「いつものミツメ」とは違う。意識を変えたバンドの新たな一歩

ミツメがリリースするシングル“エスパー”は彼らが海外のインディーサウンドから吸収、昇華してきた音楽が過不足なくアレンジされた、文句なしの1曲である。B面の“青い月”含め、ミツメ史上最高のポップスともいえる名曲だ。

近年、ミツメは海外でも積極的にライブ活動を行っており、去年はアメリカ、今年は中国でのツアーを成功させている。最近では海外のミュージシャンを招いて日本ツアーを回る自主イベントを開催するなど、インディペンデントながら、着実に海外のインディー音楽シーンと日本との接点を築いている。

昨年リリースした4thアルバム『A Long Day』や銀杏BOYZのトリビュートアルバムへの参加を経て、今、ミツメがポピュラリティーを兼ね備えたシングルをリリースする理由とは? このインタビューでは、ミツメの「海外に対する意識」を紐解きなら、「ミツメのシングル論」「歌詞のこだわり」についても言及してもらった。

(海外で)ミツメは「日本的な音楽」をやっているバンドだと捉えてもらえているのかなと思います。(須田)

—ミツメは昨年はアメリカ、今年の夏は中国でもツアーを回っていて、近年はより海外でも積極的にライブを行っていますね。まずはその辺りの話から聞かせてもらえますか?

奥から:大竹雅生(Gt,Syn)、須田洋次郎(Dr)、nakayaan(Ba)、川辺素(Vo,Gt)
奥から:大竹雅生(Gt,Syn)、須田洋次郎(Dr)、nakayaan(Ba)、川辺素(Vo,Gt)

川辺素(Vo,Gt):はい。海外でもいろんなところでライブしたいと思ってやってます。

—今年の中国でのライブは、どうでした?

大竹雅生(Gt,Syn):どんな感じなんだろうと思ってたんですけど、会場にギュウギュウにお客さんが入っていて、ステージに出て行ったらすごい歓声でビックリしました。ライブのノリ方もみんな自由で。動画を撮ってる人もいれば、一緒に歌ってる人もいて。

nakayaan(Ba):みんな思い思いに、踊ったり歌ったりして楽しんでくれてます。バンドとしても気持ちいいですね。

須田洋次郎(Dr):中国の若者、とくにライブに来る子達はとにかく文化やファッションに敏感で、お客さんの服装の幅が広いんです。「こんなとんがった格好をした子がミツメのライブに来てくれるんだ」って思ったり(笑)。

—海外のお客さんはミツメの歌をどのように受け止めていると感じてますか?

川辺:中国で“煙突”という曲をやると、どこの会場でも毎回盛り上がるんですよ。僕ら自身はなんで“煙突”が人気なのかわからないし、理由を訊いたら「いい曲だから」としか返ってこなくて(笑)。

中国人であれば歌詞やタイトルに並んでる漢字のニュアンスで伝わる部分もあるかもしれないけど、日本人だからわかる曖昧なところまでは伝わってないのかなと思います。「簡単に説明するとどういう歌詞なの?」って訊かれるんですけど、答えづらいというか。そういうときは「なんとなく倦怠感みたいな感じなのかな」とか説明しますけど。

川辺素(Vo,Gt)
川辺素(Vo,Gt)

須田:“煙突”のときは、会場全員が歌ってくれる感じで。けっこう静かな曲だし、しかも僕がドラムを叩いてない一番静かなところでみんな歌うから、お客さんの歌が全部聴こえて(笑)。

—これだけ海外でライブをやる機会が増えていると、全編英詞の曲を書いてみようかなという欲が湧いたりはしないですか?

川辺:日本語詞でも簡単な言葉を使って意味を深くできないかなって試行錯誤しているし、それを英語でやるスキルはまだないと思います。いつかやってみてもいいかな、というくらいの感じですかね(笑)。まずは英語を話せるようにならないと。

須田:でも、海外のお客さんにはミツメの「日本らしさ」みたいなものに興味を持ってもらえているところもあるから、日本語でやる意味もあると思っています。アジアでライブをやるときと英語圏でライブをやるときの反応も全然違うんですよね。アジアは、日本の音楽カルチャーやその歴史をリスペクトしてくれている感じがします。

—どういう面でそれを感じましたか?

