中野雅之も認める、新人アーティストXAI。デビューを語る

第8回『東宝シンデレラ』オーディションにて、初代アーティスト賞を受賞した19歳のシンガーXAI(さい)が、デビューミニアルバム『WHITE OUT』をリリースした。

表題曲は、劇場版アニメ『GODZILLA 怪獣惑星』の主題歌であり、作詞を蒼山幸子(ねごと)、作編曲とサウンドプロデュースを中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)が担当。伸びやかでソウルフル、どこか神秘的ですらあるXAIの歌声が、まるで光のシャワーのように降り注ぐサウンドスケープ、切なさと高揚感が入り混じったトラックメイキングは、「中野節」全開であり彼のファンも必聴だ。

他にもTeddyLoidや牛尾憲輔、ミト(クラムボン)など、超豪華なコンポーザーが集結し、XAIの魅力を様々な角度から引き出している。「私にとって歌は酸素と同じ」「歌っていないと死んでしまう」とまで言い切るXAI。そこにはどのような思いが秘められているのだろうか。まだインタビューには不慣れな彼女だったが、言葉を丁寧に選びながら話してくれた。

—超豪華なコンポーザーが集結していますね。まずは、BOOM BOOM SATELLITESの中野さんから聞かせてください。中野さんとはいつごろお会いしたのですか?

XAI:お会いしたのは、今年の6月くらいです。失礼ながら、それまでBOOM BOOM SATELLITESのことは存じ上げていなくて……。プロデュースして下さることが決まってから、初めて聴かせていただいたんです。その日の週末にはBOOM BOOM SATELLITESのラストライブがあって、それにも行かせていただいたのですが、胸に響いてくるものがあったというか。「これは、誰かの力になる音楽だ」ってすごく思ったんです。そんな音楽を作って来た方と、これからご一緒させてもらえるのはとても光栄なことだし、嬉しいことだなと。

—中野さんとお会いした時の印象は?

XAI:音楽に対してすごく真摯に向き合っていらっしゃるし、何よりご自分の音楽を大切にしていらっしゃる方だなと思いました。これまで私が過ごしてきた環境には、そんな大人の方と出会う機会はなかったので(笑)、とても新鮮でした。それと、中野さんはご自分の心の中に「聖域」というか「花園」のようなものがあって、それをずっと美しく保たれているようなイメージがあるんですよね。

XAI
XAI

—XAIさんの歌についてどんなことを言われましたか?

XAI:最初はLORDEのカバーを聴いていただいたんですけど、「これから一緒に音楽を作っていくのが楽しみになった」とおっしゃっていただき、すごく嬉しかったですね。実際にご一緒させていただき、私の歌声の中にある、色んな部分を引き出してくださいました。

—中野さんが作編曲とサウンドプロデュースを手掛けた表題曲“WHITE OUT”は、映画『GODZILLA 怪獣惑星』の主題歌でもあるわけですが、正直プレッシャーもありました?

XAI:今回、『東宝シンデレラ』オーディションの初代アーティスト賞をいただき、東宝がとても大事にしている『ゴジラ』という作品の主題歌を歌わせてもらえるのは、すごく光栄なことだと思います。「曲だけ聴いた時にもインパクトがあるものにしたい」っていうことを、中野さんと二人で話し合いながら作っていきました。

—映画はもうご覧になりました?

XAI:はい。主人公のハルオ・サカキくんをはじめ、登場人物たちが大切なもののために命を懸けて戦う姿が、本当に素敵でした。舞台が地球外というのも、SFやファンタジーが好きな私的にもグッとくるポイントでしたし(笑)、そういう作品に携わらせてもらっていることは光栄で、歌入れの時は自分もハルオくんと一緒に戦っているような気持ちで歌いましたね。

映画『GODZILLA 怪獣惑星』メインビジュアル
映画『GODZILLA 怪獣惑星』メインビジュアル

—(笑)。自分の歌が、エンドロールで流れるというのはどうでした?

