごいことだと思います。

ある歌詞に「これ」という見方しか許さないのは、宣教師みたいで少し怖い。みんな日々、なにかを考えて悩んでいるから、それぞれの視点から詩をどうとでも捉えてくれる。そんな受け取られ方が、一番健康的な気がしますね。

柴田さんも関心があるという、大澤雅休の自由奔放な書の作品などの横を通り、続いて見えてきたのは山川冬樹さんの作品『ハロー:グッバイ 伝達のテクネ』の展示スペース。この作品は、体験した柴田さんがとくに興味深い戸惑いを見せたものでした。

柴田聡子

展示空間の導入部では、金色のレコードが回る映像が投影されており、観客はまずその手前に置かれた装置から、耳栓を受け取ります。それを手に歩を進めると、目の前に現れるのは3枚の壁。案内役の学芸員の方の誘導に従い、耳栓をして壁におでこを当てると、なにかを読み上げる男女の声が聞こえてきます。これは一体?。

柴田聡子

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イベント情報

『ヒツクリコ ガツクリコ ことばの生まれる場所』

2017年10月20日(金)~2018年1月16日(火)
会場:群馬県 アーツ前橋、前橋文学館
時間:アーツ前橋11:00~19:00、前橋文学館9:00~17:00(共に入場は閉館の30分前まで)
参加作家:
足立智美
荒井良二
浦上秀樹
大澤雅休
大澤竹胎
オノ・ヨーコ
oblaat
河口龍夫
河原温
フランチェスコ・カンジュッロ
北園克衛
草野心平
ジョン・ケージ
塩見允枝子
クルト・シュヴィッタース
白石慶子
鈴木ヒラク
トゥッリオ・ダルビゾラ
トリスタン・ツァラ
東宮七男
TOLTA
新国誠一
ni_ka
萩原恭次郎
萩原朔太郎
福田尚代
文月悠光
ベン・ヴォーティエ
ジョージ・マチューナス
Maniackers Design
フィリッポ・T.マリネッティ
ミヤギフトシ
ムットーニ
山川冬樹
山村暮鳥
横堀艸風
休館日:水曜、12月28日~1月4日
料金:一般700円 学生・65歳以上350円
※高校生以下、障害者手帳をお持ちの方と介護の方1名は無料
※10月20日、10月28日、1月9日は観覧無料日

山川冬樹パフォーマンス

2017年12月2日(土)
14:00~15:30 パフォーマンス
16:00~17:30 山川冬樹×今井朋(本展担当学芸員)対談
会場:群馬県 アーツ前橋 地下ギャラリー
料金:無料(要観覧券)
※申込み不要

『かくとはなす』

2017年12月9日(土)
14:00~14:30 ドローイングパフォーマンス
14:45~16:15 今福龍太(文化人類学者)×鈴木ヒラク対談
会場:群馬県 アーツ前橋 地下ギャラリー(パフォーマンス)、アーツ前橋スタジオ(対談)
定員:50名(対談のみ、事前予約制)
料金:無料(要観覧券)
※本展参加作家の鈴木ヒラクのライブパフォーマンスと今福龍太との対談イベント、申し込みアーツ前橋へ電話(027-230-1144)

書籍情報

『ヒツクリコガツクリコ ことばの生まれる場所』
『ヒツクリコガツクリコ ことばの生まれる場所』

2017年11月1日(水)発売
監修:アーツ前橋、前橋文学館
価格:2,376円(税込)
発行:左右社

プロフィール

柴田聡子(しばた さとこ)

大学時代の恩師の一言をきっかけに活動を始める。作品の発表は数多く、現在までに三沢洋紀プロデュース多重録音による1stアルバム『しばたさとこ島』、自身で録音した2ndアルバム『いじわる全集』、山本精一プロデュースによる3rdアルバム『柴田聡子』、岸田繁(くるり)、山本精一のプロデュース参加を始め、錚々たるミュージシャンたちと紡いだ4thアルバム『愛の休日』を発売。また、フェスティバル / トーキョー13では1時間に及ぶ独白のような作品『たのもしいむすめ』を発表、2016年、初の詩集『さばーく』を発売。第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>を受賞。『文學会』『すばる』に詩を寄稿するなど、歌うことを中心に活動の幅を広げている。

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