須田:インドネシアでは、日本の文化に興味を持っている若い学生がたくさん集まってくれて、すごくライブが盛り上がったんです。日本語の曲でもこんなに楽しんでくれるんだと思って。

アジア圏はどこの国の人も日本の音楽や映画に詳しかったり、日本語が上手い人がいるんですけど、そういうとき、海外で活動してきた日本のアーティストの恩恵を感じるんですよね。その流れの中で、おそらくミツメは「日本的な音楽」をやっているバンドだと捉えてもらえているのかなと思います。

須田洋次郎(Dr)
須田洋次郎(Dr)

—サウンド面でもそう捉えられていると思いますか?

須田:そういう部分はあると思います。メロディーもそうですけど、僕らのアレンジは、いつも自分たちの中で新鮮なものを探りながら構築しているので、ちょっと変わったサウンドに日本らしい歌を乗せているバンドだと思われているんじゃないかなと。中国では独自のSNSが発達していたりしていて。

—Weiboですよね。

須田:そうです。中国では国が通信制限をかけているから、簡単にアクセスできるSNSってWeiboくらいなんですよね。そういう閉ざされた世界の中で4、5年前に僕らの曲が広がったみたいなんです。“煙突”もそうで。

—それ、きっかけはなんだったんですか?

須田:それが現地に行って誰に訊いてもわからないんですよ(笑)。おそらく、抜け道を使って海外のSNSにアクセスした若者から広がったと思うんです。とにかく海外の文化に触れたいと思ってるヒップな若者が日本のバンドの音楽に興味を持って、国内のSNSで紹介したという流れがあったんじゃないかと思ってるんですけど。

—それ面白いですね。

須田:そういう意味でも、日本のバンドらしく日本語で、自分たちらしい音楽を作ってきたことがそういう結果に繋がったのかなとも思うんですよね。

左から:大竹雅生(Gt,Syn)、須田洋次郎(Dr)

ドイツやイギリス含めて、ヨーロッパツアーはいつか回ってみたいですね。(川辺)

—去年はアメリカでもライブされたと思いますが、アメリカでの反応はどうでしたか?

須田:アメリカはアレンジを楽しんでると思いましたね。たとえば『A Long Day』に入ってる“キッズ”とか。LAでライブをするときにBurger Recordsの姉妹店が中心街にあって、そこでインストアライブもやらせてもらったんですけど、そのときの宣伝の文面は「Dream Funk」でしたね(笑)。

—ファンク要素だけではないですけど、伝えたいことのニュアンスはわかりますね(笑)。

須田:そういうふうにサウンドを楽しんでくれてるんだなって思いました。

—これまで海外ライブのルートはどうやって開拓してきたんですか?

須田:初めての海外でのライブはインドネシアだったんですけど、インドネシアのBRILLIANT AT BREAKFASTというバンドが日本に来たときに一緒にライブをしたんです。その時通訳で来ていたインドネシア人の子と仲よくなって、「今度インドネシアに遊びに行くよ!」「じゃあぜひインドネシアでライブしてよ!」みたいな感じから始まって。そしたらほんとに何か月後にメールで誘ってくれたんです。 アメリカの場合は、最初にBurger Recordsのショーケースイベントに出していただいて、そのあとニューヨークに移動してライブをしたんですけど。ニューヨークのブッキングを手伝ってくれたのは、Crocodilesというバンドのボーカルのブランドン(・ウェルチェズ)で。彼が来日した時に対バンに呼んでもらってコラボレーションしたりしてたんです。それで、アメリカに行きたいってなったときに連絡したら、ブッキングを手伝ってくれました。

左から:nakayaan(Ba)、川辺素(Vo,Gt)

—そうやってライブの共演をきっかけに生まれた自然体の関係性で海外への導線ができていったのもミツメらしいなと思います。海外のインディーズバンドもたくさん日本に呼んでもらって、その自然体な交友を続けて欲しいです。

須田:そうですね。日本に海外の友達を呼んでいいイベントができればと思って、今年新しく『Port』というイベントも始めました。

—今後は、どんな国でライブをしたいですか?

川辺:ドイツやイギリス含めて、ヨーロッパツアーはいつか回ってみたいですね。今度のツアー(『mitsume tour esper 2018』)はタイからスタートするんですけど、タイは初めてなので楽しみです。

わかりやすいサビがある曲ってミツメっぽくならないんじゃないかと思って、作らないようにしていたんです。(川辺)

—今回の“エスパー”と“青い月”の2曲は、あらかじめシングルとしてリリースすることを狙って作ったんですか?