XAI:主題歌って、基本的に作品を見た後エンドロールで流れているのを聴くわけじゃないですか。なので、曲を単体で聴くのとはまた違った印象が芽生えると思うんですよ。映画を観終わった後の、いろんな感情が渦巻いた状態で聴くわけだから、楽曲にもその人の気持ちが投影されるというか。そういうふうに聴いていただけることは、とても嬉しいです。

それと、まるでサウンドが上から降ってくるかのような、映画館独特の音響設備も素敵だなと思っていて。この“WHITE OUT”という楽曲は、ブレスで始まりブレスで終わるという構成なんです。そのブレスは「人間の命の象徴」というか。とても前向きで、希望に溢れた歌だと思うんですね。映画館の音響で聴いた時、そういったポジティブな感情が増幅されるというか。

—なるほど。レコーディングは、どんな感じで行ったんですか?

XAI:中野さんのプライベートスタジオでレコーディングしたのですが、中野さんは歌入れの時、二人だけで作業を行うんです。中野さんからは、「もう少しこういう風に歌ったら、もっときれいに声が響くよ」というような、テクニカルなアドバイスを交えながら、細かく丁寧にディレクションしていただきました。

—歌詞は、ねごとの蒼山幸子さんによるものですね。

XAI:幸子さんは、メロディーができた時にスタジオに何度も来てくださって。その場で私に、「あてがき」で作詞をしてくださったんです。どういう言葉を使えば、私の声がきれいに乗るかを、すごく意識しながら書いたとおっしゃってくださいました。

一緒に過ごす時間が長かったので、いろんなお話をさせてもらいましたね。私自身、以前からねごとが大好きだったので、幸子さんに歌詞を書いてもらえるのはすごく嬉しかったんですが、お会いしたことでよりシンパシーというか、親近感を勝手に覚えてしまいました(笑)。そういう親密な空気も歌から感じてもらえたら嬉しいです。

XAI

—ところで、XAIさんが歌を歌うようになったきっかけは何だったんでしょう?

XAI:両親ともに音楽が好きだったので、物心がついたときから歌はとっても身近なもので、歌うことも大好きでした。何か大きなきっかけがあって歌い始めたというよりは、気がついたら好きになっていたという感じです。

それと、これまでに何度も音楽に救われてきた経験があったというか。中学生、高校生の頃って、学校が「唯一の世界」じゃないですか。その世界にいることが辛くて、友人関係もあまりうまくいく方ではなかった。そんな自分のそばに、いつでも音楽があったことは、本当に救いだったんですよね。

—どんな音楽が好きでした?

XAI:母が好きだったのはビヨンセで、そういう「歌い上げる」タイプのシンガーの楽曲は、小さいころからよく聴いていました。あと私が、SFアニメの『マクロスF』がすごく好きで、その作品に登場する「シェリル・ノーム」というキャラクターにずっと憧れていたんです。大切なモノのために、命をかけて戦っている姿に影響された部分は大きいのかもしれないです。実在するシンガーではシーア。彼女のように、強いアイディンティティーを感じるアーティストにも憧れます。

—なるほど。XAIさんはバンドを組んだことはあるんですか?

XAI:ないんですよ。みんなで力を合わせて一つのものを作っていくという、バンドに対しての憧れはあるんですけど、自分にとってそれはリアルなことではなかったというか。自分で曲を作ったり、歌ったりする方がずっと好きだったんです。

あと、小さい頃から歌詞は書いていました。文字を書くのが好きで、今も大学で文学を勉強する学部に所属しているんです。作家では上橋菜穂子さんが好きなんですけど、例えば『獣の奏者』とか、彼女の作品は異世界を舞台にしたものが多いのですが、その奥には「愛」が描かれていたりして。そういう、深いテーマを持った作品がいつか私も書けたらいいなと思っています。

—『マクロスF』や『GODZILLA 怪獣惑星』で、登場人物が戦う姿に惹かれるのはなぜでしょう?

XAI:登場人物たちが、極限状態の中で感じている「生きていることへの実感」って、私たちが普通に日常を過ごしていたら、あまり感じられるものではないですよね。だから、そこに強い憧れがあるのかもしれない。

—こうやって話している時の、静かな声で話すXAIさんの印象からは、想像もつかないですよね(笑)。歌っている時には、自分の中に力が湧いてくるような感覚があるのですか?