川辺:そうです。

ミツメ『エスパー』ジャケット写真
ミツメ『エスパー』ジャケット写真 (Amazonで見る

—ミツメがシングルリリースに向けて曲を作ることを意外に思う人は多いかもしれないですね。

須田:そうかもしれないですね。ミツメにとって初めての取り組みなので。この4人だとなかなかシングルに向けて曲を作ろうという発想にはならなくて、ただただ、ずっと自分たちが作りたい曲を作り続けてきたので。

今回はマネージャーの仲原(達彦)くんや周りのスタッフが、シングルというアイデアを出してくれたんです。その提案に乗っかるのも新鮮で面白いかもしれないと思ったのが始まりですね。

—シングルを作るというマインドの面でも、サウンドプロダクションにおいても、昨年リリースした『A Long Day』の存在は大きかったのではないかと思いました。

『A Long Day』(2016年)ジャケット
『A Long Day』(2016年)ジャケット (Amazonで見る

川辺:サウンド的にはB面の“青い月”のほうが『A Long Day』の延長線上感があると思いますね。最初はこの曲が表題曲になる予定だったんですけど(笑)。

須田:こっちが先にできたしね。

川辺:最初、デモを8曲ぐらい作ってみんなで聴いたんですけど、サビがしっかりあってキャッチーでポップっていう、いわゆる「シングルとしてアプローチできる」曲があまりなくて、「これはいつものミツメだね」ってなることが多くて。そういう意味で「もっとシングルに対してアプローチできる曲はないか?」という話になったんですけど、「シングルってどういうことなんだろう?」みたいな感覚もあって(笑)。

—ミツメなりのシングル感をまず見出さなきゃいけなかった。

川辺:そうですね。僕が弾き語りで作った未発表曲があるんですけど、それをソロライブでやったときに仲原くんが「最近はこういう曲を全然書いてないけど、こういう曲をシングルにすればいいのに」って言ってくれたことがあって。何気なく手癖で書いた感じだったけど、そう言ってくれるなら作ってみようと思ったんですよね。ミツメとしてポップな感じを出せるものなのかもしれないなと思って。

あと、個人的に、わかりやすいサビがある曲ってミツメっぽくならないんじゃないかと思って、作らないようにしていたんです。だけど去年、銀杏BOYZのトリビュートアルバム(『きれいなひとりぼっちたち』)で“駆け抜けて性春”をカバーしたんですけど、あれはサビがめちゃくちゃある曲で。みんなでリアレンジしてみたら、サビが立っている曲でもミツメっぽさを出せたんです。そういうことも経て、“エスパー”ができたところもあると思いますね。

須田:“エスパー”のデモを聴いたとき、相当振り切れた曲ができたなと思いましたね。川辺が最初「もしかしたら大袈裟すぎるかもしれないけど、ちょっと聴いてみて」という感じで聴かせてくれて。それは「サビがしっかりあってポップな曲」という意味だと思うんですけど、僕はちゃんとミツメらしいカタチにしたいなと思ったんですよね。

—大竹さんは?

大竹:正直、最初は不安もありました。自分たちっぽく着地できるのかなって。でも、アレンジを進めていったらちゃんと着地できるなと思えて。

大竹雅生(Gt,Syn)
大竹雅生(Gt,Syn)

—過不足のないサウンドプロダクションなんだけど、音楽的な背景としていろんな要素が聴こえてくる。オルタナだったり、サイケだったり、クラウトロックやミニマルミュージックっぽい気配だったり。そのサウンドがミツメ然としているし、それと同時にシンプルな歌の強さも浮かび上がってくるんですよね。

川辺:ありがとうございます。

—nakayaanさんはどうでしたか? 最初にデモを聴いたときは。

nakayaan:最初は僕もけっこうビックリしました。サビのメロディ—がアイドル歌謡みたいだなと思って(笑)。最初はどうなるか見えない感じだったんですけど、アレンジするときにギターがいい感じにバランスを取ってくれて。

大竹:苦戦はしましたね(笑)。

nakayaan:でも、強く主張はしないけど出てくるところは出てくるキャッチーないいフレーズを乗っけていて、すごいなと思いました。

nakayaan(Ba)
nakayaan(Ba)

聴いた人が想像できる余地を残したいと思った。それに成功しているのなら、ミツメらしさが反映できたのかなと思います。(川辺)

—歌詞も必要最低限の言葉数で構築されているんだけど、豊かなストーリー性を感じさせる内容になっている。行間にミツメのバンドが凝縮されているなと思ったんですね。

川辺:Aメロ、Bメロ、サビという構成の曲をしばらく書いてなかったので、どういうふうに歌詞を展開させていけばいいのかわからなくて。サビのところで難航したんですけど、試行錯誤してやっとハマったという感じで。

—サビの<思うだけの ただの二人>というフレーズが肝になっているなと思いました。2人の親密な関係性が窺えると同時に、まるで通じ合っていないようにも思える。その揺らぎみたいなものがミツメっぽいなと思ったんですよね。

川辺:なるほど。あまり自分自身で歌詞を客観的に捉えられないんですけど、歌詞にも懐の深さを感じる曲が「ポップ」ということかなとも思って。「2人」が男女とも捉えられるし、子ども同士でも、同性同士でも捉えられる歌詞でもありたいと思って。この曲を聴いた人が自分で想像できる余地を残したいと思ったんですよね。それに成功しているのなら、さっき言ってもらったミツメらしさが反映できたのかなと思います。

普段から、なるべく限定的な言葉、固有名詞も使わないでどうにかできない試行錯誤してるんですが、今回はちょっと言いすぎたかなとも思ってます(笑)。

僕はとにかくいい作品を作って、そのレコードが40年50年後にまた聴かれたらいいなと思います。(大竹)

—ミツメが近い将来に実現させたいことはなんですか?

川辺:やっぱりプライベートスタジオがあったらいいなと思いますね。作業場として使ってる倉庫はありますけど、録音できる環境がほしいですね。あとは、いろんな国や場所でライブをすることもどんどんやっていきたいと思ってます。日本でもどんな会場でもライブができるバンドでありたいですね。

須田:やっぱりスタジオがあったらいいですよね。デモを作る時間が無制限になるし、余ってる時間で遊んでる中でも何かが生まれると思うので。

—大竹さんは?

大竹:僕はとにかくいい作品を作って、そのレコードが40年50年後にまた聴かれたらいいなと思います。

—nakayaanさんは?

nakayaan:僕もスタジオがほしいですね(笑)。ミツメの音源もいっぱい作れるし、仲のいい人たちともいっぱい曲を作れたら最高です。

須田:そういう環境が自然にできていったらいいですよね。

ミツメ

リリース情報
ミツメ
『エスパー』(CD)

2017年12月20日(水)発売
価格:1,080円(税込)
PECF-1145 / MITSUME-016

1. エスパー
2. 青い月

ミツメ
『エスパー』(7インチアナログ盤)

2017年12月20日(水)発売
価格:1,620円(税込)
PEJF-91020 / MITSUME-017

[SIDE-A]
1. エスパー
[SIDE-B]
1. 青い月

イベント情報
『mitsume tour esper 2018』

2018年1月27日(土)
会場:タイ バンコク ROCKADEMY

2018年2月24日(土)
会場:宮城 仙台 enn 2nd

2018年3月3日(土)
会場:北海道 札幌 COLONY

2018年3月10日(土)
会場:石川 金沢 GOLD CREEK

2018年3月11日(日)
会場:京都 磔磔

2018年3月17日(土)
会場:鹿児島 SR Hall

2018年3月18日(日)
会場:福岡 Voodoo Lounge

2018年3月23日(金)
会場:愛知 名古屋 JAMMIN’

2018年3月24日(土)
会場:広島 CAVE-BE

2018年3月25日(日)
会場:大阪 umeda TRAD

2018年3月31日(土)
会場:中国 上海 TBA

2018年4月25日(水)
会場:東京 マイナビBLITZ赤坂

『WWMM』

2018年1月21日(日)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM、LIQUID LOFT、KATA
出演:
ミツメ
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料金:前売4,800円 当日5,300円(共にドリンク別)

プロフィール
ミツメ
ミツメ

2009年、東京にて結成。4人組のバンド。2017年12月にシングル『エスパー』をリリース。国内のほか、インドネシア、中国、台湾、韓国、アメリカなど海外へもツアーを行い、活動の場を広げています。オーソドックスなバンド編成ながら、各々が担当のパートにとらわれずに自由な楽曲を発表し続けています。そのときの気分でいろいろなことにチャレンジしています。



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