XAI:そうですね。レコーディングブースに入って歌う時間というのが、自分にとってはすごく大切だったというか。「今、私は生きてる!」って心から思えたんです。それって『マクロスF』や『GODZILLA 怪獣惑星』の登場人物たちの心情と、共鳴する部分ではあったのかもしれない。

—「歌が自分を救ってくれた」とおっしゃっていましたが、「これからは自分が歌で誰かを救いたい」という気持ちもありますか?

XAI:うーん……。「救う」という言葉は、私が使うと傲慢になってしまうというか。「あなたを救います」というよりも、誰かに寄り添ったり、誰かの力になったり、そういう存在になれたらいいなと思っていますね。

—おそらく中野さんこそ、「音楽は救いである」と誰よりも強く信じている一人だと思うんですよ(笑)。XAIさん、中野さん、そして蒼山さんの、そういう「祈り」みたいなものが、この曲に凝縮されているように感じます。先ほどブレスの話が出ましたが、実はBOOM BOOM SATELLITESのラストアルバム『SHINE LIKE A BILLION SUNS』も、最後は川島道行さんのブレスで終わるんです。それを思うと、より感慨深いものがあって。

XAI:そうだったんですね。実は今回のレコーディング中にも、中野さんから川島さんのお話を聞く機会はたくさんあって。もちろん、川島さんの代わりなんて他の誰にも出来ないですけど、中野さんが私の声を聞いて「曲を作るのが楽しみになった」と言ってくださった時には、本当に光栄なことだなと思いました。

XAI

—『WHITE OUT』には、中野さんや蒼山さん以外にも豪華な作家陣がズラッと並んでいますよね。皆さんからは、どんなことを言われましたか?

XAI:“Somewhere in Night”を書いてくださった牛尾憲輔さんは、この曲に込めたご自身の体験や思いを歌入れの時にスタジオで熱く話してくださって。この曲は、牛尾さんが私と同じくらいの年齢の頃に、クラブに行った経験が元になっているらしく。夜の街に繰り出していく高揚感とか、ちょっと背伸びして大人ぶったこととか、音楽が重なっていく時の奇跡のような瞬間。そんな、音楽と密接だった時の経験を詰め込んだとおっしゃっていました。そのイメージをクリアに想像しながら、追体験するような気持ちで歌うことが出来ましたね。

それと、今回のレコーディングで厳しかったのも牛尾さんでした(笑)。1テイク歌い終わるたびに、しばらく沈黙があって。「うーん……。もう一回いける?」みたいな。しかもエンジニアの方は、優しい親戚のおじさんみたいな、お正月に会ったらお年玉でもくれそうな雰囲気の方だったんですけど(笑)、コーラスパートを録る時にも、メインボーカルを上回るほどのパワーが必要なくらい、何度もダメ出しをされました。牛尾さんも厳しかったんですけど、さらに厳しくてスパルタでしたね。中野さんとの作業とはまた全然違う雰囲気でした。

—“Feeling Alive”を作編曲した、TeddyLoidさんはどんな印象でした?

XAI:この曲はTeddyLoidさんではなく、アルバム全体のディレクターを務めてくださった冨田明宏さんにディレクションしていただきました。中野さんの“WHITE OUT”とはまた違った意味で、光に満ちた曲だなと思ったので、あまり考え過ぎず、音楽を聴いた時の高揚感とか、そういうものを表現できたらいいなと思いながら歌いました。

—なるほど。これだけの豪華なコンポーザーたちが参加していますもんね。

XAI:自分にとってはミトさんが作編曲してくださった“SILENT BIRD”という曲が、最もチャレンジングでしたね。激しく歌い上げるところが難しくて苦戦しました。なので「大丈夫かな、ちゃんとミトさんのイメージ通りに歌えたかな」って不安だったですが、実際に聴いていただいたらとても気に入ってくださいました。

—改めて、皆さんと仕事をしてみた感想は?

XAI:今お話しした“SILENT BIRD”のように、これまでやったことのないような激しい歌い方をするなど、挑戦的な曲もあって、おかげで自分の音楽性を広げることができた気がします。

—中野さんについて、「まだデビュー前である私を“アーティスト”にしてくださいました」と公式サイトでコメントしていましたよね。

XAI:創作作業の中で、自分自身が試されているような、そんな気持ちでした。歌入れが終わって、家に帰るときに窓から見える街の風景とか、これまで普通に眺めていたものが違って見えるようなときがあって。何気ない風景を感じ取る感覚みたいなものを、この数ヶ月で研ぎ澄まさせてもらったような気がします。

—中野さんをはじめ、今回参加しているコンポーザーたちは、それぞれ全く違うベクトルながら音楽に対する「責任感」が、メチャクチャ強い人たちばかりじゃないですか(笑)。真面目だし、売れることに対してもシビアだし。そんな人たちと、デビューのタイミングでこれだけ濃密なコラボをしたことは、とてもいい経験ですよね。

XAI:そう思います。歌うことに対する「責任」について、考える機会はたくさんありました。デビューに向けての準備をしている時も、歌手という人生を歩むとはどういうことなのか、音楽とは自分にとってどういう存在なのか、改めてそういうことを考える時期だったというか。自分にとって音楽は、生命活動そのものだったので、そういう思いを抱いている自分、音楽に何度も救われてきた自分が、これから歌手になって歌うことにはすごく意味があるんじゃないかって思いました。

—ジャケット写真はロシアのウラジオストックで撮影したんですよね。どうでした?

XAI:楽しかったです! 早朝からずっと撮影していたんですけど、ウラジオストックって海が独特の深い色をしているんですよ。そこに朝日が反射すると、息を呑むような美しさで。太陽が少しずつ登っていく景色を、これからアーティストとしてスタートする自分と重ね合わせてしまって、何だか特別な気持ちになりました。

—ちょっと異世界な雰囲気もあって、『GODZILLA 怪獣惑星』の世界観とも共鳴するものがありますよね。夜明け前の、空が少しずつ赤味を帯びていく瞬間が切り取られていて、先ほどXAIさんの言っていた「希望」をそこから感じます。

—今後、どんなアーティストになっていきたいですか?

XAI:この「XAI」というアーティスト名の「X」には、未確認とか、未知のものという意味もあって。想像を超えた未来や可能性を切り開いていきたいですし、それが無限に広がっていると感じてもらえるようなアーティストになりたいです。

リリース情報
XAI
『WHITE OUT』アーティスト盤(CD)

2017年11月15日発売
価格:2,160円(税込)
THCA-60174

1. WHITE OUT
2. Feeling Alive
3. Somewhere in Night
4. SILENT BIRD
5. はじまりのうた
6. WHITE OUT(Instrumental)
7. Feeling Alive(Instrumental)
8. Somewhere in Night(Instrumental)
9. SILENT BIRD(Instrumental)
10. はじまりのうた(Instrumental)

リリース情報
XAI
『WHITE OUT』アニメ盤(CD)

2017年11月15日発売
価格:1,404円(税込)
THCA-60172

1. WHITE OUT
2. はじまりのうた
3. WHITE OUT(Instrumental)
4. はじまりのうた(Instrumental)

プロフィール
XAI
XAI (さい)

音楽が大好きな両親のもと、幼少期からオペラのような古典から流行のポップスまで、さまざまな“歌”が溢れる環境で育つ。「歌っていないと死んでしまう」「私にとって歌は酸素と同じ」とまで語るほど、常に自らの歌声と向き合いながら生きてきた。そんなXAIの歌声は、壮大な音像を歌で自由に描き切る神秘的な表現力と、聴き手の心に寄り添い語り掛けるような、温かみのある説得力をも併せ持つ。混迷する時代に光を与える、類稀な才能を有するアーティストXAIが『GODZILLA』主題歌「WHITE OUT」ではじめてそのベールを脱ぐ。



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